凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
――体が異様に軽く感じた。
豪雨の中で雷が舞い踊る。どうやらミツカイは玉座から動くつもりがないようで、周囲に炎熱と雷による防壁を展開しながら、こちらを狙ってくる。
その雷の中を、炎の翼を揺らめかせて躱していく。
全快であった時でさえ、ここまで自分は動けただろうかという疑問があった。
自分の力を、他者との絆を信じていない訳ではない。
リッカとはもちろん、クイールとも、イリスティーラとも信頼を築けた。その上で、そうした絆に背中を押される自分の力は理解しているつもりだった。
自分が理解している自分の力。明らかにそれ以上が引き出されている。
「ちょこまかと、鬱陶しい!」
埒が明かないと踏んだのか、ミツカイは防壁の一部を爆発させ巨大な雷の球体を形作る。
それが光線の如く伸びて僕たちを呑み込もうとしてくるが――迎撃は間に合った。
『アドラ・エクスバスターッ!』
『――キメラ・エクスプロージョン』
魔剣を砲撃形態に移行し、火の属性を込めて引き金を引く。
発現するのは、破壊に特化した強力な魔力放射。
同時にイリスティーラが放った魔力の奔流と合わせれば、あの雷だろうと押し切ることが出来る。
「チッ……」
防壁を操作し、狭い範囲に集中させることで、ミツカイは自身に迫った二つの攻撃を防ぐ。
そうなれば当然、防壁の反対側は守りが薄くなる。そこをクイールが突くというのは、僕たち全員が話さずとも共有した攻め方だ。
「せやあああああぁぁっ!」
「見え透いたことを!」
ゼクセリオンで接近し、聖剣を振るうクイールを、ミツカイは指を鳴らすだけで対処した。
まるでその動作で火が付いたかのように新たな雷が生まれ、クイールを迎撃する。
弾き飛ばされ、さらに網のような電流で追撃されれば、今のタイミングで再度の接近は不可能だ。
咄嗟に反転して再度加速し、クイールは電流から逃れる。ならば次の攻撃のために僕たちが動く――声なき意識の共有が、はっきりと全員に伝わった。
一気に高度を上げ、太陽の如き玉座の傍を通り過ぎる。ミツカイに、はっきりと見えるように。
この前の戦いは、結局僕たちが押し切られた。殆ど敗北と言って良いだろう。
だが、それを通してあのミツカイの戦い方や性質の一端に触れられた。
これは彼女の明確な隙を作り出す手段の一つ。
「っ、穢れに満ちた外の民が……! また、私を見下ろすかっ!」
彼女は自らを
雷を操る強大なサンダーバードを宿し、ミツカイたちを束ねる最高位“セラ”であることの誇り。彼女にとって、それは精神的な支柱だ。
ゆえに、蔑む外の民たる僕たちが自分を下に見ることに、彼女は強い怒りを覚える。
こちらを見上げ、激昂するミツカイ。その様子は、前回のように、怒りつつも落ち着きを持ったものではなかった。
――焦っている、のか?
「その驕り、死をもって悔いなさい! いつの世も、それが空を目指す者の末路よ!」
ともかく、それでこちらが注目されて、クイールやイリスティーラが確実に攻撃を行えるのであれば重畳だ。
彼女が纏う雷の動きを注視し、迎撃のために魔剣を構える。
「ユーリくん! 後ろです!」
「え――ぐぅ……ッ!?」
――その正面の殺気とはまったく違う方向から、攻撃は飛んできた。
背後から襲ってきた、全身を巨大な塊で殴りつけられたかのような衝撃。
すかさずクイールが飛び掛かったことで、ミツカイから追撃が来ることはない。
その間に、今の攻撃はなんなのかと振り返る。
殺気などはなかった。先程戦った単眼のような、機械的なものさえない。つまり、指向性のない偶然だということ。
その偶然は一体どこから来たのか。
ミツカイを見下ろす形の僕に、背中から襲ってきたなにか。
僕が背を向けていたのは、空だ。
分厚い雲が蓋をする空から、際限なく降り続ける雨のように、何かが降ってきたのかと。
見上げて、雲を掻き分けて落ちてくる、輝く球体を目にした。
「なっ――!」
こちらに降ってきているわけではない。
僕たちの誰をも狙うことなく、己を燃やす球体は木々の中に落ちて、爆発を引き起こす。
周囲に飛び散った破片は火を立ち上らせ、すぐに雨の勢いに負けて消えていき、爆発の威力で根元を吹き飛ばされた木々は爆発の跡を覆い隠すように倒れた。
『ちょ、本当に星降ってきた……!?』
「ッ、さっきの“ソロ”の……!」
ラフィーナの冗談が真実になったようだった。
まさか、本当に空に浮かぶ星そのものが降ってきたのではないだろう。
だが、それを模したかのような攻撃の始動として考えられるのは、どのような能力を持っているか不明であった“ソロ”たる玉座が打ち上げた閃光。
数分のタイムラグをもって、あれがこの戦場に星の如き輝きを齎したのだ。
「ユーリ、高いところにいると……」
「うん――危ないね」
今の二つで終わりということはないだろう。
あの光がどこから、どこに向けて落ちてくるか、雨雲を突き抜けるまでは分からない。
高く飛んでいればいるほど、対処は難しくなる。高所を諦め、再びミツカイよりも下方まで下りていく。クイールたちも、有効打は与えられていないようだ。
「メチャクチャな能力だね。これが“ソロ”というやつか」
「あれ、本物の星が落ちて来てる訳じゃないですよね?」
「だったらこの程度の被害じゃ済まないさ。落ちた星は地形さえ容易に変えるって聞くしね。あれは単なる魔力塊に過ぎないよ。帯びている属性は、私も知らないものだが」
クイールとイリスティーラが話している間にも、一つ、二つと輝きは落ちてくる。
いずれも僕たちの戦いとは関係のない方向へ。こちらを直接狙ってくる訳ではない点は助かったと言えるが、この指向性の無さは僕にとっては厄介だった。
それらへの警戒と、ミツカイが放つ雷の対処のため距離を置き、再び地に足をつければ、ミツカイは嘲るように笑みを零した。
「空は翼持つ者が在るべき領域。お前が持つような偽りの翼は、身の程を知るために存在するのよ」
「ふむ。その言い分だと、キミがふんぞり返って座っているそれも、飛ぶには値しないように思えるが? 機能として有するという点では変わらないだろう?」
イリスティーラが挑発的に返せば、ミツカイの笑みはたちまち消える。
やはり、彼女には焦りが見られた。一度倒した相手が生きていたことに対するものか、それとも――
「――お前たちの小細工と、主の慈悲を同列で語ろうなどと!」
激情のままに放たれた雷。
躱そうとして、動く前にイリスティーラが手で制してきた。
動く必要はない。寧ろ、反撃に備えろという無言の意思が飛んでくる。
詳細が伝わってきた訳ではないが、彼女には防ぐ手札が存在する。
それを僕も、リッカも、クイールも、共有することが出来ていた。
「所詮、道具は使いようだよ。慈悲とやらも、キミが碌に使いこなせないようではね」
雷と僕たちの間に挟み込むように、イリスティーラが何かを撃った。
ゆっくりと飛んでいく、小さな光体が集まったような弾丸。
当然その速度では大してミツカイに近付くことも出来ず、雷に飛び込んだ。
容易く呑みこまれ、消えていく筈の弾丸は――雷を集め、その内側に吸収していく。
思わずクイールと顔を見合わせ、すぐに自分たちのすべきことに気付く。どういう原理かは今はいい。とにかく、これは好機だ。
「リッカ!」
「うん……!」
「行きますよ――――!」
魔剣に注いだ魔力を刃に変え、同じく聖剣の輝きを強めたクイールと同時に振り抜く。
雷の傍を通り抜け、二つの斬撃は玉座へと直撃した。
「ぐっ……!? 一体何が……ッ!」
ミツカイが放った雷は、結局僕たちに届くことはなかった。
すべてを吸収した後、弾けて飛び散っていく光の弾丸。ミツカイは僕たちよりも強い困惑の表情を浮かべていた。
当然だ。今の雷の威力は、僕たちが万全であっても、受け止めるのは至難の業。
ミツカイもまた、それを確信していただろう。イリスティーラの一手は、まさに不意打ちだった。
「外の民……! 一体何をしたの!」
「いや何、キミの戦い方を見て、一つ思いついただけさ。封じてしまうことが出来るじゃないか、とね」
「ふざけないで! 雷は空の怒り――さしたる可能性も持たない穢れた外の民が、征せるものでは断じてない!」
「だろうね。だが、この山にはいる。雷を己の性質として当たり前に有する精霊が。キミはよく知っているだろう? なにせ、一山いくらで使い潰しているんだからね」
イリスティーラの纏う外装の表面で、小さな雷球がふわりと浮いた。
それは、ミツカイが周囲に無数に侍らせているものと殆ど同じに見える。
違いらしい違いは、イリスティーラのものはあくまでも、その存在が発現させる現象だけを抽出したという点。
答えに辿り着いたらしく、ミツカイが目を見開く。
「
「いいや? 精霊なんて、妖精よりも話の通じない連中だろう? わざわざ分かり合うのは徒労に過ぎる」
あのミツカイが使役していた極小の魔族。精霊とは……妖精の上位種だったか。
その中でも、雷を操るものを、彼女は自身の能力の助けとしていた。
当然、雷を操る精霊であるのならば、雷への耐性を持つ。イリスティーラはそこに目を付けたようだ。
「力を借りたいだけなら、奪った方が話が早い。些か品性がないとは思うが、私は元よりそういう思想でね。精霊一匹くらい、大した損失でもないだろう?」
「なんてことを……信心を欠片も持たぬ蛮族が! 自然への敬意無き者に、精霊と共に戦う資格などない!」
「いらないよ、そんな資格」
直上に落ちてきた星の光球を、イリスティーラは見ることなく迎撃する。
外装の表面をざわりと波打つ、エルフではない何かの因子。
彼女がエルフという種族から嫌悪される理由たる異常性は、多岐にわたる対応能力という形で敵に牙を剥く。
「価値観が違い過ぎて、キミもたいがい話が通じないな。精霊と共に戦っている意識なんて私にはないよ。声を発するように、指を動かすように、私の機能を引き出しているだけだ。そうだな……キミと精霊の関係というよりは、キミがサンダーバードを取り込んだのと、同じようにね」
「な……ミツカイの誇りを、主より賜った加護を、お前の傲慢と同じだと……!」
「ふっ……理解されたいとは思っていないが、ミツカイの凝り固まった視野でそう言われると苦笑ものだね」
イリスティーラの度重なる挑発に激昂するミツカイが放つ雷を、
先の戦いで、イリスティーラはあのミツカイへの対策を、既に考えていたのだろう。
ミツカイは精霊との共闘とは言っているものの、その一体一体の状態を詳細に把握している訳ではない。
この山に根付いた文化があるのかもしれないが、傍からは集ってくる精霊を使い潰しているようにしか見えない。
精霊の一個体を重視していないと判断したイリスティーラは、かれらを捕獲し、利用した。スライムやフェアリー――数多の種族を取り込んだのと、同じように。
「流石ですイリス! これなら……!」
「集中したまえよ、クイール。あの雷に、狙いの付けられない流星擬き。まさかこれで手札が終わりなはずもない」
飛んでくる雷が止んだタイミングで、イリスティーラは素早く魔道具に別の命令を打ち込む。
真っ直ぐ放たれるのは、ドラゴンのブレスの如き熱線。
「ッ――――!」
よほどイリスティーラの打った対策に動揺していたのか、防壁に雷を重ねることによる防御は間に合わず、炎の幕を貫いた熱線は玉座から飛び退くミツカイの腕を焼いた。
それを、感心して見ているべき状況ではないことは、僕もクイールも理解している。
頷きあって、クイールの操縦するゼクセリオンに飛び乗る。
クイールがそれを一気に加速させ、僕たちは反撃に打って出た。