凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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幽冥Ⅰ:雨の地に住む者

 

 

 一夜明けた朝も、相変わらず斜めに向いた雨が降り続いていた。

 雨粒は肌に当たると冷たいし、足元はべちゃべちゃで歩きにくい。

 昨日の夕方は……ここまで強い雨ではなかった気がする。気のせいかもしれないけど、一度そう思ってしまうと、昨日の内にもう少し歩いておけばよかったとちょっとした後悔になった。

 ……いやいや、昨日あれ以上歩くのは無理だっただろう。

 リッカちゃんの体力もギリギリだったし、ユーリくんのいない今だからこそ、万全以上でいなければならないのだ。

 

「リッカちゃん、大丈夫ですか?」

「……」

 

 返事はない。もしかすると、していたけれど、雨に紛れて聞こえなかったのかも。

 僅かに、雨具のフードが揺れ動いて、頷いたことだけは分かった。

 雨の中で無理をするのは禁物。可能であれば、止むまでは大人しくしていた方が良いというのは、一人であった頃からの旅の鉄則である。

 けれど、今回の……この一帯については、どうやら雨が殆ど止むことがないみたいだ。

 それで水没しないのも不思議だけど、イリスが言うには、それがこの山のルールである可能性が高いらしい。

 僕が考えても仕方のないことなのだろう。そういう場所だと、理解しておくのが妥当なのだ。

 

 “日照り”のミツカイに教えられた、元・冥界の入り口はもう少し先。

 余裕を持って今日中には辿り着くだろうけれど、その距離感がかえってリッカちゃんを急がせる。

 度々、焦って足を速めようとするリッカちゃんを落ち着かせて、木陰や岩陰での休憩も挟みつつ、慎重に、慎重に進む。

 このちょっぴり魔力を伴った雨の中では、魔族の気配も掴みにくい。

 あまり遠くも見えないし、油断してはいられない。

 大丈夫、今日の内には辿り着くからと、ゆっくり進むことを徹底して、多分、お昼をちょっと過ぎた辺り。

 

 木々と、岩々と、雨とに隠されたような集落を発見した。

 

「……これは聞いていないな。歩いてきたルートは確かに、あのミツカイに教えられた通り。知っていたのであれば、伝えても良かったと思うが」

 

 どうやら僕たちのいた場所は小高い丘のようになっていたみたいで、その下にあった集落を僕たちは見下ろしている。

 雨の向こうに辛うじて見える家屋は、間に屋根のついた通路があって繋がっているらしい。

 ……こんな場所にあるなら、当たり前のつくりか。というか、何故こんなところに集落なんて作ったのだろう。

 

「イリス、どうします? 多分……お邪魔する理由はないかなと思うんですけど」

「同感だね。必要以上のトラブルを呼び込むだけだ。だが……」

 

 ……そうもいかない、と。イリスの言おうとした言葉の意味は、すぐに分かった。

 この場所に住んでいるならば、雨の中での生き方は僕たちよりもずっと知っていて当然。

 感知能力が優れているとか、もしかするとここまでに、何か侵入者を察知できるような仕掛けがあったのかもしれない。

 

 慌ただしい様子で、何かが近付いてきている。

 屋根の下から姿を現した、人より大きな何か。

 というよりは……小さな家そのもの、のような。

 それを羽を広げた鳥型魔族が複数力を合わせて持ち上げ、こちらに向かって運んできている。

 

「……出来るだけ、穏便に済むようにしないとね。余計な消耗は避けたい」

 

 ここで逃げても追ってくるだろうし、雨の中で逃げたところで無意味だと、イリスはここで“迎え撃つ”選択をした。

 気付けなかった僕たちの落ち度だ。であれば、敵意がないことを示し、迂回して通り過ぎるしかない。

 運ばれてきたのは、人が数人入れば満員になってしまいそうな小屋。

 鳥型魔族が運んでいることはともかく、その運用自体はゼクセリオンに似ていた。

 木造の戸が横に開いて、中から顔を出したのは、やっぱりミツカイ。

 見た目からの年齢も、強さも、人間みたく一目でははっきりとしない。

 切り揃えられて後ろで丁寧に結われた髪や、意味はよく分からないけれど細かな紋様の入った袖の広い服を着ていて、なんだか位が高そうだと思わせる女性のミツカイだ。

 

「――外の民。今、このムルゼを舞台に試練なる儀に挑んでいる、勇者ですね?」

 

 楚々とした、しかし雨の中でも聞こえるように意識して張った声だった。

 ユーリくんほどはっきり感じることは出来ないけれど、それでもひとまず、友好的だとは判断できる。

 

「はい。僕が勇者で、こっちの二人は協力者です」

「協力者……あなたの内からは『アル』を感じますが?」

「昔、“ちょっと”ね。私自身はミツカイじゃない。無用な争いを避けたいから、キミたちの文化を借りている」

 

 そういう答えだと、怪しまれることしかないと思う。

 昔から僕の知らないところで色々とやっているらしいイリスだが、あちこちで知り合いを作っている割には、発言が危なっかしい。

 一触即発の空気にならないか、内心ひやひやとしていたが、意外にもミツカイは理解したとばかりに頷いた。

 

「あなたたちが生まれた地を離れるにおいて身に付けた、生存の知恵と受け取ります。私はその努力を否定しません」

「……それはどうも?」

 

 話せばわかるタイプのミツカイのようだ。どうにも読めない雰囲気の、“日照り”のミツカイ以外に、そういうミツカイとは出会っていなかったから新鮮だ。

 ここに来るまでにも、偵察とか警備とか、中には成人の儀とかで接触してきたミツカイはいたが、皆敵意剥き出しだった。

 一応、それらはイリスが追い払ってくれたものの、彼女はイリスの中に『アル』が存在すると知りながら、動揺した様子も見せない。

 

「それでこの『藍の雨樋(あまどい)』に訪れたのは、集落が有する“洪水”の証を求めてのことで、間違いありませんね?」

「へ? ……い、いえ。一旦は間違い、ですかね?」

「……あら?」

 

 あまりにも想定外のことを、さも見透かしていたかのように確信を持って問いかけてきた彼女に、思わず正直に返してしまう。

 話せばわかるタイプのミツカイは動揺した様子を見せた。僕とまったく同じ表情である。

 

「あなたの言う“洪水”の証が、この首飾りを埋める欠片なのだとしたら、確かに集めないといけないものです。けど……今、急ぎの目的はそれじゃありません。この先にあるっていう、かつて冥界だった場所の入り口……そこに行かないといけません」

「――――『銀の磐座(いわくら)』に……?」

 

 ミツカイが息を呑む。

 呟かれたその名詞は、恐らく僕たちが目指している冥界だった場所のこと。

 

「どうして、そのような場所に? 勇者とやらが何をすべきか、我らミツカイは知り得ません。ですが、あそこに行く必要があるとも思えない」

「……僕たちも、元々予定はなかったんですけど……はぐれてしまった同行者……僕とは別の、もう一人の勇者が、そこにいる可能性があるんです。試練より前に、僕たちは彼と合流しないといけません」

 

 少なくとも、ユーリくんの無事が確認できるまでは、試練は二の次だ。

 それだけ本気であると、察してくれたのだろう。

 ミツカイは頷いて、より難しい顔になった。

 

「……私は、あなたたちに伝えるべきことがあり、接触しました。我らの集落に、来ていただけませんか? その返礼に、磐座まで、この社であなたたちを送り届けましょう」

 

 僕たちがそこに向かうことに、賛同は出来かねる様子だった。

 だが、それを受け入れた。受け入れて、その上で提案してくる。

 彼女たちにとっては、それほど重要なことらしい。

 イリスと、それからリッカちゃんと視線を交わし合う。リッカちゃんは勿論のこと、反対。イリスもあまり簡単には頷けないらしい。

 

「……彼女が受けて、私たちが手を貸している試練は、ミツカイとは相容れないものだ。悪いが、そのミツカイの懐に入る選択肢は、おいそれと選べない」

「当然、ですね。それでも――私は、あなたたちに伝えたいのです。千年の月日が流れ、ようやく吹いた風。それを決して無駄なものにはしたくない。その場凌ぎではなく、この地を蝕む今の風と、縁を断ちたいのです」

「……どういうことですか?」

「長い話になります。……どうか」

 

 これ以上は、僕たちが頷いてからということだろうか。

 ミツカイは言葉をそこで止めて、深々と頭を下げてきた。

 ……あまり難しいことは考えない主義で、ユーリくんのように、相手の内心を感じて慮れるような力もない僕には、裏に何か秘めているか判断が付かない。

 分かっているのは、このミツカイが困っていることと――何かを変えようとしていること。

 少なくとも、その言葉だけは本物だった。

 

「……今は、駄目」

 

 ――それでも、優先順位をつけるとすれば、やっぱりそうなってしまう。

 雨音にかき消されてしまうすれすれの、搾り出すような声で、リッカちゃんはミツカイを拒絶した。

 

「後に、して。今はそれどころじゃないの」

 

 リッカちゃんなりに、争いにならないよう、可能な限り配慮した言葉。

 逆に相手を激情させてしまうかもしれない。

 けれど、その通り。向こうも必死かもしれないが、こっちも同じくらい必死なのだ。

 

「すみません。けど僕たちも、一刻を争う事態なんです。そちらが無事に解決したら、戻ってくる……それじゃ、駄目ですか?」

「……いえ、構いません。こちらこそ、緊急時に失礼しました」

 

 僕たちの譲歩を、逡巡の後に顔を上げたミツカイは受け入れる。

 食い下がってくるようなことはなかった。やっぱり、話がわかるタイプだ……ミツカイの中でも変わり者だったりするのだろうか。

 

「あちらにもう暫く行けば、銀の磐座があります。あの辺りには獣もドラゴンの類も多くは棲みませんが、大地は踏みしめるのに適しません。飛ぶ手段を持つならば、それを扱うことを勧めます……加えて、あなたたちの妨害をするミツカイが二人、徘徊している可能性があります」

「妨害……?」

「はい。かれらこそが、此度の“洪水”を押し付けられた者たち。私は、あなたたちが、かれらを討つことを止めません。愛しき同胞であっても、災禍の風に狂わされた、救えぬ命です」

 

 ……多分、彼女の話を先に聞こうと思っていれば、その言葉の真意が分かったのだろう。

 今の僕たちには分からない。ただ、僕たちが戦わないといけない“洪水”のミツカイを、見限ったことだけ分かった。

 

「もう一人の勇者……あなたたちの仲間を無事、磐座の奥底より救出し、この集落に戻ってきたら、私を……雨蜥蜴(イピリア)のドム・マユナを訪ねてください」

 

 そう言い残して、ミツカイは戸を閉じる。

 鳥型魔族が翼を羽ばたかせて小屋を持ち上げ、器用に向きを反転させると、集落へと飛び去っていった。

 イピリアのドム・マユナ……イピリアってのは聞いたことがある。雨を操るという風変わりな能力を持った魔族だ。

 きっと、彼女がミツカイとして、内に宿した種なのだろう。

 で、ドムはミツカイの位の一つだから……個人としての名前は、マユナちゃんということか。

 うん。ユーリくんと無事合流したら、マユナちゃんを尋ねよう。リッカちゃん的には、この場をやり過ごす方便だったかもしれないけど……試練に関わることだったら、聞いておきたい。

 ユーリくんがいれば、何か、悪意を持っていても気付くことが出来ると思うし。

 

「どうするんだい?」

「ひとまず、ユーリくんを見つけてから考えましょう。……ゼクセリオン、使ってみます?」

「……まあ、この馬鹿みたいにぬかるんだ地面に辟易していたのは事実だが。あのミツカイの言葉が真実であれば、飛ぶにしろ歩くにしろ、私たちが戦う必要のあるミツカイに出会う可能性がある。不意打ちを受けるとは思っておきたまえ」

「了解です。そんな訳です、リッカちゃん。ほんの少しかもしれないですけど、中で休んでいてください」

 

 多分、ゼクセリオンを使えば、銀の磐座なる場所まで、そう時間は掛からない。

 だから碌な休憩時間にはならないかもしれないし、途中で件のミツカイに会えば戦闘でそれどころじゃなくなってしまう。

 ……いざ戦闘になったとしても、リッカちゃんには僕たちを信じて、ゼクセリオンの中で待機していてもらうしかないのだが。

 リッカちゃん単独では、空を飛ぶ方法はない。人間だから当たり前。

 リッカちゃんとの共闘は、ユーリくんが見つかってからだ。

 

「出来る限り低空飛行だ、いいね?」

「分かってますよ。目立たないように、ですね」

 

 ドラゴンは多くない……つまり、いない訳ではない。

 無用な戦闘を避けるためにも、扱いは慎重に、だ。

 ゼクセリオンを展開させて、イリスとリッカちゃんが中に入るのを待つ。

 イリスには、状況に応じて外に出てきてもらう。万全な戦いが出来る訳ではないが、イリスも空で戦うことは可能だ。

 

「よしっ……やりますか」

 

 雨具の下から聖剣を引っ張り出して、掲げる。

 生身での運転は厳禁。安全を期すため、必ず外装を纏った上で行うこと。

 これは僕たち全員が合意で取り決めたルールである。

 

『マスターアップ! Q-クエスター!』

 

 これなら雨も――気にしないというほどではないけれど、冷たさは感じなくなる。

 視界もほんの少しだけ、マシになった。相変わらず遠くは見えないものの、飛ぶだけならば十分。

 気合を入れるために頬を叩く。ぱしゃりと水を叩く音が、なんだか新鮮だった。




【イピリアのドム・マユナ】
雨の降りしきる地帯の集落『藍の雨樋』に住まう、『ドム』の名を持つミツカイ。
外の民の風習は同族を犠牲にする悪習であるという認識は、他のミツカイ同様。
ゆえに、その場凌ぎではなく、此度で終わらせることを望んでいる。

【銀の磐座】
ムルゼ霊山にかつて存在していた冥界の名残――そこへ向かうための入り口。
『藍の雨樋』の北西に存在し、これを開くことで元・冥界へと足を踏み入れることが出来る。
外から開くことは容易いが、内に入った者は出られない。
ムルゼ霊山の各所に存在し、未だ駆動する数少ない機構『ソロ』の一つ。
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