凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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幕間:銀幕に花は唄う

 

 

 ――千余年は前の物事を、きらめく微睡の中で回想する。

 ほんのひと時の戯れで退屈がどれだけ和らぐかを追い求める生涯において、それは一際異質な“騒動”だったと言えるだろう。

 

「バルハラ様がいなくなったよ」

「ヨハンナも一緒に、どこかへ行ってしまったよ」

「あちこちに飛び散ったよ、バルハラ様のかけら」

「死の谷の乙女、幼獣の星、灰かぶり、ほかにもたくさん。新たなる世界も」

「生まれ変わるよ。世界は大きく生まれ変わる」

「色のない世界に色が生まれて、意味が書き込まれていくよ」

「見えてもいない、決まってもいない結論に向かって、世界は歩き始めたよ」

「すべては人間の傲慢の末路。結末なんて、知らないからこそ楽しいのに」

「かわいそうなヨハンナ。狂気にのまれて、糸を動かされて」

「バルハラ様と一緒に、消えてしまったよ」

 

 そう、その日世界は変わった。

 意味もなく、誰しもが誰しもに縛られない権利を有する自由の世界は、その日終わりを告げた。

 誰かと手を結ぶ必要などなく、己の使命こそが価値を決める、“当たり前”しかない世界に向かって歩み始めた。

 

 それは革命だったのだろう。

 人間の傲慢は責められまい。かれらは常に、未来を見てその先の可能性を目指す克己心に満ちている。

 そうでなければ、ヨハンナがバルハラを堕とすことさえあり得なかった。

 勇気ある聖女に続き、しかしその志を継ぐことの出来なかった者たちは、違う道を歩み、そして踏み外した。

 要因が何であったのかは不明だ。人間だけでそこに辿り着くには尚早だろう。断言できるほど人間を信じていないわけではないが、それでも不自然なほど、その“事故”は早かった。

 とはいえ、かわいい我が子たちは結果だけを見る。

 人間が悪いと、起きた出来事に怒りを、不満を露わにする。

 

 そうして変わった世界で、新たな催しが始まった。

 魔族の支配から解き放たれるための、人間の可能性の探求。

 あるいは、それを名目とした魔族たちによる宴。

 低俗ではあったが、そこにこれまでにはない愉しみがあったことは否定すまい。

 直接干渉したことなどないものの、我が指先で見ているだけで、その光景はきらめきに満ちていた。

 

 果たして、魔族の有象無象はそれを感じられていただろうか。

 眩いほどの人間の可能性。それを知り、尊ぶことが出来る者は、いったいどれほどいるのだろう。

 

 退屈が嫌いだった。

 決まりきった流れが嫌いなのではない。そこから未知を想う気持ちが消え、きらめきが褪せることが嫌いだった。

 瑞々しい希望があってこそ、輝ける未知が生まれる。

 絶望に満ちた世界の、どこにきらめきがあろうか。

 説き伏せられてやった手前、不干渉を努めた中で、あまりにも分かり切った衰退に向かう世界を憂いて零した溜息は百や千では済まない。

 

 はじめこそは世界を再び取り戻さんと意気込む人間に、可能性を見た。

 しかし程なくして、希望の象徴などではないと広まって、澄み切ったその色は澱んでいった。

 腹立たしい。情けない。退屈だ。どうしてこのような世界になってしまったのか。所詮世界など、この程度か。

 諦観から年単位の不貞寝をしたことだってある。

 とかく、愉しみが必要だった。

 たった一夜でも良い。寧ろ、そのような、瞬きの間に過ぎ去ってしまうような享楽でなければならない。

 そういう短く、強い輝き、眩いきらめきこそ、この胸を熱くさせる。

 世界に生まれるのは、そういう物語だけで良い。

 

 ――そんな想いに応えるように、眼前に現れた小さきものたちは、一風どころではない変わり者であった。

 

 珍妙な被り物をした赤い妖精を座長とした劇団。

 はじめの頃、どうやって我が領域にやってきたのかは知らない。気付けばどういう訳か生きたまま、連中は我がもとまでやってきていた。

 当然の命乞いこそあったものの、口癖となった退屈を零した瞬間、その恐怖は薄れていった。

 そうして次の瞬間、あの小娘が口にしたのは――

 

「――だったら! あたしたちの出番だよな!」

 

 我が意を得たりとばかりに飛び跳ねて、たちまちやる気になった小娘が求めるので、機会を与えることにした。

 何をしようとしているのか、まったくもって分からないが、ともかくこの退屈が慰められるのならば見せてもらおうと。

 

 そうして始まった、連中の即興劇は、拙いものだった。

 脚本も用意しておらず、ただ流れがぐらぐらと揺らぐ物語を紡いでいくだけ。

 心得のある評論家が見れば、その世界観が語られるよりも前に席を立つだろう、いっそ滑稽にさえ思える演劇。

 しかし、その真摯な様子、全霊で打ち込む姿に、きらめきを見た。

 

 小娘が土塊の怪物を倒し、小さな世界を救った時。

 柄にもなく手を打ったことを覚えている。

 それだけではない。愛おしい我が子たちも、辺りに集まり、歓声を連中に浴びせていた。

 外で流れている銅貨の一枚にも劣るようにしか見えない、しかし貴い輝きが、そこにあった。

 

 外に希望こそない。しかし、連中のきらめきは本物だ。

 退屈な中で、あれは唯一と言っても良い、我が胸に響く感動であった。

 あれから、あの連中を賓客として、定期的に呼ぶようにした。

 あの連中の演劇は好い。脚本が無くとも様になっていたが、よく練られていればこそ、より輝く。

 それは脚本を書く小娘に情熱があったからだろう。

 その熱が観客にも伝わり、さらに演劇の質を高めていくのだ。

 

 ――昔から演劇は好きだった。

 かつては人間どもが演じるおとぎ話を、バルハラたちと共に観劇したものだ。

 それさえ忘れるほどに、今の時代は退屈だった。

 今の時代に、世界を変えるほどの輝きはない。だからこそ、あの連中という存在が生まれたのだろうが、愉しみが生まれた一方でこの世界を見る目は一層冷めていった。

 

 また一人、勇者が選ばれる。

 何をなすこともなく、道中で崩れ落ちた。

 また一人、勇者が選ばれる。

 その使命の重さに耐え切れず、程なくして発狂した。

 また一人、勇者が選ばれる。

 自暴自棄になって集落の外に飛び出し、獣の餌になった。

 

 勇者とは名ばかりの生贄が積み上げられていくだけで、世界になんら変化が訪れることはない。

 あまりにも下らない。世界に目を向ける価値さえ、見出せなくなっていく。

 そうか――これがシェオルの感じた失望か、と。その時納得した。

 バルハラのように、ばら撒かれた己の破片が意味を持っていくという、興味を煽る性質は己にはなかった。

 世界を去るつもりはなかった。退屈ゆえにシェオルほど、世界に期待を持ってはいなかったから。

 或いは、変わったこの世界が完成してしまえば、その時こそ見限ってしまおうか、とも考えた。

 このままであれば、その時はすぐにやってこよう。

 そう思って目を閉じて――世界を縛る錠前に異変が起きたことに気付いた。

 

 新しく生まれた勇者は、輝いていた。

 その輝き一つしか持たない、生命としてとびきりの欠陥品。

 これまでの勇者、いずれも成し得なかった偉業を遂に成し遂げ、その勇姿にほんの僅かに期待した。

 勇者が錠前の半分を解き、行方知れずになった時の空虚と落胆はこの千年を通しても最たるものだっただろう。

 

 だからこそ――次の勇者に期待はかけないようにと思い、また目を閉じて。

 次に目を開いた時、腹を抱えて笑った。

 

 かつて強い輝きを見せた勇者が帰ってきていた。

 そして、新しい勇者はその力を借り、前代未聞の領域にまで至っていた。

 二人の勇者がいるという状況。そしてその勇者たちの戦い方に、暫し釘付けになった。

 最新の勇者は、もう一人と比べて強い輝きを持っている訳ではない。それどころか、一人では立つことさえままならない、弱い存在だった。

 だが、その弱さを自覚し、一人で立てないからこそ、信頼する者の手を取って、共にどこまでも進むことの出来る可能性を秘めていた。

 

 単独では進めない者は勇者足り得るか。

 そのようなこと、考えたこともなかった。だが、考えれば考えるほどに、だからこそ相応しいと思えた。

 仲間と共に在るからこそ真価を発揮し、先へ先へと足を進められる――それこそは既に忘却していた人間の可能性。

 最早人間に、そのような力が残っているとは思っていなかった。

 人間というものを最も知っているのは、あの愉快な妖精たちなのだろうと、そう思い込んでいた。

 だが、まだ人間の可能性は潰えていない。

 それに喜びを覚え、勇者の旅を手繰り紐解いた。

 断言しよう――あの時間こそは、この生涯で最も愉しい時間であったと。

 

 一歩間違えれば、その輝きを損なってしまう。選択次第でその価値は瞬く間に失われてしまう。そんな危うさこそある。

 だからこそ、その歩みは尊いものだ。その成長はどんな人間よりも、この胸を熱く焦がす。

 そして、その勇者同様に、面白いと感じる者は、いつも隣にいた。

 

 ――リッカ。そう、リッカというのか。

 勇者ユーリの付き人リッカ。

 バルハラから飛散した破片に宿った、稀なる色。かの混沌を自覚し、時の流れさえ調伏した、この世界における“バグ”。

 あの小娘がいたからこそ、勇者ユーリは、勇者として誰も至れぬ境地へと至ったのだろう。

 

 その小娘の物語を一から紐解くことは出来なかった。

 バルハラが何かしたのか。それとも、そのはじまりは誰も見るに値しないのか。

 至極残念ではあるが、仕方がなかった。捻じくれた道程さえ見ることはかなわず、至ることの出来たのは“今回”の開始地点まで。

 それだけではこの小娘がどうしてこれほどの狂気を得たのか、想像することしか出来ない。

 

 知りたいと思った。

 その物語に触れたいと思った。

 勇者ユーリの可能性。リッカの可能性。いずれも我慢ならないほどに、この身を滾らせる。

 それは一体、どうしてなのか。ただ知らないものを見ただけでは、こうはなるまい。

 もう一度、もう一度と何度も二人の物語を読み解いて――ようやく、見つけることが出来た。

 

 そこにいる筈がないものだ。だからこそ、この視点では気付けなかったのだろう。

 一度認識してしまえば、そこは違和感の塊だ。

 ああ――なるほど。どういう訳かは知らないが、そこに()()()がいたのか。

 それだけではない。

 二人と共にいて、強い絆で結ばれて。それぞれの存在意義となっているからこそ、それにある種のシンパシーを感じてしまったのだ。

 

 どうしてそもそもそこにいるのかという疑問はあるが、それに目を瞑れば、特段不思議なことではない。

 あの子の想いは、我が想いにも等しい。余は、そういう存在だ。

 

「ユーリが、全部の試練を終わらせたよ」

「リッカと一緒に、四つを成し遂げたよ」

「もしかすると、今度こそ世界は変わるかも。やっぱり、わたしが思った通り」

「わたしだって、ずっとそう思っていたよ。けれど、それだけじゃない」

「ぜんぶ」

「ぜんぶ」

「ぜんぶ」

「わたしたちのぜんぶが、変わろうとしているよ」

 

 ああ――騒がずとも良い。理解しているとも。

 何もしなければ変わらないだろう。だが、気付いてしまえば最早余の興味を抑えることなど出来よう筈もない。

 いつか、やってみようとは思ったのだ。演劇を見るだけではなく、“それらしく”、演じてみる立場というものを。

 

 許せよ、ヨミ。許せよ、ハデス。

 どの道世界が変わるとあれば、余も一度くらい何か、“大きなこと”をしてみたい。

 

 その果てでこの命が潰えるもまた一興。そうなっても、さほど問題にはなるまい。

 今の魔王を名乗る者には悪いが、適当に利用させてもらおう。

 すべては、ユーリとリッカを我が舞台に上がらせるために。

 一度想い始めれば、もう止まる気配はない。

 大切な存在なのだろう。であるならば、諸共愛してやるのが、母の務めというものだ。

 

「のう――愛しきカルラや」

 

 くすくす、くすくす、くすくすくすくす。

 我が子らの笑いが、領域を満たす。まるで、妖精たちの演劇、その戯けた場面のように。





劇場版 凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 in Underworld





今年最後の更新となります。
どうにか週一更新は守れて安心しております。
目標としては来年中に完結したいところですが、来年の私の気分次第なので完結していなかったりエタったりしていたら嗤ってあげてください。

年明け最初の更新は、いつかのMaterialのようなちょっとした振り返り。
続いて幕間を一話上げてから本編に戻り、劇場版と勝手に銘打った中編のお話に入ります。
日曜日の朝な感じで読んでいただいている方は、毎年夏にある終盤な映画をイメージしていただければと思います。冬だけど夏です。でも同時上映はないです。

それでは、一年間ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
また、感想、評価、ここ好き等もなにとぞ、なにとぞ。
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