凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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幽明Ⅰ:冥界の守護者

 

 

 疲労は溜まれど、いつまで経っても眠気はやってこない。

 それが必要ないかのように、意識が落ちるための要素が発生しない。

 覚めない眠り以外に、この領域に眠りという概念が存在するのかと思うほどの時間は経った。

 この領域にやってきた時に気を失っていた、それが最後。時間を知るためのツールが存在しないものの、体感で一日以上は、冷たい上り坂を歩いたと思う。

 

 疲労から、何度も休みが入った。

 寒さで体が壊れることはない。ただ、それに対する拒絶感から、行動に支障が出るだけ。

 ラフィーナやヨハンナ、チェルノボーグとの会話は、それなりにあった。

 チェルノボーグがジルに話しかけるようなことも、何度もあった。

 ただ、それだけ。殆ど変わらない時間が、ただ続く。

 

 魔力を逐一回復させる必要のある、魔剣の持ち運びについては、すっかり忘れていたところで解決した。

 再起動したアッシュがあっさりと魔剣を持ち上げ、歩き出したのである。

 いつか――聖都でクイールの問題と向き合うことになった時に、イリスティーラの館で披露していたのだったか。

 その小さな躯体で魔剣の刀身の中ほどを咥える姿は、改めて見ても目を疑うものだった。

 僕単独の力がアッシュの馬力にまるで及んでいないことに、思うところがないでもないが――筋力を優先的に鍛えていられる時間はないのだと、自分を納得させる。

 

「さんびゃく……もうちょっと。もうちょっとで、広い場所に出るよ」

 

 休みを挟んでから、また結構な時間が経って。

 ぽつりとチェルノボーグが呟く。

 

「広い場所……? というか、何か目印があったの?」

「うん。ここに、光っている石があるでしょ? これを数えると、だいたいの場所が分かるの」

 

 チェルノボーグが指す岩肌には、埋め込まれた光る魔石がある。

 存在自体には気付いていた。

 ただ、光ることでこの道を照らしているのではない。それを中心として、周囲の岩肌に光を浸透させることで、広範囲に及んで僕たちの視界を保障しているのだ。

 どうやら、この魔石は数えていくことで大まかな距離の測定の役割も持たせられたらしい。

 先に知っていれば、意識していられたかもしれないが、今から数え始めても遅いだろう。

 

『その広場には何があるのかしら? 私たちが――ユーリと、ジル様が何かしないといけないことはある?』

「ある……と思うよ。クギミゴは、そこまでやってきて、初めて冥界の一員になれるんだって。そこまでなら、まだ引き返すこともゆるされる……ってことは、外に出るためには、そこにある何かに許してもらう必要がある……んじゃないかな」

 

 チェルノボーグの解答は曖昧だったが、つまりもう少し先――それが生と死の境界なのだろうか。

 そこで真に、冥界の住民として認められ、それから先はもう外に出ることは許されない。

 多分、そこを通ることなく、この地の底にまでやってきた僕たちは……どうなのだろう。

 同じように、出ることの能わない存在として見なされるのか、部外者だからさっさと出て行けと言われるのか――後者であってほしいという淡い願いを抱く。

 恐らくそうはならないだろうと確信を持ちながら、僕たちはその坂を上り切った。

 

 

 

 より寒さははっきりと、肌に突き刺さるようになった。

 全身に軽い痛みが走っているようで、或いはそれは“生きている”実感なのかもしれない。

 領域に感じる乾きはなくなった。ああ――と理解する。

 ここでは、眠れる。痛みに気を失うことも出来れば、それを超えて死ぬことさえある。

 広大な円筒状の空間。螺旋階段が上に上にとずっと伸びるそこは、まだ存在の生が許される場所だ。

 

『観測。まだ元・冥界の内部ではある。だが、この領域は至極曖昧。生を削ぎ落とすために下る。我々の目線では、生を取り戻すために上る。それを目的とした領域と推測』

 

 ヨハンナの言う、曖昧な領域の最下層、ということか。

 ならば、この螺旋階段をひたすら上っていった先に、外への出口がある。

 だが……これまでと同じように、とはいかない。

 僕たちとは違う誰かの意識が向けられていることを、冷たい体の内側で感じ取っていた。

 

「にゃあ……? なぁんで生者……それもミツカイじゃない、ネルガルさまの管轄の人間が混じってるにゃ……?」

 

 空間の真ん中。

 氷の如く透き通る、横たわった獅子の如き巨大な玉座――或いは寝台に寝そべっていた一人の魔族は、寝ぼけ眼を擦りつつ、こちらに疑いを向けていた。

 油断しきった、隙を伺うまでもない状態ながら……それを突けるか不明な、強力な魔族だ。

 

「向こうの手違い……? ナルラトの姉貴がいるのに、そんなことあるとも思えないしにゃあ……んん、むぅ……どうしたもんかにゃ。っつーかアレ、姉貴が言ってた勇者だにゃ……にゃあぁ……」

 

 堪え難い眠気に襲われていることを隠さない様子のその魔族は、寝転がっていた獅子をぺしぺしと叩く。

 すると、獅子は魔族を背中に乗せたまま、おもむろに起き上がった。

 魔力自体は感じるが……獅子からなんら意識は感じない。

 使い魔ですらない、魔道具の類だろうか。

 獅子はゆっくりと歩み寄ってくる。魔族には害意はない。

 獅子の大きさは、僕の背丈を優に超えるものだった。チェルノボーグには及ばないまでも、その口で人間一人の胴くらい容易く噛み千切ってしまえるほどに。

 

「スネグーラチカ。どういうことにゃ? 未だ生のある人間と、クギミゴ。それがどうしてこんなところにいるにゃ」

「んー……? ちぇる、知らないよ? いつの間にか、あそこにいたから。外に出たいみたいだから、いっしょにきたの」

「外に出たい……? にゃあ……」

 

 寝起きとは思えない、澄んだ青色の瞳が揺れながらも僕に向けられる。

 真っ白な外套と、あちこちに散りばめられた金の装飾。垂れ下がった長い黒髪に、瞳の鮮やかさが目立つ黒い肌。

 顔の側面ではなく、頭に立った猫のような耳と、外套の後ろを持ち上げて揺らす長い尾。

 この白い氷雪の領域にいるには些か不相応に見える長身の魔族と、暫し視線を交わす。

 疑念の色が薄まることはなく、しかし害意は生まれない。

 その視線は、こちらを見定めているようだった。

 

「……また、来るにしてもおかしなヤツが来たもんだにゃ。シェオルさまの気配はここにあてられたのに加えて、イソラの小僧と接触でもしたにゃ……? んで、それに加えて薄らと見えるネルガルさまの色に……バルハラさま? ハイブリットが過ぎるにゃ……」

「……バルハラを、知ってる……?」

「ミリの敬意もない呼び捨てにゃ……これだけ冥界の色に染まっていて、なぁんでまだ人間でいられてるにゃ、お前。……説明するにゃ、どうして生きたまま、その下から出てきたにゃ?」

「――僕たちにも、分からない。きっかけは、彼女の転移の魔道具が発動したことだと思う」

 

 魔族の視線はジルに向く。

 数秒。すぐに興味は尽きたかのように、魔族は深々と溜息を零す。

 

「いつの世も生者の社会は陰湿だにゃ……どっちも、そのまま大人しく摩耗して、下で眠ることを勧めるにゃ。どうせ外には出られないにゃ」

 

 諦めろ、という無情な宣告。

 それは善意だった。決して逃がさないという方向の悪意ではない。

 だが――そう勧められたからといって、止まる訳にはいかない。

 

「外には出られないっていう根拠は?」

「あたしの役割上、冥界のルールを荒らすなら罰さないといけないにゃ。それに、上まで行ったところで蓋は閉じてるにゃぁ」

「蓋……?」

「見たいにゃ? それくらいなら許すにゃ。ちょっと待つにゃ」

 

 ……どうやら、彼女はこの場所の秩序を管理する役割を持っているようだ。

 ここまで来て、生者として外に出るのはそのルールに逸脱する行為。ゆえに、許す訳にはいかないと。

 そして、障害となり得るのは彼女だけではない。

 蓋なるもの――螺旋階段の果ては見えないが、何かがあるらしい。

 

 魔族が手をかざすと、その先の空間に空気中の魔力が集まり、薄い天幕を作り上げていく。

 そこに映し出されたのは――円形の何か。

 蓋だと言えば、蓋にも見える。中心に単眼が埋め込まれ、あちこちから黒く無機的な触腕が垂れ下がる、不気味な何か。

 これが……螺旋階段の果てにあるもの?

 

「“ソロ”の一つにゃ。冥界から上がってくる、間違った死者を出さないための境界線。外から入るなら簡単に入れるけど、内側から出ることは出来ないにゃ」

「……ソロ? それ、ミツカイの……」

「今は生者の序列になってるみたいだけど、ソロは昔から変わらないにゃ。ムルゼのルールを徹底するための管理システムにゃ」

 

 ソロ……ミツカイの階級において、上から三番目。

 ミツカイそのものではなく、その名前を冠するほどに、重要なシステムということか。

 

「……それを壊さないと、外には出られない」

「諦めるにゃ。あくまでここは元・冥界だけど、悪いところじゃないにゃあ」

「それは出来ないよ。まだ死ぬには早すぎる。僕には、やらなきゃいけないことがあるんだ」

 

 善意で言ってくれているのだろう。それは分かる。

 だが、僕にもまた理由がある。行き止まりはここじゃない。

 

「にゃぁ……はいそうですかと出せはしないけど、瑞々しい魂の信念には弱いにゃ……」

 

 こちらも引く気はないと、断固として告げる。

 腕を組み、唸る魔族が考えを変えてくれるならそれで良し。

 そうでないならば、押し通ってでも外に出る。戦闘は厳しいが、それでもだ。

 

「――にゃふ?」

 

 暫く唸っていた魔族が、まるで妙案に至ったとでも言うように目を見開く。

 それが双方納得できるものだったならば、喜ばしい限りである。

 だが、何故だろう――歓迎できる内容である気がしなかった。

 僕の内にある力とかそういう根拠ではなく、もっと根本的な直感と、魔族に対する印象という部分で。

 

「よし、決めたにゃ。人間、それから特別サービスでそこのクギミゴも。あたしの眷属になるにゃ」

「え?」

「は?」

 

 『はぁ?』『――む?』「けんぞく……?」と続く反応。

 発した言葉はどうあれ、内容としては共通して“言っている意味が分からない”というものだった。

 

「そもそも、万物が至る冥界の役割すら担っていないここにあたしが派遣されたのが間違ってるにゃ。やってくるのはクギミゴだけ。あとは下層にいつの間にか発生していた雪娘。これじゃあスフィンクスがいる意味がないのにゃ」

「はぁ……」

「お前たちがここの住民になってくれるなら暇も紛れるにゃあ。怠惰に生きたこの年月にも意味があったにゃ。全てはこの日、一から始めるためだったにゃ」

 

 勝手に納得してうんうんと頷いている魔族。

 何やら彼女の中では、既に僕たちのこれからの扱いが決まっていて、そこから先の構想にまで進んでいるらしい。

 

「冥界の復興……いや、新たな冥界をここに作るにゃ。そのために手を貸すにゃ。そうなったら色々外にも用事ができるし、その時は賃金代わりに休暇をやるにゃ。何をするも自由……悪い話じゃないにゃ? さあ、契約にゃ!」

「いや、無理かな……」

「にゃ!?」

 

 ――ジルと目があった。思わずといった様子の彼女と、初めて気持ちが一致した気がした。

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