凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「キミを、連れていく?」
「うん。ちぇるね、一度外を見てみたかったの」
僕たちが外に出るための道を教える代わりにと、出された要求は同行の許可だった。
そこに悪意はない。ただ、純粋な好奇心だけが今のチェルノボーグにはある。
「今までちぇるは、外に出る理由なんてなかったの。だって、知りたいことは外から来たミツカイさんが教えてくれるから。けど、出ようとしないみんなと、あなたたちは違うみたい」
『……要は、私たちが外に出るってのを聞いたから、自分も出たくなったって話?』
「そう! ふふ、思いつきってこわいね。え、えっと……そう、妖精さんみたい。……あれ? すねぐらちかって、妖精なの?」
『え? ……あー……どうだったかしら。妖精の文献に記録はなかった筈だけど』
『スネグーラチカについては当機もさほど知識を有する訳ではないが、知る限りの性質は妖精と類似する部分もある。氷雪と寒気に呼応して生まれる点は自然の具現に近い。とはいえ断言するにはまだ薄いと思われる』
「謎がいっぱいな種族なんだね、ちぇるって」
そのふわふわとした雰囲気と好奇心で、心の赴くままに興味を定めたようだ。
自分の種族のこともあまり分かっていない様子の彼女が同行するというのは、今の状況にさらに一つ不安が増えることに他ならない。
敵意はないし、僕たちが外に出るということを認めてもくれている。
だがやはり彼女のことが分からない。
「チェルノボーグ。キミはどうして、ここにいるの? ここはミツカイのための場所なんでしょ?」
「ちぇるもよく知らないの。ちぇるは気付いたらここにいたから。冬みたいにさむいし、ここですねぐらちかが生まれてもおかしくはないけど、ここにいるのはちぇるだけ。なんでだろうね?」
気付いた時、というのがいつなのかは分からない。
だが、自覚した時にはここにいた。つまり、チェルノボーグの認識の内ではここだけが己の世界。
先程のミツカイの命を、あと十年ほどと見積もっていたことが経験に基づくならば、彼女は相当の年月、ここで過ごしている筈だ。
だとすれば、彼女がただの“スネグーラチカ”でないことは確実――でなければ、寒い場所に生まれるという彼女の同族がいてもおかしくない。
僕たちというきっかけは、千載一遇の機会なのだろう。未知を明かす、そして、自分を知るための。
その興味を、僕は否定するつもりはない。
出来れば、僕たちに関わらない範囲を対象としてほしかったが……外に出るためだ、仕方ない。
「……僕たちの邪魔をしない? それを約束してくれるなら、一緒に行こう」
『……ユーリ、本気?』
「本気だよ。僕は魔族でも、信じられる。今はリッカがいない――僕なりのやり方で、外に出ないと」
チェルノボーグに悪意がないならば、彼女の純粋な好奇心を信じることができる。
リッカと離れている今、取らなければならない選択肢。
一人では、決して勇者として相応しい存在ではない僕だからこそ、信じられるものは、魔族でさえ信じなければならない。
「――うんっ! ちぇる、大人しくしてるよ。何かあったら、すみっこで縮こまるの。たたかいには、巻き込まないでほしいな」
『……戦うようなものがあるってことよね』
『道理。冥界は出るに難き場所。生へと還ることには、相応の力を要する』
何もなく、出られるものだとは思っていない。
ここがかつての冥界であるのなら、相応の“何か”が残っていてもおかしくないのだ。
そして、それは事実なようで、チェルノボーグも知っている様子。
……今の僕が、満足に戦えるとは思っていないが、だからといってここに留まっているだけでは何も変わらない。
僕に出来る限り、今に抵抗してみせよう。
「……キミは?」
振り返って、ジルに問う。
チェルノボーグとは違って、彼女からは相変わらずの敵意がある。
はっきりとそれを感じるからこそ、僕は彼女をすぐに信じることは出来ない。
「――なにが」
「外に出るつもりがあるなら、協力した方がいい筈。僕は何としてでも外に出て、リッカたちと合流しないといけない。そのために手段を選んでいられるほど、僕は強くない」
どちらかといえば、彼女に対しては悪感情の方が強い。
身勝手に巻き込まれてここに連れてこられて、なおも敵意を剥き出しにする彼女への信頼なんて殆どない。
だが、彼女が今の状況を好ましいと思っていないこと。外に出たいと心から思っていることは、分かる。
「人間が、私に手を貸せって?」
「より確実に外を目指すなら。キミにその気があるなら、僕はキミと協力できる」
「――――」
「キミと争っている余裕は僕にはないんだ。だからこそ、出来ればキミに手伝ってほしい。そうじゃないなら、キミも邪魔はしないで」
ジルとしても、他人事ではない筈だ。
どちらも外に出たいという気持ちは共通。互いを利用し合うことならば出来る。
問うのはここまで。これで、手を貸してくれるならば良し。そうでなければ、何もせずについてきてほしい。
ここから出た後、試練の残りに挑むために、彼女の案内は必要だから。
「ッ……!」
魔剣を担ごうとして、やはりそれは難しかった。
ドラゴンの牙が突き刺さり、その後、ミツカイの放った雷を受け止めた右腕は、治癒が完了する前にリッカと離れ離れになってしまった。
捲り上げるまでもなくボロボロの袖の下には、牙によって削れたような傷と、その周囲を染める雷の痕が中途半端に残っている。
走る痛みは、これ以上酷使するなと告げてくる。
力は入らない。外装を纏わずとも、両腕を使えば持ち上げることくらいは出来た魔剣も、引きずることが精一杯なほどに。
『……置いていきなさい。流石にこんな荷物持って動くわけにもいかないでしょ』
「そんなこと……」
『なら引きずっていくっての? 何倍も時間掛かるわよ』
持ち上げることすら難しい状況を悟ったのだろう。ラフィーナは、そんなことを言いだした。
――もしこの場にラフィーナを置いていったら、リッカと合流した時、回収は出来るのだろうか。
無理だろう。リッカの側から繋げることが出来るのだとすれば、魔剣に魔力が供給されていてもおかしくない。
ラフィーナを置いていくのは論外だ。彼女の側はどうか分からないけれど、僕も、そしてリッカも、彼女を信じるべき存在だと思っているのだから。
「……アッシュ。キミの外装、腕だけ用意できる?」
全身に外装を纏えば、魔力が足りなくなるのは目に見えていた。
回顧の迷宮で、長時間の戦闘を続けられたのは、魔剣を通して外装運用のための魔力がリッカから送られてきていたから。
僕たちの戦闘は、リッカ独自の手段による魔力確保の賜物。
本来あの外装は、幼い頃から魔法を学び、自分の内の魔力を増やす鍛錬を繰り返していたリッカでさえ、それほど維持できるものではないらしい。
僕の魔力量ではさらにそれ以下。戦闘などもってのほか、ただ維持しているだけでも、数分すらもたないだろう。
ゆえに、『アッシュフューリー』を纏うことは難しい。
それでも、たとえば魔剣を担ぐために、腕だけ纏うというくらいならば。
『――――』
ざあざあと、砂嵐のようなノイズを鳴らしながら、アッシュは三つの首を縦に動かし、こちらに跳んできた。
そして、辿り着くより前に灰へと変わり、僕の両腕に巻き付いていく。
傷が覆い隠されても、痛みが引いた訳ではない。
相変わらず、両腕を存分に使って、魔剣を振るうことは出来ないだろう。
だが、この外装には魔剣を操るための補助機能が付与されている。他の、リッカと共同で実行する形態よりも出力が落ちるが、魔剣だけは少しだけ“軽く”操れる。
左腕で魔剣を持ち上げる。
戦うために振るうのには難があるが、こうして持ち上げ、運ぶだけなら問題がない程度。
これならば大丈夫だ。あと心配なのは、これをどれだけ維持できるか。
「うん――これなら、いける」
『……この魔道具、変な応用まで学習したワケ……?』
頼んだ身ではあるが、それは僕も驚いたところだ。
リッカの
「――チェルノボーグ、ここから出してもらえる?」
「うん、いいよ」
あとはこの、僕たちを囲んでいる氷の檻から出るだけ。
チェルノボーグに頼んでみれば、彼女は檻に向かって手を伸ばす。
叩いて壊すのではと少し戦慄したものの、暫く手をかざしていれば、氷は細かい粒になって消えていく。
……この檻、彼女の能力だったのだろうか。いや、そうだとすると、彼女から感じられる力の大きさと釣り合わない。
ここがそもそも氷に覆われた空間なのだとすれば、氷雪に由来する能力と相性が良かった、というところだろう。
それまで閉じ込められていた空間から一歩出て、暗がりを見渡す。
広い場所だ。天井は高い――チェルノボーグが直立しても、届かないほどに。
あちこちに同じような、氷の柱を並べただけの檻が点在しているように見える。
もしかすると――それら一つ一つの中に、ミツカイ……クギミゴと呼ばれる者たちが幽閉され、朽ちる瞬間を待っているのだろうか。
「外への道はあっちだよ。いこう」
『その前に……具体的にどういう道なの? たとえば、とんでもなく強い魔族が守護しているとか』
ラフィーナが問えば、何が嬉しいのか、微笑んだままのちぇえるのボーグは頷いた。
「魔族はいないけど、守っているものはあるよ? だって、ここは元々冥界だったんだもん」
『推測。冥界の機構の名残が、機能を保ち続けているということだな』
「うん、鳥さん、正解。昔、ここにあった冥界は……ほかの冥界みたいに、強い魔族が守っていたわけじゃないんだって。だけど、だからこそ、冥界じゃなくなった今も、取り残されてるの」
よく分からないが……まだ、ここが冥界だった頃にあった何らかのシステムが息をしているということか。
それは、外に出るために避けて通れない障害。
ならば――受けて立つしかない。
「……」
もう一度、ジルを見る。
檻のなくなった周囲を呆然と見渡していた彼女だが、こちらの視線に気付くや、相も変わらず敵意を向けてきた。
しかし――強い感情だったのは、僅かな間。
すぐにそれは揺れて、敵意自体は健在ながら、その方向性は曖昧になってしまった。
……得体の知れない存在に向けた、困惑の色。
敵対する筈の魔族さえ、必要とあらば信頼する異常な人間への忌避感。
それらが敵意をぼやけさせてしまうほど、僕は彼女にとって異質に映っているらしい。
距離を置きつつも、ここに残るという意思は感じられない。
どうやらついてくるようだ。それならそれでいい。一緒に外に出られて、試練に引き続き協力してくれるならば。
『……ユーリ。あえて言うけど、無理はしないようにしなさいよ。あんたは今、まともに戦える状態じゃないんだから』
「うん――わかってる」
片腕に怪我をしていて、かつ魔力量も心もとない状態。
そんな状態で僕が、冥界に用意された機構を相手に、力勝負を挑める道理はない。
待ち受けているものがなんであれ、不安は大きい。
単なる体のコンディションだけではない。傍にいつもいる大切な人がいないという、精神的な意味でも。
それでも――立ち止まる訳にはいかない。ここで僕とリッカのハッピーエンドへの道が断たれるなんて、あってはならないことなのだ。