凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
風が吹いていた。
この大陸で一番高い場所に吹くとは思えない、あたたかい風だった。
感じ方によっては、それは不気味にも感じられるかもしれない。
だが、今の僕には、ミツカイへの――そして、僕たちへの希望にして、祝福に思えた。
「……終わったん、ですよね?」
「……きっと。これで、僕たちは――」
ただ、どうにも現実感がなくて、僕とクイールはイリスティーラに目を向けた。
その意図が分からなかったのか少し首を傾げた彼女だったが、すぐに意を得たりと頷く。
「そうか。この場でそれを確信できるのは私だけだったね。――ああ、灯っているよ。キミたち二人の内に、四つの灯が。キミたちは辿るべき、すべての試練を終えたんだ」
「――――!」
外装を解いて、イリスティーラは微笑んだ。
ある程度の魔族であれば、勇者に灯る試練の証明は一目で分かる。イリスティーラによる答え合わせをもって、ようやく確信が持てた。
僕たちは、果たすべき四つの試練を完了させたのだ。
「イリスッ!」
「っとと、元気だなキミは。やろうと思えばまだ戦えそうじゃないか」
「イリスの薬が効いているので!」
クイールは外装を解きつつ、イリスティーラに抱き着いた。
イリスティーラもそれを拒んだりはせず、適当に受け止める。
「……リッカ」
「……ん。やっと、終わった。大きな目標の一つが」
リッカにとって――それはどれほど遠い目標だっただろう。
一つとして達成することは出来ず、長い長い、答えの見えない試行錯誤があった。
けれど、それは無駄ではなかった。リッカの歩みを無駄にすることはなかったのだと、リッカの様子を見て安心できた。
これは終わりではない。寧ろ、ここから先は何をするのかさえ見えないのだ。
だが、ずっと超えられなかった大きな壁を超えた。それを喜ばずにいられようか。
リッカと同時に、外装を解除する。どっと疲労が押し寄せてくるが、途端に膝から崩れ落ちかけたリッカを見て、思いのほかすぐに体は動いた。
『あだっ……だからユーリ、投げるんじゃ……まったく』
『キミ、色々難儀だねぇ』
カルラから貰ったハンカチで呼吸を整えるリッカが、全力を使い果たしていたことは明らかだった。
どうにか足に力を入れて立ち上がったリッカは、震える自分の腕を見て、どこか悔しそうに苦笑する。
「……やっぱり、ユーリみたく、戦えないね」
「……僕はリッカがいるから戦えるんだ。リッカと、変わらないよ」
バルハラの言う通り、リッカにはどこかに――憧れがあったのかもしれない。
この魔法が作り出す外装を纏って、自分自身の手で戦うという、かつてどこかに置いてきた憧れが。
時間の流れを操作した上での、激しい動き。それは体の弱いリッカになせるものではない。
きっと、あの外装には自身の負担を減らす機能があったのだろう。
あれが“いつも通り”の運用を想定していたならば、僕が時間操作を行いやすくするためのものだと思われるが――その機能が、リッカの小さな願望を叶えることになったようだ。
「リッカ……バラルバラーズは――」
「……
クイールたちに聞こえないように小声で問えば、リッカも掠れた小声で返してきた。
具体的ではない答えだったが、彼がどうなったのかは明らかだった。
――それでリッカの心が少しでも晴れるのならば、構わない。
リッカに理不尽を強要した世界に対する僕の結論は変わらない。バラルバラーズの“行方”がリッカの想定通りであるのならば、それが最も望ましいことなのだ。
「リッカちゃん、大丈夫ですか?」
「ん……疲れただけ」
駆け寄ってきたクイールにも、これまでのような拒絶はしない。
この試練を通してリッカがクイールたちに信頼を寄せることが出来たのも、必要な一歩だっただろう。
「無理もない。随分な活躍だったからね。あれは、今後も使えるものなのかい?」
「……難しい。負担を軽くして、これだから。うん――きっと、これっきり。それでもいい」
「――そうかい。いや、安心したよ。相当の無茶をしていることは明らかだったからね」
これきりか――それは安心でもあるし、少し残念だなと思う自分もいた。
リッカと動きを合わせて戦うことは、楽しかった。
二人で一人という、いつもの戦い方とは違うけれど、或いはその時よりも、僕たちが一つになって戦えたようだったから。
「さて……それで? クイール、ユーリくん。四つの試練を終えれば、変化が起きるんだろう? キミたち、何か感じるものはあるかい?」
「えっと……特に何も?」
「……うん。僕も、何もない、かな」
イリスティーラと共に首を傾げる。
内に燃える勇者の証が健在であることは分かる。だが、そこに何か変化があるようには感じられない。
四つの試練は、『世界門』を開くための鍵である。だからといって、その『世界門』の在り処は分からないのだろうか。
バラルバラーズから問うことも、もう出来ない。
今、この場で手掛かりとなるようなものは――強いて言うならば、クイールとイリスティーラが破壊した、バラルバラーズを繋いでいたあの柱か。
「……」
あれは、ホロゥの地にあったものと同じものだ。
ホロゥではあれから魔王が現れた。魔王は、あの時なんと言っていたか。
そう――あの姿、あの端末は、本来風の試練を終えた時、僕たちの前に現れる想定だったものだ、と。
そこに思い至った時、罅割れた柱の内から光が零れ始めた。
「ッ、皆、注意したまえ!」
イリスティーラが前に出る。クイールも警戒しつつ聖剣を構えるが、既に僕たちにはこれ以上戦う力は残っていない。
何かが現れるのだとすれば相当厳しい。しかし、それでも抗わなければ。
柱を注視していれば、やがてその光は弱まっていく。
柱は崩れ落ち、中から出てきたのは、人の形をした魔力の靄。
少し衝撃を加えただけで解れてしまいそうなほどに弱々しい塊には意識があり、そして何も感じない空虚さがあった。
『百代目勇者ユーリ。九十九代目勇者クイール。よく、ここまで至った』
魔法音声の如く感情のない言葉が紡がれる。
間違いない。姿こそ違えど、あれは――あの時出会った存在と同じものだ。
「……あな、たは?」
『
「――!」
クイールやイリスティーラの驚愕を他所に、その存在は揺らめいて動く。
自らの手を見下ろし、その姿を確かめているかのような仕草だった。
『このような端末でキミたちの前に現れることは望ましいことではないが、仕方あるまい。この柱は壊れ、間もなく役目を終える。残された権限も少ない状態であるがゆえに』
「……そういう、ことですか。そうですよね。やっと現れた魔王が、今の僕でも倒せそうなくらいの強さだなんて思えません」
――大丈夫、落ち着けている。僕にもリッカにも、以前のような動揺はない。
そして、クイールたちも落ち着いていた。
彼女の言う通り、現れた端末たるその存在は、大きな力を持っているわけではない。
大きく見積もっても、並の魔族程度。破壊された柱からは、その程度の力しか引き出すことが出来ないようだ。
『警戒せずとも、
「導き……?」
『然り。よくやった、勇者たち。キミたちは求められし四つの試練を制覇し、勇者としての完成形に限りなく近い存在となった。これは
魔王は、そう僕たちを祝福する。
かの存在が現れてから、千年。四つの試練を終えた者はいなかった。
僕たちは史上初めての場所にいる。それを喜んでいるように見せかけた魔王に感じられるものが何もないというのは、やはり不気味だった。
『最早『世界門』はキミたちを拒むまい。勇者の証に灯った四つの鍵をもって、その門は開く。ロスラウドを目指せ。そこに、
「……ロス、ラウド……」
聞いたことのない名前だった。
クイールも首を傾げているし、リッカやイリスティーラもその怪訝な表情から、知識の中に思い至る場所はないようだ。
「……聞いたことのない地名だ。一体、それはどこに?」
『知る者が、キミたちの身の回りにいる筈だ。であれば、
僕たちの知っている誰かが……?
それを知っていながらも、誰、とは魔王は明言しなかった。
情報を手に入れることは僕たちの役目とでも言うのだろうか。
『信頼は希望を生む。その希望を、
「ふん……結局魔王とやらの目的がなんなのか、魔族たる私たちも知らされていないんだがね。千年もこんな催しを繰り返して何を企んでいるのか、そろそろ周知しても良いんじゃないか?」
『今はその必要性を感じていない。いずれ誰もが知ることになる。
魔王は苛立たしげなイリスティーラに対しても、答えを示すことはなかった。
この千年、そしてリッカの繰り返しは、魔王の何らかの目的に行き着く。
しかし、まだ魔王はそれを明かそうとはしないらしい。この場で何をしようとも、答えを話すことはないだろう。
手がかりらしい手がかりは、一つの名詞だけ。
それをもってどう動くべきなのか。考えている間に、魔王の姿は解れて、消えかけていた。
『この柱はここまでか。だが、その前に。風つの試練を終えたのであれば、この地の果てに用事もあるまい。ゆえに、キミたちを始まりの地へと送り返そう』
――抵抗するよりも前に、僕たち全員を何かの魔法が包み込む。
「これって……!?」
「転移――それも、ここまで大規模な……?」
『安心するがいい。危険はない。次なる導きは示された、山から出るのに数日も掛けていては非効率だろう。異文化の中で自然を超え、そして四つの試練を果たしたキミたちへの、
リッカとイリスティーラがそれぞれ、自分たちを包む魔法の術式を読み取ろうとする。
しかし、流石に間に合わない。その光が強くなり、魔王の姿も見えなくなる。
『この術式は百代目の始まりへと調整されている。聖都への道はこの山を下るよりも容易いだろう。暫しの休息を、
そうして、魔王の声も聞こえなくなった。
体が強く引っ張られる感覚の中で手を伸ばし、リッカの腕を掴む。
機械的な魔王の言葉に偽りがあったとすれば、同じ場所に飛ばされるとは限らない。そんな疑念からだった。
けれど、真実だったとすれば、彼が言った、“百代目の始まり”とは。
思いつく場所なんて、一つしかない。
僕が勇者として選ばれた場所であり、勇者として選ばれる前の生を過ごしていた場所――。
「――――――――――――ッ!」
――取り戻した視界に飛び込んできたのは、久しく見ていなかった景色。
そして、どんな場所よりも僕が見慣れた景色だった。
「いたた……転移ってこんな乱暴なものですか……?」
「位置の指定が雑だったんだろうさ……しかし、ここは……? 百代目……ユーリくんの始まりの地、と魔王は言っていたが……」
よかった――クイールとイリスティーラも、一緒に転移してきたようだ。
見たこともない場所であれば安心はできないが、この場所であれば大丈夫。
これまでの旅を考えると、聖都は決して遠い場所ではない。ゼクセリオンがあれば、一晩とて掛からない。
「……リッカ」
「ん……なんだか、懐かしいね」
それに、暫くの間ここに滞在する選択肢だってある。
カルラについては……どう説明するべきかと考えていれば、リッカが首を縦に振る。もしかすると、既に何かを思いついているのかもしれない。
クイールやイリスティーラも、僕たちの仲間だと説明すれば歓迎されるだろう。
元々、カルラを受け入れるくらい、優しいみんななのだから。
「しかし……ユーリくん、リッカくん――まさかとは思うが、ここが……?」
イリスティーラの声色は、どこか硬かった。
まあ、確かに聖都を考えると、田舎にも程があるかもしれない。
旅をしてきても、これほどに目立つもののない町なんてそうそうなかった。
少し不便を掛けさせるかもしれないが――それでも、僕たちの故郷を、知ってほしい気持ちがあった。
「うん――僕たちが育った村、アズだよ」
「ちょ……待ってください、ユーリくん! リッカちゃん!」
日が暮れて、辺りの木々が夕日を遮るこの一帯で、向こうに見える唯一の明るい村。
リッカと共に駆ける。足下の草が音を立てて、みんなが気付いてくれた。
「ただいま、みんな!」
まさか、旅が終わる前に一度戻ってくることになるとは思わなかったけれど。
使命の途中であっても、この村に帰ってくることができたのは、嬉しかった。
【ユーリ】
「うん。まだ旅の途中だけど、試練は全部終わったんだ。魔王まで、あと少し」
【リッカ】
「カルラは……別のところで、私たちを手伝ってくれてる。ん、私も平気。ユーリが守ってくれるから」
【イリスティーラ】
「……魔王の仕業か? 何が起きている?」
【クイール】
「村って……どこに? ユーリくんとリッカちゃんは、誰と話してるんですか……?」
――So, let's get the
+
聖都への帰路、聖都、バルハラ、風の試練。大きく四つに分かれる長い章となりました。
全ての試練を終え、この後数話の後日談が入った後、最終章へと突入します。
最後の戦いに向けて、あれやこれやを回収していくことにもなるでしょう。
感想・高評価・ここ好き等、いつもありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。