凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『境界異本』/幽明Ⅴ:勝つための狂気

 

 

 頭痛から始まって、たちまち全身に広がった締め付けるような痛みを抑える唯一の手段は、目の前の敵に集中することだった。

 どろどろとした戦意が、体に染み込む。

 視界に映ったものに対する破壊衝動が、体の内側から湧き上がる。

 それに委ねてしまえば、動きはより苛烈になり、更なる力を発揮できるのだろう。

 だが、それは超えてはいけない一線。味方と定めた者でさえ、敵意を向けかねない暴走を許容することを意味する。

 

 耐えなければならない。

 この囁きに、耳を貸してはならない。

 ラフィーナが大半を庇ってくれている。より前に、前にと背中を押そうとする衝動は、最低限のものになっている筈だ。

 たとえ、降り掛かるほんの一端でさえ人間には耐えられない、そういうものであろうとも。

 それでこの体が、僕の意思で動かなくなってしまっては、なんの意味もない。

 

「っ――ぉお――――!」

 

 輝く瞳に組み付いて、力の限り蹴り込む。

 同時に尾のように伸びたマニピュレーターを突き刺し、瞳に刻まれた罅をより広げていく。

 見た目はもう、随分と損耗しているが、罅はまだ浅い。もっと強く――もっと強く、攻撃を叩き込む必要がある。

 だが、瞳の輝きが強くなることで、攻撃の中断を余儀なくされる。

 生命を枯らす眼光――これは連射できるものではなく、直線的であることから回避が難しいわけでもない。

 それでも受け止める選択肢がない一撃というのは厳しい。まともに受ければ、その時点で勝ちの目がなくなるということだから。

 

 飛び退いて、傍に突っ込んできていた触腕を切り裂く。

 防御を捨てて、リソースを攻撃力に注ぎ込んだこの形態は、僕の今の状態であれば腕の薙ぎ一つが魔剣の一振りを超える威力を発揮する。

 落ちていく触腕の先端を横目に、その根元まで辿り着く。

 左腕とマニピュレーターで掴みかかり、天井を両足で強く蹴り付ければ、バキリという岩の砕けたような音と共に触腕が引き抜けた。

 制御を失い、力なく垂れ下がったそれを手放し、その場を離れようとして――

 

「ッ!?」

 

 空いた穴から間髪入れずに伸びてきた細い触腕が、咄嗟に回避を試みた僕の脇腹の外装を切り裂いた。

 

「く、ぁ……!」

 

 最低限の守りを当然のように貫き、外装が生み出す痛みに割って入った刺激に頭が僅かに真っ白になる。

 その、僅かな時間は追撃には十分すぎた。

 

「ガッ――――」

 

 穴から次々と伸びてくる新たな触腕が鞭のように振るわれ、床に叩きつけられる。

 外装のあちこちがその衝撃で罅割れ、舞った。

 各機能としては健在だが、ないよりはマシという程度でしかない防御力では、そう何度も受けられるものではない。

 すぐには動けそうにないと叫ぶ体の悲鳴を、耳障りなノイズが掻き消す。行動の妨げになる痛みを、それよりも鬱陶しい継続した痛みが上書きする。

 大丈夫だ……まだ動ける。

 見上げれば、引き抜かれた一本の触腕の代わりに、新たな細い五本を伸ばした“ソロ”が瞳を揺らしていた。

 こちらを認識しているが、閃光を放ってくる様子はない。それは、つまり。

 

「体にガタが出てきているにゃ。それでも戦闘を継続できるその装備にはドン引きにゃあ」

「……っ」

 

 この魔族が近くにいる間は、攻撃が中断される。

 呆れた様子を隠さない魔族は僕が降参の意を示せば、その時点でこの戦いを終わらせることが出来るだろう。

 こちらに手を伸ばせと、言外に告げている気がした。何を言っているか分からない耳元の囁きよりも、はっきりとした誘惑だった。

 だが、動く手足が残っていて、抗う意思が消えていないならば、その手を取るのは尚早だ。

 この場で逃避を選んで外に出ることは、リッカのための勇者の行いではない。

 そんなことをすればリッカも失望するだろう。それだけは絶対に嫌だった。

 

「お前、このままだと本当に死ぬにゃ。ここで死んでも、迎えてくれる冥界がないにゃ。安寧なく彷徨うことを望んでいるにゃ?」

「……死ななければいい。それだけじゃないか」

 

 僕は生きている。死ぬつもりもない。

 ここで失敗して死んだあとのことを心配されても困る。

 そんなもしもの話、邪魔なだけだ。

 翼を広げ、再び飛ぶ。先程叩きつけられた時に少なからず破損したのだろう、反応速度が落ちていた。

 

 そして、それを瞳で捉えた“ソロ”は機械的に、こちらの隙であると判断する。

 先の攻撃の有効だと見たのか、残る七つの太い触腕をそれぞれ細かく分割し、その手数を何倍にも増やした。

 

「わ、わわ……!」

「にゃあ……人間相手に出力上げ過ぎにゃ。スネグーラチカ、もっと身を低くするにゃ」

 

 空間を埋め尽くさんばかりの、何十もの触腕の群れ。

 ――攻めきれない、躱せない。

 その二点を確信した時点で、僕は行動を切り替えた。

 翼を丸め、盾のように自身を覆う。そこに触腕が殺到し、たちまち僕は埋もれ、視界は真っ暗になった。

 

「く……っ」

 

 全方位から掛かる強い圧力。

 このまま押し潰すつもりだろうか。翼がどうにか防いでいるが、外装が軋む音が絶え間なく聞こえてくる。

 何もせずにいれば、数十秒も経てば外装は粉々に砕け、僕自身も圧死する――それならば。

 

 ――これを好機と捉えよう。

 攻撃が集中しているという状況は、つまりそれらすべてを一度に奪える状況だということ。

 

『ファイナライズ! アクセプション!』

 

 ヨハンナ曰く、そう数は使えない。勝負を決めるために使うべきだと思っていたが、いまこの威力が必要なのだ。

 背後にあったマニピュレーターが展開され、魔力が充填される。

 そして、僕自身は歯を食いしばる。次の瞬間、意識を失わないように。

 

『アドラ・エクスタシーッ!』

 

「――ぐ――ぅぁぁぁぁああああああ――――ッ!」

 

 背中が焼けるように熱くなる。

 それから爆発はたちまち周囲に広がり、全身を衝撃が襲った。

 何も見えていない中で、体に自由が戻ったことを悟る。

 壊れかけの翼で前に飛び出す。爆発を抜け、守るものの無くなった巨大な瞳が現れる。

 

 ――さらに追い打ちを掛けようとしていたのか。

 瞳の輝きは最高潮に達する直前で、出来たことは咄嗟に右腕を前に出して身を庇うことだけだった。

 

 痛みがなくなった腕に、冷たい閃光が突き刺さる。

 すぐにその冷たささえ消え去った。自分が自分ではなくなっていく、本来なら強く感じていただろう本能的な恐怖は、しかし目の前で鉱石化していく腕が鈍らせる。

 満足に動かなくなった腕が、芯まで別物に変わった。

 肩も、肘も、手首も、手のひらも健在で、根本と先端が分割されているような気味の悪さにさえ目を瞑れば、この状況は寧ろ――!

 

「ッ、――――いけるっ!」

「にゃ、あ……!?」

 

 瞳に突っ込み、拳を振り抜く。

 魔剣で刻んだ罅その先に向けて、一撃。

 さらに反対の腕を振るい拳を突き刺す。攻撃を休めず、右、左と交互に殴りつけ、瞳の奥へと手を伸ばす。

 そして、渾身の一撃で罅の向こうの、強い輝きを放つ核が露出する。

 

「うあ……!」

 

 そこへの攻撃は叶わない。最後の迎撃手段として用意されていたのだろう魔力の波動が、体を押し戻した。

 不味い――と思うも、起こせる行動が存在しなかった。

 今の衝撃で限界を迎えた片翼が砕け散っていく。飛行のバランスが崩れ、立ち直るまでの間に、閃光の準備は整っていた。

 

「――――――――ッ!」

 

 放たれた閃光に、苦し紛れにマニピュレーターからの魔力をぶつけようとする。

 威力には大きな違いがある。まるで意味のない行為だと、頭の中では理解していた。

 それでも、まだ諦められないという意地。

 結果として、その意地が無機質なまでの詰み(チェックメイト)に抗うことは出来なかった。

 

 閃光の勢いにこちらの迎撃が散らされる。

 勢いは衰えることなく、閃光が僕に突き刺さるその寸前、その輝きが屈折した。

 

「……え?」

 

 僕の傍を通り過ぎていった閃光を目で追う。

 途中でその輝きは粒子へと分解されていき、勢いは死滅する。

 粒子が床に降り掛かり広範囲を鉱石化させることもない。

 数えきれないほどのそれらは、一粒残らず、たった一人の口の中へと吸い込まれていった。

 

「……ジル……?」

 

 翼の機能で魔力を操作し、落下の勢いを弱めて着地する。

 閃光を飲み干したのはジルだった。

 何度か目にした能力だ。攻撃として向けられた筈の暴力を喰らい、呑み込む過食にして雑食の証明。

 しかし、それを今行使した理由が分からなかった。これではまるで、嫌悪の対象でしかない筈の僕を助けたようで。

 

「何、してるのっ、早くアレを壊してっ!」

「ッ!」

 

 苛立ちのこもった叫びで、再び天井を見上げる。

 触腕は全て破壊した。次の閃光を放つには暫く時間が掛かる。核は露出していて、それを守っていた最後の迎撃手段も使い切っている。

 つまり、あれを守るものは、この僅かな時間、なにもなくなった。

 

「――お願い、ヨハンナ。もう一回――!」

 

『ファイナライズ! アクセプション!』

 

 着弾地点を指定し、マニピュレーターを上に突き出す。

 この外装が破壊を囁くというのなら、この一時、それを借りる。

 ただ一撃を放つだけでいい。死と生の境界で、死を否定し生を勝ち取るために――!

 

『アドラ・エクスタシーッ!』

 

 放たれた魔力の奔流を妨害するものはない。

 過たず瞳の奥の核に突き刺さる、暴虐の赤色。

 光線は着弾地点に威力を集中させていく。その真価は、全てを放ち切ったあと。

 込められた魔力が尽きたその一秒後、巨大な瞳から輝きが消え、機能の停止を追うように天井全域が大爆発を引き起こした。

 

「にゃ、にゃ、にゃああああああ!?」

 

 大量の瓦礫が落下してくる。

 身を守ろうとしたが、それよりも前に半透明な四角錐の形状をした結界が僕たちを覆い、瓦礫はそれに弾かれて空間の端に落ちていく。

 叫びながらも、上に手をかざす魔族の仕業であるようだ。

 これだけの防御力を持つ結界を、この場にいる僕たち全員を覆うことのできる規模で、迅速に発動できる手腕――やはり彼女は、相当高位な魔族であるらしい。

 

「……ありがとう、助かったよ」

「にゃ……しまったにゃ、つい手が……いや、これは当然にゃ。境界を壊した直後にそれの残骸にぶっ潰されて死ぬとか、ここの管理者として許容できないというか。ぶっちゃけそんな光景アホすぎて見たくないにゃあ……」

「……」

 

 ごもっともな言い分だった。思わず助けてしまったらしい。

 それで手を出す辺り、魔族とはいえ性質の良さが隠れ切れていないが。

 

「ジル……キミも、ありがとう」

「――アリスアドラ様が与えた力を使って、目の前で無様に負けるのは我慢ならない。あと――庇われたから、一度だけ助けた。それだけ」

 

 腹を押さえて眉を顰めていたジルは、少しの間逡巡した後、そう返してきた。

 庇った……“雷”のミツカイとの戦いでの出来事を言っているのだろうか。

 あれも含めて、僕の行動すべてがとにかく気に入らないという様子だったのだが、この外装を使ったことで、ちょっとした心変わりが起きたらしい。

 敵意や嫌悪感は変わらず。苛立ちも、困惑もあったままで、その中に少しだけ、ぐちゃぐちゃと定まらない感情が見えた。

 それが何であるのかは……よく分からない。僕に対して向けられた感情ではないからだろう。

 

「これで、外に出ても大丈夫?」

「もう止めるものはないにゃ。というか、境界が壊れた以上、ここはクギミゴを迎える領域としては相応しくない――閉鎖する必要があるにゃあ」

 

 天井として塞いでいた“ソロ”が消え去り、小さく見える空からは冷たい雨粒が落ちてくる。

 嘆息した魔族は、小さく腕を振るう。

 するとここに来るために僕たちが上ってきた階段がたちまち氷で包まれ、下りることが出来なくなった。

 

「――でも、階段こわれちゃったよ?」

 

 雨粒を手で受け、不思議そうに首を傾げつつも、チェルノボーグは言う。

 本来ならば、ここから先は螺旋階段を上ることで外へと脱出できるのだろう。

 だが、肝心のその階段は“ソロ”が降りてきたことで殆どが崩落してしまった。

 今の消耗の状態では、飛んでいくことも出来ないし、そもそもそれではチェルノボーグの希望通りに外に出ることが出来なくなってしまう。

 どうしたものかと考えていれば、不意に地面が揺れる。

 ――床が、せり上がっている?

 

「境界を壊し、命を守った生者であるのなら、ここに残しておくのはあたしの管理者としての矜持に反するにゃ。今回だけは、このまま外に連れ出してやるにゃ。他の冥界に迷い込むことがあったら、同じだと思わない方がいいにゃあ」

「ちぇるも、いいの?」

「そもそもお前がここにいるのがなにかの間違いにゃ。好きにするにゃ――さて、上に着くまで一時間ちょっとは掛かるにゃ。その間、少し休んでいるにゃあ」

 

 どうやら彼女が送ってくれるようだ。

 再び氷の獅子の上で寝転がる魔族に再度感謝し、戦闘は終わったと判断して外装を解く。

 

『――残存魔力、一割ほど。暫し休眠状態に入る。――見事な勝利だった』

「うん……ありがとう、ヨハンナ。ラフィーナも」

『――――――――』

 

 体力の限界が近いことは明らかだった。

 崩れ落ちそうになる体を、魔剣を杖にして支えながら感謝を口にするが、ラフィーナからの返答はない。

 彼女が僕に代わって受け止めていた狂気は、普段の魔剣の比ではなかった。

 僕が感じ取れたのは、ラフィーナが気を失う寸前の、強い感情だけだった。




『ソロ・フェ・ウータ』
【属性】土/冥界
【攻撃力】■■■■■■
【防御力】■■■■■■■■■
【素早さ】■
【魔 力】■■■■■■■■■■
【精神力】■

【種族】メドゥーサ種
複数の蛇が絡み合った姿の魔族は各所で発見例がある。
大抵の場合は草木の見間違い、蛇やそれに近しい姿を持った魔族が本当に絡み合っていただけである。
信憑性の低い話では、ローパー――果てはヒュドラであったなどという笑い話もある。
少なくとも、メドゥーサという魔族の発見例は、歴史上存在せず、ミツカイたちの中で伝説として伝わるだけ。
曰く、蛇の如き腕を持ち、巨大な単眼からは生命を瞬く間に枯れさせる光を放つ、主が残したもうた怒りの具現だとか。

【『境界異本』ソロ・フェ・ウータ】
『ソロ』とは、かつてムルゼの山において“主”と呼ばれた存在が創造した、山の管理システムである。
自我らしきものはおよそ存在せず、他者に操作を受ける人形魔族やゴーレムに近い。
主が山を去り、ミツカイと共に取り残された『ソロ』は現在に至るまで、大半がなんらかの理由で遺失、ないし停止しているが、『境界異本』は数少ない生き残りである。
かつて山の冥界であった、地下に広がる氷雪の領域。その入り口の一つを監視し、入り込んだものを外へ逃がさない役割を持つ。
対象を発見した場合、八つの触腕で拘束し、巨大な瞳から放つ眼光によりその生命を枯らしてしまうという。
領域に踏み込むのは今やクギミゴと呼ばれる変異個体のみとなり、かれらには外へと出ようとする意思はない。
しかし、意味をなくそうとも、停止するその日まで、氷の瞳は冷徹な看守で在り続けた。

【セラ・テオトルの評価】
「主の加護がなくなり、冥界が終焉を迎えてなお、境界は健在だった。山が変わった後も、唯一その在り方を損なわなかった。それはまるで……いいえ。私は、間違えていない」

【■■■■の評価】
「山の外から来た人間によって、生死の境は否定された――或いはミツカイとクギミゴの境界さえ……なんて、にゃあ」
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