凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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冥界色のエンゲージリング(5)

 

 

「……ユーリくん。彼女の言うことは?」

「――本当だよ。全部」

 

 カルラが初めて話してくれた、自身の生まれのこと。

 それは紛れもない真実だと、他でもない僕が誰より確信できた。

 カルラの言葉に偽りはない。この聖都の真下にも広がる冥界――そこが、カルラが生まれた場所なのだ。

 僕にそれを確認したイリスティーラは腕を組んで暫く難しい顔をしていたが、やがて顔を上げる。

 

「……カルラ。キミ、魔法薬が得意だったりしないかい?」

「はい? いえ、特に薬学は学んでいないですけど……どうして?」

「そうか。ならいい。とある恩人と同一人物じゃないかと疑っただけさ」

 

 ああ――イリスティーラからすれば正体不明の、僕たちの協力者。

 それがいつかの“彼”と同じなのではないかと、そう思ったらしい。

 

「イリス。ウサギさんなら男の人だって何度も言ってるじゃないですか。それに、どうしてそんなにあの人に突っかかろうとするんですか」

「是非とも私から一言礼を、と思っているだけさ。それにそいつが人間だろうとアルラウネだろうと首狩りウサギだろうとどうでもいいよ」

 

 不満げなクイールにイリスティーラは憮然と返す。

 まあ、一つだけ明らかなことは、イリスティーラの言葉通りの「一言礼を」とはならないだろうということだ。

 イリスティーラはクイールを結果的に助けることになった“彼”に対して確かな恩義を感じているものの、どうやら彼女の薬の改良案を随分な言い草で伝えたようで、あれ以来正体不明なリッカの協力者を警戒している節がある。

 その実力は認めつつも、気に喰わない相手なのだろう。

 ……首狩りウサギって何なのだろうか。そんな魔族は聞いたことがないが。

 

「ともかく……リッカくんたちが冥界にいるっていうなら、この招待を受けないとね。私たちがたとえ行かないと言ったとして、ユーリくん一人でも向かうつもりだろう?」

「うん。僕一人でも、リッカたちを助け出す」

「その仮定はいらないですよ、イリス。僕だって行きます。なんてったって――」

「勇者だから、だろう。知ってるよ。まったく……」

 

 イリスティーラの呆れは当然のものだ。冥界に自ら踏み込むなんて、正気の沙汰ではないだろう。

 だが、冥界だろうと何処だろうと変わらない。既にもう、僕たちの意思は固まっているのだ。

 

「……それで、キミは? キミは勇者でも何でもないただの人間だ。利口であれば、大人しく待っているだろうが」

「迷うまでもない。連れてってくれ。こちとら悪知恵は働くが利口じゃない。妹が攫われて黙ってられるかよ」

「戦うすべは? ユーリくんたちのように、魔族との戦闘に耐え得る何かはあるのかい?」

「ある。冥界の魔族に通じるとは思っちゃいないが、こいつらでこれまで何百って危機を乗り越えてきたんだ」

 

 後は、リヒト。彼は行商であり、魔族と出会った時にすべき行動は逃げの一手。

 それでも、彼もまた冥界へ飛び込むことを決意した――そういえば、アッシュのモデルとなった魔族を……冥界の番犬たるケルベロスを見たことがあると言っていた。

 どういう経緯かなど知らないが、生きているということは、かつて冥界の秩序に抗ったことがあるということ。

 では、そのすべとは何か。リヒトは外を歩き生存するために持ち歩いていたそれらを背負っていた鞄から取り出す。

 

 放熱、撮影、水の濾過、通信……どんな状況にも対応するための小型の魔道具の数々。

 それらには等しく質の良い魔石と、リヒト独自の技術の粋が組み込まれている。

 軽く放り投げれば、カシャカシャと形を変えていき、デフォルメされた魔族の姿となって、いくつかは地面に落ち、またいくつかは宙に浮かんだ。

 

「そっか……ユーリくんのアッシュってリヒトくんから貰ったものでしたっけ」

「あの妙な魔道具はキミが……一つ変形していないようだが?」

「――あー……いけね、それ欲張りすぎて失敗したやつだわ。別のポケットに入れといた筈なんだが……寝ぼけてたか」

 

 地面に落ちても姿を変えなかった一つをイリスティーラが指摘する。

 数字の書かれたボタンが規則的に並んだ円形のデバイス。失敗したということは、なんの機能もないのだろう。

 自立して動くことのないそれを回収しようとリヒトは手を伸ばして、それより先に傍まで飛んできたヨハンナに遮られる。

 

「へ……?」

『この構築。なるほど。おまえがアランピアの裔か』

「な、なんだ……アンタ!? 魔道具が喋っ……あの剣と同じか!?」

『理屈は似ているらしいわよ。私よりだいぶ頭がおかしいヤツだけど』

 

 突如として現れたヨハンナにリヒトは引き気味になりつつも、興味は隠せないようだ。

 恐る恐ると観察を始めるリヒトに対し、どこか満足気にヨハンナは頷く。

 

『その観察力、好奇心。プレシアとバンドの信念は当代に受け継がれている。ネシュアの名残がこうして続き、享楽を追う時が創られる――目指す場所は異なるが、それは当機も喜ばしく思うところ』

「ネシュアのって……確かに俺のこの技術はあそこが由来らしいけど、なんでそんなこと知ってんだよ?」

『当機は希望に満ちていた時代のネシュアを生きた人間につき。ナディアと同じものだと思ってほしい』

「……アンデッド?」

『当たらずとも遠からず。その信念との邂逅に感謝を(ハロー・ワールド)。ところで、お近付きの印にこれをいただきたく』

 

 ヨハンナは有無を言わさず、リヒトの“失敗作”を細い足で掴む。

 翼をばたつかせて持ち上げるヨハンナを、きわめて微妙な表情でリヒトは見下ろしていた。

 

「……いや、だからそれ、失敗作だぞ? 中の回路メチャクチャになってるし、バラして廃棄するしかないやつ」

『肯定。しかし当機にとっては垂涎の代物。いや、この躯体には涎など垂らす機能はないが』

「……」

『失礼。聖女ジョークにつき。ともかく、不要ならば預かろう。あとはコレが何をしようと、おまえに一切の責はない』

「キミ……ナディアが連れ去られている状況なんだが?」

『把握している。そしておまえたちは当機の希望する通りに動こうとしている。ゆえに当機がおまえたちを導くことはしない。かの領域、当機としても未知につき』

 

 ……バルハラの目付役だと思っていたが、案外これと決めたら止まらない性格だったのかもしれない。

 いや、当然か。そうでなければ、人の身からあのような姿になることもない筈だ。

 リヒトが曖昧に納得するまでの間に、ヨハンナは“失敗作”を回収し、僕の鞄へと戻っていった。

 

「……なんだったんだ」

「ええっと……とにかく! 残ったこの子たちが、リヒトくんの“戦う手段”ですか?」

「お、おう――後はまあ、多少の魔法も学んでる。自分の身は自分で守るし、トーカの身も俺が守る。だから頼む。俺も連れてってくれ」

 

 ここに並ぶ魔道具たちは本当に、戦う力があるのだろう。

 ただし、それはあまりにも小さい。ゴブリンやスライムを追い払うことは出来ても、力のある魔族に相対した時は、逃げこそが彼の本領なのだろう。初めて会ったあの時のように。

 それでも、リヒトには退く気はなかった。

 必ずトーカを冥界から連れ戻す。確固たる信念が、その目にはあった。

 

「――極力、後方支援に努めたまえよ。キミやキミの妹にもしもがあれば、勇者であるかれらは気負わずにはいられないからね」

「分かってる。冥界の魔族相手に真正面から戦ったりしねえよ」

 

 僕もクイールも、答えは決まっていた。彼がそうすると決めたなら止められない。

 それをイリスティーラも察したのだろう。渋々と認めれば、話はついたとカルラが手を叩く。

 

「あとの問題は、冥界への行き方ですね。わたしは何となく、どうやって行けば良いのかが分かります。ただ、遠いんですよ。海のど真ん中、絶海の孤島ってやつです」

「……飛んでも結構掛かりそうだね」

 

 冥界へと続く道は、ムルゼ霊山と同じく存在するようだ。

 ただし、カルラが知る――恐らく生まれた時から知っているその場所は、海の上だという。

 ゼクセリオンを使えば赴くことは出来るだろう。だが、ここから飛行しても海に出るまでは時間が掛かる。

 一刻も早くリッカたちを見つけないとならない。

 もっと近く、すぐに辿り着けるような場所から赴くことは出来ないだろうか。

 

「……いやはや。偶然とは巡るものだね」

「イリス……?」

 

 そんなことを考えていれば、何がおかしいのか、イリスティーラが苦笑する。

 

「ユーリくん、覚えているかい? 私たちが初めて会った場所」

 

 急に問われて、思い出す。

 僕にとっては苦い記憶だ。魔族に敗れて、地面に開いた裂け目から転落したその先。

 まだ何も知らなかった頃、地中深くに広がる薄命の世界で、僕はイリスティーラに助けられた。

 

「うん。覚えてるよ。オレブ山道の地下だよね」

「そうだ。キミたちが迷い込んだあの場所。無限にも等しい虫たちが生きる、弱き者たちの世界の主たるネクリナ――あのアラクネがいた広い空間。あそこの真下に、冥界への入り口があるんだ」

「……え?」

 

 ネクリナと呼ばれたアラクネ。あの時、到底勝てるとは思えなかった魔族は、リッカを捕えて、どういう理由かリッカに力を貸した。

 それを元にしたのが『バラーズフューリー』だということは知っている。

 イリスティーラはあのアラクネと知り合いであるようだった。そうでなければ、無数の虫たちは彼女をも捕食対象と見なしていただろう。

 では、何故そもそもイリスティーラはあのアラクネと親しくなり、あの場に赴くようになったのか。

 

「元々私がネクリナと接触したのは、あの真下にある冥界に用事があったからだ。入り込んだことはないが、その入り口を見たことはある。間違いなく、そこから繋がるのはリッカくんたちがいる冥界だよ」

「……そうなんだ――あの場所なら聖都から近い。ゼクセリオンなら、すぐに辿り着ける!」

 

 彼女が様々な魔族の因子を取り込む理由。きっとそこに繋がるのだろう。

 だが、今それは重要ではない。イリスティーラの言葉が確かならば、あの場所こそが、冥界への最短の道だ。

 

「ただし、危険度としては下手な魔族の群れを凌駕する。今回は彼もいるからね――敵と見なされて毒持ちに噛まれでもしたらアウトだ」

「ゼク……なんとかってのは、あの空飛ぶ魔道具だろ? 冥界に着くまで、その中に入ってる。お荷物になるのは悔しいが、冥界目の前にして俺のせいで立ち往生する訳にもいかねえ」

「話が早いね。なら、その方向で行こう。ネクリナには悪いが、少々乱暴に突破させてもらうとしよう」

 

 方針は決まった。全員で顔を見合わせ、頷き合う。

 

「今すぐ出発――も出来るだろうが。三十分後、聖都の正門前に集合だ。全員最大限の準備をしたまえ。クイール、キミはホープに話をつけておくこと」

「分かってますよ。それじゃ、また後で」

 

 クイールはさっさと屋敷に戻っていき、イリスティーラもそれに続く。

 リヒトも魔道具たちを集め、屋敷の外へと駆けていった。

 僕もゼクセリオンを展開して、中に入る。カルラもリッカの杖と魔剣を持ってついてきた。

 

「――カルラも、冥界に着くまではこの中にいて」

「は? わたしもお荷物扱いですか?」

「だってカルラ、身を守る手段あるの? 僕はアッシュに力を借りられる。けどカルラは?」

「他力本願なくせに正論ぶつけてくるのムカつきますね。すっかりリッカの勇者らしくなっちゃって」

 

 カルラが背中を杖でゴンゴンと叩いてくる。しかしそれだけで、僕の言葉に否定は返ってこなかった。

 一般的な虫と草木のような関係ではないものの、カルラは虫が苦手だ。

 それに、四方八方から向かってくる虫から身を守れる手段がなければ、あの場所を通り抜けるのは困難だろう。

 

「……まあ、認めます。リッカみたく、ユーリと一緒になって身を守れる力はありません。ただ、冥界についたらわたしだって戦いますからね」

「うん――カルラ、何ができるの?」

「ぶっとばしますよ」

『知っちゃいたけど、あんたたち、本当にこういう感じなのね』

 

 軽口を叩きながらも、準備を進める。

 今から冥界に赴くのに相応しい空気ではないかもしれないけれど、リッカたちを見つけ出すという意思は、僕もカルラも確かなもの。

 であれば――久しぶりの会話なのだ。こういう感じで良いのだろう。




【プレシア・アランピア&バンド・アランピア】
ネシュアの中期に活躍した技術者の夫婦。
決戦派から分かれ、国の外ではなく内を見て、その技術を子供たちに夢を与えることに費やした。
日用品から動物や魔族に変形し、自立して動く自動学習機能付きの魔道具は子供たちの小さな友人としてネシュアで人気となった。
アランピア・ツールと呼ばれたそれを友にして育ち、同じように誰かを楽しませるための魔道具を日夜研究するかれらは『幼年派』と名乗るようになり、決戦派などの大派閥ほどではないまでもネシュアの隆盛に貢献したという。
もっとも、ネシュアの晩年には細々と活動するばかりとなり、かれらの魔道具も“ややマイナーな玩具”程度の人気に落ち着いていたようだ。
その技術はネシュアが終わりを迎えても受け継がれ続け、現代で若くして行商を営む兄妹の小さな家族となっている。
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