凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
『ユーリ! あれはただの魔族とは違うわ、一瞬たりとも気を抜くんじゃないわよ!』
「分かってる――!」
妖しく輝く単眼が空間を照らす。
上への螺旋階段を粉砕し、領域の岩肌を削りながら迫ってきていた、細かな紋様が表面に描かれた石造りの蓋たる“ソロ”の瞳は、じっとこちらに向けられている。
どれほどの力を持っているかは、どうにも読みづらい。
向けられる敵意は無機質で、それが機能として有されているだけのものだと隠していない。
手を伸ばしても、感じ取れるものはない。そもそもあれは、僕が繋がることのできるものではないようだった。
――思い返されるのは、楽しみを追い求めるあの妖精たちの一人が、ショーの中で操ったゴーレム。
それから、教会の人形たち。そういった、はじめから特定の機能と役割を持って作られた、便宜上魔族と呼ばれているもの。
性能……魔族としての格はそれらとは桁が違うだろうが、あれと同じだ。
こうした相手は、戦いづらい。
誰かが操っているならばともかく、完全に独立しているならば、意識の向きから攻撃を察することも出来なくなるからだ。
ゆえに、重要なのは観察。
注意すべきは何よりもあの単眼。そして次点に、八つの触腕だ。
「ッ!」
一際強く瞳が輝き、寒気を覚えてその場を飛び退く。次の瞬間、瞳から放たれた光線がそれまで立っていた場所に突き刺さった。
『石化。浴びたものの瑞々しさを枯らしているらしい』
光線を浴びた床の表面は、たちまち鈍く輝く鉱石に覆われた。
ジルはこれを翼に受けたのか。
範囲は狭い。たとえば直撃したとて、それだけで全身が鉱石に覆われるということはないだろう。
だが、恐らくこの石化の影響は体の内側にまで浸透する。受けた部位は満足に動かせなくなり、次第に対処が難しくなっていく。
『力押しにも程があるでしょ……治療の方法は?』
『不明。ただあの機構を破壊しただけでは元に戻るものではないと推測する』
“ソロ”の侵攻は僕たちの十メートルほど上方で停止した。
闇雲に攻撃したところで、有効打が与えられるとは思えない。
弱所として真っ先に思いつくのは、やはりあの単眼。攻撃の軸にして、存在そのものの中核である筈だ。
「よし……!」
再び瞳が輝いた時を見計らい、横に飛びつつも魔剣を上方に向けて構える。
銃砲形態で放った弾丸は真っ直ぐと瞳に飛んでいったが――途中で触腕に阻まれた。
「狙いは良いけど、速度も威力も足りないにゃ。それじゃあ触腕がじっとしてないし、当たったところで核を壊すには同じことを千回繰り返さないとにゃあ――スネグーラチカ、こっちに寄るにゃ。巻き込まれるにゃ」
「う、うん。邪魔しちゃ、いけないもんね。すみっこで丸くなっているって、約束したもん」
流石にあの触腕も、ただ移動のためだけに使われるのではないのか。
――当然だ。そもそもあの機構は、冥界と外との境界。移動するためだけの機能を用意しておく意味がない。
あの八本は僕たちの障害となるべきものだ。
となれば、射撃を主に攻めていてもきりがない。
接近し、触腕を掻い潜って攻撃を試みる。リスクは高いが、やるしかないか。
伸びてきた一本の触腕を魔剣で弾き、それに飛び乗る。
次から次へと迫ってくる残りの触腕を対処している暇はない。
僕の背丈と比べれば十分に大きな触腕は、駆けあがるための足場として申し分なかった。
反対側から伸びてきたもう一本の触腕を躱し、そちら側に飛び移る。反対側への橋のようになったそれの上を走り、石化の閃光を潜り抜けて、単眼の真下にまで辿り着く。
「これで……!」
次の閃光が放たれる前に単眼に向かって跳び、魔剣を振るう。
深く入ることはない。斬撃は表面に浅い傷を作っただけだったが、瞳の輝きは僅かに曇った。
手応えはあったが――砕くには到底及ばないか。
『ユーリ、前!』
「ッ」
前方から迫ってきた触腕に向かって魔剣を叩き込み、動きが止まったところで蹴り付け更なる足場にする。
再び迫った単眼の、まだ修復されていない傷跡に魔剣を突きつければ、刃はより深くまで沈み込んだ。
『ちょ、刺してどうす――』
突き刺したらそれ以上の追撃は難しい。敵が天井そのものであれば、尚更。
ただし、それは僕が持つ武器がただの剣であればの話。
刃が刺さった状態のまま、魔剣の形態を変化させる。
簡単には引き抜けない程度に刃が沈んだならば、好都合だ。引き金を引くことで、弾丸は瞳の内部に直接放たれる。
「ぐっ、ぅ――!」
目の前で爆発する威力が、外装を超えて全身に浴びせられる。
軋むような痛みに動きを鈍らせようとする体に喝を入れて、二発、三発と続けて撃ち込む――その中で、右腕に嫌な痛みが広がっていくのを自覚する。
『バ……ッ、何してんの!? 止めなさい! 体もたないわよ!』
四発目で瞳の傷が広がり、刃が抜け落ちる。
落下の最中に着地の態勢を整えようとして、突っ込んでくる触腕に気付いた。
魔剣で防御することこそ叶ったが、そこまで。空中で受け止められる訳もなく、壁まで吹き飛ばされた。
「ぁ……く……! っ……ヨハンナ――魔力はまだ大丈夫……!?」
『余力は残っている。だが、ファイナライズと呼称しているコードの実行は非推奨。戦闘持続が可能な時間が激減する』
魔力を無茶に使える状態ではない。好機と踏んで決着を狙いに行ったところで、倒し切れなければ一気に窮地に陥ることになる。
確実を期すためにも、今のような攻撃を繰り返して着実にダメージを与えた方が良いと思うが……。
「……」
右腕の痛みが、いよいよ思考の邪魔になるほどに強くなる。
力を込めることも難しく感じるようになり、魔剣を左手に持ち替えた。
『あんた、やっぱり腕……』
「うん……けど、上手く傷は与えられている」
内側に魔力を叩き込まれた単眼は暫くの間、震えつつ光っては消えを繰り返していたが、やがて通常の輝きを取り戻し、傷はそのままに動き始める。
あのくらいではまだ、止めるには至らない。
罅の入った眼差しがこちらに向けられた。
光線が降り掛かる前にその場を飛び退き、戦いを傍観していた魔族の傍に着地する。
「同じことを続ければ、先に倒れるのはお前にゃ。想像以上に頑張ってるけど、それじゃあソロは壊せないにゃあ」
「まだ、まだ……!」
「やせ我慢はやめるにゃ。右腕、最初から怪我してたにゃ? 今ならまだ、回復魔法で治癒の利く傷にゃ。けど、もう碌に使えないお荷物ぶら下げたままじゃあ、余計に勝てないにゃ」
……事実だった。右腕がまともに使えなければ、魔剣の扱いも当然鈍る。
そもそも敵は天井にいる相手。この外装は空を飛べない。接近するだけでも、相手の触腕を利用するなどの工夫が必要。
そんな相手に、ハンデを背負ったままで戦えるのかといえば、厳しいというのが本音だ。
「あたしなら回復くらい訳ないにゃ。こうしてあたしが傍にいれば、ソロも攻撃を中断する――今の内に、さっきの提案に乗っておくにゃ。あたしの眷属になれば、めでたくソロの攻撃対象外にゃあ」
諦めたくない。何かないかと、今の自分が持っている手札を考える。今までの旅路から、活路を掘り起こす。
――左手の魔剣に目が行った。
もしかするとというひらめきが頭に浮かぶ。
それを拒絶する感情と、光明になるかもしれないという希望がほんの一瞬ぶつかり合った。
迷うな。それがもし可能ならば、状況打開に向けた最善の一手に他ならない。
「……ラフィーナ」
『何よ』
「魔剣は……あの外装の力を元にしているんだよね?」
『――あんた、まさか』
「うん。使えるのなら、使いたい」
伝えた途端、ラフィーナの感情はあちこちに揺れ動いた。
最終的に怒りに落ち着くのは分かり切っていたが、だからこそ身構えてしまう。
『――馬鹿じゃないの!? まともに使えるものじゃないって分かり切ってるでしょうが!』
「けど、いま必要なのは攻撃力と、機動力。あの外装にはどっちも備わっている。それに、このままじゃ駄目なのは、ラフィーナにも分かるでしょ?」
無理やりに狂気を纏うのではなく、この状況を打開するために、あの力を借りたい。
我儘だ。僕自身、あの力を嫌悪している。かつてはリッカの衝動のままに、二人の魔族を徹底的に痛めつけた。
リッカを介していない今の状況であれを使って、どういう結果になるかは未知数だ。
けれど――好転しないとは限らない。どうせこのままでは、あの単眼よりも僕が先に力尽きる。
だったら、あの狂気を頼りにしてでも、打ち砕ける可能性に賭ける。
「本当は頼りたくない。けど、ここが行き止まりなんて、嫌だ。力を貸して」
『……あんたは、何度一か八かの賭けに出るつもりなのよ』
「必要なら、何回でも。リッカと一緒に辿り着く、ハッピーエンドのために」
勝たなければならない、一か八かの賭け。それを繰り返さなければ、辿り着けない場所。
ならば、その全てに勝ち切って、必ず辿り着く。
それが僕と言う存在。僕にしか出来ないこと。そうだと信じて、成し遂げるためにすべてを尽くすことが、僕には出来る。
『……っ……外装の状態で、アリスアドラ様の狂気を抑えきれる確証はないわ。だけど……』
怒りは収まらないまま。
だけど、ほんの少し吹っ切れた声色だった。
この、どれだけの確率で勝てるのかも分からない賭けに相乗りしてくれるという――半ば自棄の決意が見えた。
『あんたのムカつくほどの頑なさはよく知ってる。あんたがアリスアドラ様の狂気を跳ね除けられるなんて思っていないけど……もしかすると、ほんのちょっとだけ、可能性があるかもって血迷えるくらいの頑なさは』
「それ……褒めてる?」
『褒めてるのよ。だから、自分を信じ切りなさい、ユーリ。全力で自分勝手を通し切るの』
「――うん、分かったよ、ラフィーナ」
魔剣に術式が浮かび上がる。
魔剣としての形を解れさせ、魔力の粒子となって周囲に浮かび上がる。
『む。別命令の実行を確認。術式による魔力変換シーケンス――当機も巻き込まれていないかこれは』
「ごめん。ヨハンナも、力を貸して。別の形態で、一気に攻め込む」
『了承。これはこれで興味深い。そもそもこの武装自体が、別のコンセプトから発生したものだったとは』
……強引にヨハンナも巻き込む形になってしまった
だが、彼女にも同じことを告げて、協力を要請しようとしていたのは事実。順番が逆になっただけだ。
「――アリス、アドラ様――? 勇者、一体なにをしようとしているの?」
ふらりと立ち上がったジルが、鉱石に覆われた翼を庇いながら、問いかけてきた。
彼女にあるのは、深い疑念と困惑。
理解できない。何故、まだ戦えているのか。何故、自分よりも長くソロに抗えているのかと。
「どうにかなるかもしれない手段があるってだけ。それを、今から試すんだ」
「訳が――わからない。人間なのにどうして、まだ諦めないの? ただ、勇者ってだけの、成人さえしていない、人間が」
その疑問は、何だか癪だった。
ただ勇者というだけの弱い人間。それは、大多数の魔族における僕の認識だろう。
「……諦めないこと、理不尽に抗うことくらい、人間にだって出来る。立ち止まれない、まだ死にたくないって思うことは、なにも魔族だけに許された特権じゃない」
ああ、弱い人間。それは間違いない。僕は一人では大したことの出来ない人間だ。
だけど、三つの試練を突破して、最後の試練に挑んでいる。支えられながらも、理不尽に立ち向かうことが出来ている。
山ほどのお膳立てはあった。弱い僕は最初から、リッカに手を引かれていた。
――だからこそ、何もせずに諦めるだけが人間の選択肢ではないと、僕は言い切れる。
「人間には何も、特別なことを成し遂げられないって思うなら、人間を舐めすぎだよ」
「――――」
『トランスコード! アクセプション!』
かつて手を借りた――もしかしたら、今も助けてもらっているのかもしれない、遠くの誰かの受け売り。
だけど、その言葉は僕自身頷ける。
リッカのように、勇者じゃなくとも。かつて出会った行商の兄妹のように、勇者の使命に縁のない人間であっても。
人間が弱いこの世界で、特別な何かをこなすことが出来るのだ。
『U-リッカ――アドラッ!』
灰色の外装が上から塗り替えられ、赤く染まる。
他の外装では感じるようなものではない、全身が締め付けられるような感覚は、久しぶりだった。
頭に直接囁いてくる何かを、ラフィーナがシャットアウトする。窮屈さが和らいで、血の色になりかけていた視界がクリアになった。
【ユーリ】
右腕痛めてるの自覚してるのかって戦い方をしている。
【U-リッカ アドラフューリー】
ナイトラクサにて、アリスアドラに押し付けられたU-リッカの派生フォーム。
総合能力に優れ、ユーリの能力により適応した『ユーリフューリー』が間もなく発現したため、その後は使われていなかったが、実は純粋な攻撃力はこちらの方が上。
魔剣ラフィーナの開発の際、元になったこのフォームの調整が行われており、例外による不正コードではなく、正式なU-リッカの一形態となっている。
しかし、使用した場合の危険性は健在。
【ジル】
――なんなの、この勇者は。
――なんで魔族に、それに冥界にさえ抗えるの。
――いや、それ以前に。
――なんで、アリスアドラ様の狂気を、躊躇いなく使う選択が出来るの?