凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

239 / 373
モン娘TDでもんむすくえすとコラボ再びらしいですよ!


冥界色のエンゲージリング(8)

 

 

 僕たちをここまで運んできた樹は、結晶樹が絡み合って出来た広場に埋まってその一部となる。

 前方、玉座に腰掛ける、ネルガルと名乗った魔族に警戒する様子はない。

 自然体でくつろぎ、微笑む彼女の歓迎に偽りはない。

 そして――周囲の木々にいる無数のアルラウネたちもまた、負の感情よりは喜びや楽しさといった感情の方が強かった。

 ――向けられる感情を、可能な限り無視する。

 それらを意識していれば、遠からず気が狂ってしまいそうだった。

 

 ――La――La――La――La――La――LaLa――LaLa――

 

 歌声に囲まれる中で、ネルガルと対峙する。

 歓迎されていようがいまいが、どうでもいい。

 今、何よりも重要なことは、リッカたちを取り戻すことだ。

 

「……リッカたちはどこ? キミの方に用事があるなら、それを聞いても良いけど、先にリッカたちを返して」

「……ふふ。豪胆、そして不遜。そうでなくては。魔族を……我ら超常をも恐れぬ勇ましさ。それこそ余が憧れ、夢見た可能性の輝きよ」

 

 その見せかけではない、本物の好意はただただ不気味だった。

 まともに感じ入っていたくない。一刻も早くリッカたちと共に、ここを出たい。

 

「一つの時代に、二つの勇者。手を取り合い、四つの試練を成し遂げる。実に良い、夢物語の如き筋書き。そしてそなたたちは今、余の冥界に立っている」

「……話を聞いてくれないかな」

「ああ、そなたたちから“預かった”女子どもか。そなたたちが来た以上、不要ではあるが……ふむ」

 

 唇を手でなぞりながら、彼女は考え込む。

 如何にこちらに好意的であったとしても、大人しく要請に頷くとは思えなかった。

 魔剣を強く握り込む。向こうが、何を言い出しても良いように。

 

「ただ、はいどうぞと渡すだけではつまらぬな?」

「ッ」

「ユーリ」

 

 魔剣を振り上げようとして、カルラに制される。

 撃つなとでもいうのか――目を向ければ、カルラの眼差しは、どこか穏やかだった。

 ネルガルに対して、敵意もなければ嫌悪さえ見せていない。ひどく落ち着いた様子を――どこか、不気味に感じてしまった。

 その、知らない雰囲気のままに、カルラは一歩前に出る。

 ネルガルは目を細め、それまでとは異なる感情をもってカルラに微笑んだ。

 

「――久しいのう、カルラや」

「……はい。お母様」

 

 その言葉には慈愛があった。

 どうしようもないほどの愛があり、そしてカルラもまた、躊躇いがちにそれに応えた。

 

「カルラの……お母、さん……?」

「うむ、うむ。こういうべきかの? 改めて、余はカルラの母、ネルガル。――我が娘が世話になっておるな、勇者」

「……カルラ?」

「ええ――間違いなく。いつか少しだけ、話したことがありましたよね。もう最後に見たのはずぅっと小さな頃、ですけど」

 

 少しだけ曖昧に、それでも確かに覚えている、母の姿。

 ――母との再会。それは、どういう感情をもって受け入れるべき出来事なのか、僕にはわからない。

 ホープとクイールの再会は、普通の形ではなかったと思う。

 そして今のカルラも、本来抱くべきなのだろう喜びを抱いてはいなかった。

 

「母親……つまり、キミ――この冥界の主であるネルガルは、アルラウネだというのかい?」

 

 僕たちが動揺から立ち直る前に、イリスティーラはネルガルに問いを投げる。

 

「うむ。既に死した、遠き彼と同一ではないがの。余はこの玉座を継いだゆえにネルガル。元はきらめく結晶樹に宿りしアルラウネよ」

「結晶樹のアルラウネ……? 聞いたことがないな。あの樹がアルラウネとして芽吹くなんて……」

「なれば余が唯一なのではないか? まあ、どうでもよかろう。そなたたちと対するのはアルラウネとしての余ではなく、あくまでネルガルとしての余であるがゆえに」

 

 過去のことなどどうでもいいと、ネルガルは軽く流した。

 イリスティーラの疑問が何を懸念したものなのかは分からない。

 少なくとも、今重視すべきことではないだろう。何よりも、まずはリッカたちを取り戻さなければ。

 

「あんたが何なのかはどうだっていい。妹を……トーカをここに連れてきたのはどういう理由だ」

 

 しびれを切らしたように、リヒトが尋ねる。

 何が面白いのか――ネルガルは喉を鳴らすように笑った。

 

「あの時、俺はトーカを連れ帰った。囚われなかった以上、付け狙われる理由もねえ。違うかよ」

「ふ……然り、然り。余は運命を乗り越える力を蔑ろにはせぬ。ヨミの奴であれば決して逃がさぬだろうが、かつてそなたたちが成し遂げた偉業は、誰よりも余が認めよう」

「なら――」

「そう。それなら、()()()()、同じことを果たす程度、容易かろう?」

 

 ――ネルガルの態度には、隠しきれない期待があった。

 格下の抵抗を楽しむ目だ。しかし、相手を蔑むものではない。

 その期待を感情を、知っていた。いつか僕は、それを浴びたことがあった。

 祭りの町での演劇を楽しむ、観客の目だ。空想に一喜一憂する、子供のような感情だ。

 

「生きとし生けるものの可能性を、余は愛する。余は見たい。冥界に落ちたそなたたちが、どのように我が舞台を彩り、魅せてくれるのか」

「そんな……ことのために、リッカたちを……?」

「余は決して全能ではないが、死に近しき者は手繰りやすい。余の見たい者たちの周りに都合よくいたゆえに、な」

「――――」

「ユーリっ!」

 

 そのような遊びに、リッカたちを、僕たちを呼び込むための餌として使ったと。それを自慢げに話されて、耐えられる訳がなかった。

 気付けば魔剣を砲に変え、その引き金を引いていた。

 放たれた魔力の弾丸はネルガルへと真っ直ぐに飛んでいき――その寸前で二つに分かれ、たちまち霧散していく。

 

「――無粋であったならば、どうかご容赦を。その座に在る尊きあなたを襲う凶弾を見て、なお黙するほど、鈍い刃ではありませぬゆえ」

「良い、許す。そなたもまた、この舞台に上がる者の一人。思うように動け」

 

 凄まじい速度で僕たちとネルガルとの間に現れ、弾丸を切り裂いた魔族の外見にある特徴には、覚えがあった。

 金の装飾がまばらに散る装束を纏う、浅黒い肌。長い黒髪と、猫のような耳と尾。

 同じ特徴を有する魔族を知っているものの、放つ雰囲気はまるで異なる、刃の如き鋭さ。

 右手に片刃の長い剣を持ち、左手にこれまた長く捻じれた杖を持った、果たしてそれで満足に戦えるのかと疑問に思うほど特異なすがた。

 その戦闘能力の高さは、剣をぶつけるまでもなく伝わってくる。

 スフィンクスとして、“彼女”とは異なる方向性に己を磨き上げた、或いは“彼女”の数段先を行く一つの完成形だった。

 今の状態で、勝てる見込みは薄い。それでも――そうだとしても。

 

「……邪魔をしないで」

「舌が断たれんほどの愚問ですが、あえて問いましょう。私が今、妨害をしなかったことで、あなたが目的とすることに繋がると思うのですか?」

「そうじゃなかったとしたら、好き勝手を許せって?」

「そう言っています――なおもその剣……剣……? ――を下ろさないと。であるのならば私の応答も一つに限られるというもの」

 

 自然体、しかし、そこに隙はない。

 どの道彼女を倒せなければ、リッカを見つけることさえもままならないというのなら。

 ――素早い相手だと判断し、魔剣を持ち直す。

 いつでもその敵意の増大に反応できるよう、神経を研ぎ澄ませて――どちらが動くよりも前に、カルラが僕たちの間に立った。

 僕を庇うように手を広げるカルラに、スフィンクスは僅かに困惑を見せる。

 

「……ミントのアルラウネ。どういうつもりです?」

「今のユーリがスフィンクスであるあなたに敵いっこないので、庇ってるんです。わたしたちは冥界に戦いに来たわけじゃありません。リッカたちを連れ戻しに来たんです」

「カルラ、どいて」

「落ち着けって言ってます、ユーリ。何も考えずに突っ込もうとしないでください。今わたしたちの前にいるお母様は、この領域の主なんですよ」

 

 倒してでもリッカを取り戻す。その心意気だった。

 しかし、カルラの考えはそうではないらしい。

 勝てない相手――そうした魔族と、これまで何度も戦ってきた。カルラもまた、それを知っている。

 知っていて、なおも勝てない相手だと、カルラは思ったのだ。少なくとも、リッカのいない今の僕では。

 

「……お母様」

「ふむ……?」

「今でなくては、ならないのですか? ユーリたちは四つの試練を踏破し、魔王様のもとまであと一歩に迫っているのです。あと少しで世界を変えんとする今――本当に、お母様がこのようなことをする必要が?」

「ああ、うむ。今やらねばならぬ理由か。無論、あるぞ。ゆえにこそ、余は冥界の基本則を動かしてまでこの舞台を整えたのだからな」

 

 ネルガルに対する、理由の追及。

 その必要性は、確かにあった。けれど、最優先ではないと思った。

 どういう理由があろうとも、リッカたちを連れ去ったことには変わりなくて――そして彼女は、言葉では満足しないという確信があったから。

 

「それは、一体?」

「退屈、そして期待」

「え……?」

「余にも娯楽はあるが、娯楽と娯楽の合間に積もる退屈は如何ともし難い。しかし、余が鬱屈としている内に世界は変わろうとしているではないか」

 

 ネルガル自身の口から告げられたのは、やはり“魔族らしい”理由だった。

 

「世界の変革、運命の確定を否定はせぬ。だが、世界そのものを舞台としながら余は蚊帳の外などと、あまりに酷かろう? “魔王”に領地を貸し与えてやった以上、余にも演者として舞台に上がる権利があって然るべきではないか」

「……魔族ってのは、これだから」

「そなたもそうであろうに、エルフ。長命とは退屈との戦い。それを悟るほど生きてはおらぬか?」

「生憎、退屈とは縁遠い生活を送っていてね。だから同意はしてやれないよ」

「なんとも、羨ましいものよ。だがまあ――うむ、それだけの話。余は退屈に飽いた。ゆえにこの一時、身勝手を起こすことにした。そなたたちという、死と冥界に抗い得る者たちを集めてな」

 

 我儘を言う子供のようで、それにしてはスケールの大きすぎる話。

 この世界は変わろうとしている。魔王による勇者の使命は、終わろうとしている。

 しかし、その中にあって自分には席がない。それでは不満だと、脚本に手を加えて自分を舞台に上がらせた、と。

 言ってしまえばたったそれだけの話――ただそれだけの理由で、彼女はリッカたちを冥界に呼び込んだのだ。

 

 身勝手という自覚があっての行動、それで冥界の主という存在が干渉してくるなど、普通はあって良いことではない。

 それでも、実現してしまえる。カルラの母だという、あのアルラウネはその規模の存在なのだ。

 

「……あんたが何を言いてえのかは、分からねえけど分かった。それで、俺たちにどうしろってんだよ」

「余を楽しませよ。登場人物(キャラクター)は既にこの領域へと招いた。脚本は素人ゆえ、あれこれと指図はせぬ――そなたたちは自由にせよ。余も自由にする。そなたたちの大切なものを取り戻し、地上……生ある者の領域へと戻るために足掻け」

「結局――そういうことじゃないですか」

 

 ほんの少しの呆れと共に、クイールが聖剣の光を強める。

 ネルガルは、僕たちに自由に足掻けといった。つまり、この場で戦うという選択肢も、存在する。

 やはり、クイールの回答も僕と同じ。不可能に近くとも、やらなければならない。

 

「……焦り過ぎではあるが。ひとまず――そこのスフィンクスだけはどうにかしないとね」

「出来ると?」

「やるしかないのだろう?」

 

 ネルガルをどうにかするならば、どの道あのスフィンクスから倒さなければなるまい。

 まずは彼女を全力で撃破する。リッカたちの居場所を改めて聞くのは、それからだ。

 

「ユーリ――」

「大丈夫、カルラ。僕たちは、負けないから」

「……利口な判断をさせようとしたわたしがバカでした。仕方ないので、わたしも付き合います」

 

 ともすればカルラは、誰よりこの状況の危険性を知っているのかもしれない。

 だが、そんなカルラの手を引いて、付いてきてもらう。

 ネルガルに手を上げることそのものについて、カルラが躊躇っている訳ではない。ゆえに、僕たちが確たる意思を示せば、こういう判断をするという信頼。

 カルラは、僕の知る通りの、カルラらしい選択をしてくれた。

 安心で、思わず笑みが零れる。しかし――

 

「ん? ああ、それはならぬぞ。自由にせよとは言ったが、配役は選ばせぬ。カルラや、そなたは冥界(こちら)側であろうに?」

「え――」

 

 それに、ネルガルは何を言っているのかという表情で待ったをかけた。

 虚を突かれたように止まったカルラの足首に、結晶の蔦が絡まったのはその直後。

 

「ッ!」

 

 伸ばしていた手が振り払われる。それは、カルラが自身の危機を感付いたから。

 離れて一秒、蔦は猛然とカルラを覆い、ネルガルの方へと引き寄せていく。

 

「カルラ!」

「させません」

 

 結晶の蔦を断ち切ろうと振るった魔剣を、細身の刃が受け止める。

 ならば、クイールたちに――頼もうとして、スフィンクスが剣と共に振るった杖から放たれる無数の光弾が、彼女たちの動きを阻んでいる様子を見る。

 

「我が主」

「構わぬ、行け」

「ぐっ……!?」

 

 ほんの僅か、クイールたちに意識を移したことを、隙と見たのか。

 大きく振るわれた刃が魔剣に叩きつけられ、体が浮いた。

 体勢を整えようとするも、今の形態では炎で制動することも出来ず――吹き飛ばされた先にいたリヒトに受け止められる。

 

「っとと……ユーリ――!」

「ごめん、リヒ――」

「それでは、あまりに遅い」

 

 立て直そうとして、眼前に現れたスフィンクスの対処をする前に、足場がないことに気付いた。

 

「なっ……」

 

 いつの間にか、絡み合った樹の根が揃って僕たちを避けたように、足元に開いていた空洞。

 それは僕を、リヒトを、スフィンクスを、まとめて冥界のさらに下層へと誘うものだった。

 

「ユーリッ!」

「ユーリくん!」

 

 伸ばした手は、カルラにも、クイールたちにも届かず。

 すぐに穴は閉じて、完全な真っ暗闇に包まれた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。