凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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冥界色のエンゲージリング(6)

 

 

 異変が起きていたのは僕たちの周囲だけではないと悟ったのは、正門を出る前のことだった。

 大通りが慌ただしい。まだ早朝で普段なら人通りも殆どない大通りを、忙しなく走るエルフの騎士たち。

 この街の秩序を守るかれらの慌ただしさは、即ちこの街に何かが起きていることの証左。

 騒ぎの正体は、正門を出ればすぐに分かった。

 

「これは……!」

 

 膨大な数でもって聖都を囲む、亡者の群れ。

 ゆっくりとした動きは、魂の既に潰えた体を無理やり動かしているからこそのもの。

 それらを騎士たちは総出で相手取っていた。数で劣っていてもその練度で決して亡者たちを聖都に近付けてはいないが――一体これは。

 

「今起きているのは冥界に因んだ事件だ。無関係な訳ではないだろうね」

「どうします……? お手伝いした方が――」

「不要だよ。私たちはこのまま突っ切って落ち着ける場所まで出てから、光翼に乗って出発する」

 

 銃の魔道具を取り出し、いち早くこちらに気付いた亡者の一人を撃ち抜いてイリスティーラは言う。

 この状況でも彼女に迷いはない。周囲で戦う騎士たちを信じることはなくとも、聖都の絶対性を知っているから。

 

「どうせ普通のアンデッドは聖都に入れない。エルフどももそれを分かってなお守っているんだよ。連中の誇りに付き合っていても不毛なだけだ」

「不毛って……まあ、心配はないですかね。ここにはリーテさんもいますから」

「……いくよ。生身の二人は配慮はするが怪我しないよう付いてきたまえ。ここを真っ直ぐだ」

 

 ――聖都の中にかれらが入る可能性があるならば、イリスティーラもクイールもそれを気にしない筈がない。

 だが、彼女たちはホープにも危険がないことを信じている。ならば、僕も二人の信頼を信じよう。

 アッシュを取り出す。カルラとリヒトには下がっていてもらい、術式を起動する。

 

『――アッシュリンク――』

『マスターアップ! Q-クエスター!』

『I-スティーラー、ショー・タイム』

 

「……アッシュのやつ、本当にああなんのかよ……つーかあのイリスティーラってやつまで……」

「うわ、本当にあれで戦うんですね……皆してわたしにドッキリでも仕掛けているのかと。ユーリ、ラフィーナをどうぞ」

 

 三人で揃って外装を纏う。

 カルラに預かってもらっていた魔剣を受け取り、それが今までと変わらず手に馴染むことを確認する。

 この外装を纏った状態であれば、魔剣に持ち上げることもままならないほどの重量は感じられず、僕の武装として何よりも適切なものとなる。

 

「ッ、そこの人間――いえ、人、間……? まあいいや、とにかく危ないから正門に――ちょっ!? 止まって!」

 

 こちらに気付いた騎士の制止よりも前に、示し合ったように同時に駆け出す。

 ゾンビに近い亡者の群れ。アンデッドが持つ恐ろしさは数の暴力の他にもある。

 痛みを知らないしぶとさと、腐敗した体が付けた傷から入る毒。特に後者は、生身であればこそ非常に危険なものとなる。

 

「カルラ、リヒト、こっちに!」

「あ、ああ……! つっても、逃げてばっかじゃいられねえか!」

 

 腕を振り上げて飛び掛かってきた亡者を魔力の弾丸で吹き飛ばし、二人を招き寄せる。

 左右から来た群れの片側を対処していれば、もう片方の亡者はリヒトから離れた魔道具が放った火に包まれた。

 あれは……先程見せてくれた中の一つ、発火の魔道具だったものだろう。

 翼を広げた小さなドラゴンの形となり、アンデッドを追い払うその魔道具が放つ火の威力は、日常で使う火力を超えて余りあるものだった。

 

「行商なんてやるだけのことはあるようだね」

「“これに弱い”って分かってる魔族くらいならなんとかなる。っし……さっさと行くぞ!」

 

 火を消そうと右往左往する亡者をクイールが切り伏せ、腕から翼を生やしたイリスティーラが飛び上がり前方に何十もの弾丸を放って道を開けていく。

 僕自身もまた、近付く亡者たちを魔剣で、或いは手足でもって片付け、カルラたちと共に前へと進む。

 ……リッカがいない現状、魔力にも限界がある。僕一人で戦える時間はそう長くない。

 可能な限り魔力の消費を抑えないと。どれだけの間戦えるのか、魔力の残量がどれほどなのか、そういうことを確認する技術も、僕にはないのだから。

 

「ユーリくん!」

「うん――!」

 

 行く先を塞がんと並び立つ亡者。

 それをクイールと共に一気に吹き飛ばそうとして――それよりも先に、背後から緑の混じった、銀色の魔力の粒子が流れてきた。

 粒子は僕たちを通り過ぎ、亡者たちに振り掛かると、かれらの体はたちまち崩れ、消えていく。

 振り返れば、自分でも驚いたという顔のカルラが杖先から銀色の粒子を零していた。

 

「あれ……?」

「カルラ……?」

「ほぁー……やれば出来るものですねぇ。ただ方向性を決めて魔力を零すだけで効果抜群とは」

 

 ――死を超える、カルラの生まれに由来する冥界の魔力。

 単体では大した力を持たない亡者ともなれば、攻撃性を持ったそれを浴びるだけで存在を維持することも難しくなる。

 その属性の操作は未熟であってもカルラは正しく、この状況で誰より優位に立てる存在だった。

 

「す、凄えな……冥界のアルラウネって……」

「もっと褒めてくれていいですよ、リヒト。ユーリじゃなくても悪い気はしません。これはさらに凄いところを見せ――」

「カルラ、邪魔だから前に出ないで!」

「は? そんな鎧着ただけで良い気になってるんですか? 後ろから刺しますよ?」

『あんたうるさいから黙ってなさい。気が散るわ』

「……」

「す、凄えな……冥界のアルラウネを黙らせられるアンタらも……」

 

 刺してはこないまでも、刺さるほどの不満を背中にぶつけてくるカルラを出来るだけ気にしないようにしつつ、前方の亡者たちを片付ける。

 やがて完全に道が開けて、そこを一気に突っ切る。

 亡者たちのいない場所まで走り抜けて、ゼクセリオンを投げるように展開した。

 

「カルラ、リヒト、乗って!」

「あ、ああ!」

「はいはい」

 

 二人を内部の空間に押し込み、あとは僕たち三人。

 これを操縦できるのは僕とクイール。イリスティーラにも入ってもらおうとして、しかし彼女は首を横に振る。

 

「これで飛ばせば大して時間は掛からない。掴まっていくよ。どうせあの中じゃあ、入り口を開けられる余裕なんてないからね」

「確かに――」

 

 虫たちが無数に這い回るあの地下で、悠長にこの入り口なんか開けてはいられない。

 カルラたちを守るためにこの手段を取ろうとしているのに、そんなことをすれば本末転倒だ。

 

「それなら、しっかり掴まっていて」

「はいっ、ユーリくん、お願いしますっ」

 

 操縦席につき、ゼクセリオンを起動して浮き上がらせる。

 二人が後方に飛び乗り、しっかりと掴まったことを確認して、発進させた。

 聖都からオレブ山道まで、そう距離はない。歩いて向かったとしても、魔族に遭遇さえしなければ一日と掛からないほどに。

 こうしてゼクセリオンを飛ばしていれば、徒歩の数倍、数十倍の速度が出せる。

 地上の魔族たちと戦う必要もなく、平原の先にある山にどんどん近付いていく。

 

「確かあの山、オークがいるんでしたっけ」

「もういないよ。何だかんだあって、私とユーリくんたちで倒したからね」

「え、そうだったんですか? ユーリくんたちは山の向こうの出身ですし、それってユーリくんたちが聖都に来る前ですよね。……なんていうか、よく生きてましたね」

「僕もそう思う……生き残れたのは、イリスティーラのおかげだよ」

 

 彼女の助けがなければ、あのオークに敗北した後、僕は虫の餌になっていただろう。

 それにリッカも……どうしてあそこの主が彼女を手に掛けなかったのかは知らないが、運が良かっただけだ。

 

「あの時はこんなことになるなんて予想もしていなかったが……私にしては良い選択だったのだろうね。それなりに生きたが、キミらとの出会いは良縁だよ」

「なーんかお婆ちゃんみたいですよ、イリス。エルフとしてはまだピチピチなんでしょう?」

「微妙に古臭くて気持ち悪い表現をしないでくれ」

 

 ……そういえば、イリスティーラは何歳なのだろう。

 もしかすると数えてもいないのかもしれない。長命な魔族にそのような風習があるかどうかさえ定かではないし。

 千年は生きるというエルフの一生は僕たち人間からすれば歴史のレベル。

 彼女たちにとっての一年などそれこそ大した時間ではないのだろうが、イリスティーラは悪くないものだと感じてくれているようだ。

 

「まったく……そんな話はいい。山道に入るよ――ユーリくん、あそこの一本杉の傍の裂け目から入ってくれ」

「了解……!」

 

 話をしながらも辿り着いた山道。

 あちこちに裂け目のある道はそれ以外の特徴がなく、かつて僕たちがどこで戦っていたかも判然としない。

 しかし、ここに何度か訪れているらしいイリスティーラには分かりやすい目印であるようで、さほど背の高くない木を指し示した。

 高度を下げ、その傍に開いた裂け目から、中に入っていく。

 

「アッシュ、お願い」

 

 同時に、外装を変化させ、口元を覆う。

 基本の形状からこうした応用を行えることは、風の試練で知っていた。

 虫がどこからやってきてもおかしくない以上、肌を晒しているのは得策ではない。

 だんだんと辺りは暗くなっていき、かと思えば再び明るさを取り戻す。

 剥き出しになった鉱石や、あちこちに張られた糸が発光することで生まれる明かり。

 それらが照らす洞窟は、薄命の魔族たちが生きる一つの楽園だ。

 

「ふむ……? ……まあいい、合図だけは送っておこうか」

 

 何かに気付いたらしいイリスティーラはひとまず疑問を仕舞い込み、手に持った魔道具から蝶の形をした魔力を放つ。

 蝶は鉱石や糸とは違う鮮やかな色に光りながら、先立って下方へと向かっていった。

 

「今のは?」

「これからやってくる者は客人だから襲うなという合図さ。私がネクリナと決めたものだ」

 

 辺りから聞こえる、ざわざわと何かが蠢く音。

 蝶が現れたことでそれらから感じられる微弱で、しかし膨大な数の敵意は曖昧になっていく。

 これで安全が確約される訳ではない。しかし、かれらが戸惑い、積極的に向かってくることはなくなったようだ。

 

「……」

 

 ゆっくりと下降するゼクセリオンの翼に飛びつき、恐る恐るといった様子で牙を突き立てる虫もいる。

 合図があったとはいえ、明らかにいつもやってくる者とは違うと判断してのことか。

 それに倣う個体が現れる前に、イリスティーラが小さな魔力弾を放ち、その虫を吹き飛ばした。

 

「あの蝶を追ってくれ。ネクリナのもとに向かう」

 

 裂け目の途中に開いた穴へと飛び込んだ蝶を指すイリスティーラに従い、ゼクセリオンを操縦する。

 翼を畳み、飛行というよりは走行に近い状態。

 それでもこの洞穴を走るのにはギリギリだ。これ以上狭くなれば不可能だというほどに。

 入り組んだ小路を、案内に沿って進んでいく。

 岩壁に張り付く虫たちは、もう何千何万を通り過ぎたか定かではない。

 一斉に襲ってくるようなことはなく、飛びついてくる個体があってもイリスティーラやクイールが追い払う。

 そしてやがて、辺りの明かりが強くなった。

 自然に出来たものとは思えない緩やかなカーブの先――見覚えのある広場が視界に映る。

 

「やあ、ネクリナ。会いに来――」

 

 

 ――そこはかつて、リッカを取り戻すためにイリスティーラに案内を受けて訪れた場所。

 鉱石と、そして天井に張り巡らされた糸が暗さというものを感じさせず、幾つもの繭がぶら下がる生命の領域。

 そこに飛び回る虫の数があまりにも少ないと思ったのが、最初の疑問だった。

 次に天井を見上げて、そこにいた筈の領域の主がいないことに気付く。

 

 そしてようやく視線を落として、異常の主犯を認識した。

 

 虫よけとばかりに銀色の陽炎を辺りに放ち、無謀にも近付いて来た虫たちを灰も残さず焼き尽くす。

 その上で自身はその場に横になり、己が縄張りであるかの如く寛ぐ傲岸。

 揺らめく真っ黒な体毛の下の四肢は太く強靭であり、僕たちを遥かに超える巨体は、並べば大熊さえ小柄に錯覚しそうなほどだった。

 三つの頭のうち、二つはいびきを掻きながら眠り、そしてもう一つ、真ん中の頭が侵入者である僕たちに目を向ける。

 

 傍に転がる、この領域の主だったものから引き千切ったのだろう、人の形をした腕を退屈そうに咀嚼していた魔族は、ゆっくりと体を起こした。

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