凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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冥界色のエンゲージリング(4)

 

 

 戸惑いで、差し出された手を取れない僕を暫く見ていたカルラは、呆れたように溜息をつく。

 立て掛けた杖と、突き刺さった魔剣をそのままに、クローゼットへと歩いていき中を漁り始める。

 

「てきとーに服、借りますね」

「いや、リッカの借りれば……」

「こっちのがサイズ合うんですもん。まったく、一着くらいリッカも用意しといてくれても良いのに」

 

 傍若無人――もとい、まったくもっての“いつも通り”に思わず返せば、カルラは中の服を引っ張りながら文句を言う。

 

「服はこれで、このズボンも。ユーリ、パンツも良いですかね?」

「良いと思う?」

「良いと思います」

 

 ひとまず、カルラが何も着ないままなのは良くないとして、普通に下着も取ろうとした手を叩いて止める。

 やっぱり自由だ。奔放な、いつものカルラだ。

 手を止めれば、如何にも面倒そうなじっとりとした目を向けてきた。

 

「今更何を気にしてるんですか。男の子のくせに女々しいですね」

「これは女々しいとかそういう話じゃないと思う」

「仕方ない。この状況でわたしのリッカコーデを見たいという倒錯趣味をユーリが持ってしまったというのなら、応じてあげます。ちょっと待っててください」

「何言ってるの? ねえ、カルラ何言ってるの?」

 

 取り出した僕の服を雑に仕舞い込んで、カルラは部屋を出ていく。

 どういう思考回路を辿ったのかはともかく、あの言い分からしてリッカの部屋に行ったのだろう。どういう思考回路を辿ったのかはともかく。

 カルラがわけのわからない発想でわけのわからないことを始めるのは今に始まったことではない。

 だが、今なのかと――そういう疑問は拭えなかった。

 

「……」

 

 あの口ぶりからして、カルラはリッカがどこにいったのか見当がついている。

 カルラは本来、自由に外に出て来られるような状態ではない筈だ。

 リッカがどこかに連れ去られたとしたら、カルラも一緒でなければおかしい。

 それがどうして、リッカを離れてここで自由にしていられるのだろう――そんなことを考えている内に、見慣れた服に着替えた見慣れない姿のカルラが戻ってきた。

 

「じゃーん。どうですか、ユーリ?」

「うん。かわいいかわいい――危なっ!?」

 

 敵意などないままに顔に向かって投げつけられた何かを辛うじて躱す。

 そのまま壁にぶつかって潰れた何かは魔力を帯びてべっとりとしていた。

 

「チッ、無駄に動けるようになっちゃって……」

「全然無駄じゃないから。生身でまともに喰らったら死ぬから」

「軟弱者」

「カルラに言われたくないよ」

 

 これまで旅をしてきて、カルラよりも強い魔族なんて、それこそ山のように見てきた。

 カルラはアルラウネの子供だ。

 カルラ以外のアルラウネは見たことがないが、少なくともカルラであれば身体能力は僕たちより遥かに上ということもないし、今となってはカルラの魔族マウントという名の罵倒に対して言い返せる自信もあった。

 

「大体、この程度で死にませんよ。花粉混じっただけの魔力弾ですもん」

「魔力弾に殺傷力あるの知らない?」

「は? なんですか、経験値マウントですか。随分と偉くなったものですねユーリ」

 

 そもそも今躱したものも壁にぶつかった衝撃からしてそれなりに威力があった。

 死にはしないだろうが軽い怪我では済まないだろう

 前までは戯れでもそんなものは投げつけてこなかったし、カルラも僕に躱される前提だったのだと思う。

 

「まったく――久しぶり、カルラ」

「はい。ま、わたしはずっと見てましたけど。ユーリの感覚的には久しぶり、です」

 

 お互いとりあえず言いたいことは言い切った。

 なんの実りもない口喧嘩はここまでと切り上げれば、カルラも同感だったようで体を伸ばしながらベッドに腰掛けた。

 

「けど……どうやって外に? カルラは、その……」

「んー……説明するのは難しいんですけどね。わたしだけでどうこうしたって訳じゃないですし」

 

 足をぶらつかせながら、カルラは床に刺さった魔剣に目を向ける。

 

「そこにいるラフィーナに手伝ってもらいました」

「ラフィーナに……?」

「はい。ユーリは知らないかもですけど、わたしたちが普段いる場所……“リッカの世界”とでも呼ぶべきあの場所について、ちょっとした権限を持っています。リッカがいざって時に、ユーリを助けられるように」

 

 魔剣をよく注視してみれば、ラフィーナの意識がこちらに向いているのが分かる。

 きわめて複雑そうな、混沌とした感情。

 その中にはほんの僅かに、リッカに対する心配が見て取れた。

 

「それから、わたしにはリッカに異常が起きればすぐに分かります。これはわたしがここにいたらどうにもならない――そう感じました。それでラフィーナに手伝ってもらって、リッカの世界の外に出ることにしたんです」

「リッカは……それを知ってるの?」

「正常な判断が出来るなら、すぐに分かると思いますよ。ユーリが傍にいないって知ったら、リッカはわたしたちを拠り所にしようとしますから。ちょっと前もそうでした。風の試練の時」

 

 ――僕やラフィーナがムルゼ霊山の冥界の跡地に迷い込んだ時か。

 あの時のリッカを、カルラが支えていてくれたのだ。もしかすると、リッカも無意識の内に、かもしれないが。

 

「ただし、今回は事情が違います。ユーリとリッカを助けるために、わたしはこっちに来ました。きっと“向こう”は、ナディアがなんとかしてくれます」

「ナディアって……まさかナディアも――!?」

「はい。リッカとナディア、それからユーリたちが出会った行商の妹さん。三人が連れ去られました――落ち着いて、ユーリ。どうにかするために、今わたしがここにいるんです」

 

 元々、リッカがいないという時点で、あてもなく探し回るつもりだった。

 ナディア、それにトーカまで“連れ去られた”と、カルラが断言するのであれば、それは何者かが意図的に起こした事件だ。

 飛び出そうとする僕を、カルラが制する。何も分かっていないのに一体どこを探すつもりなのか、と。

 

「まさか今更、一人では……というか、わたしたちだけでは行かないでしょう?」

「……カルラ」

「わたしは彼女たちとは面識はありません。けど、ユーリたちにとって信頼できる仲間ってことは知ってます。なら、信じてあげます。――ね、ラフィーナ」

 

 カルラはベッドから降りて、魔剣を足先で軽く蹴る。

 いつまで経っても声を上げない彼女に業を煮やしたようだった。

 

『……はっきり言って私、あんたのこと信用してないのよ。底が見えてきた分、リッカの方がマシなほどに』

「ひどっ。何が不満なんですか。わたしがいなきゃ、今頃リッカと一緒に“向こう”ですよ」

『それを何で知っているのかとか、そもそもあんたが何考えてるのかとか。ユーリの目にどう映ってんのか知らないけど、私からすればあんた、胡散臭すぎるわ』

「そう言われても当然だなぁとは思ってますけど……仕方ないじゃないですか。そういう胡散臭い立場に見えるようにしたの、リッカですもん。本当ならわたし、ユーリたちの旅に付いていく気だったのに」

 

 ……“この”ラフィーナに、カルラと協力したという事実はない。

 ラフィーナに共有された記憶には、そういったものもあるだろうが、だとしてもラフィーナの主観としては信用に足らない。

 理性的であるがゆえの当然の疑念に、カルラは嘆息する。

 自分がそうなりたくて、なった訳ではないと。

 

「今リッカがどこにいるのか、それをどうして知っているか。二度も説明するのは面倒くさいので、先にみんなを集めましょう。いいですね、ユーリ?」

「……わかった。クイールたちと――」

「行商のお兄さんもです。この招待状は――彼にも来ているでしょうから。これを三人分集めてください」

 

 銀で出来たメッセージカードを手に取り、カルラは言う。

 いなくなったリッカの代わりに置かれていた手掛かり。

 それから漂ってきた香りはカルラに近しい――かすかなミントの香りだった。

 

『――おい、ユーリ! 聞こえるか、ユーリ!』

「っ!?」

 

 自分が話題に上がったのを見計らったように、部屋に声が響く。

 手に持っていたアッシュからだった。イリスティーラの魔道具と同じ通信技術……あらかじめ彼が仕込んでおいたのだろうか。

 

「……リヒト?」

『ッ! 繋がった! ユーリ、手ェ貸してくれ! 妹が――トーカがいなくなった!』

 

 彼の尋常ならざる焦りは、通信越しでも伝わってきた。

 リッカと同じく何者かに連れ去られた、リヒトの大切な家族。

 その捜索の助力を求める彼と僕の立場は、今同じと言えた。

 

「――リヒト。リッカもいないんだ。今朝から、どこにも」

『は……? それって……』

「今から言う場所に来てくれる? 銀のカードがあると思うから、それを持って」

『こいつか――分かった、すぐ行く。場所教えてくれ』

 

 

 

 ――それから、ゼクセリオンの前……つまりイリスティーラの館の庭に全員が集まったのは、約二十分後。

 

 

 

「全員、集まりましたね。三人とも、わたしのことは知らないでしょうし、最初に自己紹介します。わたしはカルラ。ユーリとリッカの最大最強の理解者で、その出会いは――」

『見ての通りアルラウネで、ユーリとリッカの幼馴染らしいわ。魔族として特に大きな力は持っていないわよ』

「邪魔しないでくださいよラフィーナ」

『長々と自己紹介している場合じゃないでしょうが。さっさと本題に入りなさい』

 

 好きにさせておけばいつまでも喋っていそうなカルラの自己紹介を、ラフィーナは早々に中断させる。

 不満顔のカルラを見る三人――クイール、イリスティーラ、リヒトはやはりというべきか、この状況で現れた初対面の魔族を早々に信頼することは出来ないようだ。

 

「は、はい……よろしくお願いします……? ゆ、ユーリくん、この子って……」

「うん、間違いなく、僕たちの幼馴染。村でずっと一緒だった」

()()村で、ねぇ……」

 

 何か言いたげなイリスティーラだが、その真意を読み取ることまでは出来ない。

 そして、その彼女に対しても、警戒せざるを得ないのがリヒトだった。

 

「アル、ラウネ……? そんなのもいるのかよ……それに、あんたは……エルフ、だよな?」

「そうだよ。キミはクイールたちが話していた行商だね。私はイリスティーラ、かれらの協力者だ」

「……そっか。いや、今回は信じざるを得ないな。ナディアだって変わりゃしねえ。俺はリヒト。悪いが手を貸してくれ」

 

 しかし今はその警戒で時間を浪費する余裕はない。

 そう、リヒトは己に言い聞かせた。

 とにかく今は、リッカたちを見つけるのが最優先だ。そのためにも、この場全員が協力しなければならない。

 

「それで? カルラと言ったか? キミは何を知っているって言うんだい?」

「リッカたちの居場所。皆さんのところに、連れ去られた子たちの代わりに置かれていたカードが、一体どこから来たものなのか」

 

 カルラはクイールとリヒトが持っていたカードを手元に集める。

 僕の傍に置いてあったものも含めて、合計三枚。銀で出来たメッセージカードにはすべて同じ文が書かれていた。

 ――死に触れた者、その傍に在りし者。我らが魔王の祭典に招待いたします。

 

「この魔王ってのは……あの魔王なんですかね?」

「勇者が戦うべき魔王じゃないです。こうすれば、絶対に来るだろうって判断でしょう。或いは、自分を魔王とした方が劇的だから、でしょうか」

「劇的……?」

「はい。リッカたちが連れていかれたのは――冥界です。この辺りから、海を渡った北の大陸の方まで、広い広い領域を持つ――つまり、普通であれば皆さんが死んだ後に行くことになる場所です」

 

 下の方向……地面を指さしながら、カルラは言った。

 全ての命が死後、安寧を送れるように、あらゆる場所の地下深くには冥界がある。この聖都の真下にも、当然。

 僕が風の試練で迷い込んだ場所は、ムルゼ霊山のそれだった。

 東西に長いあの山全体の地下に広がる、かつて冥界であった領域。僕が歩いたのはそのごく一部だったのだろう。

 そして、リッカたちがいる場所は、今なお冥界として機能している。

 生ある者が本来迷い込むべきではない領域に、一体どうしてリッカたちが。

 

「……また、冥界かよ」

「リヒトくん? またっていうのは……?」

「……なんでもねえ。それで、トーカたちがどうしてそんな場所に? こんな招待状送られるようなことした覚えは……まあ、あるっちゃあるが、それにしたって変だろ」

「キミ、一体何をしたんだい……? ともかく、そのカードにはかすかに冥界の魔力の残滓がある。もしかしたらとは思ったが、どうしてそんなことを知っているのか、とは……教えてもらえるのかな?」

「ええ。元々、ユーリたちにも教える気はなかったんですけどね。こんな状況になったなら話は別です。これで本当にリッカが死ぬとか、わたし認めたくないので」

 

 ――それを、これまでのカルラとの日常の中で、察することの出来る機会はあっただろうか。

 或いは、はじめからもっとカルラのことを知ろうと思っていれば、いくつか感じ取れるものはあったのかもしれない。

 だが、僕もリッカも、考えもしなかった。

 カルラとの日常は当たり前だったから。互いに、自分たちのはじまりがどうとか、気にするような関係でもなかったから。

 

「――わたし、冥界で生まれたんです。地上では決して生まれない、ミントのアルラウネ。本来根付く筈だった領域から株分けされた、結晶の欠片。わたしの内にある結晶の大元が、囁くんです」

 

 

 ――来たれ。余の愛し子(かぎ)よ、来たれ。

 

 選ばれし賓客を連れ、冥く冷たい地の底へ。

 

 余が爪弾く、新たなる世界の生誕祭へと。

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