凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

190 / 373
暗夜Ⅰ:孤独の旅路

 

 

 リッカちゃんの目が揺れる。

 動揺と、強い迷いがあることは明らかだった。

 信じていない――信じる必要のない相手に、信じてほしいと求められること。

 そして今の状況を顧みれば、それは強要にも等しいこと。

 リッカちゃんにとって極めて絶望的なことを言っている自覚はある。それでも――必要なことだった。

 

 この危険な山で、単独でユーリくんを探そうというのは、いくらなんでも無謀だ。

 護衛する意味でも、これ以上悪い状態にならないようにという意味でも、リッカちゃんを一人で行かせる訳にはいかない。

 

「……そういや、少ねえな。クギミゴにもう一人の勇者か。どこぞに転移したって言ったか?」

 

 割り込んできた焚火のミツカイの声に、飛び上がりそうなほどに怯えたリッカちゃん。

 彼女の魔族への恐怖心は、普通のそれではない。

 本当に一握り――イリスでさえ対象外なほどに少数の魔族を除いて、魔族とはリッカちゃんにとって等しく恐怖の対象だ。

 そんな彼女が一人でこの山を歩こうとしても、無理だと確信できる。

 脅威となるのはミツカイたちやドラゴンだけではない。ここまで山を歩いて、獣型や鳥型の魔族にだって遭遇しているし、植物の姿をとった種だっている。外に出れば、気を抜ける場所なんてほぼないだろう。

 

「そうです。だから――リッカちゃん。僕は、ユーリくんと合流するまで、何としてでもリッカちゃんを守る義務があるんです」

「……」

 

 リッカちゃんを守るのはユーリくんだ。それは、僕もイリスも、共通の認識。

 僕が世界のための勇者であるように、ユーリくんは自分をリッカちゃんのための勇者だと定めた。

 ユーリくんが、どれだけリッカちゃんを想っているかなんて、今更考えるほどのことでもないのだ。

 その、眩しいほどに真っ直ぐな在り方は、誰であっても否定できない。

 しかし、今のユーリくんは、すぐにはリッカちゃんのもとに駆け付けられない状況にある。

 

 ユーリくんは無事だ。必ず合流できる。

 こちらから探し出すか、ユーリくんが戻ってくるか。どちらにせよ、ユーリくんはリッカちゃんのために、どんな危機でも生き延びる。

 それまでの間、リッカちゃんを守るのは僕の役目だ。

 本人から直接任された訳ではないものの、もし戻ってきた時にリッカちゃんに何かあったとすれば、ユーリくんはそれを許さないだろう。

 リッカちゃんのための勇者代理……だなんて言い切れない。けれど今、僕にそれが求められているのは自明の理。

 

「まだまだ、僕を信じられないのは分かってます。けど、ユーリくんと合流するまで、お試しで――僕を信じてみませんか?」

「どんな言い回しだよ」

「相変わらず感性が独特だな、キミ」

 

 野次は聞かなかったことにする。

 そこはかとなく馬鹿にされている気がしたが、こっちは大真面目なのだ。

 お試しで構わない。僅かな期間、盾としてくれるだけでいい。

 ユーリくんのいないこの状況で、リッカちゃんを少しでも安心させるために。

 

「……」

 

 その選択をさせることは、酷なことだったと思う。

 それでも、希望をもって――或いは、僅かばかりの諦めをもって、リッカちゃんは頷いてくれた。

 

「ありがとうございます――さあ! そうと決まれば早くユーリくんのところまで行きましょう! ……どこにいるんですかね?」

「もうちょっと考えてから口を開きたまえよ、クイール」

 

 リッカちゃんを単独で突っ走らせることは、ひとまず抑えられた。

 次なる問題は、もっと根本的なこと。ユーリくんは一体どこに行ったのか、である。

 転移する先まで、気配を追うことが出来れば良かったのだが、僕の外装に宿る力はそこまで“他者”を感じられる訳ではない。

 結局、僕に分かるのは転移したという事実だけ。

 ……この山のどこかにいるのだとすれば、隅々まで歩けば再会できるだろうか。僕一人ならまだしも、リッカちゃんやイリスを巻き込んでそれをするというのは幾らなんでも憚られる。

 

「あー……ミツカイ、さん? ユーリくんがどこに行ったか、知りませんか?」

「よくその流れで俺に尋ねようって思えたな……」

 

 焚火の向こうの呆れ顔が透けて見えるようだった。

 呆れられても、無計画は無計画なりの行動の仕方というものがある。

 特に今は、僕が不安に思えばリッカちゃんにも余計な不安を抱かせてしまうことになるのだ。

 

「まったく、これで変革の風になろうというんだから恐れ入る……」

「なんか言いました?」

「何も。さて……もう一人の勇者の居場所は知らん。だが、クギミゴが共にいるというのなら、一つ“あて”はある。お前たちの試練に関わる筈のない、我らミツカイの事情だがな」

 

 彼が言っているのが、ジルちゃんのことなのであれば――ユーリくんと一緒にいる可能性が高い。

 断言できる訳ではないが、同時に転移した以上、唯一頼れる手掛かりなのだ。

 かれらの事情というのは本来、僕たちが知るようなことではないのかもしれない。僕たちだって、試練に必死だし、積極的に関わろうという余裕もない。

 だけど――それがユーリくんと再会するために、知っておいた方がいいことならば。

 

「教えてください。ジルちゃんの居場所は分かるってことですよね?」

「一度山を出て命運から逃れようとしたとはいえ、戻ってきたならばその魂は安寧を求めて深層へと導かれる。それは、クギミゴに与えられる自由だ。無論、きっかけに足る“よほどの危機”はあったんだろうがな」

「深層……?」

 

 自然と、視線が下を向く。

 深いところというならば、穴でも掘ればいいのだろうか、と。

 

「失われし冥界の名残。存在の一片までもを凍てつかせる、贖罪の領域……生を赦されないミツカイはそこに行き着く。俺たちミツカイにとって、特別な場所の一つだ」

「……それ、歩いていけるような場所なんですか?」

「冥界なんてのはどこも地続きだよ。少なくとも、これまで世界に生まれた全ての冥界は歩いていける場所だ。この地にかつてあったそれだって、例外じゃない」

 

 良かった。どうやら、ひたすら穴掘りしないといけないような場所ではないらしい。

 つまり、この山のどこかに、その“元・冥界”に続く道がある。

 そしてその先に、ジルちゃんがいるかもしれないと。

 一緒にユーリくんがいる可能性が高い以上、早めに向かわないとならない。

 たとえジルちゃんが、僕たちを直接手に掛ける気がなくとも、信用していない魔族と一緒に離脱しているという現状は、リッカちゃんにとって気が気でないことだろう。

 

「分かりました。行ってみます。行き方を教えてくれませんか」

「――言っておくが。もう一人の勇者がそこにいる確証はねえぞ。それに、そこに外の人間が落ちたなんてのは、俺が知る限りない。行くは易く、出るは難い……そんなお約束は、名残となった今でも変わらん。それでも向かうのか?」

「それでも向かいます。心配はいりませんよ、僕は勇者ですから」

 

 一度踏み込めば、戻ってくるのは難しい場所――そんなの、僕たち人間にとってはどこも同じようなもの。

 そんな中でも、リヒトくんとトーカちゃんみたいに、知恵を絞って行商をしている人もいる。

 僕は勇者だ。もっと無茶な場所だって、生きて帰ってくるのが、勇者というものだ。

 そうやってここまで来た。元・冥界だって同じ。踏み込まないといけないならば、踏み込んで、やるべきことを終わらせて戻ってくるのだ。

 

「心配はしてねえが……おい、長耳。この人間、大丈夫か? 過去のものだったとしても、当たり前のように冥界に踏み入ろうとしているが」

「……残念ながら大丈夫ではないよ、枯れ枝くん。ここはどうなのか知らないが、キミたちの言う“外”は今や冥界に大して馴染みがない。ただでさえ、死後にしか関係ないんだからね」

「……信仰さえ過去の遺物か。相も変わらず、外からの風は残酷だ」

 

 イリスの言う通り。

 たとえば、死んだ後に暮らすことになる場所ですよ――なんて言われれば、思うところも出てくるかもしれない。

 だが、今から行くのはミツカイの元・冥界……僕たちの死後には無関係にもほどがある場所だ。

 もちろんその場所で僕たちの旅が終わるようなことがあれば、その限りでもないけれど、止まるつもりは少しもない。

 ユーリくんたちの最終目標に乗り合わせるという訳ではないが、僕だって旅の終わりに迎えたいのはハッピーエンドなのである。

 

「いいだろう、道筋を教えてやる。好きに踏み荒らすがいい」

 

 そんな、雑な許しの後、焚火のミツカイはこの山の深層へ続く道を、幾つか教えてくれた。

 この山は広い。クギミゴ……そう呼ばれることとなったミツカイは多くがそこへと向かう。

 そうでなくても、かつては亡くなったミツカイたちを受け入れていた領域なのだ。至る道筋は、山のあちこちに存在するのだという。

 

 ここから近いのは、山の西側に大きく広がる、雨の降る地帯の中。

 ゼクセリオンは相変わらず、飛行に使ってはいけないだろうか。急ぎであるのだし、強行突破もありかもしれない。

 ……そういえば、ゼクセリオンがこちらにあるということは、ユーリくんには安全に休む手段もないということ。

 余計、急がないといけない理由が出来た。荷物の大半はこの中だ。あまり時間を掛けていては、ユーリくんには空腹という敵も付いて回ることになってしまう。

 

「よし――二人とも、ユーリくんが飢えてしまう前に行きましょう」

「安らかに眠るべき場所で飢えが起きるかよ……本当にそこにいるなら、少なくとも飢えや乾きで死ぬことはない。お前らが死なずに、万全に辿り着くことを優先するといい」

 

 ――どうやら、ご飯がないという形でもタイムリミットはないみたい。

 少しだけ安心したものの、だからといってあらゆる危険がなくなった訳ではない。

 うん――この焚火の言う通り、万全に辿り着くべきだ。ユーリくんの無事を信じて、リッカちゃんを無事に辿り着かせるのだ。

 

「色々とありがとうございました。じゃあ、行きますね」

「次に会うのは、何もかもが終わった後……なんてのを期待するがな」

 

 揺れる焚火。ここを離れれば、多分、ここに来る理由はもうなくなる。

 僕たちが試練の突破を目指す以上、あの“セラ”のミツカイとはまた戦わないといけないが、再戦はこの洞穴の前とはならない筈だ。

 ユーリくんと合流して、残る首飾りを集め終えて、試練を突破して山を去る。

 その中で、この辺りに戻ってくる必要はないだろう。

 

「行くのかい?」

「はい。イリス、力を貸してください」

「ユーリくんと合流しないとってのは同意見だ。手早く終わらせるよ。彼がいてなお、雷は勝てない相手だった。この状態でもう一度遭遇したらなんて、あまり考えたくない」

 

 それは、その通り。

 負けるつもりなんてないけれど、より厳しい戦いになるのは必至。

 彼女がまた僕たちを見つける前に、ユーリくんを見つけ出さないと。

 

「リッカちゃん」

 

 歩き出す前に、リッカちゃんに手を差し出す。

 きっとその方が安心するのだろう。リッカちゃんは、ユーリくんと手を繋いでいることも多い。

 だから、僕も今のリッカちゃんを少しでも安心させようと――

 

「……」

「あれ……?」

 

 ――したのだが、リッカちゃんは一切求めていないとばかりに杖を両手で持って、僕の横を通り過ぎていった。

 そして数歩先で立ち止まり、急かすように振り返る。その表情にはやっぱり警戒があった。

 

「フラれたね」

「うるさいです」

 

 心から信頼するのは、ユーリくん一人であっても、せめて普通に話が出来るくらいには仲良くなりたいもの。

 イリスの茶々で余計に感じるしょっぱさを噛み締めつつも、僕は二人を連れて洞穴を後にした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。