凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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信じる未来の先へ

 

 

「ユーリ、調子はどう?」

「うん。それなり……かな? 怪我も、大体は治ったし」

 

 ミツカイとの戦いを終えて、大体丸一日が経ったらしい。

 あの後、立っていることも出来ずに気を失って、目覚めたのは真夜中だった。

 

 ある程度自覚してはいたが、倒れた時の僕はかなり危険な状態だったらしい。

 目が覚めたのはゼクセリオンに設けられた個室のベッドの上。

 鉱石化した筈の右腕はどうやら元に戻ったようで、自分のものではないかのような違和感は既になく、代わりにその下にあった傷を覆うように包帯が巻かれていた。

 まあ、包帯は腕に限った話ではないのだが。

 あちこちの傷を覆い隠した上で、イリスティーラ特製の薬を飲んで一日の休息。

 あれだけの怪我が、この短時間で治るものなのかと、改めて彼女の技術力に驚くことになった。

 

 イリスティーラは現在、クイールの方を診ているらしい。

 体に凄まじい負担の掛かる外装を纏い、長時間戦闘を続けた代償か、僕よりも長い間クイールは眠っていたとか。

 今は目が覚めてすっかり元気になったようで、ベッドを飛び出そうとしたところをイリスティーラに拘束され、少なくとも僕が動けるようになるまでは厳重監視の状態に置かれているようだ。

 

「でも……リッカ。僕の腕、どうやって治したの?」

 

 そんな訳で、今この部屋にはリッカと二人。

 イリスティーラには詳しく明かしていないらしい、僕の腕を治した手段を聞いておくには、良いタイミングだと思った。

 

「ん……そうだね。ユーリには、教えておかないと」

 

 今回の“それ”は、先程の戦いの最後に用いた手段とは違って、リッカなりに説明の出来ることであるらしい。

 それはそれで、今のリッカには理屈の違う二つの能力が存在しているということになるが……今はその一つでも、理解したい。

 リッカは説明のためか、自分の鞄から手のひらに収まる程度の小さな砂時計を取り出した。

 料理の最中などに簡単に時間を測るために使っているものだ。

 砂の溜まっている方を上にして置けば、砂は少しずつ落ちていく。これが落ち切る時間が一つの目安になっている。

 

 取り出したということは、これが関係しているのだろうと、視線は自然とリッカの手のひらに置かれた砂時計に向く。

 それを見ていて、十秒と少し。

 砂は落ち始めたばかりで、定められた時間が経つまではまだまだ掛かる。そんな中で――砂の流れが不意に止まった。

 

「……え?」

 

 目を疑った。まだそれほどまでに疲労が残っているのかと、快復に向かっている筈の自分の体調も疑った。

 しかし、目を擦っても砂時計の中の砂は止まったまま。落ちている最中のそれは、宙に留まってさえいる。

 

「別に……ユーリの目がおかしくなったんじゃない。見ていて……全部、本当に起きていること」

 

 それだけでも、十分に驚くべき光景だったのだが、砂時計の中の様子はもう一度変化した。

 零れ落ちた砂、落ちている最中の砂、それらが砂時計の上側へと戻っていく。

 流れに逆らうように――違う、砂の流れそのものが、逆になったかのように。

 全部が上へと戻り切ってから、リッカは小さく息を吐いて鞄に砂時計を仕舞った。

 

「今の、って……」

「時間の流れをせき止めて、進行を防ぐ……そして、押し返す。過ぎたことを、少しだけなかったことにする。そういうことが、出来るようになった」

 

 言葉にすれば単純な、しかしそれを力として手に入れたというのは理解し難いものだった。

 暫く瞬きを繰り返しながらその言葉を呑み込もうとして、不可能だと悟ったと同時、おかしなものを見るようにリッカが笑う。

 

「……そうなると思った」

「起き抜けの情報にしては流石に衝撃が大きいよ……」

 

 時間に関する力、と聞いて思い出すのはクイールと初めて出会った森にいたドラゴン。

 個体ごとに特異な性質が発現しやすいドラゴンの中にあって、あの個体はあまりにも特殊だった。

 時間とは、普段特に意識するものでもない、絶対的なもの。

 それを、吐息を吹きかけることで早めて命を枯らす。あの場にクイールが現れなければ、どうなっていただろう。

 理屈は異なれど、リッカはあれと近しい性質の力を手に入れたというのだ。

 

「一体、いつそんなものを?」

「……ずっと前から、なのかな。自覚したのは、多分……ホロゥで、魔王に会った後くらい」

「あの時か……色々あったね。どれがきっかけなんだろう」

「それは……なんとも」

 

 アリスアドラによって渡された鍵を使って訪れた、ホロゥの地。

 あそこで僕たちは、初めて魔王に出会い、そしてリッカさえ知らなかった真実を突きつけられた。

 そして、リッカとの間の“終わり”に対する価値観の相違がはっきりとしたものになって……一時期、外装を纏う魔法の発動すら不可能になった。

 あの出来事もそうだし、あの後のバルハラやヨハンナとの出会い――リッカが自分の中の、知らなかった何かを自覚するきっかけらしい出来事は多かった。

 どれが発端だったのかは、リッカさえ分かっていないようだ。

 恐らくホロゥを出た後に、ふと気付いたものなのだろう。

 

「とにかく、それで右腕を治してくれたんだね」

「ん……あまり時間が経ってなくて良かった。やり直しが利く範囲で」

「つまり、この腕の時間を戻したんだよね。ああなる、前の状態に」

「そう。体の一部の状態だけを逆行できるなんて知らなかった……というか、その方がずっと、効率が良いみたいだけど」

「効率……?」

「当たり前だけど、無制限に時間を止めたり、戻したり出来る訳じゃない。そんなことが出来たら……ユーリと離れるようなことも、なかった」

 

 後悔を零すリッカ。その力は、“時間の操作”という技術から想像できるような万能性を持ってはいないらしい。

 真になんでも出来るものであれば、もう二度とリッカにとっての失敗は起きないといっても良い力。

 しかし、それはたった一人が背負えるほどの力ではない。

 リッカが動かせるようになった時計の針は、もっとずっと小さな、限定されたもののようだ。

 

「動かせるのは自分自身とか、自分の近くのごく一部。死者も取り戻せない。リソースにはまだ余裕があるけど、無駄遣いは出来ない」

「リソースって?」

「……私の中に積み上がった、“始まる前”の時間。村で過ごしていた、一回につき一年の猶予期間」

 

 ――時の流れに逆らうことさえ可能とする力とは即ち、同じ時間そのものに他ならない。

 リッカには、それがあった。ここまでの途方もない繰り返しは、決して少なくない時間を積み上げていた。

 ほんの一年間の、休める筈もない休息。僕が運命を知らなかった頃の、村での生活。

 それはリッカにとっての貯蓄となっていた。

 いざ、自身の力に自覚した時に扱える、小さな手助けとでも言うように。

 

「私の中にあるのは、五千と四十年。使い方によっては、ほんの十秒で一年も二年も減るかもしれない。十秒を使って、十秒に逆らえる訳じゃないから」

「……そっか。大切に使わないとね。使えば減る一方で、もう二度と増えることはないってことだから」

「……ん。きっと……これもユーリの力になれる。期待してて」

「うん、頼りにしてる、リッカ」

 

 どうにもならない右腕の逆行だけに使って、残る傷はイリスティーラの薬に頼ったというのも、それが理由。

 これからのことを考えれば、五千と四十という総量でも安心は出来ないのだろう。

 ――リッカは今回で、ハッピーエンドに辿り着く。僕が共に歩いて、連れていく。

 だから二度と増えることのない力。それを自覚したということは、きっと明確に使うべき瞬間が来る筈だ。

 

「……」

「……」

 

 知りたかったことも一区切りついて、ふと沈黙が包む。

 特に気を張る必要のない、ほんのちょっとした日常の空気。

 使命を終えた先で、ずっと続いてほしい静けさが、“リッカのところに戻ってきた”という実感を生む。

 リッカの傍にいなければ、こうして落ち着いて休むことも出来ない。

 これは僕の弱さであり、変えようのない価値観だ。

 

「……ユーリがいない間、すごく怖かった。ユーリが先に死んじゃった“いつか”、それ以上やれることのなくなった時よりも、ずっと、ずっと怖かった」

「……うん」

「あの二人も、私は信じてなかった。誰を信じればいいのか、もう私には分からない。ユーリが代わりに信じてくれるなら、それでいいって思ってた」

 

 ――クイールとイリスティーラは、もう僕にとっては疑う必要のない仲間である。

 リッカもそれを否定はしていなかった。会話は少ないながらも、当たり前のように、共に過ごしていた。

 しかし、その許容は僕がいたから。僕がいて、裏切ることはないと分かっていたから。

 リッカにとって、僕がいなかった数日間のクイールたちとの時間は――信頼できない他人と過ごす時間だったのだろう。

 

「私はもう、他の誰も特別視できないと思う。ユーリがいて、カルラがいて、あと心から信じられるのは、ラフィーナとナディアだけ。けど……ユーリが信じられるなら、私も、努力する。……それでハッピーエンドに、近付けるから」

「うん……大丈夫。クイールも、イリスティーラも、僕が裏切らないって保障する。だから、出来る限り信じてあげて」

 

 先の戦いで、リッカはクイールの外装が持つ契約魔法を受け入れた。

 こうして話題に出す以上、僕がいない間に何かがあったのは確実だろう。

 その上で、“ここまで”が、リッカに出来る信頼の限界。それでも、僕は嬉しかった。

 ハッピーエンドに向けて、リッカが誰かを信じようと足を踏み出せたということだから。

 

「ん……もう、疑うことはしない。でも……やっぱり、それはユーリがいるから」

 

 ベッドに寄り掛かったリッカは、そのまま体を預けてきた。

 不安定な軽さが被さってくる。もうあちこちの傷は治りかけで、痛むことはなかった。

 

「私には、ユーリが傍にいないと駄目。私は、昔の私とは違う。ユーリがいないと進めない。ユーリがいないと生きられない。ユーリのためっていう理由がないと、私には何も出来ない」

 

 その声は、震えていた。

 今にも崩れてしまいそうなほどに、脆かった。

 僕にとっては数年前の、村で僕やカルラを振り回していた頃のリッカは、リッカ自身にとっては殆ど思い出せないほどの、途方もない過去の話。

 あの時の好奇心は既に捨て去られた。もう、リッカは何があるかも分からない暗闇の向こうに足を踏み出すことは出来ない。

 

「ユーリがどこにいるかも、生きているかも分からない、そんなこと……もう二度と、あってほしくない。離れないで……傍にいて、私を支えて」

 

 消えてしまいそうな、か細い求め。

 小さく震える体を、抱いてそれに応える。

 

「……僕も、怖かった」

「っ」

「いつも僕の傍には、リッカがいた。リッカに会うために、死に物狂いで足掻いたんだ。不安で仕方なかった。リッカが傍にいることが、僕にとっての当たり前……その当たり前を、僕は絶対に、壊したくない」

 

 僕はリッカのための勇者だ、などと自分の存在意義で理屈付ける必要もない。

 僕の居場所は、リッカの隣だ。リッカが僕を支えて、導いてくれるからこそ、僕は僕でいられる。

 旅の中だけではない。それが終わって、日常を手に入れても。

 

「――リッカと離れたくない。離れるなんて、これっきりがいい。これからもずっと、僕の傍にいて」

「……ん。もう、離れない」

 

 ともすれば、この関係性は歪かもしれない。

 けれど、誰に否定されたとしても、僕たちの在り方が変わることはないと思う。

 僕にとっては、リッカがいることが幸せで、リッカにとってもそうであるならば――その幸せが、平穏が、ずっと続いてほしい。

 

 ――離れない。離れたくない。

 それを何度も、言葉にして繰り返す。

 

 これから先はもう、離れることがないように。

 どんな困難であっても、二人でいよう、二人で乗り越えようという決意を込めて。




【リッカ】
有する属性は土/冥界/時。
土は個の生命として、冥界はバルハラの断片の証明としてはじめから持っていたもの。
そして、終わりの見えない繰り返しの中で積もり積もった砂粒の如き時間を自覚することで芽生えたのが、ある意味では冥界よりも特異な時の属性。
リッカのそれは、己の中に積み上がった時間を使い、時間の流れをせき止める/押し返す/後押しすることによるもの。
自然な時間の流れに干渉するのは容易ではない。ごく小さな対象でさえ、同じ一秒で一秒に干渉することは出来ない。
リッカのリソースは有限であり、追加の補填は不可能。
だからこそ、慎重に――ここぞという時には大胆に使うことが求められる。

【クイール】
疑うことはしない、出来る限り信じると決めた。
だが、意識して名前を呼んだりはしない。理由は反応が面倒臭いことになりそうだから。

【イリスティーラ】
疑うことはしない、出来る限り信じると決めた。
だが、意識して名前を呼んだりはしない。理由は訳知り顔で腹立つ解釈してきそうだから。
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