凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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断章:なかま

 

 

「止みませんねぇ……」

 

 窓の先の暗闇を眺めながら、クイールが呟く。

 豪雨と呼ぶには些か控えめな大雨降りしきる地帯に足を踏み入れた日の夜。

 私たちは三日目となる、一名不在の夜を過ごしていた。

 

 雨は止むどころか、弱まる気配もない。

 道中で私たちをつけ回していたミツカイから聞いた話では、この地帯は一日の大半、このような雨が降っているらしい。

 日がな一日振り続けるのもままある話。それでよく水没しないものだと感心する。

 ムルゼという山の不思議は何も、この雨に始まった話ではない。

 この山の一帯――大陸の端から端まで続く山を一帯と呼ぶのもおかしな話だが――の気候はとにかく混沌としている。

 このように雨の降り続ける場所もあれば、水気のない乾燥地帯の広がる場所もある。確か、今の位置から山頂を超えて真反対には雪の降り積もる平原が延々と続いていた筈だ。

 いずれも、まともな理由でその天気が成立している訳ではなく、その上に敷かれた、山の絶対的なルールのようなもの。

 ほんの数メートルで極端に環境が変動する境界線だらけの山の雨が、まともに止むものだと考えてはいけない。

 

「止まなかったところで、やるべきことは変わらない。早く休みたまえよクイール。キミが主力だという状況を忘れるな」

「分かってますよ。さっさと寝ますって」

 

 ――さて。ユーリくんと合流するため、彼がいる可能性が高いというこの山の冥界であった場所を目指す私たちだったが、この分ならば明日には辿り着けると思う。

 雨によって足が鈍ることを考慮しても朝に出発すれば十分だ。

 ……問題となっている点は多いが。

 この山におけるかつての冥界はどのような場所なのか。そもそもそこにユーリくんはいるのか。ユーリくんは無事なのか。そして、リッカくんの状態。

 私たちが直面しなければならないのはこの辺りか。

 本当にユーリくんが元・冥界にいるというならば、想定通りではあるが、厄介でもある。

 

 恐らく、ユーリくんは脱出を試みている筈だ。彼であれば、冥界に放り込まれたくらいで諦めるようなことはない筈。

 入るは易く、出るは難し。囚人を逃がさない冥界の基本原則のもと、何らかの試練に立ち向かっているのだろう。

 だが……果たしてそれで、彼単独による脱出が出来るのか。正確にはラフィーナくんだの聖女ヨハンナだのが付いているが。

 

 不可能だと思う。

 

 ユーリくんの強さはリッカくんあってのもの。

 単独で発揮できる強さは、その半分にも満たない。一と一を合わせ、二を超えた数字になる。或いは、二人合わせてようやく一になる。そんな、単純な計算では成り立たない存在がかれらだ。

 だからこそ、真の危機は二人が分断された時。つまり、今である。

 かれらの力の本領は、リッカくんが存在を変換させて成立させる外装によるもの。

 ユーリくん単独でも使える力はあるらしいが、当然二人での外装と比較して性能が大きく落ちる。

 魔族と戦うには大いに不安が残る。元とはいえ、冥界にまともな魔族などいる筈もなし。万が一ケルベロスだのスフィンクスだのが残っていれば、非常に厳しい事態だと言わざるを得ない。

 

「明日は――絶対にユーリくんと合流しないと、ですね」

「そうだね」

 

 何日もこのままの状態を続ける訳にはいかない。

 冥界の法則がどこまで生きているかは不明なものの、フェニックスのミツカイが言うには、飢えや乾きに見舞われない原則そのものは生きている。

 とはいえ、歩き続ければ疲労はやってくるだろう。無理に動き、自ら消耗を呼び込めば、当然足は動かなくなる。

 それでもなお動き続ければ、過労で死ぬ。冥界で過労死するなど性質の悪い笑い話の類である。そういうスフィンクスも過去にはいたらしいが。

 笑い話をユーリくんに実現されても困るというもの。

 勇者の末路はいつだって呆気ないものと相場が決まっているが、それにしたって、そんな馬鹿な話では助力している私としても納得がいかない。

 ユーリくんも自分の体力は弁えていると思うが……リッカくんのいない状況で冷静さを保ち、自分の限界を悟ることが出来るかどうか。

 そういう意味ではタイムリミットが存在する。間違いなく、彼はただ囚われているだけでは済まない。

 

「それじゃ、僕は寝ますけど……その前に」

「分かっているよ。腕、出したまえ」

 

 もうクイールは入浴も済ませたようで、あとは寝るのみ。

 その前にやるべきルーチンは、彼女にとっての死活問題である。

 クイールが袖を捲り上げる。腕に浮かび上がっている青紫の痣を、私は未来永劫許すことはないだろう。

 しかし……過ぎた話ではある。今後、これを悪化させないことが、私のやるべきことの一つだ。

 

 ポーチから薬を取り出し、注射器を通してクイールに投与する。

 妖精の粉を中心にした精神安定剤。元となったそれに、さらに幾らかの素材を足し、工程をより複雑化したもの。

 とはいえ、一度にそれなりの量を調合できるのがポイント。かつてよりも高い効果を、長時間維持するそれを一度利用すれば、間違っても妖精の粉を直接摂取しようなどとは二度と思わなくなる。

 完璧と言って良いほどの改良だ。もしも昔の、まともなエルフだった頃の私であれば一撃で心が折れていただろう代物だ。

 

 この改良案は、リッカくんの協力者なる人物によって齎された。

 何者かは不明。あの時のクイールの暴走を止めるのに一役買ったらしいということと、その翌朝に改良案を寄越してきたことから、聖都に住む誰かだと推測しているが、そんな優れた魔法薬師など私は知らない。

 私が知恵を絞って、寝ずに考えた薬を徹底的にこき下ろしつつ素晴らしい改良をしてくれやがった辺り、この上ない技術者で、とんでもなくお人好しで、死ぬほど性格が悪い人物なのだろう。

 是非とも一度会ってみたい。その人物は私の恩人だ。会って、礼を言って、それから一発思い切りぶん殴らせてほしい。

 

「これでよし」

「ありがとうございます、イリス。お休みなさい」

「はいはい、お休み」

 

 部屋に戻っていくクイールを見届け、嘆息。

 道を誤った彼女を引き戻してくれたその人物に対し、心から感謝すべきだとは思っている。

 しかしどうにも複雑なものだ。私が、私だけが、クイールの主治医だという信念を持っていたのだから。

 

 さて……明日、か。

 冥界下り、その経験がない訳ではない。スフィンクスの因子が欲しいために、表層に赴いただけだが。

 どの程度厳しい場所か分からないのは厄介だ。或いは、例の“雷”より強大な化け物がいる可能性だってある。

 まさか風の試練の最中にそんなことをする羽目になるとは思わなかった。どうにも、勇者という存在を予想するのは不可能だということだろう。

 試練のうち、終えていないのは洪水、吹雪、雷、嵐。まだ半分にも至っていない。

 それでも、明日は重要な一日になる。このまま試練を進められるか否かのターニングポイントだ。

 

「……おや?」

 

 正念場になるだろう明日に向け、スティーライザの調整をしておこうと思ったタイミングで、もう一度個室のドアが開かれる音がした。

 クイールではない。少し意外だ――夕食の用意以外は、基本的にユーリくんの部屋に籠りきりになっている筈のリッカくんである。

 

「っ……」

 

 私がいることが予想外だったのだろう。

 一瞬、たじろぐような様子を見せたものの、個室に戻ることはなくこちらに歩いてくる。

 そのまま私の前を素通りし、光翼の管理術式に手を伸ばした。

 

「――まだ起きていたんだね。疲れているだろうし、早めに休んだ方がいいよ」

「……」

 

 声を掛けるべきか、僅かに悩み、黙ったままでいるのも居心地が悪かろうと、口を開く。

 返事がかえってくるなど、期待していなかった。

 恐らく術式のメンテナンスだろう。これだけ大規模な魔道具だ。日々の細かな調整が安定した運用に繋がる。

 リッカくんは体が弱い。ユーリくん曰く、二人の故郷は聖都よりも南の、森の傍にある小村らしいが、そこから聖都まで辿り着けただけでも驚くほどに。

 旅を続けて、ある程度体力も付いただろうが、だからといって山の歩き方に慣れている訳ではない。

 雨の地帯に足を踏み入れてからは、余計に体力を消耗しただろう。

 休むことを提案した時は、もう目に見えて疲弊していた。こうして術式の調整をするほどの体力が残っているとも思えないが、一種の意地のようなものか。

 

「……そっち、こそ」

「ん……?」

 

 躊躇いがちに、リッカくんは言葉を返してきた。

 意識は術式に向かったままではあるが、初めてだった。ユーリくんや、クイールを介さない、彼女とのコミュニケーションというものは。

 

「万全で、いてもらわないと、困る。ユーリと、合流、するまで」

 

 彼女の魔族共通の嫌悪が私に対しても向けられているというのは前から知っていた。

 知っていたうえで、こうして同行していたし、あえて彼女のしてきた――しているだろうことを指摘せずにいた。

 悪感情は相変わらずだと思う。本来であれば、話し掛けるどころか、同じ空間にいること自体、嫌で仕方ないだろう。

 それでも――こうして、ごく僅かにでもコミュニケーションを取り、“機嫌”を損ねないように縋らないと、今の自分は生き残れないからと、最善策を取っている。

 

「……そうだね。百パーセントのパフォーマンスは保てるようにするよ。私も、クイールもね」

 

 会話を続けるか迷ったものの、せっかくの機会だからと舌が回った。

 無論、普段以上に思考も回転させた上で。蛇のいる藪を叩きはしない。

 今の彼女が自棄になるのは、私にとってもマイナスだ。

 

「あまり無理はしない方が良い。ユーリくんなら無事だろうさ」

「分かってる。ユーリは、()()、勝手に死んだり、しない。だから――何を頼ってでも、私も……」

 

 ――“もう”、か。よほど弱っているのか、失言に気付いた様子もない。

 リッカくんがユーリくんに依存しきっているのは言うまでもないが、初めて知り合った時より深刻なものになっている。

 この数日で目に見えてやつれたリッカくんは、それでもユーリくんのために生に執着する。

 かつては、自分の命は二の次な様子だったが、彼女を変える出来事があったのだろう。

 ……であれば、だ。

 

「……私はともかく、クイールはもう少し信じても良いんじゃないか?」

「信じ、てる。だから――」

「いや、そうじゃないよ」

 

 どうあれ、彼女は生きて、この試練を超えようとしている。

 人間の限界を、勇者と共に超えようとしている。

 私とて、彼女に何も思っていない訳ではない。いつかの、彼女の放埓に巻き込まれたことは、私であるがゆえに目を瞑って――クイールを連れ帰ってくれたことと、その内にあった問題を解決してくれたことは感謝している。

 どちらかといえば、彼女への印象はプラス寄りだ。そうでなければ私は今、彼女とこうして呑気にお喋りなどしていない。

 私とて、ここで死ぬつもりなどない――だからこそ、壊れかけの彼女を、少しばかり“まとも”に歩み寄らせても良いのではないかと思った。

 

「“手段”としてではない。仲間として、彼女を心から信じてみてはってことさ」

「――――」

 

 ある種、一か八かの賭けではある。

 その一言はリッカくんの不意を突いた。

 これが良い方向に転がるかなど、私自身分からない。

 或いは、なんの影響も及ぼさないかもしれないが――さて、どうなることやら。

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