凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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今こそ、希望の風を(後編)

 

 

 その嵐は、圧倒的でした。

 我らの宿した力の悉くを、児戯のように蹴散らしていきました。

 剣も、矢も、魔法も通さぬ翠緑の鱗。勇士たちの渾身の拳でさえ小動もしない巨体。築いた砦を腕の一振りで打ち崩す膂力。

 巨大な翼が巻き起こす烈風さえ地形を変える、本来自然でなければ赦されない暴威をその身に宿した存在でした。

 無情、残酷、理不尽。

 あの時、山に響いた慟哭は、大半がそういったものでした。

 

 我らがようやく立ち上がり、歩み始めた軌跡を。

 テオトルが必死で築き上げた、新たなるミツカイの営みを。

 取るに足らぬものだと嘲笑うかのように、その嵐は蹂躙したのです。

 

 我らが忌むべき嵐の名は、バラルバラーズ。

 主が知識として刻んだのか、或いは外から流れてきたのかは不明ですが、この世界の最強種も名高いドラゴンの存在は、我らも知っていました。

 しかしその頃、この山にドラゴンはただの一体も棲んでおらず、脅威は実感として伝わっていなかった。

 その恐怖を我らが初めて思い知った日、ミツカイの誇りは再び地に落ちました。

 

 嵐が齎した破壊により、ミツカイには多くの犠牲が出て、しかし種の存続は可能な程度に生き延びました。

 恐らくは、“殺し過ぎない”ように、嵐は意識していたのでしょう。

 我らはまたも歩む足を折られた。それでも、どうにか立ち上がって、また歩き出せばいい。

 今度はテオトルも、そう言葉には出来ませんでした。

 ――嵐はその道理に従って過ぎ去るということをせず、あろうことかこの山の頂に居座ったのです。

 

 当然ながら、我らはそれを認めませんでした。

 かの嵐を討伐せんと、せめてこの山から追い払わんと、幾度となく戦を繰り広げました。

 ……いえ、戦と呼べるほどのものだったかどうか。我らにとっては死闘でも、嵐にとっては戯れに等しかったかもしれません。

 

 これが、第三の風。

 山を力でもって支配して、ミツカイたちを再度貶めた、強大にして言語道断なる無法の風。

 

 嵐は積極的に我らを襲うことをしませんでした。あくまで、我らが自発的に行う抵抗を愉しんでいた節があります。

 それではこれ以上同胞たちを犠牲にしないためには、どうすれば良いのか。

 恐怖の根付いた我らに、その解答が生まれるのは時間の問題でした。

 向こうから襲ってくることがないというのなら、山の頂を明け渡し、いないものとして扱えば良い。

 山の頂には何もいない。否、山の頂など、ここには存在しない。

 そう思い込むことにして、侵略に敗れた事実から目を背けたのです。

 既に誇りの根元を失った我らに、そう思い込めば平穏は再びやってくるという甘美な誘惑に抗う精神は、ありませんでした。

 

 ――ええ。たった一人、テオトルを除いて。

 

 我らの屈服を怒り、それでもミツカイの先頭として、彼女は独りで戦うことを選びました。

 その決意を、賢者イソラはまたも肯定しました。山で起きる出来事に関わりはせずとも、抵抗の意思は正しいものだとテオトルの背中を押しました。

 彼女の背中を、その羽ばたきを見て、しかし我らは立ち上がることが出来ず。

 雷の失墜を、幾度となく目にしました。

 百を超える飛翔、百を超える失墜。死に瀕したとて諦めず、何度でも彼女は嵐に挑み続けました。

 

 それを見て奮起するミツカイも、ほんの僅かながら存在しました。

 しかし、その悉くが生きては帰らず。

 テオトルは同胞を得たという希望と共に山の頂に向かっては、独り傷だらけになって帰ってきました。

 誰もが、理解していました。かの嵐には勝てる道理がない。雷さえ嵐にかき消されてしまうのだから、我らでは抗いようがない、と。

 きっと、立ち上がった同胞たちも、生を諦め、テオトルへの手向けにその命を捧げたのでしょう。

 

 そして、この山が事実上ミツカイの地ではなくなってから、年が十度巡り。

 なんのために山の頂に居座っていたかも定かでは無かった嵐が、初めて我らに対して言葉を投げました。

 

 山の外にて、とある儀式が行われる。

 外の民――人間が魔族に抗う儀。愚かなる反逆を強要された弱き者の足掻きを興じる宴。

 彼はその儀の要の一つであり、この山にやってきたのは、儀の試練に相応しき地と判断したからだ、と。

 

 ……魔王、というのでしたか。

 魔族の長を名乗る者が、人間から一人を選び、勇者としての運命を与える。

 勇者は己よりも強大な魔族と戦いながら、四つの試練を突破し、やがて魔王を討つまで旅を続ける。

 そう聞いています。その勇者というのが、あなたたちという認識です。

 

 四つの試練の意味について、仔細は聞かされていません。

 唯一、この山に風習として根付いたのは、かの嵐が風の試練と呼ぶもの。

 自然に因む力を持つミツカイが戦士として選ばれ、勇者と戦う。勇者はミツカイに勝つことで、己は大いなる自然に抗う可能性を持つ者だと証明する。

 ともすれば、あなたたちが知るこの試練の意味は、それだけでしょう。

 ……いいえ、少なくともあなたたちにとって不都合となるような裏がある訳ではありません。

 恐らく嵐は……バラルバラーズは、試練の本筋とは関係なく、己の意思のみでその在り方を改変しました。

 外の民への――人間への試練でしかなかったものに、選ばれた者が全霊で身を投じざるを得ない理由を付与したのです。

 

 ……今のこの山には、ドラゴンが多いでしょう?

 はじめにやってきた嵐は供もおらず、たった一体だったというのに。

 

 ドラゴンとは、最強種でありながら、繁殖能力もまた強いもの。

 我らはそれを否応にも思い知ることになりました。

 この戦士という称号には、本来その名が持つような栄誉はありません。

 かの嵐の戯れ、その被害者です。

 

 ――そのお顔を見る限り、もう想像は付いているかと思いますが。

 もしも儀において、戦士のいずれかが勇者を討つことが出来なかった場合。

 戦士が男であれば、契りを結んだ者を――戦士が女であれば、己自身を――山の頂に供すること。

 

 勇者がこの山に訪れたのは、あなたたちが初めてです。

 それまでの者たちは強要された戯れに、身を投じる権利さえ与えられませんでした。

 ならば、とどんな手段を使ってでも嵐から逃れようとして、その甲斐なく連れ去られ、ただの一人も山の頂から戻ってくることはなく。

 その代わりに――それまでこの山では見られなかったドラゴンが、あちらこちらを飛び回るようになったのです。

 ……誰もが内心では分かっていれど、確証を得たかったのでしょう。

 言葉を覚えたドラゴンの個体から、出自を聞き出した者がいました。

 そして、我らを嗤うように吐き出された回答は、たちまちこの山の新たな理として伝わりました。

 

 ――私たちは最も強き者の胤。

 お前たちの可能性と結びつき生まれ落ちた、この山の新たなる支配種である。

 

 我らミツカイは、他種に比べ大きな可能性をもって生まれてきます。

 その可能性をもって、力あるものを宿し、姿を変えることさえ出来るようになります。

 ですがその変質を許容する可能性の幅は、言い換えればどのような種が増えるための苗床としても、都合よく機能するということ。

 

 ドラゴンが本来、どのように繁殖するのか。

 当時の我らは知る由もありませんでしたが、少なくともミツカイの可能性は、それに適応できてしまったのです。

 

 

 


 

 

 

「ッ――ぐ、ぅ……!」

「リッカ!」

 

 込み上げてきたものを堪えながら蹲ったリッカを支えて落ち着かせる。

 

「り、リッカちゃん……!?」

「……大、丈夫」

 

 荒い呼吸を繰り返しつつも、リッカはクイールに返事をする。

 マユナが語ったミツカイの歴史。その内、僕たちに関わる部分は、リッカの二度と想起したくない最悪を掘り起こすものだった。

 

「……申し訳ありません。気分の良い話ではないでしょう」

「まったく……こんな大陸の果てまで来ても、胸糞悪い話は転がっているものだね。よもや、この山のドラゴンの話がこういう()()だとは。当たり前のようにドラゴンがいるのは、千年の賜物ってことかい?」

「はい。無論、儀の外でそういった事例もあったでしょうが。少なくとも、際立って強き個体は、そうして生まれてきました。この千年間、十年に一度の、我らにとって忌むべき“生贄”です」

 

 風の四天王、バラルバラーズ。

 彼はこの山におけるすべてのドラゴンの祖……そういう話を、イリスティーラから聞いた。

 それはあくまで伝説、誇張された話であると、イリスティーラも考えていただろう。

 だが、マユナの語りは、これまで幾人もの同胞が犠牲になってきたことへの実感に満ちていた。

 

 勇者がこの山に訪れなければ、試練に選ばれた戦士たちには、大切な者を――或いは己を守ることさえ許されない。

 過去、ここまで辿り着くことの出来なかった勇者たちによって、ミツカイたちの生贄は積み上げられてきたのだ。

 

「我らは元々、外の民に対して然したる悪感情を持っていた訳ではありません。存在をも認めたくないとばかりに嫌悪するようになったのは、かの嵐のように、何を運んでくるかも分からなくなったからです」

「……当然の話ですね。歓迎される筈もないのは」

「此度の儀は取り分け、その傾向も強い。何故ならば、此度を無意味に終えることは、我らミツカイにおける真の終焉を意味するからです」

 

 マユナの言葉が何を意味しているかは、すぐに分かった。

 僕たち勇者を、特に強く敵視し、排除にかかった者が、試練の証を持っていた。

 

「テオトル……あの、雷のミツカイだね」

「はい。儀の回数が百を数え、嵐は我らの先頭に立つ彼女を“使う”ことを選んだ……否、ずっと前から、節目をこういう形で彩ろうと決めていたのでしょう。嵐はテオトルに五つの証を押し付け、此度の戦士を選ばせました」

「彼女に……?」

「雷、日照り、吹雪、洪水、地鳴り……自らそれを適格なミツカイに渡し、“生贄”を選ぶ。嵐にとっては、それは格別の催しだったでしょう」

「……なるほど。それで、あんな面々になった訳だ」

「ええ――クーファは当代随一の戦士でした。比翼の二人に渡したのは、たった一人の勇者であれば、二人の連携に敵う由もないと判断したのでしょう。そして、そもそも人格の無い頂の“ソロ”と、決して死ぬことの無き賢者イソラ。いずれも、彼女なりの抵抗の証でした」

 

 ――そして、“雷”の証は、自分自身。

 誰よりも雷という力を有する己が手に取った。

 証の持ち主が自分に委ねられた以上、自分が関わらず、誰かに押し付けるという選択肢は、彼女にはなかったのだろう。

 ミツカイをここまで導いてきた者として。嵐を最初に払えなかった者として。そして、ミツカイの最後の砦として。

 

「……“嵐”の証。その在り処は、ご存知ですか?」

「うん――バラルバラーズ自身が持っているんだよね」

「その通り。あなたたちが試練を踏破せんとするならば、あと赴くべきは山の頂ただ一つ。……外の民であるあなたたちが善き人々であるならば、知っておいてほしかった。ミツカイたちを踏み越えた者として、背負ってほしかったのです。我らの歴史、クーファが遺したもの、比翼の二人が託したもの、そしてテオトルが背負っていたものを」

 

 ……押し付けだとは、思わなかった。

 重いものではあったけれど、それは今の僕たちが背負わなければならないものだった。

 ここまでミツカイにとって悪しきものであり続けた、勇者という“風習”を終わらせる。

 この山の住民ではない外の民であっても。僕たちの目的の本質に、ミツカイという存在が関わっていなくても。

 僕たちが試練を終えて、この山を“嵐”の支配から解放する以上、知っているべきことなのだ。

 

「――うん。任せてください、マユナちゃん」

「ちゃ、ちゃん……?」

「僕たちは世界を変えます。この山のことだって変えちゃいます。マユナちゃんたちが信じてくれるなら、なおさら負けられません。なんてったって、勇者なので!」

 

 こういう時に自分が、と声を上げるのは、クイールだ。

 僕の在り方はリッカのための勇者であって、他が第一にはなり得ない。

 しかし、クイールは違う。彼女は目の前の問題に対して――僕以上に全霊を懸けられる存在だ。

 

「……ありがとうございます。最早この山の希望は、嵐が払われるよりほかにない――どうか、あなたたちが、革命の風であることを願います」

 

 最後まで、マユナの言葉や態度に、僕たちへの疑念や悪意は生まれなかった。

 悪習を呼ぶ外の民であると同時に、バラルバラーズの支配を打ち砕く、小さな希望。

 “雷”の彼女は、いずれ自らがそうなろうとしていたのだろう。しかし、外の民がそれさえ超えたのならば。

 

「山の頂に向かうのですよね。我らも、力を貸しましょう。決して大きな力ではないでしょうが――少なくとも、頂まではあなたたちを、無傷でお送りします。この集落が出せる限りの戦力でもって」

 

 外の民を信じてみよう。

 縋るような信頼を、僕たちは受け取った。

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