凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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冥界色のエンゲージリング(9)

 

 

 僕が追って飛び降りるよりも前に、ユーリくんとリヒトくん、スフィンクスが落ちた穴は塞がってしまった。

 残っているのは僕とイリスにカルラちゃん。それから、この冥界の主だという、カルラちゃんのお母さんだけ。

 

「ユーリ……! ッ、お母様!」

「そう猛るな、カルラ。あの者らが、余が期待する通りの人間であれば切り抜けられようさ」

 

 その信頼は、決して敵に向けるものではない。

 けれど、ユーリくんのような力がなくとも、それは心からのものであると分かった。

 心から期待し、その危機を乗り越えられるものだと信じている。そういう物語を、彼女は求めているから。

 まるで僕たちをキャラクターか何かのように考えて、僕たちの頑張りを演劇のように捉えたその価値観は、あまり面白いとは感じられない。

 カルラちゃんの必死な叫びを受けて飄々としている様子は、到底“お母さん”らしいとは思えなかった。

 

「……カルラちゃんを離してください」

「そなたたちはあまり我が娘と親しい訳ではないと思うたが?」

「知り合ったのは今日です。ですが、ユーリくんの幼馴染で、ユーリくんが信頼できるっていうのなら、僕だって信じます。というか、そもそも――困っている誰かを助けるのに、親しいとか親しくないとか関係ありません」

「ほう……? それは何故に?」

「僕は勇者です。勇者とは、困っている誰かを助けるものです。だから――」

 

 ユーリくんたちを、リッカちゃんたちを探すのは、後回し。

 まずはユーリくんに手を伸ばすことのできない、カルラちゃんを助け出す。

 

「少し待っててください、カルラちゃん。すぐに助けます」

「クイール――」

 

 聖剣を構える。僕の独断、深い考えなんてないけれど、イリスも並び立ってくれる。

 

「良いのかい? キミの御守はいなくなったようだが?」

「ナルラトにそなたたち全員を相手取らせてもつまらぬ。渋られたがのう。これは余の身勝手、ゆえに誰より、余の思い通りにならねばならぬ。その一つがカルラ、そなたよ」

「わ、たし……?」

 

 引き寄せたカルラちゃんの頬に手を置く、カルラちゃんのお母さん。

 その行動は、本来であれば微笑ましい、愛のこもったものになる筈だけれど、お母さんがカルラちゃんに向ける目は、自分の娘に対するものではなかった。

 まるで、大切な道具を見るかのような。

 少なくともそれが、親子の触れ合いだなんて、僕は考えたくない。

 

 ――私たちには子供なんていない、それでいいね? ■■■■。

 ――ええ、■■■。その方が幸せよ。私たちも……きっとあの子も。

 

 うん……親子っていうのは、そういうものじゃない。

 もっと優しくて、あたたかい触れ合い。今の僕は、それを知っている。

 

「――今の状況は、カルラちゃんが望んでいることじゃないですよ。それを強要するなんて、お母さんのすることじゃないです」

「然り。母とは子を想うもの、知っておるとも。そして、我らは共に同じ望みを抱く群体――そのように在る種族よ。カルラの望みは我が望み。そして……我が望みは、カルラの望みである。のう? カルラ? 余が何を想っておるか、今のそなたなら分かろうに?」

「……違い、ます。わたしは、ユーリとリッカに、ひどい目になんて遭ってほしくない。だって、わたしは――」

「ふふ……青いのう、カルラ。何故魔族は魔族足るか……我欲に抗わぬゆえであろうに。まあ良い。すぐに理解しようさ。好き勝手の快楽というものを」

 

 種族としてどうとか、そんなことは関係ない。

 例外なんて、どんな種族にもあるもの。イリスがエルフらしくないように、カルラちゃんだって、アルラウネらしくないという、ただそれだけのことだろう。

 それを否定して、アルラウネらしくを強要する行いに、僕は決して賛同できない。

 

「イリス。彼女をすぐにやっつけて、まずはユーリくんたちと合流します。カルラちゃんと一緒に」

「――了解だ。スフィンクスがいない内に、ね」

 

 カルラちゃんを助け出し、ユーリくんと合流し、リッカちゃんたちを見つける。

 そのために、こうして最初に戦うのが冥界の主というのもおかしいけれど、この“好き勝手”の元凶であるというのならどの道いつか戦わないといけない相手。

 ならば、今倒す――そんな戦意を、カルラちゃんのお母さんは軽く受け止め、妖しく微笑んだ。

 

「それで良い。余も体を動かしたかった。本命の前に、適度に削れた相手でな。準備運動――ないしは、食前酒というやつよ」

「……?」

 

 僕たちの選択が大正解であるかのように、カルラちゃんのお母さんは手を打って。

 それから玉座の肘置きに手を置いて、ゆっくりと立ち上がった。

 ――ミシリ、と空間が揺れた。彼女が立ち上がること、それそのものが異常であるかのように、領域が軋んだ悲鳴を上げた。

 

「こうして立って、歩くのはいつ以来か」

「……何をする気だい?」

「異なことを。余を“やっつける”のだろう? 付き合おうぞ。当世の仕来り、実に気に入った。そなたたちの鎧、そして我が娘の縁を手繰り、遥か向こうに見えた戦士の在り方――余もそれに倣うとしよう」

 

 周囲で僕たちを見下ろすアルラウネたちの合唱が、より大きくなる。

 さながら歓声のように。誰が何を言っているのか不明瞭なほどバラバラになって、しかしそれらが不思議と一つに合わさって、言葉を形作る。

 

 ――『すべては解れ行くの』――『絶叫は調べとならず』――『巡る輪廻などなく』――

 

 ――『外へと手は伸ばせず』――『外へと手は伸ばせず』――

 

 ……なんだろうか。

 彼女たちの紡ぐ歌は、調和の取れた綺麗なものの筈なのに。

 雑音のようで、悲鳴のようで、怨嗟のようで、出来れば聞いていたくないほどに、鳥肌が立ち、体が動くことを忘れた。

 

 ――『強き夢から覚めて』――『分かり合うこともなく』――『真に平等な世界を』――『勇なき平穏を』――

 

「……ふふ。変革をと望めば、このような調べともなるか。余が望む世界とは正反対だが、余興としては悪くない」

 

 そんな歌の中で、彼女はカルラちゃんを撫でていた。

 耳を塞ごうとするカルラちゃんを蔦で抑え付けながら、慈しんでいた。

 そして、カルラちゃんをより引き寄せて、そっと額を合わせる。

 彼女にとっては至高の善意。だけど僕たちにとっては、勘弁してほしいほどの悪意をもって。

 

「お母、さま――」

「恐れるな。そして、拒むな。そなたは元より、そのための鍵よ」

「カルラちゃん!」

 

 次の瞬間、カルラちゃんの体は解れて、小さな銀色の粒になった。

 結晶は一つひとつが術式になり、カルラちゃんのお母さんを包んでいく。

 

『――エクストラコード、リライト――』
 
『――エクストラコード、リライト――』
『――エクストラコード、リライト――』
『――エクストラコード、リライト――』
『――エクストラコード、リライト――』

 

 雑音は合唱のように纏まって、感情のない旋律を形作る。

 旋律が浸透するように術式は姿を変えて、大きさも形もばらばらな、淡く輝く結晶になった。

 ぐるぐると彼女の周囲を回る結晶は、歌に沿って少しずつ研磨されて、端正な形状へと整えられていく。

 

「これって……」

「まさか、リッカくんと同じ……!」

 

 ――La――La――La――La――La――LaLa――LaLa――
 
 ――La――La――La――La――La――LaLa――LaLa――
 ――La――La――La――La――La――LaLa――LaLa――
 ――La――La――La――La――La――LaLa――LaLa――
 ――La――La――La――La――La――LaLa――LaLa――

 

 ――La――La――La――La――La――LaLa――LaLa――
 
 ――La――La――La――La――La――LaLa――LaLa――
 ――La――La――La――La――La――LaLa――LaLa――
 ――La――La――La――La――La――LaLa――LaLa――
 ――La――La――La――La――La――LaLa――LaLa――

 

 冥界全体に響いているのではないかと錯覚するほどの大合唱。

 歌っているだけで楽しくて仕方ない。そんなアルラウネたちの、心情の爆発。

 無限の音の中で、カルラちゃんのお母さんが発する言葉だけが、恐ろしいほどはっきりと聞こえた。

 

「確か、こう言うのが決まり事であったな? ――――変身」

 

『――グラフトリンク――』
 
『――グラフトリンク――』
『――グラフトリンク――』
『――グラフトリンク――』
『――グラフトリンク――』

 

 その一節の後に訪れた静けさは、まるで世界が止まってしまったようだった。

 ほんの僅か、息の仕方さえ分からなくなり、たった数秒が永遠にさえ感じられた。

 僕はそれを耐えるだけで精一杯だったのに、周りの小さなアルラウネたちにとっては、万感を歌うまでの“溜め”に過ぎない。

 カルラちゃんのお母さんが大きく振って広げた腕は合図であるかのように、静寂は破られ、歌は結ばれる。

 

 

『記されしは救いのアポクリファ! 消え果てよ、悪意のカノン!』
 
『記されしは救いのアポクリファ! 消え果てよ、悪意のカノン!』
『記されしは救いのアポクリファ! 消え果てよ、悪意のカノン!』
『記されしは救いのアポクリファ! 消え果てよ、悪意のカノン!』
『記されしは救いのアポクリファ! 消え果てよ、悪意のカノン!』

 

 

『歌え!』
 
『歌え!』
『歌え!』
『歌え!』
『歌え!』

 

 

『開け!』
 
『開け!』
『開け!』
『開け!』
『開け!』

 

 

『集え!』
 
『集え!』
『集え!』
『集え!』
『集え!』

 

 

『我らの永遠! EL(イル)-カルラの名のもとに!』
 
『我らの永遠! EL(イル)-カルラの名のもとに!』
『我らの永遠! EL(イル)-カルラの名のもとに!』
『我らの永遠! EL(イル)-カルラの名のもとに!』
『我らの永遠! EL(イル)-カルラの名のもとに!』

 

 

 研磨された結晶、そのすべてが、彼女に集まり、鎧と成した。

 全身を覆う半透明な鎧は、内から放つ淡い光により、絶えずきらめいている。

 白にも、銀にも、虹色にも見える輝きで思い出すのは――やはり聖都だった。

 聖都を囲う結晶樹。あれと同じ、きらめく鎧。だけど当たり前になったあの街の樹よりも、ずっと雰囲気は荘厳で。

 戦わないといけない敵だというのに、その煌びやかな姿に僕は、暫し感動を覚えてしまっていた。

 

「美しかろう? そなたたちに倣い紡いだ戦装束よ」

 

 きらめく両腕が、それぞれに武器を持つ。

 右には僕の聖剣に程近い形状の、左にはユーリくんの魔剣に程近い形状の、やはり輝く結晶で作られた剣。

 “物真似”だというのは分かる。

 けれど、伝わってくる力は聖剣と同等――決して油断してはならない偽物だった。

 

「クイール!」

「はい!」

 

 イリスと頷き合う。僕たちを真似たというが、その力の性質はまるで違う。

 とはいえ、戦うための鎧であるのなら、体力の限界に至るまで消耗させることさえ叶えば、カルラちゃんを引き剥がせる。

 気付けば、普段通りに体は動いた。

 聖剣に力を込める。僕たちを挑発するように、結晶の鎧は剣を揺らした。

 

「来い。楽しもうぞ」

 

 ――大地を蹴って一気に詰め寄り、振るった聖剣は、同じ形をした結晶の剣に受け止められる。

 それを弾いて、一合、二合と切り結ぶ。

 ……剣を持った相手と戦う機会なんて、殆どなかった。だから、実のところあまり感覚が掴めない。

 けれど二つの剣をそれぞれ片手で扱う彼女の膂力は、そこまで差のあるものとは感じなかった。

 それで全力なのか、加減しているのか、或いは、本当に準備運動のつもりなのか。

 

「――――!」

 

 手を抜いているというのなら、その状況をイリスが見逃すことはない。

 素早く背後に回ってから放たれた魔力弾。それを――魔剣を真似た方の剣で防ぎ切った。

 

「そら」

「チッ……」

 

 イリスには背を向けたまま、魔剣の方から弾丸を放つ。

 剣でありながら砲撃を行えるあの機能まで健在。しかも、手首から伸ばした半透明な蔦が引き金を引くことで、変形させずとも弾丸を放つことが可能となっている。

 躱すイリスへの追撃。そちらに意識が動いているというのなら、こちらが攻め時だ。

 聖剣を強く握り、輝いた刀身を一気に押し込む。

 

「ほう? やるではないか、流石は勇者というべきか」

「ありがとう――ございます!」

 

 振り抜いた剣は体にまでは届かなかった。

 軽いステップで樹の一本にまで飛び退いて、そこから考えられる反撃方法はただ一つ。

 幹を蹴って再接近してくるまでの間に、聖剣の柄に手を置いて、今とは異なる力を引き出す。

 

『マックスアップ! Q-クエスター!』

 

「む……っ?」

 

 急速な接近、その勢いも込めて振り下ろされた双剣を、爆発しそうなほどに高まった力で受け止める。

 体を覆うは強靭な鎧。手には何も持たなくなった代わりに、四肢のすべてに聖剣にも等しい力が宿る、短期決戦用の外装。

 これならば、たとえ巨大な魔族の振るう拳だって止められる。

 たとえ冥界の主であっても、その膂力が普通の魔族と大差ないならば、対処の仕方は変わらない。

 

「隙ありだ!」

 

 そこからの反撃は――まずは不要。

 彼女が動きを止めた隙を、イリスは過たず狙う。

 ドラゴンの熱線。ドラゴンなんてしばらくは懲り懲りだけれど、イリスのこの攻撃は頼れる一撃だ。

 眩い閃光は一直線に伸びてきて、結晶の鎧のど真ん中を撃ち抜いた。

 

「え……?」

「油断するな、クイール!」

 

 鎧を溶かすのでも、罅を入れるのではなく、熱線はその体を貫通した。

 構成する結晶が砕けて辺りに飛散する。

 僕たちと同等の防御力を有していると勝手に考えていたが、それほどに効果的だったのか――カルラちゃんは大丈夫かという心配が、一瞬思考を停止させた。

 

「ふむ。これが戦か。確かに油断などしておれぬのう」

 

 ――崩した姿勢をゆっくりと起こした、壊れかけの鎧姿。

 その体に、周囲から銀色のきらめく魔力が集まり、欠けた部分を修復していく。

 穴も罅もなく、あっという間に元通りの姿へと戻った彼女は、体の具合を確かめるように剣を軽く振るう。

 

「では続きだ。胸を借りるつもりで行くぞ」

 

 どこまでも楽しそうに、カルラちゃんのお母さんは無機質な仮面の向こうで笑った。

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