凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
魔道具を起動し、魔除けの結界を張る。
流石にこの数日毎日起動していれば、慣れるというもの。
最初の野宿の時に手慣れた様子のリッカに教えてもらったことで、これを起動するくらいの魔力の操作が出来るようになった。
魔法とは魔力の扱いが全ての基本となる。
ゆえに、簡単な魔道具で感覚を掴むのが魔法使いの第一歩らしい。
「リッカ、起動したよ」
「うん。手慣れてきたね、ユーリ」
僕がこれを起動している内に、リッカは別の魔道具の準備をしていた。
円盤型のそれは、熱を起こして焚火の代用となるもの。
杖でその縁をなぞっていたリッカが一歩離れれば、円盤の中心から高熱が立ち上り始める。
火の魔力が必要になるこの魔道具は、有している属性が土であるリッカにとって少し扱いが難しいものらしい。
魔力の性質変化はある程度の技術が必要なもので、こうした魔道具は使おうにも使えない者が多いとか。
実際、僕が持つ属性は火だというので、こっちを僕が担当した方が良いのだろうが、先日触れてみたところリッカに結構怒られた。
加減を誤ると暴発して惨事が起こりかねないとか。
危なかった。その辺りのコツを掴むためにも、属性の指定など細かい条件の必要ない、魔除けの方で練習させたいのだろう。
僕としては魔法を扱えるまで、とは思っていないが、少なくとも旅に使う魔道具は一通り使えるようになりたい。
魔力を扱うことを何でもかんでもリッカに任せるのは、どうかと思うから。
「それじゃ……少し休んだらご飯にしようか」
リッカは頷きつつも、周囲を警戒するように見渡している。
こうして魔除けを起動した時、人は一番油断する。
どこかでその光景を魔族が見ていれば、魔道具が発動しても“そこに人間がいたこと”は分かっているのだ。
ここは街道ではない。イネアの町の周辺よりも草木は減り、岩や土の灰色や茶色が目立つ景色。
付近の大きな岩陰などは確認したが、更に用心するに越したことはないのだろう。
「……」
僕も警戒がてら、結界の外に目を向ける。
ここまで、川沿い近くを上流に向かって歩いてきた。
僕たちの当面の課題となる、四天王の試練。リッカと決めた方針として、最初の目的地は聖都イグディラに定まった。
残る三つの内、目的地がはっきりとしているネシュア国の跡地とムルゼ霊山は陸地を隔てる海の向こうだ。
唯一徒歩で辿り着くことが出来る聖都を最初の目標とするのは当然の帰結だろう。
そして、聖都への道筋として決まったのは、ここからもう少し進んだ先の山道を通っていくルート。
立ち寄った町の住人に聞いたところ、最も現実的で近い道筋とのこと。
僕たちもまだ未熟。強大な魔族と戦うことは厳しい。
ワイバーンの縄張りだのサイクロプスのねぐらの傍だのを通るルートに挑戦するのは尚早であるなど分かっている。
ゆえに選ばれたこの山道は、魔族がいない訳ではないが危険性としては他と比較すれば低いとのこと。
それでも強力なオークが生息していたり、山道を外れればより危険な魔族と遭遇する可能性もあるというが――ぶつかる覚悟をしなければいけない障害はこのくらいだと判断した。
何でもかんでも逃げて聖都に辿り着いたとして、そこで待ち受ける試練を成し遂げられるだろうか。
否だ。どんなに臆病に進んでも待っているものはあるのだから、どうあれ成長しなければならないのだ。
「……頑張らなきゃな」
リッカにも聞こえていないくらいの独り言。
自分なりの決意の言葉はそのまま受け止める者もなく消えていく想定だった。
「うん、がんばってー!」
「……ん?」
しかし、そんな無邪気な言葉が返ってくる。
どこからって――すぐ近く、真下からである。
「ところで何をがんばるの? かくれんぼ?」
「……」
――――いつの間にか、小さな、本当に小さな女の子が、服にくっついていた。
くっついているというかしがみついているというか。
水色の髪を後ろで結び、背中には透き通った羽を持ち、葉っぱや木の実や蔦なんかで作られた服を着た、手のひらに乗るほどの小さな魔族。
全体に不思議な魔力を纏わせたそれは間違いなく――
「……妖精?」
「うん、そーだよー! フェアリーの、トノカっていうの!」
フェアリー……殆ど見られないという妖精の中でも、比較的出会いやすい種族だったか。
自然現象的にどこからともなく生まれ、気ままに旅して気ままに生きる気ままな魔族。
確か妖精は魔族の中でも、危険の方向性が違うという。
積極的に人を脅かすのではなく、気紛れすぎて何を仕出かすか分からないという意味だ。
何故、そんなのが当たり前のようにこの結界の中にいるのか。いや、たまたま入り込んだだけなのだろうが……何故くっついているのだろう。
「な……何しているの?」
「……? ……きゅーけい?」
とりあえず刺激しないように聞いてみれば、首を傾げて返してきた。
真実ではなく、今思いついたかのような反応だった。もしかすると、特に理由なんてなかったのかもしれない。
「ッ、ユーリっ!」
「えっ、わ!?」
「むぎゅ」
そんな会話……会話? をしていれば、リッカが気付くのも当然のこと。
飛ぶような勢いでやってきたリッカはトノカと名乗ったフェアリーを両手で掴み、僕から引き剥がした。
……珍しい、と何となしに思った。
魔族に触れるどころか近付くことさえ怖い筈のリッカが魔族を手づかみなどと。いや、僕のせいなのだけど。
「むぐむぐ」
「ユーリ、無事? 怪我はない? 何もされてない?」
「う、うん。ありがとリッ、カ……」
顔を手で覆われたフェアリーはむぐむぐ言いつつもがいている。
見た目相応の力のようで、あまりにも空しい抵抗であった。本当にまだ何もされていないので可哀想だとも思うが。
リッカとしては必死だったようなので、ひとまず礼を言い、解放を提案しようとして――
「……」
「……? 何?」
リッカが頭に乗せたフェアリー二号に目が行った。
緑色の短髪という違いはあるが、大きさはトノカなるフェアリーと変わらない。
同族が大ピンチになっていることを気にしていないかのように、こちらに無邪気な笑みを浮かべながらピースを向けてくる。
……リッカ、気付いていないのだろうか。
確かに、よく考えれば服にしがみついていても重さも違和感もなかった。
もしもこのフェアリーたちに悪意があれば一気に危険な存在になっていたかもしれない。
「……リッカ、頭。別のフェアリーが付いてる」
「……――ッ!?」
「あっ」
ほんの僅か、理解に時間を掛け、器用にも一瞬で顔色を変えたリッカは手に握った方を投げ捨てて頭の方の対処に移った。
わー、なんて危機感のない声を上げて飛んでいくトノカ。
まあ羽があることから飛行は出来るのだろうし、実際余裕はあるのだろうが。
そちらの方に少し目を向けている内に、事態はまた動いていた。
「っ――は、離れろ……! なんでくっついて……っ!」
「あははははっ!」
「……」
手をじたばたさせてどうにかフェアリーを追い払おうとするリッカ。
対して、フェアリーはリッカの手を跳ねるように避けては再度くっついてを繰り返している。
ある意味危機的状況ではあるかもしれない。
……いや、うん。助けた方が良いだろう。
フェアリーは見たところ遊んでいるだけだし、このまま続けていて危険があるとは思えないが、リッカが嫌がっているのは事実だ。
「ゆ、ユーリっ、取って……!」
「分かってる。動かないで、リッカ」
見たところ思いきり叩き落とそうとしているからフェアリーもかえって遊んでいる気になっている。
とりあえずリッカの対応を止めてもらい、穏便に離れてもらうのが良いだろう。
「……ッ」
目をぎゅっと閉じて、身を小さくして震えるリッカなど、数日前には想像も出来なかった。
フェアリーという極小の種族であっても恐怖は拭えない様子のリッカにとって、今の状況はどれほどの苦痛だろう。
出来る限り早く取り除かないとと思い、今は首元にくっついているフェアリーに声を掛ける。
「ごめんね、キミ。ちょっといいかな」
「んー? なーに?」
「その子は少しキミが怖いみたいなんだ。こっちに来てもらっていい?」
「こわい? フェアリーがこわいなんて、へんなの」
首を傾げるフェアリーに手を差し出す。
一度離れてこちらに来てさえもらえれば、あとはリッカに近付かせないようにすればいい――
「あれー? トノカ、それどうしたのー?」
こちらに興味を示していたフェアリーは、その会話など無かったかのようにあらぬ方向に目を向けた。
「シナト! これ拾った! これで遊ぼー!」
「……!?」
先程飛んでいった青い髪のフェアリー、トノカ。
彼女はその小さな体で、何倍もの長さの杖を持っていた。
言わずもがな、リッカの杖である。そういえば、先程両手でフェアリーを握り込んでいた時から手放していた。
……どっちが優先だろう。リッカからすればあの杖も重要なものだが。
いや、やっぱり本人からだ。一秒だってあの状態ではいたくないだろうし。
「――? ッ、返してっ、それは――やっ!?」
「リッカ!?」
騒がしい外の様子が気になったのだろう。
少し目を開け、自分の杖を奪われているのを見るや否やそれを取り返そうと手を伸ばしたリッカ。
急に動いたことでフェアリーはやや滑落していた。
リッカの胸の位置にまで。
思わずリッカの手が動く。今までにない速さだった。勢いよく振り払われ、とうとうリッカにくっついていたフェアリーは飛んでいった。
先と同じように、わーと呑気な声を上げながら。
「り、リッカ、大丈夫……?」
「……っ、杖……」
「え?」
「杖……、取り返さないと……っ!」
戦っていないのに大ダメージを負った様子のリッカだが、まだ終わりではない。
杖はフェアリーに奪われたままである。どうにかして穏便に取り返して――
「――トランスコード、U-リッカっ!」
「えっ」
話して分かってくれそうな魔族だったのだが、そんなことは関係ない。
そう言わんばかりに、リッカが宣言する。
そして初めて知った。あの魔法の使用、宣言するのは別に僕でなくても良いのだと。
『WARNING! WARNING!』
「待ってリッカ! なんかいつもと違う! ちょっと落ち着いて!」
リッカからそれを使用したからなのか。それともリッカが混乱しているからなのか。
明らかに発動の兆しである魔法音声はいつもと違う。
こんな如何にも異常事態ですといった警告音のようなものは普段流れていない。
リッカの肩を揺らして呼び掛けるも、ぐるぐると目を回して絶賛錯乱中のリッカは正気に戻らない。
『不明なコードが検出されました。デバッグモードで実行します』
「駄目です!」
『アクセプションッ!』
そのまま音声による魔法の進行は進み、目の前のリッカは魔力へと分解された。
静止の声など空しく、身体を強化させるスーツは僕に装着されていく。
そこまでしなくても、から何が起きているのかという困惑へと変わった僕の姿は、知っているそれとは別のものとなる。
下地のスーツの外、両方の前腕と脛に装着された装甲には、体の中にまで繋がっているのではと思うほどの深い窪みが開いている。
触手がその上に纏わりついてくることはない。
その代わりに窪みから零れ出て、両腕、両足、そして同じ機能が側頭部にもあったようで、頭の上から半分を覆っていく水色の粘液。
これは――『迷い池』? あのスライムのような冷たい粘液は、そこから垂れて落ちることなくスーツの上で五か所を覆う防具となっていく。
透き通った液体が持つ属性を示すように、スーツを巡るエネルギーは青色となり否応なしに体の性能を引き上げていく。
『U-リッカ――リヴィアッ!』
――何というか、これでいいのかという感情が拭えないまま、リッカが用意した新しい魔法は完了する。
僕とリッカの混乱すら見世物であるかのように、二体のフェアリーはきゃっきゃと笑いながらそれを見ていた。