凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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ラフィーナちゃんのわくわく反省コーナー!

 

 

「っ……く、ぁあ……!」

 

 肉を掻き分けて這い出てくる新たな化け物に、宿主を気にかける知能など期待できない。

 さっさと出ていけ、終わってしまえという恨みつらみを抱けば、それを嘲笑うようにゆっくりと“それ”は顔を出した。

 ぼとり、べちゃりと最早聞き慣れた湿った音。

 新たに生まれた小さな怪物は私の足を伝うように落ちた。

 

 慈愛の心を持って、大らかに見てやれば、それは私の子と言えるのだろう。

 だが、生憎私はそんな常識外れの化け物に情をかけてやるほど変わり者ではない。

 胎から出ていけばもうそれで終わり。今の私の最たる感情は、暫しの間軽くなった体を少しでも落ち着けたいという気持ちだ。

 

 ――この暗がり。人間もどきが作り上げた地獄に閉じ込められてどれだけ経っただろう。

 窓もない、時計もない、三食きっちり出される訳でもない。

 時間を判別するものの何もないこんな場所にいれば、時間感覚などすぐになくなる。

 寝ているか起きているか判然としない時もあるし、苦痛をわざと意識させるような凌辱で気付けば意識を手放していたことだって一度や二度ではない。

 もう私にとって、今はいつだろうという疑問は意味がない。

 それでも考えてしまうのは、仕方がないのだ。

 ここがどこであるにせよ、ひたすら先に向かって流れ続ける時間の中なのだから。

 

 色々なものを失った。

 使い魔を増やすためだけに最低限生き物として扱われ、実質的には道具としてしか見られていない。

 個性など必要ない。あらゆるアイデンティティはこの場では必要ない。

 そんな中で、私を繋ぎ止めていたものが少しずつ、無意味なのだと理解することで消えていく。

 私が私であるための絶対のものだと、無価値を否定する気持ちがゆっくりと溶けていく。

 自覚したくない。認識したくない。そんな精一杯の抵抗は、道具として消費される工程の中で解れていく。

 誇りとしていたものの殆どは、もう私にとってさえどうでも良いものに落ちぶれてしまった。

 

 それでもまだ私は、ラフィーナという名の自分を残していた。

 元々と比べてどのくらい、とかは知らない。きっとここに放り込まれる前の私が見れば、自分の成れの果てとは思うまい。

 襤褸屑のようになっている自覚はある。

 しかし、自分が誰なのかと問われれば、サキュバスのラフィーナだと言い張れる自我はあった。

 

 ……あいつはとっくに、私が完全に壊れ切ったと思い込んでいるみたいだけど。

 くだらない。知らない。どうでもいい。それで勝手に納得しているなら、好きにすればいい。

 あいつはどうせ、仲間が欲しいだけだ。壊れ切った自分の同族を増やして、自分の気持ちの支えにしたいだけだ。

 既に壊れ切った人間もどきには、他者をどこまで壊せば壊れ切るかなんて理解できる筈もない。

 わざわざそれを指摘してやる義理もない。この秘密は墓まで持っていってやる。……死ねるか知らないし、死ねたとしても私に墓なんて無いだろうけど。

 

 ある程度気が晴れれば、少し寝ようかという余裕が出来る。

 慣れだ。決して認めたくはないが、ひとしきり絶望しきれば慣れも生まれる。

 生きるに必要なものは無理やり流し込まれるが、その他の生理現象には適当な処理の必要性がある。生きている限り、眠気には抗えないのだ。

 化け物を増やすための苗床として以外に求められているのは、生成される魔力を、作ったそばから奪われることのみ。

 その魔力は起きていようが寝ていようが勝手に作られるのだから、向こうも文句は言うまい。

 壊すだけ壊して、満足すればあとは道具としての価値しか求めない。

 ああ――実に慈悲深いじゃないか、私たちの飼い主サマは。

 所詮は自己満足か。感情の味わい方など知らない、不格好な猿真似だ。

 

「……ぉ、げェ……!」

 

 ――まあ、そんな猿真似だからこそ、壊すことに関しては手っ取り早く有効なのは否定しないが。

 私からさして離れていない場所で零れた苦悶の声。

 落ちていく吐瀉物には水気があるばかりで、形を残したものなど皆無。

 それを見ても、覚える筈の嫌悪感などなかった。これが当たり前になるなど、奴隷の人間たちだって無いだろうに。

 

「……大丈夫? 気をしっかり持ちなさい」

「うくっ……ふゥ……アぁ、大丈夫ダ。まダ、壊れテない……」

 

 まだそれに苦しむことが出来るのは、完全に壊れていない証だ。

 私に続いて、放り込まれてきた新たな贄。緑の肌を持った魔族たち。

 そのうち一体、中々にしぶとい奴がいた。

 

 聞けばゴブリンだという。

 元々は五体の雄で、縄張りをうろついている人間を襲い、盗みを働いていたのだとか。

 

 ……呆れるやら驚くやら。

 

 ゴブリンのことは知っている。背が低く人型に近い、緑肌の魔族だ。

 長く硬く、鋭い爪を武器にする、やたら高い適応力でどこにでも住み着くことが出来る“知恵無し”魔族の筆頭。

 外を歩く人間ども、それも街道を歩く者さえ襲う、ナンセンスな連中。

 それが徒党を組んで活動しており、見つけた二人の人間を襲ったところたちまち不気味な姿に変わり、あえなく御用となったそうだ。

 

 私と似たり寄ったりな軽率さを笑うことは出来なかった。

 それよりも、ゴブリンたちの外見が知識とまるで違うことに驚いた。

 より人に近く、そして性別さえ反転し、困惑する彼女ら……彼らを化け物共は当然のように手に掛けた。

 恐れ入る。ここに放り込まれる時には生まれ持った性別さえはく奪されるらしい。どういう仕組みだ、まったく。

 

 会話が成立し、しぶとく理性を保ち続けている一体。

 珍しい金色の爪を持つゴブリンは、その徒党で頭領を務めていたようだ。

 ゴブリンなどどれも変わらないと思っていたが、彼はまだ自分を失っていない。

 

 聞けば私に次いですぐに入ってきた一体のゴブリンは、彼らの仲間で別行動をしていた個体だったとか。

 しかし、そちらは何の変哲もない、普通のゴブリンだった。こんな非常識に、こんな地獄に、対応できる器ではなかった。

 頭領たち三体が連れ込まれてきた時には、とっくに手遅れ。

 最初の頃は、泣き叫んでいた彼に私も色々と、声を掛けていた気がする。だがどこかのタイミングで、()()はもう駄目だと悟った。

 そこから彼が声を上げなくなるまで、そう時間は掛からなかった。

 必要な生命活動を機械のようにこなし、求められた役割で使われるだけの、変わり果てた仲間を見て、頭領の彼以外の二体は早くも恐慌に陥ってしまった。

 そうなれば、後は彼を追うだけ。

 かつての仲間を案じる気持ちは一瞬で無くなり、自分たちはああなりたくないと足掻き、そして抵抗も空しく貪られた。

 最初の一体と、その二体、どちらが長持ちしただろうか。

 結局、やってきた四体のゴブリンの中で、今も壊れ切っていないのはこいつだけになった。

 

「……おマえは……大丈夫なのカ?」

「……どうにかね。あんたよりは、苦しくないわよ。サキュバスってのは、頑丈だから」

「ソう、か……だ、だが、オ喋りするのは、どうなんダ……? あノ人間、あ、あそコに、いるぞ……?」

 

 気丈に見えても、やはり恐怖の拭えないゴブリンの視線の先。

 そこには忌々しい壊れた女がしゃがみ込んでいる。

 時々現れては私たちの様子を眺めて、またどこかへ消えていく神出鬼没の飼い主サマ。

 あれに話を聞かれるというか、元気な様子を見せるというのは好ましくない。ゆえにこの場にいない時くらいしか、こうした傷の舐め合いなんて出来ない。

 だが、今は問題なかった。

 

「聞こえちゃいないわよ……見てみなさい、あれ。粘土……じゃなくて、粘液細工に夢中だから」

 

 触手の化け物とはまた少し違う性質の水音を立てつつ術式を動かしている人間もどきは、大変に集中している。

 というか、聴覚を切っているのかもしれない。

 現在進行形でおもちゃになっている犠牲者がけたたましい悲鳴を上げていた頃から表情一つ変えず、その液状の体を弄っていた訳だし。

 どの道、あれはもう私たちに大した関心がない。

 捕えた者の最初の地獄を一通り見納めれば、急激に興味が薄れていくのだ。

 憎悪と恐怖はそのままの癖に、まだまだ先がいるから満足していられないとでもいうように。

 これもその一環か。私たちのような凌辱ではなく、スライムの身体を使った工作とは。

 

「……あいつ、マだ生きテるのか?」

「知らないわ。どっちがマシかって言われたら、こっちかもね。……一応、生きていることは求められているわけだし」

 

 あのスライムもまた、ゴブリンの知る相手であるらしい。

 変わり果ててこそいるが、縄張りを同じくしていた、池のように大きなスライムとのことだ。

 今はもう普通の大きさだし、スライムの特性による水分の統制も行っていない。どころかスライムとは思えない“可愛らしい”姿になっている――もとい、()()

 

 私たちの価値を踏み躙るこの仕打ちは、ひどいものだ。正気ではないし、悍ましい。

 だが目の前であんなものを見せられれば、変な安心感さえ錯覚してしまいそうになる。

 

 生きた魔族という在り方を機構の一つとして利用され続けるのではなく、スライムの性質だけを求められる。

 新しいナニカを作り出すための素材の一つとして加工されるのはどんな感覚なのだろうと考える、今なお健在な知識への欲望を自嘲する。

 “それ”と“これ”では、自分が自分でなくなっていく過程もまた異なると思う。

 自分を参考にした別の素材を流し込まれ、慎重に壊れないように――“スライムが”ではなく“作品が”だが――混ぜ合わせられ、少しずつ自己を薄められていく。

 不正確らしい工程においてはその体の一部を切り取って実験し、自分の欠片が変質していく様子を見せつけられる。

 上手く行けば今度は本体の番。

 ただひたすら、そんな流れを繰り返して、スライムだったものをあの女にとって都合の良いものに変えていく。

 犠牲者になったあれが死んでいるか生きているかは分からない。だが少なくとも、もうまともではないだろう。

 あの女にとってはどうでもいいことかもしれない。生きていようが、死んでいようが、スライムを使えるならば。

 あまりに仕打ちが常軌を逸していて同情すらも出来ない。精々早く楽になれることを祈るばかりだ。

 

「……ともかく。頼むからあんたは壊れないでよ。話し相手がいないと、気も紛らせないわ……」

「よ、ヨゆうあるなお前……」

 

 ……こいつも、望み薄ではあるが。

 ゴブリンの中では才能ある個体らしいとはいえ、それでもゴブリンはゴブリンである。

 感情に瑞々しさはもうない。たった一つの希望も遠からず忘れるだろう。

 その希望――ただ一体、逃げ切った仲間とやらの話は、私もあの女にざまあみろと思えた話だ。こいつが忘れても、私は覚えておこう。

 

「話シ相手といウが……あ、あイツは? アそこの……」

「あれは駄目よ」

 

 彼の視線が向いた先に何が()()のかなど、見なくても分かる。

 釣られてそっちを見ることはない。人間もどきの工作を眺めつつ、ゴブリンに割と本気の忠告を送る。

 

「少しでも長く正気でいたいなら、あれはいないものと思いなさい。多分あんたじゃ、理解できないわ」

「オ、おォ……?」

 

 あの女でもなく、化け物でもない。この部屋においては私たちと同じ、パーツでしかないもの。

 言うなればお仲間であり、私にとっては唯一の先客。

 だが私は、あれは駄目だと早々に見限り、理解を諦めた。

 この先、哀れな同僚がどれだけ増えても、あれを気にするなと言うだろう。自棄になって壊れたいというなら止めはしないが。

 

 この部屋で感じる狂気は、あの女のものだけで十分なのだ。

 別ベクトルのそれを真に受けていては、それこそ心がもたない。

 あれが持つおかしさは根深い。それゆえに、変わることがない。もしかするとあの女さえ、それに気付いていない。

 あれに期待することといえば、そのおかしさをあの女に認識させて、この地獄を終わらせる発端になってほしいということだが。

 

 ――無理だな。無理だ。

 それで変わる何かがあるとしても、私たちには関係がない。

 精々がその先――私たちが関与せず知ることも出来ないものが、より狂った形に変わるだけだろう。


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