凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
そうはならないだろうという魔族の提案を、反射的に拒絶する。
魔族の愕然とした表情が寧ろ心外だった。何故頷くと思ったのだろう。
「無理……無理にゃ……? 福利厚生はちゃんとしてるにゃよ? 何なら死後の魂管理まであたしが責任もって請け負うにゃ」
「そういう問題じゃなくて」
『……スフィンクスって賢才の集まりだって聞くけど』
『肯定。スフィンクスほどその言葉に知性が乗る種族は存在しない。――というのが当機の認識だったが、例外はあるらしい。取り急ぎ情報の更新を実施する。“よく分からんがあたまのわるいスフィンクスも存在する”』
「誰がクソ馬鹿ポンコツにゃ!?」
『そこまでは言っていない』
なんというか、自分の中で勝手に話を進める傾向にあるらしい。
人も魔族も、外見には寄らないものだが……ここまで乖離しているのも珍しかった。
心なしか、彼女を背中に乗せている獅子も呆れているように見える。感情なんて感じ取れないのに。
「にゃあ……近頃の若者は死後に対する敬意が足りないにゃ。近かれ遠かれ世話になるってのに」
『少なくともユーリの死後、魂が招かれるべき冥界はこの場ではないと指摘する。本来縁がなかったものに敬意を抱く例は稀につき、その認識は不適当と思われる』
「喧しいにゃ。その辺はミツカイ共を見習うにゃ。自分たちが招かれる冥界が既に存在しないにも関わらず信仰を続けてるにゃ」
やいのやいのと、魔族とヨハンナは意見をぶつけ合う。
別に冥界の認識についてはどうでもいいのだが、話すなら後にしてくれないだろうか。
最優先でリッカと合流したい今の状況で長々と聞いている話でもない気がする。
「――えっと。さっきの上にあるっていうものを壊せば外に出られるんだよね」
「は? もしかして
「本気だよ。僕が勇者だっていうことを分かっているなら、諦められないってことも分かってほしい」
「……にゃ。灯る輝きは三つ、残るは一つ。魔族相手に随分長く生き残ってきたってのは認めるにゃ。でも、本当かにゃ?」
訝しむような視線を向けてくる魔族。
歩んできた道のりに対する疑心は大きかった。即ち、何故人間如きがここまで来られたのか、と。
「余計な削れ方が多いけど、自然的な魂の摩耗具合から考えて年齢は十五、六。身長、体重は平均よりだいぶ下、筋力も足りてないにゃ。魔力の総量は多少鍛えた形跡が見て取れなくもないけど、普通の域からは出ていない……」
――魂の摩耗具合という独自の視点は、ピンとこなかった。
しかし、話した訳でもないのに、魔族は僕の年齢を言い当てて、自分の持つ情報をもとに分析を続けていく。
十五歳にしては、背丈が低ければ体つきも華奢だという自覚はあった。
旅を始めて、最初の頃はここまで生き残れるものだとは思っていなくて。
その意識が変わってからも、やっぱりあまり背は伸びていない気がする。まだリッカにも追いつけていないのだ。
それが不満だとも、不便だとも思うことは、意外と少なかったと思う。
この幼く見える外見が、いつかのセイレーンに目を付けられるきっかけになったというのならば、それくらい。
背丈がぐんと伸びることで、リッカがより僕に信頼を置いてくれるならそうなりたいものだが、無いものねだりをしても仕方ない。
魔力については、現在進行形で悩みの種。
僕たちが歩む手段であったリッカの魔法――それを模倣したと思われるアッシュのそれも、当然のように魔力をよく使う。
リッカが魔力を負担出来なくなる可能性は考えて然るべきだった。これは僕たちの計画性の甘さから来た問題だろう。
「火と、想像結晶によって副次的に付いてきた仮想属性。やっぱり、そこまでやれる要素がお前にあるとは思えないにゃ。誰かにおんぶに抱っこだったにゃ?」
「……否定はしないよ。僕一人だけだったら、村から離れることだってままならなかった」
はじめから僕は一人ではなかった。それが、今の僕が歩みを止められない理由でもある。
僕に誇れるものがあるとすれば、リッカと共に歩むという信念。
この気持ちが、すべての試練を超えて、魔王のその先に辿り着かんとする、僕の勇者らしさだ。
「僕は僕のために、そしてリッカのために外に出る。どんな障害があっても、絶対に」
「……
「そういうのじゃない。もっと深い、存在意義だ」
「にゃあ……」
乱雑に頭を掻きつつ、再び魔族は獅子の背にもたれかかる。
僕が諦めるという道はないのだと、ようやく確信したかのようだった。
「……他の連中は? 勇者の人間に引けない理由があるのは分かったにゃ。お前らは何かあるにゃ?」
『当機共はユーリの補佐につき。ユーリが外に出ることを選ぶのであれば当機共も付随する』
『……まあ、私も。ユーリの補佐って言い切るとなんか抵抗あるけど』
「にゃ――お前はどうにゃ、クギミゴ」
脱力したままの問いは、最後にジルに向けられた。
「お前も勇者を手伝っている魔族かにゃ?」
「一緒にしないで。私はそこの勇者と関わる気なんてなかった。本当なら――この山にだって戻ってこなかった」
「あぁ……出ていったタイプのクギミゴかにゃ。混じっている割にそこそこ生きてるのも納得にゃ。テオトルの小娘がそれを許したのはまあまあ驚きだけどにゃ」
話を振られたジルは、僕に対する苛立ちを隠さない。
僕も、そして彼女も、互いに思っている――“向こうの想定外の動きがなければ、こんなことにはならなかった”という感情。
彼女のそれは、この氷の領域にやってきて、時間が経つにつれてさらに大きくなっているらしい。
「別に、この勇者たちはどうなろうと関係ない。出口が分かったならもう用もない。寧ろ――」
こちらを一瞥してから、ジルは翼を広げる。
「ここで終わるっていうなら好都合。この半端な領域で朽ち果てるといい」
そう吐き捨てて飛んだジルは、すぐに追いつけない高度まで上がっていった。
螺旋の道など必要ない。サキュバスには自前の翼があり、地に足を付けていなければならない生物を置き去りに出来る。
僕がもう戻れないという確信があった。ここで、百代目勇者の旅は終わるのだと。
それゆえに、もう自らの役割も終わったのだと、そう判断したようだった。
『……最低ね。あんな無責任な方でも、アリスアドラ様の傍に在れるなんて』
「淫魔ってのは総じて身勝手なものだにゃ、クギミゴの自称でも、そうなれるのは意外だったけどにゃあ」
「……クギミゴさん、行っちゃった」
「……」
ジルが勝手に役割を放棄したことで、特別な悪感情を抱くようなことはなかった。
それまでの態度と、僕たちに向けた嫌悪から、こうなってもおかしくはないと納得出来たからだろう。
だが、彼女のいない状態で、試練を進められるのかが不安だった。
「はぁ……まあ、向こうが言う以上に、あたしにとっては好都合かにゃ。お前らには良い勉強になるにゃ」
「……何が?」
深く溜息をついた魔族は、獅子の上で仰向けになり、腕を枕にして上方に目を向ける。
ジルを追うような様子は見せない。まるで、そんなことは必要ないとでも言うように。
「出られないって言ったにゃあ。あのクギミゴ、ミツカイだった頃にまともな教育も受けていないにゃ? でなきゃ、“ソロ”の名前を聞いた時点で諦めてるにゃ」
魔族の視線を追うように、僕も外に向けた螺旋の奥を見上げた。
もうジルの姿は見えない。ただ、どこまで続くかも分からない暗がりが続くのみ。
――その闇が一瞬、強く照らされた。
「――――!?」
白銀の輝きが閃いたと思えば、数秒を掛けて暗がりの向こうからナニカが落ちてくる。
確認するまでもない。それは先程飛び上がっていったジルだった。
「わ、とと……!」
「う……ぐぁ……ッ!」
『ジル様――その、翼……!?』
地面すれすれで、手を伸ばしたチェルノボーグに受け止められたジル。
その背から伸びる翼の片側は異様な状態になっていた。
鈍色に光る鉱石のような物体が表面にこびり付き、飛行のための機能を喪失させている。
いや――寧ろ翼の内部までが、完全に鉱石に変質してしまったかのように、感じ取れる魔力はジルのものだった。
「人間だろうとクギミゴだろうと、生者だろうと死者だろうと、身の程を知らない驕りは存在価値をも投げ出す愚行に繋がるにゃ。ハデスさまの管轄で起きた有名な寓話があるにゃ。空に憧れた人間が、蝋で固めた羽で舞い上がり、その羽を太陽に奪われて失墜する――不可能に挑めば理不尽に阻まれるのは世の道理にゃあ」
「わ、たしの、翼――」
「治らないにゃあ。けど、安心するにゃ。もう一度睨まれるようなことがなければ、それ以上広がることはないにゃ」
魔族は冷たく宣告する。これは――上にあるものによって齎されたのか。
単純な攻撃ではない。受けた者の体を変質させる、特異な攻撃手段だ。
それが、ここまで下りてなおも生存を望む驕りに罰を与える、冥界であった頃の名残である機構――。
「ふ、ざけ、ないで――アリスアドラ様から貰った、私の翼を、こんな風に――!」
「自業自得だにゃ……。お前らも諦めがついたにゃ? 世界には定められたルールがあるにゃ。死者じゃなくとも――そして、元であろうとも、冥界に踏み入った者は簡単には出られないにゃ」
このまま外を目指そうとすれば、僕たちもこうなる。そう言いたいのだろう。
そして、それゆえの、先程の提案。この場所の、正当な住民となってしまえば、その
……それに頷いてしまうのが、最も正しい選択なのかもしれない。
外に出るために手段を選んでいられる状況ではないから。少なくともそれで、外に出るための障害が取り払われるなら。
「……ううん。まだ、諦められない」
――だが。自分らしくあることを諦めてしまうのは、違う気がした。
魔族と手を取り合うまでならば、僕らしさだ。カルラを受け入れて、ラフィーナを受け入れて、イリスティーラを受け入れて――その延長だから。
では、魔族に屈して、眷属として膝をついて、齎される機会に頼るのは?
それは諦めだ。リッカはそれをしなかった。幾度もの死、幾度もの苦痛の中で、魔族に取り入ってどうにか道を繋ごうなどとは考えなかった。
「……人間はルールを理解しないにゃ? それとも、勇者の特徴にゃ?」
「人間みんながそうなのかは、知らないよ。これは僕の信念だ。僕はリッカのための勇者だから、魔族には屈さない」
リッカが守ろうとした僕が、それをしていい筈がない。僕はリッカのための存在だ。
眷属として、魔族のためにあるべき存在などではない。
「石像になりたいって願望でもあるにゃ? ソロは感情なんて酌まないし、加減をする機能もないにゃ。お前の存在意義とやらも考慮しないシステムをどうやって超えるにゃ。頭を下げたところで、腰の曲がった石像が出来るだけにゃあ」
「言葉で駄目なら、壊して通る。そのくらい本気なんだ。石像になるつもりなんてない――この領域の役目を終わらせてでも、僕はリッカと再会する」
アッシュを傍に呼び寄せる。
まだ右腕は満足に使えない。まともに戦うのは難しいが――それでも。
「……にゃあ。よく吠えたにゃ。なら勝手にするにゃあ」
魔剣をアッシュから受け取るのを待っていたように、空間が軋み、揺れた。
同時に、遥か上方から振り掛かる無機質な敵意。
この領域の“防衛機構”が、その時初めて僕という存在を認識したようだった。
「今まで何もかも上手くいっていたみたいだけど、現実と向き合うにゃ。個人の頑張りでどうにもならないことがあるにゃ」
「僕一人じゃない――皆、力を貸して」
『今更でしょ。とはいっても、今の私じゃ大して役にも立てないわよ』
『当機に策あり。不可避の戦闘につき、余剰魔力を供給する。ただし、当機の魔力炉では外装と魔剣の長期維持は不可能。可能な限り迅速な決着を希望する』
ヨハンナが変形し、魔剣の柄に接続される。
アッシュと同様、彼女も独立するための魔力炉を組み込んでいるらしいが――それは少しの間でも、戦闘を可能とできるものらしい。
『――アッシュリンク――』
アッシュの生み出す外装を身に纏い、その維持が可能であることを確認する。
左腕で魔剣を持ち上げる。片腕で満足に運用できるものではないが、武器として扱えないこともない。
軋む音は徐々に近付いてくる。
見上げれば、遥か上方――輝く単眼と目が合った。
本来もっと上にあった、この領域の天井が、外縁から伸びる八つの触腕を使い、這い迫ってきているのだ。
あれが“ソロ”――冥界であったこの領域の絶対性を維持し続けるシステム。
「いくよ、皆!」
勝つことの難しい存在であるとは分かっている。
だが、今までだってそんな障害、幾らでもあった。今回は、リッカが傍にいないという違いはあるが、だからこそ屈する訳にはいかない。
これを最後の光景にするなんて、僕は認めない。この強敵を粉砕し、外への道を切り拓くのだ。
【魔族】
かつて冥界だった氷の領域を管理するスフィンクス種の魔族。
ありふれた精神性を持つジルはともかく、ユーリの精神性はまるで理解できなくてドン引きしている。
【『境界異本』】
かつて、ムルゼ霊山の秩序を管理するために構築されたシステム『ソロ』の一つ。
冥界と現世を隔てるために設置された境界。
冥界からの脱出を企てた者を捉え、存在を変質させる眼光を放つ。
氷の領域が既に冥界ではなくなった今もこのシステムそのものは動き続けているため、領域まで下りてきたクギミゴが思い直して外に出ることは叶わない。