凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
一日休み、“雷”のミツカイとの戦いから大体二日後、僕たちはその場を出立した。
リッカの力とイリスティーラの薬の効力で怪我はすっかり治り、戦闘も問題なく可能だ。
クイールも復調し、僕たちの状態は完全に元通りになったと言って良い。
あのミツカイとの接触を通して、風の試練を始めてからかなりの日数が経過した。
聞いた話では、クイールたちが“洪水”を突破した際、抵抗なしに証を渡す代わりに、七日間の期限を定められたらしい。
その期限内に風の試練を終えられなかった場合、再びそのミツカイたち――“洪水”のミツカイは二人組らしい――と戦うことを余儀なくされる。
せっかく穏便に済んだのだから、それは避けたいと僕たちはそれ以上休息を取ることなく、次の目的地へと向かった。
『碧の雨樋』――僕たちが休んでいた場所から程近い場所にある、少数のミツカイが住む集落である。
すっかり慣れてしまった雨音を聞きながら、木々や岩に隠されたその集落へと、ゼクセリオンで下りていく。
“洪水”のミツカイと戦う少し前、この集落に住むミツカイと接触したクイールたちは、僕との合流を済ませ次第この集落に戻ることを約束していた。
曰く、伝えたいことがある。この山にとって、大切なことである、と。
そのミツカイから敵意は感じられなかったとのことだが、集落に近付いてみれば真実であると分かる。
集落全体から、こちらに向けた悪い感情は伝わってこない。
穏やかで、それでいて厳粛。何かをこちらに求めている……?
「さて、こうして姿を見せてやれば、向こうが大人しくしているとも思えないが」
ひとまず集落の入り口にある屋根の下で、雨具のフードを取って待機する。
特別な加工を施した木や石を用いて角度のついた屋根をあちこちに作り、降ってくる雨を集落の下層へと流しているようで、集落の中はそれほど水浸しになっている訳ではないようだ。
今まで訪れたどの町とも違う、見慣れない様式に目を奪われていれば、一人のミツカイが近付いてくる。
頭から布を垂らして顔を隠す妙な風体だが、敵意はなく武器も持っていない。
「お待ちしておりました、外の民」
「お待たせしました……って言うべきですかね。約束通り、用事を終えてこっちに来たんですけど」
「マユナ様のもとへお連れいたします。どうか、こちらへ」
相手が、少なくとも悪い企みは持っていないことを、リッカたちに視線で伝える。
ミツカイの案内で屋根付きの通路を歩いていき、途中の広場で雨具を脱ぎ、辿り着いたのは空から見た時にも目立っていた、一際大きな屋根の家。
中に入り、僕たちは長テーブルの置かれた部屋に通された。
「お座りください。すぐにマユナ様をお呼びします」
一礼して部屋を去っていくミツカイ。
途中、数名のミツカイと会っているが、いずれからも敵意は感じられなかった。
歓迎されている……とは言い難い。どちらかといえば息苦しくなる感覚が強い。
だが、少なくともここで僕たちを袋叩きにしようと目論んでいる訳ではないのは確かだ。
「座っても……大丈夫そうですか?」
「うん――悪意はないみたいだし、本当に会話が目的みたい」
「さて、一体何が飛び出してくるやら……」
「……」
残る証は二つ。接触してきたというミツカイは、風の試練に関わっている者ではないだろう。
本来であれば僕たちと一切関わることなく、やり過ごせた筈の立場だ。
それが、自分から話をしたいと接触してきた。よほどのことなのだと想像はつくが……。
――そんなことを考えていれば、再び戸が開かれ、やはり変わった風体のミツカイが入ってくる。
奇妙な紋様の描かれた、袖の広い服や、丁寧に結われた髪。
他のミツカイと比べた印象として位の高さを感じさせる女性であった。
「『碧の雨樋』へようこそ、外の民。ご足労いただき感謝します」
「いえ……僕たちこそ、待たせてすみません。色々とあって、こっちに来るのが遅れちゃいました」
「ある程度ですが、事情は把握しております。『銀の磐座』付近で、一昨日確認された雷や、小さな日輪……テオトルと戦ったのですね」
僕たちとは反対側に座った、ミツカイの女性。
悲哀と希望――合わさるとは思えない二つがない交ぜになった、きわめて複雑な感情が向けられている。
「我らが
「――そうだよ。今、この山で試練に挑んでいる」
「私はドム・マユナ。
マユナと名乗り頭を下げたミツカイは、やはりこの集落を治めているらしい。
ミツカイたちに共通して、強い力は感じられない。
イピリアという魔族は知らないが、彼女もやはり宿した魔族の力を発現させて、初めて戦える存在なのだろう。
「それで、私たちに伝えたいことってのは?」
「はい――あなたたちの言う試練……それがこの山にとって何を意味するのか、聞いていただきたく思います。あなたたちの活躍が、この儀の集大成となることを期待して」
終わらせたいという、切実な想いがあった。
試練に関わる以上、死者が出ることさえあり得る。そうした犠牲は避けたいと思って当然だ。
だが、そうではない――それだけではない。彼女……マユナが抱く想いは、もっと大きいもの。
こちらが聞く気になったことを悟ったのだろう。
マユナは目を閉じて、回想するかのように語り始めた。
――どうか、お付き合いください。
これから話すのは、この山に吹いた三つの風の話です。
あなたたちの向かった『銀の磐座』は、かつてこの山の冥界であった場所……それはご存知ですね?
今や、己を見誤ったクギミゴの救いの場と化しているあの場所が、まだ死者を迎える安息の地であった頃、この山は我らが主と仰ぐ存在の領域でした。
大いなるものから分かたれた八つの一つ。名を呼ぶことの許されぬ我らが父。
主はこの山と、眷属たるミツカイの営みを正しく管理すべく、多くの機構を造られました。
あの頃は……我らは厳しくも善く、幸福に日々を生きていました。
ところが、ある朝、我らにとってはなんの脈絡もないかの如く唐突に、主は山を去られました。
いくら天に呼び掛けても、下りてくる言葉はなく。それでも主のことだから、いつか何事もなく戻ってくるだろうと、我らは祈り続けました。
主がもう我らに言葉を授けては下さらないと、そう気付いたのは、日が千度昇り、沈んだ頃。
その頃には、我らの希望は潰え、主の眷属たる誇りも枯れ果てて――この山の上位者として生きる力すらなくなっていました。
外の民とは異なる価値観やもしれませんが……我らにとって、存続すら危ぶまれるほどの、大きな衝撃だったのです。
――これが、第一の風。
我らを不要とされた主の羽ばたきが起こした、闇夜と冷気を伴う失望の風。
そこで我らは滅びる筈でした。
主の導き無しに歩みを進められるほど、ミツカイは強い種族ではなかったのです。
山に住まうは我らだけではない。強き隣人は幾らでもいて、我らはそれに追いやられ、静かに消えゆくしかなかった。
それに抗う気概さえ、我らにはなく。
しかし、そこで終わる筈だったミツカイの歴史を、終わらせまいと立ち上がる者が、たった一人だけいました。
『明星』のテオトル。
かつて山に飛来した、天よりの導、雷鳴のつかさ――サンダーバードを征せしミツカイです。
最も主に近く声を聞いた者として変革を悟った彼女は、主の残した山を追いやられる運命を決して認めませんでした。
雷を己の剣として、弱き身であった他のミツカイたちを守り、たった一夜のうちにこの山における最強を証明して見せたのです。
テオトルは高らかに宣言しました。
この山は主の加護のもとにある。なれば、主の去ったこの山の上位者として生き、山の秩序を守るのは眷属たるミツカイの務め。
ゆえに我らに怠惰は許されぬ。主が再び降臨されるその日まで、誇りを持ってこの山に在り続けるのだ、と。
その言葉に、どれだけのミツカイが奮い立ったことでしょう。
常に主の導くままに生きた我らには、新たな秩序、新たな標が必要でした。
彼女は迷う我らの先頭に立ち、道を指し示すことで繋ぎ止めたのです。
その上で彼女は、我らが誇りを失わぬよう。そして、主がいずれ戻るよう、恥ずべきことのなき完全な眷属たらんと、新たなる秩序を敷きました。
九つの階級。かつては主が、我らに夢物語として聞かせてくださった、真なる眷属の称号。
その名を借り、在り方を歪め、我らが得た力と内なる祝福の大きさから定められる絶対的な位階としたのです。
セラ、ケル、ソロ、ドム、ヴァ、シア、パラ、アル、エル。
成人により一度定められれば不変のもの。当然、大いに不満は上がりましたが、テオトルが行った変革を肯定した者がいました。
賢者イソラ。古より死なずの運命を定め付けられ、中腹の岩室にて山のすべてを見届ける一灯。
主が去ろうとも声を上げなかった彼が、山の新たなる秩序を肯定したことで、この変革は確定したものとなりました。
そうして、最後に一つ。
ミツカイたるもの、完全であるべし。
己を見誤り、存在を宿すことさえ出来なかったならば、山で生きる価値さえないと、不完全を排斥する。
クギミゴという秩序を根付かせ、テオトルはミツカイを完全な存在にするための機構の土台を形作りました。
――これが、第二の風。
取り残された同胞たちを導くことを決意した一人のミツカイの、弱々しくも誇り高い剛毅の風。
我らは奮起し、新たなる秩序の下で生き始めました。
それは、これまでよりも厳しい生活。主が守ってくださるという安心がなく、それぞれが手を取り合い、しかし己の足で立たねばならない、我らにとっては困難な道の始まりでした。
その中で誰よりも骨身を削り、尽力したのは他でもない、テオトルでした。
ミツカイを導く長として立ち上がり、その責を負う者として唯一“セラ”の名を担い、翼を広げ山中を飛び回りました。
戦士が集っても勝てぬ大敵が現れれば、その前に立って民を守り。
災害に巻き込まれ、孤立した民がいれば、それを背に乗せて救い出し。
飢えに喘ぐ集落があれば、雷で焼いた野の獣を残してまた去っていく。
そうして少しずつ我らに立ち方、歩み方、生き方を学ばせていき、何百何千と日を重ねようやくそれは我らにとって当たり前となりました。
ミツカイは主の加護に生かされるのではなく、自らの力で生きる強さを手に入れたのです。
長い、長い暗がりでした。
我らの生き方が確立したあの頃が、ミツカイにおける幼年期の終わり――真なる夜明けというものだったのでしょう。
力及ばず、散っていった同胞は少なくありません。
結局、新たなる秩序を認めることが出来ないままに命を終えた者も多くいます。
テオトルはその者たちを忘れず、ゆえに自ら定めた秩序を徹底した。この変革は正しかったのだと、誇りを持ち続けた。
その覚悟を知っていたから、我らも彼女についていくと――この山で、誇り高きミツカイとして生きていくと決めました。
この山は広く、少し歩けば気候はがらりと変動し、まったく異なる生き方が必要となる。
ほんの一昼夜で辿り着く隣の集落でさえ、風習が違うことさえあり得る。
それでも、互いが手を取り合い、ミツカイという種族としてこの山を守り続けようと、我らは等しく思いました。
そうして動き始めた、ミツカイの歴史。
主が戻られるその日まで続くと誰もが信じていた、過酷な平穏。
テオトルが起こした変革という名の希望は――次なる風によって掻き消されました。
ええ、今からおよそ、千年の昔。
外に――そしてこの山にも。土に、水に、空気に、不可思議な理が書き記されたことを、我らは認識していました。
外の民の営みが変わっただけならば、関与はしない。しかし、自然そのものが変えられたというのならば、我らも見て見ぬふりはしていられない。
何事かは不明なものの、外からこの山に侵攻してくるものがあれば全力をもって打ち滅ぼそうと、多くの備えをして。
――そしてやってきた、恐ろしく強大な一つの嵐によって、我らは叩き潰されたのです。