凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
分厚い目蓋で細められた目、くすんだ輝きを放つ瞳がこちらに向けられる。
その存在からは、これまで出会ったどんな魔族にもなかった“重さ”が感じられた。
イリスティーラによれば、彼は既に三千年の時を生きているという。
それも真実なのだろうという確信を得られるほどに、バラルバラーズが放つ威圧感は圧倒的だった。
「うむ。順当に試練をこなしたようじゃの。今やその首飾りに宿る自然は四つ。あとは二つ、“吹雪”と“嵐”、か」
「――この試練を終わらせに来た。吹雪と嵐、二つはこの山頂にあるって聞いたんだ」
ゼクセリオンから降りて、圧に怯みそうになる体を無理やり前に押し出しながら言う。
こんなところまで来て怯えてはいられない。今こそ、風の試練を終わらせる時だ。
「本来ここであの鉄くれをぬしらが壊した後、告げてやる腹積もりだったんじゃがな。まったく、アリスめの側近とはいえ所詮は淫魔擬き。まともに動く訳もなかったか」
「その鉄くれとやらは、キミ自身が止めたらしいが?」
「“嵐”の在り処を知っておる以上用済みというものよ。それに、ぬしらはどうあれ既に二つの機構を破壊しておる。もうあの手合いも飽きたろうに」
その口ぶりからして、バラルバラーズは“吹雪”自体を重視していないらしい。
ここに来るまでに経験がなければともかく、僕たちは“ソロ”と既に戦っている。
であれば、ここでもう一度戦っても面白くはない――と。その様子はまるで演劇を鑑賞しているようで、オドマオズマに通ずるものを感じた。
……そもそも、この勇者の使命というものは、魔族が楽しむための“戯れ”。
このような思考を持っていることが当たり前なのかもしれないが。
「ゆえに、くれてやる。“吹雪”の首飾りじゃ」
そう言って、バラルバラーズは指の一本を僅かに動かし、爪の先端にあったそれを放ってきた。
掴み取る前に首飾りは解れて消え、僕たちが持っている首飾りに新たな証が組み込まれる。
彼は“吹雪”の試練を不要と認めた。五つの証を手に入れて、残るはただ一つ。
「あとは、“嵐”。興醒めじゃが、ぬしらは既に理解しておるのじゃろう? それを得るために、何をせねばならぬのか」
「そうですね。冗談みたいな話ですが、誰と戦わないといけないかは知っています」
ミツカイの背から、クイールとイリスティーラが降りてくる。
その意気や良し、とバラルバラーズは満足気に頷いた。
「それで? あえて聞くが、正気なのかい? 試練の中で、まさか四天王と戦えって?」
「カカ、聖都のエルフにそう問われるとはのう。リトラのせがれも、駆けだしの勇者に立ちはだかっては、心を折ってきたのじゃろうて」
――知人を引き合いに出されたからか。イリスティーラの緊張と警戒の中に、苛立ちが生まれた。
思い出されるのは、水の試練。リーテリヴィアに対し、ただの一撃命中させろという、言葉にすればそれだけの試練。
過去の……リッカにとっての“いつか”の僕は、相当に苦戦をしていたようだ。
今回だって、トラブルの不意を突いたようなもの。正々堂々、真正面から彼を突破した訳ではない。
彼と刃を交えていない以上、此度の試練とは話が違うが――クイールや、その他の水の試練に挑んだ勇者たちにとっては、大きな壁として立ち塞がったことだろう。
「何も知らぬ人間が勇者の使命を負い、己が小さな箱庭の外へと出て、奔放で無情な魔族に怯えながらも辿り着いた華々しき都。人間に寄り添い共存するエルフの長はその道程を称賛し、そして現実を突きつける――うむ、ディアネシュアの小僧に言わせれば変化なく退屈な試練じゃが、わしからすれば中々に“粋”な催しよ。刻み込む現実とは、絶対的なものでなければならん」
「……言っておくが、あの堅物は試練に愉悦なんか持ち込んじゃいないぞ。心底から真面目に、挑戦に来る勇者を試しているからな」
「若いのう。
クツクツと喉を鳴らして笑うバラルバラーズに、イリスティーラは一つ舌打ちして魔道具の銃口を向ける。
それをまるで気にも留めず、こちらに見せるように彼は一本の指から伸びる長い爪を突き出してきた。
鋭さはなく、代わりに先端が僕たちの背丈ほどもある重厚なその爪に填まっているのは、鎖で出来たような大きな指輪だった。
「見たことがあるかもしれぬが、これは試練の縛め。我ら四天王が勇者に試練を発する際、その力を抑えるものじゃ」
鎖の如き縛めは、これまでに出会った四天王にも施されていた。
リーテリヴィアのそれは些か過剰だった気もするが……ともかく、試練において四天王が全力を出さないためのもの。
一体どれほど力が抑えられているのか、効果を詳しく測ることは出来ない。
少なくとも今理解できるのは、あの縛めがあってなお非常に大きな力を有しているということだけだ。
「とはいえ、ここまで来て退屈はさせんとも。定められし四つの試練、その終端に至ったのは、ぬしらが最初であり――そして最後じゃろう。その偉業に、わしは報いてやる」
「ッ――――!」
バラルバラーズの翼が、大きく広げられた。
羽ばたいて、空へと浮き上がることはしない。ただ、凝りを解すかの如く、伸ばされただけ。
その動作に彼の内側の魔力が脈動し、瞬時に練り上げられる。
翼から出力された魔力が巻き起こした異常が確かな脅威となったのは――僕たちよりも後方に至ってからだった。
「ぐぅ!?」
「なっ……!?」
ミツカイたちから上がった悲鳴が遠くなっていく。
周囲を見渡せば、何が起きたのかはすぐに分かった。
白かった雲の景色には黒が混じっていき、濁った緑色の魔力が乗って可視化された烈風が吹き荒れてその雲を撹拌していく。
その風は中を飛ぶことすら許すまい。ただの一人も残さず、ミツカイはこの場から吹き飛ばされた。
大地を捲り、岩粒が浮き上がり、ぽつりぽつりと降り始めた雨はたちまち強くなる。
そして、白と黒の混じった雲にまで、魔力による濁った緑色が染み込んで、悍ましい戦場の様相を形作る。
――天候が、変わった。
ただ一体の魔族の力により、辺りは普通であれば立っていることもままならないほどの嵐に包まれた。
「露払いは済んだな。ぬしらの最後を飾るだろう光景に、下らぬ風習で我らを真似る下等生物どもを残しはせん。ディアネシュアの小僧ほどではないが、わしにも拘りというものがあるのでな」
バラルバラーズが風を司る四天王とされているのは、彼の属性に由来しているのだろう。
そして、彼が何故この試練において、“嵐”に己を定めたのか。
これもまた、彼がその力を有しているからの他ならない。
辺りに吹き荒れる烈風。天候さえ変える強大な力。ドラゴンという種が持つにしても稀だろう、広大な範囲に影響を与えるそれは、バラルバラーズが魔族の中でも最上位にあることを証明している。
「世界を変える、と宣ったそうじゃな? 百代目とは、個人のための勇者であり、九十九代目とは、世界のための勇者である、と」
轟々と風が鳴る中で、厳かに通る声が降り掛かる。
「勇者などという生贄にも等しい運命にあってなお、よくぞ個の使命を見出した。険しい道の中で定めたそれは、真実ぬしらの誇りじゃろう」
僕たちを囲うように吹いていた風が、遂に僕たちを巻き込み、この場全てを呑んだ。
外装を纏った状態であれば、吹き飛ばされないように耐えることは出来る。
だが当たり前にこれほどの力を操れるということは、中心で平然としている彼とこの状態で戦わなければならないということだ。
足に力を入れ、魔剣を大地に突き立てて、バラルバラーズを見据える。
細まったその目が、嗜虐に歪んだ。称賛の言葉とはまったく逆の感情が、その時点で向けられていた。
「この山は険しいもの。外の民に踏み躙られ、嫌悪し、憎悪する民どもが住まう最果ての地。であれば、ここに至る誰もが、それを前に折れぬ確かな信念を持つじゃろうと、そう思っておった。この時代まで誰一人辿り着かんのは些か想定外じゃったがの。ともあれ――ぬしらはわしの期待通りに実ってくれた」
彼が向けているのは、殺意ではない。
この山で、ミツカイたちからは感じることのなかった、“殺す”のではなく“害したい”という邪な感情。
ここまで巨大なものは、山の外でさえ感じたことはない。怖気がするほどの悪意だった。
「良いぞ。この山の殺意に負けず、あまつさえ利用してここに至った可能性――カカ、それでこそ、蹂躙する甲斐があるというものよ」
「――呆れた害獣だね。この山の、外に対する嫌悪も憎悪も、キミが一人で育てたものだろうに。この子たちはとばっちりを受けただけだろう」
「なんじゃ、そこまで知っておったのか。随分とミツカイどもの信頼を勝ち取ったと見える。ふむ……であれば先の連中は残しておいた方が良かったかの。眼前で連中の喉笛を噛み砕いてやれば、ぬしらもより怒りに震え、大きな力を発揮したやもしれん」
「っ……」
――喉を鳴らすように笑うバラルバラーズに対して湧いた苛立ちに任せて剣を振るうなと、自分に言い聞かせる。
僕たちはミツカイにとって、希望なのかもしれない。
だが、かれらの“怒りを晴らす”のは僕たちの役目ではない。かれらも、外の民である僕たちに対しそれを望んではいないだろう。
少なくともこの場での戦いは、ミツカイたちの事情の介在しない、勇者の試練だ。
「――戦うのなら、早く始めよう」
「む?」
「ユーリくん……?」
同時に痛いほどの悪意をぶつけられているからか。彼の言葉を必要以上に聞いていたくないと思った。
戦うこともなく、このまま彼に喋らせておけば、無暗な苛立ちは募る一方だ。
僕たちは試練の前提を終えて、ここにいる。やるべきことはあと一つ。
「キミの趣味の話なんて、どうでもいいし、聞きたくない。怒るも怒らないもなく、僕たちはキミに全力をぶつけて、突破する。そのために、僕たちはここに来たんだ」
「そう急くな。急く者は好かれん。何においてもな。物事には運ぶべき順序があり、それを正しく踏むことで情緒というものが生まれる。カカ、生きるにこれほどの肝要はそうないぞ、勇者。女を抱くこと一つとっても、使える“技法”というものじゃ」
「そんなことを学びに来たわけでもない。そもそも、キミにはそんな講釈、出来ない筈だ」
「くっ、ふふ……確かにその通りだ、ユーリくん。彼に語れる情緒など、到底理解できない代物だろうさ。そういうわけだ、ご老体。そろそろ引退したまえよ」
何がツボに入ったのか、イリスティーラが笑いを堪えつつ、バラルバラーズに銃口を向ける。
少なくとも、彼の言葉自体に賛同しているわけではないらしい。
その言い分に怒りを抱いているのは彼女も同様。
これ以上話しているつもりはないという意思表示を、やはりバラルバラーズは嘲るように受け止めた。
「下品よなぁ。聖都とやらの品位が知れるわ。ぬしらは知らんじゃろうが、わしにはやるべきことがある。この頂の玉座、譲ろうとは思わんよ」
「品がないのはお互い様だろうに――準備はいいね、三人とも」
「うん、いつでも」
「はい! ユーリくんの言う通り、僕たちは勇者としてここにいます。これが試練だというのなら――あなたの事情はどうあれ、僕たちはあなたを倒します!」
「……」
リッカの返事はないまでも、内から湧き上がるような魔力から、その集中は伝わってくる。
バラルバラーズの嘲りが油断にしろ、そうでないにしろ、僕たちは彼の想像を越えなければならない。
少なくとも、彼がこちらに向けている悪意は、試練で勇者を量る者のそれではないのだから。
「意気軒高、実に良し。わしとしてはもう少しぬしらと語らいたかったが――暫し遊んでくれよう。呆気なく壊れてくれるなよ、勇者ども」
立ち上がることもなく、もう一度翼を軽く震わせただけで、バラルバラーズの戦意は膨れ上がった。
吹き荒れる風の中で、飛ばされることのないよう魔力の噴出で姿勢を支え、魔剣を両手で強く握り込む。
さあ――この試練の、最後の戦いだ。
この強大なる嵐を超えて、魔王に至る、最後の鍵を手に入れるのだ。
VSバラルバラーズ。
長くお届けしてきた風の試練編もいよいよ大詰めです。