凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『壊嵐』/最強種(3)

 

 

「……何を、言っているんだ?」

「言葉の通りよ。カカ、分からんか? こんな世界を旅してきたのだ。無知のままでいられる筈もあるまい」

 

 困惑は、徐々に怒りへと変わっていった。

 恐怖から心を乱そうとするリッカが少しでも安心できるように、努めて冷静であろうとする。

 バラルバラーズの突拍子もない提案は、到底許容できるものではない。

 どころか、耳にさえ入れたくない言葉だった。

 

「なにもミツカイだけが特別なのではない。あ奴らとぬしら人間は隣人じゃ。可能性の行き先が違うだけ。どちらもあらゆる種を受け入れやすくなっておるし、あらゆる繁殖に適した胎を持つ。エルフは知らぬが……まあ、試してみれば良い」

「っ……――」

「ああ、安心せよ百代目。ぬしを蔑ろにはせん。わしの娘をあてがってやる。……といっても、気が乗らぬか? 異形と交わるのに抵抗があるのも分からんでもない。わしもかつてはそうじゃった。ミツカイが産み落とした子らの中には、純粋なドラゴンとして生まれることを許されなかった子らもおる。人型を強く残した子らであれば抵抗も少なかろう?」

 

 ――吐き気がした。

 保護と謳っておきながら、リッカたちを道具のように扱っていること、だけではない。

 そうと決めてから、バラルバラーズが僕に対して向ける感情が、ひどく友好的なものに感じられたから。

 

「まともなドラゴンが育つとも思えぬが、それもまた新たな一歩かの。やがて気さえ乗れば、ドラゴンどもとも交わってくれればよい。案ずるな、ぬしら人型の種で“殖えられる”のは実践済みじゃよ」

 

 リッカたちのことを何も考えていない一方で、形はどうあれ僕に対しては気遣いの色さえあった。

 彼の価値観が分からない。

 突如としてこちらを身内と認めてきたかのような言動は、言いようもなく薄気味悪い。

 

「……リッカ」

「……ん。ユーリがいてくれれば、私は大丈夫」

「……クイール、落ち着きたまえよ。鎮静剤はいるかい?」

「う、うん――いえ、大丈夫です。今はみんながいてくれてますから」

 

 不快さを隠さず、それでいて感情を押し殺した声でイリスティーラはクイールを案じる。

 その声で、混乱しかけていたクイールもまた、冷静さを取り戻した。

 ――クイールに対して何も言葉を掛けられないことを、苦々しく思う。

 男である僕が、彼女に対して何を言っても、逆効果にしかならない。そんな気がした。

 

「ちょっと最悪……どころの話じゃなかったですね。すっごく最悪です、あなた。僕たちの使命を否定してきたかと思えば、いきなりそんなことを言いだして」

「無駄死にするのとどちらが良いのかという話じゃよ。死ぬのは怖かろう? 命は惜しかろう? 生き汚さは恥ではない。何もなせずに死ぬよりは、腹でも痛めておった方がマシというものじゃ」

「もちろん死ぬのは嫌ですけど……それでも、希望に向かって歩くこと――望んでもいない、気持ち悪いことに抗う権利くらい、僕たちにだってあります」

 

 それを聞いて、またもバラルバラーズは喉を鳴らして笑う。

 彼の嘲笑は、最早この場の誰しもにとって腹立たしいものになっていた。

 

「断言してくれるわ――()()。ぬしらの前にあるのは絶望だけ。抗ったところで、どこでその存在、尊厳の全てを凌辱されるかが変わるだけでしかない。カカ、能天気すぎて呆れるのう。まだ幸福が――平穏が自分らにあると信じておるとは」

「そんなの、終わってみなければ分かりません。幸せになるのが難しいなら、全部終わってから考えます」

「うん――その通りだよ。バラルバラーズ、キミだって、偉そうに言える立場じゃない」

「何?」

 

 売り言葉に買い言葉ではないが。

 好き放題に言われ続けることは、僕としても不快だった。

 僕たちのこれまでを、そう簡単に否定されたくない。リッカの歩みを、知りもしない者に否定されたくない。

 

「魔王を倒して使命を終えた先にも、絶望しかないかどうかなんて、使命を果たした勇者が一人もいない以上誰も分からない。僕たちはハッピーエンドに辿り着いて、その先まで歩いていく。そう決めたんだ」

「不可能の先を証明する必要がどこにある。分かっておるか? 確かにぬしらの今は偉業そのものじゃが、それでさえわしらの戯れの範疇でしかない。試練をこなしただけで四天王を制覇した気になっておるのではあるまいな?」

「この先、本気の四天王が立ちはだかるのなら、全員倒す。キミも、他の三人も。そんな覚悟はもうずっと前にしている。キミたちが遊び気分かどうかなんて、どうでもいい。でも、そうだというなら――知ったような口で僕たちの希望を否定しないで」

 

 悪意を持った魔族たちの戯れが、どれだけ冗談にならないものなのか。

 かつてはそれを知らない頃もあった。何も知らないままに、変わってしまったリッカに守られてきた。

 もう、リッカを一人にはさせない。僕の決意は曇らない。

 遊び気分で害意を向けてくるのであれば、その全てを倒して先に進む。リッカの復讐を肯定し、そして、ハッピーエンドに向けて。

 

「親切心だったんじゃがのう。まあ良いわ。甘い夢を抱いておるなら、力尽くで組み伏せ啜る。幾度となく繰り返してきたことじゃ。それと同じになりたいというのであれば是非もない」

「最初からそのつもりだったクセに、わざとらしい。ああ、一応私の回答も返しておこうか――“ふざけるな”だよ。山暮らしの老体には分からないだろうが、聖都育ちのエルフは選り好みをするんだ。キミじゃあちょっと話にならないね」

 

 イリスティーラもまた、そう吐き捨ててバラルバラーズに中指を突きつけた。

 それは決意も誇りも投げ出して、少しでも穏便に諦めるならば、考慮し得る提案だったかもしれない。

 だが、僕たちにはもう、諦めるという選択肢はどこにもない。

 

「実に――実にぬしらは面白い。わし好みじゃ。抗う者の四肢を砕き、誇りと肉体を貪ること。苦痛に染まった顔と、助けを請う絶叫に酔うこと。結局のところ、何よりわしを滾らせるのはそういう趣向じゃ。ゆえに――」

 

 ――膨れ上がったバラルバラーズの魔力に対抗するように、魔剣を振り上げる。

 それに合わせて、クイールとイリスティーラもまた動いた。

 吐き出された風のブレスを、三つの攻撃で相殺する。

 至極愉快そうに、バラルバラーズは笑みを深めた。

 

「食前酒じゃ、まずは適度に苦悶を零せ」

 

 牙を剥き出しにして笑う彼の姿が、あまりの密度の魔力で覆い隠される。

 それが解放されれば、発現するのは触れただけで岩さえ砕くだろう魔力を伴った全方位への暴風。

 すぐさま盾に込められた防御効果のある魔法を全員に対して行使するが、付け焼刃にしかならない。

 

「……!」

「――――ッ」

 

 ほんの一秒の拮抗。

 次の瞬間には魔法の障壁は打ち砕かれ、先のブレスと同じように攻撃での相殺を試みようとして、それよりも前に目の前に広がる色を銀色が塗り潰していく。

 それは、雷のミツカイとの戦いで、“ソロ”の爆発から逃れるためにリッカが行使した退避手段。

 前回よりも少しだけ鮮明になったその色の中で、リッカの声を聞く。

 

「――ユーリ、少しだけ位置を移動する。あのコードを斬って」

「分かった――!」

 

 銀色が晴れれば、そこはバラルバラーズの背後。

 クイールとイリスティーラの様子を確認することは出来ないが、内に感じるつながりから、無事であることは分かる。

 ならば、今は気にしない。

 バラルバラーズの不意に飛び込んだこの好機は、彼が確信している絶対の優位を崩し得る。

 強く踏み込みながら、魔剣の魔力を解放する。血のような魔力が鋭く尖った鉤爪の刃を形成する。

 

「ッ、なっ……」

 

『アドラ・エクスラッシュ!』

 

 それは、魔剣によって発揮することが出来る最大級の威力。

 血の斬撃は空気を裂き、大地を抉り、そしてバラルバラーズと繋がるコードの一本を握り潰すように破壊した。

 ガラスを割ったような、パキンという音と共に弾け、辺りに霧散していく欠片。

 その一片が傍に転がってくる。内側に刻まれた術式は、それに沿うように流れていたらしい魔力によって淡い色で脈動していた。

 

「――おのれ、人間ッ!」

「が――っ」

 

 それまでとは違う激昂の声と共に、体を尋常ならざる衝撃が襲った。

 振るわれた尾による一撃――感じたことのない重さに一瞬、意識が飛ぶ。

 気付けば地面に転がされていた。

 立ち直ろうとした直後、更なる痛みが叩きつけられる。

 もっと遠くへと飛び掛けた意識を引っ張り上げ、魔剣を大地に突き立ててその衝撃を堪える。

 体全体の軋むような痛みに耐えながら前を向けば、岩塊と錯覚するような拳がそこにあった。

 

「――――ぁ」

 

 その瞬間のダメージは、限界すれすれだったように思えた。

 意識の朦朧としていた状態でまともに直撃を受けて、“それだけ”で済むとも思えない。

 つまり、その一撃を何かが軽減したということで。

 

「ッ……はぁ……愚かしきことよ。下らぬ情で、勝ちを捨てるとは」

 

 苛立ち、焦り、そして安堵からの、やはり嘲り。

 バラルバラーズが向けてきた感情を受けて、自分たちの状態に気付く。

 

「くっ……あ……!」

 

 全員、死なずに意識を保っていたのは、奇跡だったのかもしれない。

 ただし、誰一人戦闘の続行を可能とはしていなかった。

 外装は解かれ、痛みから立ち上がることも難しい。

 クイールとイリスティーラが僕たちを庇ったことで、“それで済んだ”と気付いた。

 

「い、いえ……まだ、まだ、です。ユーリくんたちのおかげで、勝ちに一歩、近付いたんですよ」

「……っ、まあ、そうだね。随分な焦り様じゃ、ないか。キミ、たったあれだけで、息が切れているぞ?」

 

 バラルバラーズの異常な疲労は、ただ反撃をしただけのものではない。

 これほどの嵐を操るドラゴンだ。尾を振るい、拳を振るっただけで息を切らしているならば、そんな能力はついてこないだろう。

 では何故、現にバラルバラーズは歯を食いしばり、全身で息をしているのか。

 

「……つまり、あの柱は……延命装置の代わり。とっくの昔に来ていた寿命を、先延ばしにしていた」

 

 リッカの結論に異を唱える者はいなかった。

 ドラゴンの平均的な寿命がどの程度なのかの知識はない。もしかすると、個体ごとの性質が異なるように、寿命さえ大きく異なるのかもしれない。

 その中にあって、三千年を生きる最高齢のドラゴン。

 なおも四天王としてこの山を支配する彼の力に、なんの秘密もないなどということはなかった。

 

「カ、ハァ……ぬぅぅ……ッ」

 

 恐らくは、生を維持し、万全で在り続けるための規格外の魔法。

 その供給を常に受けることで、彼はとっくに来ていた筈の“終わり”を先延ばしにしていたのだ。

 

「それを知って、どうなるのか。限界のぬしらが最後に至ったわしの意地……次代の勇者にでも、知らせるか? その手段さえ、ぬしらには、残っておらんじゃろうが」

 

 バラルバラーズは四肢を大地に叩きつけ、ふらつきながらも立ち上がる。

 まるで、立つことさえままならない僕たちとの決定的な差を見せつけるように。

 無理をしていることは明らかだった。いくつもあるコードのうち、たった一本を断たれただけで、あれほどまでに消耗した。

 それほど一本辺りの役割が大きいのか、発揮している魔法がコードごとに異なるのか。どちらにせよ、今のバラルバラーズにこれまでのような力が発揮できないことは間違いない。

 

 ――だが、それはこちらも同じだった。

 これ以上戦うのは難しい。死の淵で生を拾ったかのように、どうにもならない状況だった。

 

「……カカ、悪くない表情じゃ。その秘密を誉れに、我が氏族の礎になるが良い。さて、まずは誰にするか――そうさな。ぬしにするか、この中の誰より、わしらを恐れているようじゃからの」

「ッ……!」

 

 それでも、獲物を見る目がリッカに向けられた途端、体は動いた。

 限界を訴え警告するような痛みを無視して、バラルバラーズに対抗するように立ち上がる。

 

「――ハッ! そうかそうか、まだ立つか! 女子を庇うために、立ち上がるか! 良いぞ! ぬしの前でその女子を犯すも堪らぬ趣向――ミツカイどもにもそういう輩は多かった! ぬしらの抵抗は、何よりわしをそそらせるわ! カカ、カカカ――!」

 

 リッカが立てなくとも、まだ抗う手段は残っている。

 アッシュの力を借りれば、もう少しだけ――いや、何度だって立ち上がり、戦える。

 

「ユー、リ……!」

「大丈夫……リッカは、僕が守る……!」

 

 バラルバラーズの哄笑が響く中で、宣言する。

 リッカが絶望する必要なんてない。リッカがいる限り、僕は倒れない。

 その決意を嘲笑うバラルバラーズを、僕は決して許さない。

 

 彼を見据え、懐からアッシュを取り出そうとした――その刹那。

 

 

 

 

 ――上方に満ちた雲が、にわかに輝いた。

 

 

 

 

「カッ――」

 

 

 

 

 ――風の音を、それに勝る轟音が塗り潰した。

 

 

 

 

「ああ――この日をどれだけ待ったことか。ついに捉えたわ、貴様の心臓」

 

 

 

 

 ――雲を裂き、嵐を裂いて、怨讐に満ちた雷が落ちてきた。

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