凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
前から叩きつけるような雨を受けながら、数分。
こうして飛び始めれば、このゼクセリオンのありがたみが身に染みる。
ぬかるんだ土に足を取られることもないし、外装を纏っているから冷たくもない。
ただ、雨で滑りやすいのは相変わらずだから、そこは注意といったところか。
……と、あまり呑気なことを考えてもいられない。
あと少し飛んでいれば目的地に着く筈だが、そこまでに考慮しなければならないものがいる。
即ち――僕たちの行く手を遮る、試練に関わるミツカイの存在。
「ッ――!」
瞬間的に、殺気を感じ取る。
咄嗟に高度を下げて、姿勢を低くすれば、頭の真上を何かが通り過ぎていった。
――飛んできたのは一つではない。頭があった場所でぴたりと交差して、ぶつかることなくその後も飛び続けている、二つ。
外装を纏っていない状態で直撃していれば、容易く首が飛んでいただろう、矢のように鋭い何かは、今のゼクセリオンを超える速度で飛行し、どちらも雨の向こうに消えていく。
だが、ピリピリとした嫌な感覚は健在。僕では気配を探れない雨の向こうで、まだこちらを狙っている。
「イリス、リッカちゃん! やっぱり来ました! イリス、出られますか!」
ゼクセリオンをその場に停止させ、内部に向けて、二人に呼び掛ける。
襲撃は予想されていたこと。準備は万端だったのか、既に外装を纏った状態でイリスは飛び出し、ゼクセリオンの上に乗った。
止まっているとはいえ、ちゃんと跨っていないとバランス取れないと思うのだが、大丈夫だろうか。
「どんなヤツだい?」
「姿ははっきりと見えませんでした。僕を狙って飛んできて、そのまま雨の向こうに……。多分、数は二人です」
「複数か。さっきのミツカイは“かれら”と呼んでいた。一人が“洪水”なのか、それとも……――避けろクイール!」
魔力を一気に噴かせてその場を離脱すると同時、再びそれは飛んでくる。
数は一つ。先程とは違う。
僕がゼクセリオンを発進させる前に跳躍したイリスは黒いマントを翻し、コウモリのような羽を形作ってその場に留まりながら、スティーライザの銃口を正面に突き付ける。
放たれた牽制の弾丸の先――見えた。雨に紛れてイリスに真っ直ぐ突っ込んでくる魔族の姿。
弾丸を受け流すように躱し、そのまま飛んでくるそれを迎え撃つため、イリスもすぐに対応する。
『ワーウルフコード、レディ』
たちまち獣の頭部へと変わったイリスの左腕。
その顎で敵に喰らいつこうとしたらしいが、それは叶わなかった。
飛んできた魔族が、嘴でくわえた、翠色の長い刃がきらめく剣で牙を受け止めたのである。
「へぇ……? こいつは……」
先程、マユナちゃんを運んできた鳥型魔族とは、感じられる力が段違い。
青から黒へ流れるような色の毛を持つその魔族――何より特徴的なのは、飛ぶのに必要な筈の翼が片側にしかないこと。
右側の翼があるべき部分からは煙のようなものがたなびいて、空気中に溶けている。
魔族の姿かたちなんて、不思議であって当たり前。寧ろ、片翼がないくらいで後は普通の鳥ともいえるような姿である辺り、まともな方だ。
嘴が大きく振るわれ、牙を払いのける。
剣の調子を確かめるようにその場で何度か降り続けた後、その魔族は僕たちから距離を取った。
「――少しはやるのね。東のクーファが負けたって噂、もしかしたら本当?」
「もしもそうであるならば、ぼくらも本気を出さねばならないな」
その声に返したのは、僕たちの誰でもなかった。
雨と煙の間から浮き上がるように現れた、もう“一羽”。
鏡合わせになるように、翼と煙、くわえる剣の方向が反対になっている、右側に翼を広げた魔族。
その首元には、僕たちの求める首飾りがある。まだ埋まっていない位置に当てはまる形の欠片――多分、“洪水”だ。
「油断は出来ない。このような低俗な儀で、ぼくらの愛は潰えない。そうだろう? 愛しきノンノン!」
「ええ、その通りよ、あたしのゴーユ! だってそんな結末、ちっともキラキラしていないもの!」
「ぼくらは不自由の翼。離れ得ぬ比翼をもって、空を流れたゆたう自由の風! 飛び続けよう! 愛しきノンノン!」
「いつまでも、どこまでも! あたしのゴーユ! 守って、なんて言わないわ。一緒にこの試練を乗り越えるの!」
「ああ、ノンノン――」
「ゴーユ……」
――えぇっと。
なんだろう。互いの名前を呼び合いながら、二羽は煙やら首やらを絡ませている。
こちらに向いていた殺気はまるでなくなった。……これ、攻撃しても良いのだろうか。いや、邪魔するのは躊躇われるけど。
「……イリス、かれらは?」
「比翼鳥……バンバンだか何だか言う種族じゃないかな。とはいえ、キミらはミツカイなんだろう?」
答えるイリスも心なしか気力が削がれているようだった。
いきなり襲われたと思えば、流れるように自分たちの世界に入っていったのだ。困惑の方が強くなるのは当然である。
「そう。比翼の
「そしてあたしはヴァ・ノンノン! ねえ、汚らわしき外の民――あなたたちにお願いがあるの」
“お願い”をするにしてはあまりにも不遜な態度だった。
最早命令と何が違うのか。断られるどころか、こちらが悩むことすら考えていない程の清々しさだ。
「負けてほしいのよ。降参、というやつ。誰だって痛いのは嫌でしょう? 死にたいなんて思うこともない筈。あなたたちが死ぬこともなく、あたしたちもハッピー。どっちも得する妙案じゃない?」
「えっと、とりあえず先に行っていいですか? 試練以前に今、ちょっと優先しないといけないことがあって……」
「今すぐあなたたちの持っている試練の証を砕かせてくれるなら、道を開けてあげるわ。そうなったらもうあなたたちに興味はないし。……あっち、磐座しかないわよ? 外の民が近付くような場所じゃないわ」
ああ……当然、首飾りそのものがなくなってしまえば、試練は失敗な訳か。
その場合、どうするのだろう。リーテさんの水の試練は、たとえ失敗しても、生きていれば次の機会を用意してくれると言っていた。
他の試練もそうなのだろうか――いやいや、こんなことを考えても仕方ない。
失敗した時のことなど、考えるな。ユーリくんと再会する。試練も突破する。どちらも必須事項なのだ。
「はい。そこに用事があるんです。あと……試練についても、後回しですけど諦められません」
「なんで?」
「勇者ですから」
最初から諦める道なんて、僕には存在しない。
試練を全て突破して、魔王を倒す。それが勇者の使命――。
旅を始めた時から、随分と僕の周りは変わった。一人じゃなくなって、旅そのものに同行してくれるパーティがある。
もう一人の勇者がいて、彼が“勇者らしい勇者”を僕に託してくれた。
それで諦めてしまったら、皆に申し訳が立たないし、僕も納得できない。
「ああ……なんて愚か。そして不憫だ。鎧を纏うことで自らの力を誤認するのは、幼子の如し。外の民は進歩が遅いんだね、ノンノン」
「ええ。それでも一丁前に、抗う気持ちは持っている。力の差を分かってもらわないと。ね、ゴーユ」
ゴーユ、ノンノン――そう呼び合う二人はこちらを向いた。
二人の間にたなびく煙はまるで指を絡め合っているようで、感じ取れる力は一体化していた。
見逃されるつもりはなかった。
後回しにさせてくれるのであればありがたいけれど、向こうにそんな事情は関係ないし、向こうには僕たちを倒す理由があるみたいだし。
けれど――これは予想外。“洪水”はつまり、ここにいる『ヴァ』のミツカイ二人で一組。
かれらが内に宿す、比翼鳥だとかいう魔族は、そういう種族なのだ。
「降伏はいつでも受け付けよう。ぼくたちだって、外の民の血を見たい訳じゃない。ぼくたちはただ、二人で永遠に在りたいだけなのだから」
「でも、ちょっぴり加減を間違えてしまったらごめんなさい。だってあたしたち、何かを気遣うとか、大っ嫌いなんですもの!」
あまり降伏を受け付けてくれなさそうな警告を最後に、二人はそれぞれの足の裏を蹴って勢いをつけ、再び雨の中に消えてしまう。
それで気配も感じ取れなくなってしまった。
姿も見えない。こうなると、周囲のどこからかれらが飛んでくるか分からないし、予め備えておくことも難しくなる。
「ッ!」
背後で聞こえた、風を切るような音に向かって剣を振るえば、翠色のきらめきとぶつかった。
しかし、捉える前にそれは反転し、イリスの弾丸を踊るように避けて、薄暗い空に消えてしまう。
雨の中での戦い方を熟知している――ここはかれらの狩場だ。僕たちは雨の中で戦った経験も、空中戦の経験も乏しい。
このままこの場所に留まっていれば、僕たちの存在はかれらにとって良い的でしかないだろう。
「どうします? このままだと狙われ放題ですし、目的地に着いても満足に調べられなさそうですけど」
「やむを得ないさ。付き纏われる方が厄介だ。手早く片付けられるといいんだが――ね!」
話している間にも突っ込んできたミツカイを、イリスは体を捻って回避する。
……どこからやってくるか分からないとはいえ、こうして突っ込んでくるだけであれば単純なのだが。
これだけなら、多分遠からず慣れる。そうすれば捉えて、切り伏せることも叶うだろう。
だけど――“地鳴り”や“雷”のことを考えると、手札がそれだけとは到底思えない。
出来るのならば、誘い出して、本気を出す前に片付ける。
「クイール?」
イリスに返事をかえすよりも先に、ゼクセリオンに魔力を噴かせて急発進させる。
……リッカちゃんは――いや、大丈夫。大丈夫な筈。
本体に大きな衝撃が走っても、内部の空間はびくともしないらしいし。
「あら、追いかけっこかしら?」
手も滑るし、流石に最高速度なんて出していられないが、それでもそれなりの速度で飛んでいるにもかかわらず、ミツカイは当たり前に並走してくる。
余裕の表れか、わざわざこちらに見えるくらいの距離だ。
隠密性に長けた速度自慢。こうした、視界の悪い環境で一番相手にしたくない敵。
だが、二人一組である以上は、離れ離れにしてしまえば強みを無くすことになる。
――と、そうなれば良いのだが。
「外の民は妙な船を持っているね。だが、それでぼくたち以上の風となることは出来ないようだ」
「もう一人、置いてきちゃっているけど大丈夫? はぐれちゃったら大変よ?」
「どっちも付いてきちゃいましたか……!」
「それはそうだろう。ぼくたちは常に共にある。ただ一時も離れたりしないさ」
「あたしたちは一つ。何故なら、あたしたちは共に吹き行く風だから! どちらが欠けてもいけないのよ!」
なるほど、そういうものなのか……と一瞬納得してしまった。
ともかく二人を引き離すのは不可能な訳だ。それならば、それでやりようがある。
二人に挟まれている状況は避けたいので踏ん張って急停止、二人の間に掛かる煙が僕を通り抜けたところで聖剣に力を込め、強く輝かせる。
「これでどうですっ!」
通り過ぎた二人を狙って、聖剣を横に薙ぐ。
刀身を飛び出した光の斬撃は――そのまま二人が真っ直ぐ飛んでいれば、纏めて捉えられる筈だった。
しかし、光が届くより前に二人は縦に飛んで躱してしまう。斬撃は、二人を繋ぐ煙を僅かに払ったのみ。
そして反転――並行になった二本の剣が僕目掛けて突っ込んでくる。
「あっぶな……!?」
前に突き出した聖剣で受け止め、押し返すのはゼクセリオンの推進力に任せる。
弾き返した後、崩れそうになるバランスをしがみ付いて正している間に、背後に回り込んだ片方が近付いてくる。
防げない……けれど、防ぐ必要もない。
先程の場所から離れたものの、これだけ魔力を出してドンパチしていれば、イリスだって感知できる。
「おっと……」
僕との間に放たれた光線で、ミツカイは攻撃の中断を余儀なくされる。
追いついたイリスは再びゼクセリオンの上に立ち、軽く頭を引っ叩いてきた。どうして。
「合図くらい出したまえ。いきなりかっ飛んで何事かと思ったぞ」
「察してくださいよ。何年の仲だと思ってるんですか」
「キミからすれば半生以上かもしれないが、私からすればそこまで長い年月でもないね」
む……エルフマウント。若干機嫌が悪い時のイリスである。
そこまで予想外だっただろうか。だとしたら反省しないと、だ。
これで怒って薬を貰えなくなったりしたら死活問題である。せっかく最近、よく眠れるようになったのに。
よし、機嫌を直してもらえるように頑張らないと。気合入れ直しである。
「なるほど、キミたちにも信頼からの協力は可能ということか。だがぼくたちには及ばない」
「だって、あなたたちには無いもの。世界にたった一人、運命の相手との間にだけ結ばれる、この世で最も強い絆! ――そう
「ら、ラブ……!?」
――入れ直した気合が空回りして、思わず剣を落としかけた。
【ヴァ・ゴーユ&ヴァ・ノンノン】
【リッカ】
外部の音声垂れ流し状態。