凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
意識が途切れた感覚があった。
体が吹き飛ばされ、転がったぬかるみの冷たさで、彼方に飛びかけた意識が戻ってくる。
「ぅ、ぐ……ッ、げほっ……!」
あっという間に泥まみれになり、口にも飛び込んできたそれを吐き出す。
目元にまで滴ってきそうになる泥をびしゃびしゃの袖で拭い、すぐさま立ち上がろうとするが、積み重なった疲労と、打ち付ける雨でより強く感じるようになった冷たさが体を満足に動かさない。
『ユーリ! 大丈夫!? 生きてるわね!?』
「っ……大丈、夫」
傍に落ちている魔剣に手を伸ばし、無事を伝える。
立つことは出来そうもなくて、辛うじて首だけを動かし、状況を確かめようとする。
自然と、空を見上げた。落ちてきた光の大元を辿ろうとした。
そして雨の中に、赤い輝きを見る。まるで太陽が地上のすぐ近くまで迫ったのかと思うほどの光輝が、宙に浮いていた。
雨空に強く輝いているからこそ、その形ははっきりと分かる。
噛み合ってゆっくりと回る、大小さまざまな歯車を八つ背負った、巨大な赤い玉座。
左右に二つ備えられた馬頭を模したような装飾の、輝く瞳に感じる冷たさは、つい先ほど倒したものと近しいものを感じる。
炎のたてがみの如く揺らめく光が伴う魔力量は、尋常なものではない。
今の僕たちに太刀打ちできる筈もない、二体目の“ソロ”がそこにあった。
「――もしやと思い、巡回も兼ねて見に来てみれば。答えなさい、スフィンクス。これはどういうこと?」
その玉座から降り掛かる声には、聞き覚えがあった。
外の民に対する敵意と、その全てを受け入れないという絶対的な拒絶。
炎の内で彼女が帯びた雷は、必要とあらばすぐにでもこの場の何もかもを打ち払うという意思が込められていた。
「……にゃ。どうもこうもないにゃ。生者が眠りを拒み、境界を打ち壊した。なればその生の瑞々しさを否定しないのが、スフィンクスのなすべきことにゃあ」
「……境界を――そうか。どういう経緯でかの領域に立ち入ったかはどうでもいい。主の残した慈悲を――『銀の磐座』を壊したのね。我らの風習も、誇りも理解しない蛮族が」
「どうせ意味のないものではあったにゃあ……まったく。小娘、過去に固執する性質は昔から変わっていないにゃ」
「秩序に縋ることの、何が悪いのよ。私たちにとって、『ソロ』は希望に他ならない。ムルゼの山に残された信仰の寄る辺、それを……スフィンクス、冥界の守護者、あなたならよく理解している筈でしょう」
地上にまでせり上がった冷たい床の上で、“雷”を見上げる魔族は頷く。
僕たちが生きるために壊したそれは、ミツカイたちにとって大きな意味のあるものだった。
「ええ――私は過去に固執しているだけ。今や主の威光を知るミツカイも少なくなった。山は変わり、老衰など夢のまた夢。数百年生きることさえ、この山は許さない。だからこそ――」
クギミゴにとっては、最後の自由を見守る看守。
そして、普通のミツカイにとっても、あの機構自体は排斥の対象ではない、破壊されれば怒るに足るものだったのだろう。
「私は、私だけは、主の存在を証明し、知らしめ続けなければならない。ただ一人の
こちらをより強く、敵として認識しているミツカイは、今すぐに雷を落としてきてもおかしくない。
立って、備えなければならない。倒れている訳にはいかない。
だが――限界を迎えた体は、そう簡単には動かなかった。
「ご苦労なことね。せっかく戻ってきたというのに、もう死に体だなんて。いいわ、大人しくしていれば、一息に仕留めてあげる」
体が脳の命令に従い、必死で腕を動かそうとする。
しかし体を起こすには至らない。まるで力が入らず、もがく様子を、ミツカイは冷たい表情で見下ろしていた。
「逝くべき冥界に落ちなさい。支配の外にまで出た愚かな生命を拾ってくださる慈悲があれば、の話だけれど」
「っ……! まだ、まだ……!」
「そう。絶体絶命を前にして、少しでも生き足掻くことが出来る。優しい世界で育ったのね――この山には遺言を聞く知恵もないトカゲどもが蔓延っている。幸運に思うと良いわ。あの連中じゃあなく、その足掻きに意味を見出してやれる私に殺されることを」
降りしきる雨が、辺りの泥が、より一層冷たく感じた。
彼女にこの場を見逃す選択肢はない。詳細こそ知らないが、彼女には僕たちを討つ理由がある。
見上げる彼女の腕に、雷が灯った。
ほんの数秒後の死。それに抗う手札は、残っていなかった。
この状況で、生存に繋げる道は、たった一つしかなかった。
僕にはどうしようもない。ゆえに、他人頼りという情けなさ。
そもそも、こんなタイミングで助けに入り、状況を変えるなど、一体誰が出来ようか。
――そんなことが出来そうな人物を、知っている。この場で唯一の希望とするのに十分なほど、頼りになるということも。
「そうはっ、させません――――ッ!」
「――な――――っ!?」
――視界の端で閃光が煌めいたのは一瞬。
雷が包む腕が僕に向けて振り下ろされるよりも前に、魔力を放出し、雨空を切って走る黄金が、ミツカイの乗る玉座に突き刺さっていた。
一回りも二回りも大きい玉座がぐらつき、それを安定させながらミツカイは纏っていた雷を迎撃に放つ。
迸る雷を受け止める魔力の障壁は、勇気の色を伴ったもの。
再度玉座に接近することはなく、雷を捌ききった後で、ゼクセリオンは僕の目の前に停止した。
その姿を見て、生き延びたのだという確信と、実感が湧いてきた。
胸の内に灯る炎が、痛いほどの熱を持つ。
離れていても分かる筈のつながりさえ、境界の向こうでは断たれていたのだろう。いま、この熱さを感じることで、自分の半身以上のものが失われていたのだと分かる。
このつながりがなければ、僕は僕ですらない。ああ――戻ってくることが、出来たのだ。
「助けに来ましたよ、ユ――」
「――ユーリッ!」
「ぃだっ!?」
黄金の外装の、背中を強く打ちつけるように、ゼクセリオンの扉が勢いよく開かれる。
その声を聞いて、空っぽだった体力が満ちていく感覚に見舞われた。
多分、錯覚だ。しかしそれでも良かった。限界を忘れて、立ち上がることが出来るならば。
「リッ、カ……!」
『ちょっ、ユーリ! あんたまだ動ける状態じゃ……』
雨具を着込んだリッカは、既にずぶ濡れだった。
ゼクセリオンを使用してここまで来たのにこの状態だということは、ここに来るまで何かがあったと思われる。
――そんな確認は、今はいい。
飛び出してきたリッカを受け止める。決壊しかけていたその感情を支えることが、最優先だ。
「ユーリ――ユーリ、ユーリッ!」
「うん……リッカ。僕、生きてるよ」
リッカの絶望は、こんなところには訪れない。
まだ僕は生きている。リッカのために立って、駆けることが出来る。
ハッピーエンドに向かう道を照らすために、この命を、この魂を燃やすことが出来る。
「――よかった――ユーリ、よか、った……!」
「大丈夫。リッカ、大丈夫」
再会できた喜びを抑えながら、リッカを落ち着かせる。
本当なら、同じように、僕もリッカにこの嬉しさをぶつけたい。
けれど、今は駄目だ。安心してそれが出来ない要因が、この場に存在する。
「無事……ではないみたいだが、生きてはいるみたいだね。ひとまず目標は達成したが――再会の状況の中でも、最悪に近いな、これは」
リッカに続いて、ゼクセリオンから出てきたイリスティーラは、雨具の手元を捲り上げて、因子の制御に使う魔道具の操作を始めていた。
そうだ。まだ、気を抜けない。絶体絶命に、希望が見えただけだ。
「リッカ、早速だけど、力を貸して。この状況を、乗り切らないと」
「っ……え……?」
痛いほどに強く抱きしめてきていたリッカが顔を上げて、周囲を見渡し息を呑む。
ミツカイだけではない。
リッカからすれば、初めて見る魔族は他にもいる。
「久しぶり……なのかな、ユーリくん。あの敵意剥き出しな、見覚えのあるミツカイは当然として、あそこで目を丸くしている二人も敵なのかい?」
「ううん――ここまで戻ってくるのを、手助けしてくれたんだ。だから、戦うのは、あのミツカイだけ」
「……さて、どういう状況だったんだか。了解だよ。……スフィンクスはともかく、冥界の名残に氷雪姫? ……まあ、そんなのは後でいいか」
チェルノボーグたちに移りかけた興味を自分で修正し、イリスティーラは改めてミツカイを見上げる。
地上まで連れてきてくれた恩人だ。戦う必要がない以上、あの二人に危害を加えるつもりはない。
「聞いていたかい、クイール。彼女を倒す。連戦だが集中したまえ、先程の二人とは格が違う」
「――いつつ……き、聞いてましたよ。ひとまず、あっちに集中すればいいんですよね。それと――生きていて良かったです、ユーリくん」
「ありがとう、二人とも」
ゼクセリオンに乗ったまま、クイールはこちらに振り向いた。
外装の向こうの笑顔が見えるかのような喜色に、こちらも笑みで返す。
「……外の民の妄言は慣れていないのだけど、聞き間違いかしら。そこの勇者は満身創痍。万全な状態でさえ私に敵わなかったというのに、逃げるでもなく、今ここで私を倒すと、そう言ったの?」
「その通り……みたいです。僕としては、一旦退却すべきとも思うんですけど。でも、あなたも簡単には逃がしてくれませんよね」
「賢い判断が出来ないわりに頭が回るじゃない。ええ、外の民はここで一掃する。この豪雨の中で燃え尽きなさい」
ミツカイの乗る玉座の、馬頭の装飾の瞳が輝く。
炎のようなたてがみが術式を形作った。周囲に展開された無数の円環から赤い閃光が打ち上がり、分厚い雨雲の向こうへと消えていく。
何を意図したものなのかは分からない。だが、あれが“ソロ”であるならば、僕たちには理解できない尋常ならざる力があるに違いない。
唸りを上げる玉座を見上げながら、イリスティーラが鮮やかな青色の薬が入った薬瓶を押し付けてきた。
「飲んでおきたまえ、ユーリくん。その満身創痍にやせ我慢、まともに戦えないだろう。これで少しばかり、疲れを忘れられる」
「……それ、
「ちゃんと魔族由来未使用で副作用も小さいものだよ。まともじゃないものを飲ませたらリッカくんに睨まれるからね」
いつぞやにスライムやら、妖精やらを使った薬で助けられたことを思い出し、一抹の不安が生まれた。
だが、イリスティーラに偽りを言っている様子はなく、このまま“やせ我慢”が続く確証もないというのは事実。
僕よりも不安げなリッカを抱く片腕に、イリスティーラを信頼するという意思表示のため、少し力を込めてから、一息に薬を飲み干す。
久しぶりに味覚を刺激したのは、苦みにも甘みにも感じられる、可能ならばもう二度と口にしたくないナニカだった。
「っ……」
「……ゆ、ユー、リ……?」
「だい、じょうぶ……」
飲み干した薬液は体内に冷たく染み込んでいき、じわじわと疲労感が溶けていく。
体力の限界まで忘れてしまったかのような感覚。都合は良いが、それはそれでなんだか不気味だった。
「さて。ユーリくんも修羅場だったようだが、もうひと踏ん張りだ。行くよ」
「うん――お願い、リッカ」
「ん……ユーリ、死なないで」
『シークレットコード、レディ』
『トランスコード! アクセプション!』
当たり前に、僕たちが戦う手段であったそれも、久しぶりな気がした。
結局、あの領域にどれだけの時間いたのか。それさえもまだ定かではない。
だが、何日間の出来事だったにせよ、僕にとって耐えがたい時間だったことは間違いない。
こうしてリッカと一つになることで、改めてそう感じた。
『キメラスタイル、インストール――I-スティーラー、ショー・タイム』
『ユニゾンリンク! U-リッカ!』
体中に熱が巡る。炎よりも熱い勇気が、体を満たす。
外装の展開が完了し、魔剣を手に取る。右腕の異常は健在だが――やはり、この状態で魔剣を手にするのが、一番しっくりときた。
『――とりあえず、どっちも無事みたいね。リッカ、魔力多めに寄越して。使えることには使えるけど、魔力すっからかんだから』
「分かった……ラフィーナ――その……」
『その先は言わなくていいわよ。あんたの心配とか寒気がするから』
「そうじゃ、なくて……ユーリを、守ってくれて、ありがと」
『…………雨でも降るの? 降ってたわ。じゃあ星でも降ってくるのかしら』
体の調子は、先程までと比べてもさらに良くないはず。
だが、僕にとって、リッカがいること、そして信頼する仲間が傍にいることは、何よりの力に繋がる。
「にゃ。ここでおっ始めるのかにゃ。……スネグーラチカ、お前はどうするにゃ。あたしはちょっと、やるべきことが出来たにゃ」
「ん……ねえ、クギミゴさんが――」
「にゃあ――」
ミツカイたちの頂点に立つ存在であろうとも、越えなければならない試練ならば、死力を尽くして突破する。
勇気が、絆が、僕の背中を押してくれる。
ならば負けはしない。絶対に、負けられない――!
【セラ・テオトル】
ムルゼ霊山に住まうミツカイたちの頂点に立つ“セラ”。
自分たちの山を荒らす外の民、及びクギミゴを仕留めるため、“洪水”の二人がいる地帯を見張ることにする。
ところが、数日経って『銀の磐座』が降りていく異常事態が発生。
これも外の民が関わっていると確信し、切り札たる“ソロ”を用意して入り口でスタンバっていた。
【ユーリ】
失われていたものを取り戻したことで気力が回復した。
体力はどう考えても連戦可能な状態ではないが、戦わなければどのみち死は免れない。
【ラフィーナ】
暫くその辺に投げ出されて放置されていた。
リッカの心配も感謝も慣れていないので割と寒気を感じている。
【クイール】
ようやく合流。こっちも“洪水”からの連戦。
ゼクセリオンで宙に浮く“ソロ”に突撃をかまし、ユーリの危機を救った。
ユーリの右腕には気付いている。「かなりマズい怪我に見えるけど、イリスなら治せるかな……?」くらいの気持ち。
【イリスティーラ】
ユーリに渡した薬は割と健全な薬草のみを使って健全ではない効果を持たせた薬。
飲めば暫くの間、感じていた疲労や苦痛を忘れ、体を無理やり動かすことが出来るようになる。
主に研究漬けで疲労困憊だけどもう一歩頑張りたい時に使うらしい。
ユーリの右腕には気付いている。一目見て未知の状態だったため、今のところ一番危機感を抱いている。
【リッカ】
精神面で極限状態。
ユーリが生きていたこと、再会できたことへの安堵で、ここ最近で一番感情的になっている。
ユーリの右腕には気付いていない。そのくらい限界だった。