凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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希望への礎

 

 

 山頂に向かって飛ぶゼクセリオンに、数十の翼が追従していた。

 味方の証として青い打掛を身に付けるのは、多くのワイバーンをはじめとした飛行を可能とする魔族の姿。

 それは、マユナの集落に集まったミツカイたちだった。

 彼女が用意していた、革命の風――僕たち勇者が試練の突破を現実的な域に至らしめた時に備えて用意していた助力だという。

 ゼクセリオンの全速力には追いつけないものの、速度を落としてでもかれらの協力を受けた方が良いと思わせる、数の暴威。

 ドラゴンとしては低級にあたるワイバーンであろうとも、群れを成せばその脅威は計り知れないだろう。

 

 雨の降りしきる地帯を抜ければ、そこに広がるのは見晴らしの良い荒原地帯。

 隣り合っていても全く異なる気候と景色は、曰くムルゼ霊山の特徴の一つであるとか。

 かれらが主と呼ぶ、かつての上位者がいた頃からの常識のようだが、感じ取れる気温や湿度までがらりと変化するのは些か慣れ難い。

 だが、その程度のことに泣き言を零してはいられない。

 今の僕たちは、空を見上げれば簡単に目につく分かりやすい“異常”なのだから。

 

「――来るよ!」

 

 先頭でゼクセリオンを操縦しつつも、それを視認したことを後方に告げる。

 ゼクセリオンの上に二人以上が乗って空を駆けることは難しい。不可能ではないが、戦闘の可能性を考えると単独の方が安全だ。

 ゆえに、飛行中は基本的に迎撃が操縦する一人に委ねられるのが、この優秀な魔道具の欠点。

 それを此度――山頂に向かうこの道中は、解決出来ていた。

 

「すみません、前にお願いします! 恐れないで!」

「キミはこのままでいい。私がバランスを崩して落とされないように心掛けてくれると助かるがね」

 

 前方から飛んでくるドラゴンに対し、立ち向かうように先頭に躍り出るワイバーンの背には、クイールが乗っている。

 後方でイリスティーラは待機し、しかし魔道具の銃口は既にドラゴンを捉えていた。

 

「合わせるんだ、ユーリくん!」

「分かった――!」

 

 イリスティーラと同時に、魔剣から放った弾丸でドラゴンの翼を穿つ。

 この山ではありふれた存在であろうが、ドラゴンはドラゴンだ。防御力も並大抵のものではなく、この程度で撃ち落とせはしない。

 だが、姿勢を崩すことは出来た。飛行のためにバランスを取り戻すまでの時間があれば、ワイバーンの飛行速度でも十分に懐に迫ることが出来る。

 そして、ドラゴンが反応する前に聖剣の一振りによって仕留めれば、後方が歓声で沸いた。

 

 翼ある魔族に姿を変えたミツカイの一軍により、空路でもって山頂まで向かう。

 それがマユナによって提示された手段だった。

 徒歩であれば、どうしても時間が掛かる。次々に変化する気候に対処するだけでも精一杯だとか。

 一方で、空を使えば目立つ。傲慢なドラゴンたちが、己の縄張りを群れで飛ぶ魔族たちを許容する筈がない。

 魔族の大群であろうとも、下位のものであれば一蹴に伏してしまえるのがドラゴンである。ワイバーンもその一種ではあるが、純粋なドラゴンと比べてしまえばポテンシャルは大きく落ちる。

 

 それでも――ここにいるのは知恵を持ち、共通の方針を定めたミツカイたちだ。

 山の各地に点在する集落が防衛できているように、相応の力を持った者たちが協力すれば、ドラゴンとて手の届かない相手ではない。

 ただ縄張りの侵犯に怒り狂って、闇雲に迫ってくるだけの個体であれば、対処できる。

 

「真下だ!」

 

 次の襲撃は、不意打ち気味に真下から行われた。

 突っ込んできた個体を、一人のミツカイが体を張って受け止め、その隙に周囲のミツカイたちが攻撃を加えていく。

 押し切れない――そう判断して、ゼクセリオンを旋回させ、加速する。

 

『ユーリ、あんた片手運転でそんな加速……!』

「大丈夫!」

 

 ラフィーナの不安は当然だ。今は片手で魔剣を持った状態。このまま細かく制動しろというのは無理な話だろう。

 だが、この短時間。攻勢に動くだけの数秒なら、なんとかなる。

 動きを止めていたドラゴンの手前でゼクセリオンを急停止。

 なおも前に飛び出そうとする体の勢いをそのままに、ゼクセリオンを蹴ってドラゴンに接近。

 

「なっ!?」

「勇者……!?」

 

 加速の勢いを乗せた魔剣でドラゴンを斬りつけ、更に足に魔力を込めた上でその鱗の鎧を蹴り込み、反動で跳ねるようにゼクセリオンに乗り込む。

 一方でドラゴンが失墜していくのを見届け、再びミツカイたちへの先頭に戻っていく。

 

『……随分器用なことするわね。片手でどうにかすることに慣れないでほしいんだけど』

「うん……まあ、ごめん」

 

 ゼクセリオンを使った飛行のほか、この姿(『ユーリフューリー』)では魔力の翼による飛行も可能だが、依然空中戦というものに慣れている訳ではない。

 よって、こういう“勢い”に任せた動きは多くなってしまう。

 この山に来るまでの間も、ラフィーナによる剣の扱いの鍛錬は続けてきたが――当然、彼女から教授された動きにこんなものはない。

 魔剣はその重量や反動から、片手で扱うことを想定されていない。外装によって高められた身体能力で、強引に実現させているだけだ。

 イレギュラーな使い方が発生するのは仕方ない。だが、癖になっては困るから可能な限り避けてもらいたい。

 ラフィーナはよく言っているものの、そう簡単にいかないのが実戦であった。

 

「っと、またか。引っ切り無しだね」

 

 続けざまにやってきたのは、数体のワイバーン。

 その上、更に遠くにも接近しているだろう小さな影が見えている。

 気を休めている暇はない。山頂に至るまで、常に戦闘が続く覚悟でいる必要があるかもしれない。

 

「あとどのくらいでしょうか――ミツカイの皆さんがいるとはいえ、本番の前にこれが続くと、結構キツイ気が……!」

「……お前たちが出張るのは、最低限でいい」

 

 山頂ではこれの比ではない戦いが待っている。

 やってきた群れに対処しつつも、あまり消耗はしていられないと、クイールがここから先への心配を零せば、それに答えたのは彼女を背中に乗せるミツカイだった。

 

「我らでは、山の頂に待つ嵐に勝てん。唯一出来ることは、お前たちをこうして送り届けることだ」

「あなた方を最速にして、最低限の消耗で頂に送る。それが我らの最大限の助力です。そのためにも、我らを使い捨てなさい」

 

 イリスティーラを乗せたミツカイが、その言葉に続く。

 ともすれば、自分たちの命を軽視しているようにも聞こえる言葉。

 だが、そこには僕たちという部外者に対する可能な限りの信頼と――自分たちの未来に対する希望があった。

 

「我らの翼が折れても、別の誰かが引き継ぐ。お前たちが傷つくようであれば――」

 

 その時、一際体躯の大きなドラゴンが迫ってきた。

 対処に向かおうとした矢先、ワイバーン姿のミツカイ二人が翼に組み付く。

 更にもう一人が無防備な腹に突撃し、組み付いた二人諸共地上へと叩き落とした。

 

「行くぞ」

「で、でも――」

 

 それを見届けて、誰一人支援に向かうことなく前へ前へと進んでいく。

 ゼクセリオンに乗った僕に対してもそうしろと、ミツカイたちは圧のある視線を向けてきた。

 落ちていったミツカイだけでドラゴンの対処を行うのは不可能だろう。

 しかし、かれらは上がってくる様子がない。この状況で考えられるのは、あのドラゴンの足止めを行っている可能性。

 

「――――」

「ユーリ。ここは任せた方がいい。この先に、今までで一番の戦いがあるってことを忘れないで」

「……そう、だね」

 

 リッカに諭され、それが最善策であると自分に言い聞かせる。

 これは、かれらの決定だ。協力してくれているかれらに異を唱えて足並みを乱すことは出来ない。

 かれらはミツカイの先の未来を明るくすべく、信念をもって自分たちの命を賭している。

 ならば僕たちがすべきは、それを止めることではない。

 かれらの協力を無駄にせず、確実に山頂に――バラルバラーズのもとに辿り着き、試練を終わらせることだ。

 

「それでいい。可能な限り、襲撃からは我らが守る。誰が落ちようとも、決して頂へと向かう速度を緩めるな」

「……文明として営みがある割に、群体染みた思考だね。キミたちは」

「千年間抑圧されていれば、こうもなりましょう。十分な数が残り、変革の先で再び繁栄出来ればいい。我らにとって、欲の籠った妥協ですよ」

 

 ――背後から敵意を感じる。

 そして、その咆哮を聞いて、また数人が決意した。

 離れる寸前、ほんの一瞬、こちらに向けてきた心配とも取れない複雑な感情は、かれらなりに背中を押してくれていたのか。

 

「……正直、今すぐ身を翻して助けに行きたいんですけど。駄目ですよね」

「敢えて言うよ、クイール――駄目だ。かれらが命を張る理由を考えたまえ。キミたちが無暗に助けに動けば、かれらの覚悟も無駄になるんだ」

「ですよね――それなら、一秒でも早く、山頂に辿り着きましょう! そうすれば犠牲も少なくなります!」

 

 より一層、速度を上げる。

 急な勾配でただ歩くことすら難しいだろう切り立った山道を下に見て、通り過ぎていく。

 

 途中、幾つかの集落を見掛けた。

 ミツカイたちのものだろう。流石に住民たちは見えなかったものの、並んで飛ぶミツカイたちが希望を向けていたことから、未来に繋ぐべき希望の一つには違いない。

 

 ――やがて一気に気温が冷え込み、雪の積もる景色の中に飛び込んだ。

 数分前の、岩肌の目立つ山道と隣り合っているとは思えないが、そうした異常な気象の極致なのだろう。

 ミツカイ曰く、一年中を通してこれほどの雪に覆われているのはこの辺り、山頂付近の一帯だけ。

 つまり、目指すべき場所が近付いているということだ。

 

「ユーリ、寒くない?」

「うん。リッカのおかげで」

 

 リッカの魔法があるおかげで、この寒さに思考が奪われたり、動きに支障が出たりするようなことはない。

 それはクイールやイリスティーラも同じのようだ。それぞれ、外装に一定の防御効果があるのだろう。

 しかし、ミツカイたちは違う。

 ここに来るまでの道中で半分以下に減ったミツカイたちの中には、目に見えて動きが鈍っている者がいた。

 

「……ドラゴンという種は、その大抵が寒冷に弱い。トカゲと揶揄する者がいるのはそれもあるのだろうな」

 

 今の今まで残っている、クイールを乗せたミツカイはそう教えてくれた。

 ミツカイたちが特別、寒さに弱い訳ではない。宿した魔族の姿に変わることで、その弱点まで手に入れてしまうらしい。

 ドラゴンとは個体ごとの性質の差が激しいもの。当然、寒さに強い個体もいようが、そうでない個体の方が遥かに多い。

 それらの力を宿すミツカイたちにとっても、雪の冷たさは天敵のようだ。

 

「つまり、この辺りにはドラゴンも少ないってこと?」

「その通りだ。とは言っても、我らはこのような場所まで来たことがないゆえ、また聞きだが。ドラゴン共とて、食うにも生きるにも困るような場所を縄張りにはしたくないだろう」

 

 ドラゴンどころか、獣やその他の魔族の姿もめっきり見なくなった。

 雪原地帯に生きる魔族はいるだろうが、それもこの山の、こんな標高までやってきて住む道理はないということか。

 ……そういえば、チェルノボーグはどこに行ったのだろう。

 彼女のような種族にとっては、こういう場所が生存に適しているように感じるが……。

 

「ともかく、頂はもうすぐそこにある。つまるところ、それを囲い守る氷獄の砦がある筈だが……」

「……何も見えてきませんね?」

「……砦を支えるという三つの鎖の輝きも見えてこない……? 一体何が起きている?」

 

 残ったミツカイたちが困惑を見せる。

 かれらの言う砦というのは、即ち“吹雪”の証を与えられた“ソロ”ということだろう。

 “雷”のミツカイが特別に預けたと聞いたが、山頂を守る筈のそれは一向に見えてこない。

 

 

「――――カカ、あの小煩い鉄くれなら黙らせたわい。意思無き装置との戦いを目の前で見せられても、つまらぬのでなぁ」

 

 

「――!?」

「今のは……!」

 

 真正面から聞こえてきた声は、聞き覚えのあるものだった。

 しわがれて、重く、それでいてどこか呑気な声色。

 それは個の試練の始まりに聞いた声だ。あの時は魔道具越しでノイズ混じりだったが、今は違う。

 山頂は近い。しかし、それらしい姿は見えてこない。

 一体どこから……と思っていれば、前方の景色に突如として変化が生じた。

 

 何もない空間に走った罅が、たちまち広がり、その場からぽろぽろと零れ落ちていく。

 まるでこの雪景色が隠していたものが露見していくかのように、新たな光景が目の前に広がっていく。

 

「おっと、領域が少しばかり乱れたか。まあ許せミツカイ共。どうせこんな場所にやってくる者もおらぬじゃろ?」

 

 本来は、もう少し先まで行かないと見られない筈の、隣り合った別の景色。

 この山においてありふれた不思議だが、その位置関係が崩された……ということか?

 罅は僕たちのいる場所まで広がってきて、寒さを吹き飛ばす。

 これほどの標高にいるとは思えない温かさに包まれながら――僕たちはこの山の頂を目にした。

 

 草木の生えぬ、殺風景な岩場。

 しかし、下方にはそれまで通ってきたとは思えない、一面の雲の海が広がっている。

 そして上を見ても、横を見渡しても同じく雲。この景色がどれだけ“本当”なのかは分からない。だが、雲の中にいるという認識が、どうにも頭を混乱させた。

 途轍もなく大きく分厚い雲の中に設けられた、広い広い空間。

 

 その超常的な景色の中に、目に留まる異物はいくつもあった。

 周囲に打ち捨てられた骨らしきもの。断言できないのは、まともな形を持ったものが一つもないためだ。

 それから、屹立する半透明の立方体。

 あれは――見たことがある。ホロゥにあった、魔王が自らの楔と称していた柱。

 

「さて……よくぞ。よくぞ来た、勇者共。ああ――めでたきことよ。待ちくたびれた、とはこのことじゃな」

 

 そして、何よりも――柱の前に座り込んだ、小山の如き魔族。

 柱から伸びる無数のコードのようなものが全身に刺さった、あまりにも巨大な姿があった。

 

 空を覆ってしまえるのではと思うほどの翼。

 僕たちの背丈など目ではない、大樹の丸太の如き太さを持った強靭な四肢と長い尾。

 同じように長く太い首の先で後ろに流れる四つの角と、全身を覆う、黒ずみながらも緑色を強く残した無数の鱗。

 ドラゴンだ。魔族について記された本に描かれる大半の挿絵に合致する、紛うことなきドラゴンがそこにいた。

 

「改めて、名乗ろうかの。――『壊嵐』のバラルバラーズ。試練の最果てにてぬしらを待っておった、風の四天王じゃ」

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