凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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雨下の別れ

 

 

 その銀色には、定まった形がなかった。

 なんだろう、と理解しようとしても、近付こうとする前に解れて消えてしまう。

 まだ意味を持っていないものであるかのように、それを認識することは出来ない。

 だけど――どこかあたたかくて、親しみを覚える色だった。

 

 

 

 絶え間なく聞こえてきている筈の雨音が、暫く途絶えていた。

 それが十秒だったのか、一分だったのかのかは分からない。

 気付けば僕たちは、周囲の木々が殆ど薙ぎ倒された泥溜まりの中にいた。

 無事な木々についた火は激しい雨であと数分もすれば消えるだろう。

 その場にあったのは、そういう戦いの痕跡だけ。先程まで戦っていた筈のミツカイも、玉座も、どこにもなかった。

 

「……? えっと……助かった、んですかね?」

「そうみたいだね――今のは一体……と聞いても、答えるリッカくんじゃないか」

「……」

 

 落ちてきた玉座は、当然のように爆発したのだろう。

 しかし、リッカが行使した何らかの手段で、それを回避した。

 リッカは黙り込んでいた。話したくない……というよりも、自分でも説明できないというような迷いが感じ取れる。

 ならば、問い質すことはしない。どうあれ、僕たちは危機を脱したようだ。

 

「ありがとう、リッカ」

「……ん」

 

 周囲からはもう、敵意を感じない。ミツカイは、自ら引き起こした爆発に巻き込まれたのだろうか。

 ……今は、そうだったら幸運だと、思うほかない。これ以上戦闘が長引いても、僕たちが戦える時間は少なかっただろう。

 

「クイール、光翼は無事かい?」

「えっと、見ての通りまだ飛べてますね。僕がずっと乗ってましたし……僕が無事だったので、ゼクセリオンも無事なんだと思います」

「これだけ長く戦闘に巻き込んだのは初めてだ。あとでメンテナンスを行った方が良いのと、キミらもはっきり言って今すぐ休むべきだが……」

 

 イリスティーラは周囲を見渡しつつ、考え込む。

 彼女の懸念は分かる。もしもミツカイが生きていて、今の僕たちを監視していれば、ゼクセリオンが結界を起動しても場所が丸分かりとなってしまう。

 そんな状態では到底休むことは出来まい。

 

「にゃあ――この辺にお前たちを見ているような連中は残ってないにゃ」

「……そうだ。彼女たちについても、ユーリくんが休む前に話を聞いておかないとね」

 

 戦いが終わったことを悟ったのか、イリスティーラの警戒に解答を出しながら、なにかを抱えたスフィンクスが歩いてくる。

 その隣には、不思議そうにぬかるみを踏みしめるチェルノボーグ。

 彼女の背丈を改めて見たクイールの驚愕は、仮面越しにもよく伝わってきた。

 

「ユーリくんがここに来るまでに手を借りたと聞いたが、一体どういう……キミ、抱えている()()は――」

「にゃ? ああ、まだ生きてるにゃ。生きてるだけだけどにゃあ」

「――――え?」

 

 そんな風に、なんでもないことのように彼女が言うまで、僕はその“なにか”の正体に気付けなかった。

 大半が焼け焦げて、原型を留めていることさえ奇跡なほどの、損壊した肉体。

 はじめ襤褸切れと錯覚した翼が、垂れる雨水の重みからか剥がれ落ちて、足元の泥濘に落ちる。

 伝わってくるものは、何もなかった。

 嫌悪も、怒りも、ほんの少しだけそれらが和らいだものも、一つとして感じることが出来ない。

 ――それを僕の頭は、ようやくジルであると認識できて。

 ――勇者としての僕の在り方は、ジルであると認識できなかった。

 

「……待って。ジル、なの?」

「お前なら分かる筈にゃあ」

「ジルちゃん、って……もしかして、今の戦いに巻き込んじゃって……」

「お前らが来る前の話にゃ。運がなかったのか、そっちの人間の運が良すぎたのか。テオトルの小娘の雷はこのクギミゴに落ちた。お前らにはなんの責任もないにゃ」

 

 ――地上に戻ってきて間もなく、ミツカイの雷によって襲撃された。

 あれの衝撃で、僕は吹き飛ばされるだけで済んだ。だから、こうして今生きている。

 だが、衝撃が襲ったということは、すぐ近くにその暴威の真価が落ちてきていたということ。

 

 あの時の一撃は――過たず、ミツカイの嫌悪の対象の一人を捉えていた。

 

「ユーリ……? ……ラフィーナ、何が、あったの」

『……色々、ね。別にあんたの危惧しているようなことはなかったわよ、リッカ。ユーリはあんたに会うために、一番確実な可能性を取った。ユーリにとっての一番の可能性ってのは、つまりそういうこと』

「…………」

 

 傍で聞こえる筈のリッカとラフィーナの会話は、上手く耳に入ってこない。

 体が冷たいのか、熱いのか、よく分からない。頭が、締め付けられるように痛かった。

 それはおかしいと、理性が窘める。

 そもそもジルは、この試練の案内者であるというだけ。それ以上でもそれ以下でもない、ただ関わっただけの魔族でしかない。

 彼女とのつながりは、息を吹きかければ断ち切れてしまうような、ほんの些細なものだった。

 だから、ここまで心に負担を掛けるほどのものではない。

 

「……ッ」

 

 そう割り切れる、割り切らなければいけない。

 自分に必死に言い聞かせて、ようやく理解した。

 

 僕にとって、つながりが断たれるということが、どういうことなのかを。

 か細い糸でさえも、僕にとっては尊い一つのつながりであることを。

 

「なるほど、温室育ちにゃ。そっちの人間のが……どっちもどっちにゃ。けど、こういう状況には適応できてるにゃ」

「いえ……僕はちょっと、理解が追いついてないだけですよ。仲良くなれないかなとか、思ってましたし」

「……案内者の役割は果たしてもらったと言えるか。残る証の場所はユーリくんに教えていたみたいだしね。何も教えずに逃げられるよりは助かった」

「……イリス、そんな言い方……」

「この程度の関係が壊れるくらいでいちいち感じ入っていたら長命種なんてやっていられないよ。……それで? まだ生きてるってのは?」

 

 イリスティーラの言葉で、俯いていた顔が上がる。

 それは、些細なつながりを取り戻す些細な希望かもしれない言葉。

 

「魂は体の中にあって魔力も変じている訳じゃないから、定義の上では、にゃ。体の機能はとっくに止まっているし、目覚める望みはないにゃあ」

 

 ――しかし、魔族は当たり前のように首を横に振って、希望を否定した。

 

「ふむ? 手を加えないとそんな状態にはならない筈だが?」

「ちゃんと魂が残ったままで、目の前で死んだなら、スフィンクスとして手を出さない訳にもいかないにゃ。安らぎのある別の領域まで、あたしが連れていくにゃ」

 

 彼女には抱えたジルを慈しむ感情が見られた。

 かつて、冥界であった場所を管理する魔族。その本来の性質は、招かれた魂を管理することに他ならない。

 ――この山には、冥界はない。この山を諦めない限り、ミツカイたちに死後、安らぎは訪れない。

 クギミゴだけが訪れるあの場所は、管理すべき魂が完全に朽ち果てるまでの時間を与えるだけの場所。

 だから、目の前で死んだ魂くらいその安らぎを与えてやろうと、彼女はそう思ったのだ。

 

「地上だとあたしの力にも限界があるし、もう行くにゃ。この山は広いからにゃあ。スネグーラチカ、達者でにゃ」

「うん――クギミゴさんをよろしくね」

「にゃあ。そっちの……勇者の連中も精々気を付けるにゃ。なんか、また会う気がするにゃあ」

 

 ――結局僕は、ジルを抱えて去っていくスフィンクスが見えなくなるまでその背に声を掛けることは出来なかった。

 

「……もうちょっと、ジルちゃんとは話してみたかったんですけどね」

「……キミらのそういう思考は、理解に苦しむよ、まったく。……さて、あと一つ懸念があるが」

「?」

「いや、“?”ではなく。敵意がないことだけは分かるキミはなんなんだい?」

 

 ……立ち直らなければ。

 本来、当たり前に受け入れていなければならなかったこと。

 誰も殺さない――それとは別の手段を用意したリッカがいたから、僕は殆どそういう機会に触れて来なかった。

 

「……ユーリ」

「――大丈夫」

 

 誰かの命を奪うことは、勇者である以上逃れられないこと。

 そして、死に立ち会うということも、覚悟しておくべきことだった。

 なんだかもやもやとした、言いようのない気持ち悪さを呑み込む。理由の説明できない空虚感を、それどころではないと切り替える。

 勇者として、必要なことは聞き受けた。

 彼女の無念を晴らすべき者は僕ではないだろう。けれど、その放埓に巻き込まれた同士として、風の試練を進む背中を押された気がした。

 

「ちぇるはね、チェルノボーグっていうの。人間さんと一緒に、ここまで上ってきたんだ。……雨、つめたいね。このずっと下よりはあたたかいけど」

氷雪姫(スネグーラチカ)がどうして冥界の名残なんかに?」

「しらない。ちぇる、ずぅっとあそこにいたから。必要かなとおもって、やってくるクギミゴさんに危険がないようにまもってたの」

 

 一人残ったチェルノボーグに一切の敵意がないと踏んだからか、外装を解いたイリスティーラが怪訝な表情をこちらに向けてくる。

 説明しろ、とばかりの視線だが――正直、僕もチェルノボーグについて詳しく知っている訳ではない。

 

「……下の方で会った。外に出るなら付いていきたいって言うから、道案内を頼んだんだ」

「それで連れてきたのかい? 初めて会った魔族を? ……なんとまあ」

「ユーリくんらしいといえば、らしいですよね。それでここまで出てこられたんですから結果オーライです」

 

 ……まあ、普通はそんな、目が覚めたらすぐ近くにいた魔族を信頼しようとは思うまい。

 それが害意のない好奇心であったから信じた。

 他の誰かには考えられないかもしれないが、僕にとっては賭けるに足る可能性だ。

 

「チェルノボーグ、キミはこれからどうするの?」

「ん、“とりひき”はここまで、だよね。ちぇる、行ってみたいところができたの。だから、お別れだね」

 

 彼女の目は、じっとどこかへ向けられていた。

 ここが山のどこなのか、そもそも理解していない僕では、その先に何があるかも分からない。

 だが、どうやら彼女は外に出て、自分の何かを掴んだようだ。

 それまでの好奇心とは違う、なんらかの確信が彼女の中にはあった。

 

「わかった……じゃあ、またいつか、なのかな」

「ふふ。変な人間さん。普通は、魔族とまた会おうとか思わないんじゃないかな。でも……うん、また会えたら嬉しいな」

 

 こちらに小さく手を振ってから、チェルノボーグの大きな体は細かな雪のような結晶になって、雨の向こうへと消えていく。

 あの氷雪の領域で関わった魔族たちはこの場からいなくなった。

 それを見届けてから、役目は終わりとばかりに魔剣としての実体化を解いたラフィーナ。休眠状態が続くヨハンナ。そして、ポケットの中で恐らくヨハンナ同様に休眠しているアッシュ。

 奇妙な一行での、地上へと至る旅路は、これで終わり。

 ようやく気を休められると頭が判断したようで、途端に目蓋が重くなり、外装も解れていく。

 

「ユーリっ……――待って、その腕……!?」

「――――――――」

 

 声を出すことも億劫だった。

 それまでどうにか張ることが出来ていた虚勢に、遂に限界が訪れる。

 一度油断を受け入れてしまって、ぷつりと糸が切れたように体の自由が利かなくなる。

 

「っと……とぁっ!?」

 

 倒れそうになる体をリッカとクイールが支えてくれようとして、二人を巻き込んで倒れかけたのを、イリスティーラがさらに支えた。

 

「クイール、キミも限界だということを自覚したまえ。その形態での連戦は耐えられるようなものじゃない」

「わ、忘れてました……んー……ひとまず、ここで休みましょうか。僕もユーリくんも、動けそうにありません」

「はぁ……そういうことだ、リッカくん。光翼に入ろう。ユーリくんの腕も、診ておく必要があるだろう?」

「っ……わか、った。お願い。私じゃ、連れていけないから」

「お安い御用だよ」

 

 三人の方針に、返答することも出来ず、意識が闇に落ちていく。

 間違いなく深い眠りになると確信できる眠気だった。




『アンニャ』
【属性】水/冥界
【攻撃力】■■■■■■
【防御力】■■■■■
【素早さ】■■■■■■■
【魔 力】■■■■■■■■
【精神力】■■■■■■■■

【種族】スフィンクス種
スフィンクスはかつて人間と密接な関係にあった種で、王墓の守護者として崇められていた。
彼女たちの目的は、王家の魂を冥界に連れていくことだったという。
現代において、生きている内にスフィンクスという種を見ることは殆ど不可能だと言って良い。
スフィンクスのいる冥界では、大抵魂を管理する役割を担っており外に出ることが皆無であるためだ。
いずれも、それぞれの冥界の性質が存在に浸透しており、死者に対して絶対的に有利な力を持つ。
魔法の扱いに長け、知恵が回り、問答による魂の裁定を趣味とする個体が多い。

【『魂灯守(たまひもり)』アンニャ】
現存するスフィンクスは全て、いずれかの冥界の主に仕えている。
一つの冥界に多数のスフィンクスが住まい、それぞれが役割を全うして冥界は成り立っている。
既に冥界の失われたムルゼ霊山――シェオルの領域には、本来スフィンクスの役割はない。
そこにいた全てのスフィンクスは山を去った。しかしながら冥界の性質が僅かに残った氷雪の領域を管理するため、派遣されたのがこの個体である。
当然、不満たらたら。募り募ったそれはこの山に新たな冥界を設立せんとする意気込みにさえ変わっていた。
勇者により、この領域に至る道の一つにあった監視者が破壊され、この領域は「容易く出ることの叶う場所」となった。
それを彼女は「冥界の名残ですらなくなった」と判断し、看取るべき最後の魂を連れ、山を出るのだった。
――ちなみに、「にゃ」は彼女特有の口癖である。彼女と関わりのあるスフィンクス曰く、「安易なキャラ付け」らしい。

【チェルノボーグの評価】
「たまーにあそこまで上って、お話してたんだ。ちゃんとお話できるのは、あのスフィンクスさんくらいだったから」

【ケル・イソラの評価】
「……スフィンクスさえ見限ったか。ここまで来たら半端は許されんが、さて、どうなるやら」



『ジル』
【属性】風/夢
【攻撃力】■■■■■
【防御力】■■■■■■■■
【素早さ】■■■■■■■
【魔 力】■■■■■■
【精神力】■■■■■■

【種族】サキュバス種
魔族が人間の上位者である所以とは基本的に単純な魔力量や体のつくりの差である。
だが、サキュバスは違う。勿論強い力を持っている事は同じだが、何より彼女たちは人間の欲望を貪ることを生きがいとする生き物だからだ。
夢から生じたサキュバスは人間の心に敏感である。
相手の欲望を刺激する段階も彼女たちにとっては大変な栄養であり、一度目を付けられれば長い時間をかけて精気を吸い取られていくだろう。
また、サキュバスは精神体に近い存在ながら肉体が非常に丈夫なことでも知られており、過度な負荷にも耐えられる。
物理攻撃が効きにくい性質も相まって、真正面から打ち倒すのは困難をきわめる魔族だ。

【『狂虚』ジル】
本来、ジルはサキュバスとは縁のない、ムルゼ霊山に住まうミツカイの一人だった。
ミツカイは成長と共に、自身より強大な敵に打ち勝つための可能性を育み、それを成人の儀に定めた魔族に解き放つ。
そうして存在を取り込むことでミツカイは完成される。生まれ持った姿と、魔族の姿、二つを自在に変えられるようになるのだ。
しかし時期を見誤ると取り込んだ存在に適応できず、半端で醜く、変化も出来ない容姿に成り果ててしまう。
これをミツカイたちはある時から『供犠身子(クギミゴ)』と呼び、山での生を許さないほどに厳しく排斥するようになった。
ジルはミツカイに生まれた身として、当然その風習に浸かっており、また時期を見誤るほど愚かでもなかったが、たった一つの不幸が彼女の運命を決定的に変えた。
とあるサキュバスの実験により強制的に存在を宿され、実験体(モルモット)としての生を送ることになった。

――自由はなく、苦痛だけがある狭い空間。
そこから連れ出し、混ざりものでしかない自分に翼を与えてくれた者がいた。
自分のまったく普通だった筈の生涯を狂わせた運命を、さらに狂わせたその存在に、ジルは心酔した。
はじめに呑まされた汚らわしい心臓で変わった自分の姿が、ジルは嫌いだった。
しかし、ただ一点、すべてを捧げると決めた主から賜った翼だけは、大好きだった。
おぞましい飢餓も、あらゆるものを食べられる過食にして雑食の性質も、身勝手極まる同胞たちへの苛立ちも、自分を取り巻く不幸も、主の“唯一”を賜った栄誉を思えば、どうでもよくなった。

「アリスアドラ様から翼を賜った、唯一無二のサキュバス。それが、私」

彼女が誇らしげにアイデンティティを語るさまを、翼の本来の持ち主はいつも眠たげな目で見つめていた。

【ユーリの評価】
「彼女と手を取り合えたとは思わない。きっと、最後まで敵同士だった。でも……もう少しだけ互いに歩み寄れる道は、あったと思う」

【アリスアドラの評価】
「後からそうなったから当たり前だけど……あの子も、サキュバスらしくないのよねぇ。いつまで経っても部下を持とうとしない……ラフィーナちゃんとか、気が合いそうだったし、イルミナに話してみようと思ったんだけど」
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