凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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冥界色のエンゲージリング(11)

 

 

 ――ぺしぺしと頬を叩かれて、目を開ける。

 

 ――久しく見ていなかった、けれど近しい場所にいた、歪な関係の仲間がそこにいた。

 

 

「……起きられるわね? 体に痛みは?」

「大丈夫――」

 

 その違和感を脳が処理する前に、手を引かれて起き上がる。

 おかしいと気付くことが出来たのは、そのすぐ後だった。

 

「……え?」

 

 見間違える筈もない。その魔族の姿を。

 暗がりの中でもなお目立つ赤髪も、捻じれながらもきっちりと左右対称な細い角も、生真面目さに満ちた紫の瞳も。

 コウモリのような皮膜のある翼も先端が口のように開く尾も、僕は知っている。

 不格好な、光沢のある黒い軽鎧に身を包み、大きな牙を削ったような剣を右手に持った彼女は。

 

「……ラフィーナ?」

「ええ。とりあえず、なんともないようで何よりよ。あとは、こっちね」

 

 ――僕たちの旅を、“普通”とは違う形で支えてくれていたサキュバス。

 ラフィーナは僕が起きたことを確認すると、傍に倒れていたリヒトの体を揺する。

 その所作はあまりにも自然で、だからこそ違和感が強かった。

 どうして――どうしてラフィーナが、外に出ているのか。その疑問を察していたのか、ラフィーナは口を開く。

 

「――あのバカアルラウネが私を剣の方に移すとき、色々小細工していたのよ。リッカが用意していた、あの中の魔族を外に出す手段と、それからこの気持ち悪い装備」

「外に、って……」

「そっちはいいわ。私とリッカの問題だから。アイツが話す気になったら、勝手に話すでしょうし。ともかく、もしかしたらこういう、あんたが誰にも頼れないときが来るかもって想定してたんでしょうね」

 

 ……リッカがいなくなる前に、カルラは自ら外に出て、ラフィーナに関しても対策を行った。

 冥界が絡むこの問題を解決するための対策。僕が死なないための対策。

 ラフィーナの意識を魔剣の方に移しただけではない。彼女をいざという時に出られるようにもしていたのだ。

 

「……っ……なんだ――って、誰だよあんた!?」

「元気そうね。さっさと立ちなさい。事態は好転していない……というか、最悪に近いんだから」

 

 目を覚ましたリヒトにとって、その姿のラフィーナは当然初対面。

 彼からすれば、見知らぬ魔族が目の前にいる危機に他ならない。誤解を受けないよう、僕も傍に寄る。

 

「リヒト。彼女はラフィーナ――僕の、剣の姿でアドバイスをくれていた魔族だよ」

「ユーリ――……いや、剣って……確かに、声同じだな。くそ、あんたたちの非常識を受け入れるのに慣れてきた気がする……」

「話が早いけど、常識的に生きたいなら悪い傾向だから慣れない方がいいわ」

「今更常識的も何もねえだろ」

 

 そんなことはない、とは言えなかった。

 どこか悔しげに、疑問に持つのも疲れたとばかりに溜息をつき、リヒトも立ち上がる。

 

「さて、二人とも。何が起きたか、覚えているかしら?」

「……落ちたんだよね。僕たちと、あのスフィンクスとで」

 

 カルラやクイール、イリスティーラと引き離され、僕たちは冥界のさらに下層に落とされた。

 覚えているのはそこまで。怪我などをしていないことから、そのまま落下し激突、なんてことはなかったのだろう。

 冥界に入った時と同じように、立っているのは枝のような道。

 真上に広がるのは銀色の靄――多分、その向こうから落ちてきたのだと思う。

 

「どうにか本体(こっち)に戻って、あんたたちを抱えてここに降りることは出来た。けど、あんたたちは気を失って、私もこの上の、どこから落ちてきたかは分からない。そんな状態よ」

「さっきの、スフィンクスは?」

「不意打ちで蹴っ飛ばしたわ。まあ――撃退できたとは思わない方がいいわね。ちょっとの時間、やり過ごせただけ。あんたたちが目覚めるまでの、本当にちょっとの時間」

 

 ラフィーナの視線を追って、さらに下層を見下ろす。

 入ってきたあの場所と変わらない、結晶の枝がまばらに走った広大な空間。

 ――こことは繋がっていない枝を何かが走っているのが見えた。

 人よりも大きな、透き通った何か。

 枝の道を軽々と跳ねて飛び移りながら、こちらに近付いてくる。

 あの巨体は、見たことがある――ムルゼの山の、氷の領域で。

 

「なんだ……? 氷の、獅子?」

「……スフィンクスが使う魔法らしいわね。ユーリ、忘れてないでしょうね?」

「うん――」

 

 あの時は、世話になった存在だ。命だって救われた。

 奇妙な性格ながらも、冥界の守護者として責任感ある魔族だった。

 ――彼女もまた、同じなのだろう。冥界のスタンスそのものが違い、僕たちにとっての脅威となるという違いがあるだけ。

 

「……伏兵の存在は想定外でした。これは私の油断でしょう。ですが、判断が甘いと言わざるを得ない。心臓を穿つか、最低でも目を奪うべきでした。それで私を殺し得るかは、別として」

「……そうね。それが出来れば、話は早かったでしょうね」

 

 氷の獅子、その背中に乗って、剣と杖を持ったスフィンクスは僕たちの前に降り立った。

 役目は終わったとばかりに、獅子は崩れていく。

 スフィンクスに怪我は見られない。ラフィーナの不意打ちによる落下を、特に問題なく対処したということだろう。

 

「サキュバス……しかし、その人間たちが虜囚になっている様子も無し。些か興味深い。サキュバス、あなたの欲の在り処は何処に? その献身に如何なる意味が?」

「うっさいわね……こちとら欲でやってる訳じゃないっての。あんたの尺度で語らないでほしいわ」

 

 不愉快そうに舌打ちしてから、ラフィーナは僕たちとスフィンクスの間に立った。

 その、サキュバスらしからぬ発言に、スフィンクスは僅かに目を細めて困惑を見せる。

 

「……? サキュバスが欲を行動原理としない……? ならば、何故?」

「腐れ縁よ。そこの勇者と無駄に付き合いが長いせいで、切るに切れなくなったの。それ以上でもそれ以下でもない、しょうもない理由でしょ」

「不合理です。魔族が人間と縁を結ぶ理由としては、あまりにも短絡的。知性ある者の選択とは、到底思えません――ああ、その衝動が、サキュバスたる所以ですか」

「勝手に納得しないでくれる? ……って、スフィンクス相手に言っても仕方ないか」

 

 ラフィーナは、欲に動かされるのではなく、どうしようもないほどの生真面目さで、僕たちの事情に付き合ってくれている。

 それは、サキュバスという種における彼女の異質性に他ならない。

 僕が初めて知り合ったサキュバスであるからこそ、そこに違和感は覚えなくて。しかし、多くの知識を持つのだろうスフィンクスにとっては、容易に理解できることではなかった。

 ラフィーナもはじめから理解されようと思って説明したのではない。問われたから答えた。ただそれだけの話。

 それ以上は必要ないとばかりに、歪な剣を両手で持った。

 

「……その不格好な剣は? それに、鎧も。最低限の技術さえなく作られた、児戯の工作。そんなもので、私を相手取ると?」

「“こんなもの”しかないのよ。バカが用意した、使い慣れてもいない、虫皮の鎧と牙の剣。ふざけてるったらないわ」

 

 ……虫の皮に、牙……?

 リッカの持つ使い魔には、そういう加工を行える個体もいるにはいるだろう。

 けれど、実際にリッカがそれをするとは思えない。ならば――あれを作ったのも。

 

「……カルラが?」

「あれのやっていることなんていちいち見ていないけど、ずっと前からこそこそやってたらしいわよ。自分から志願した虫を使って」

 

 ――恐らくは、こんな事件を想定さえしていなかった頃から。

 いつか、ラフィーナにこうした役割がやってくるという確信を、カルラは持っていたのかもしれない。

 そのために使い魔を加工して拵えた、虫の鎧と剣。

 バランスも取れておらず、専用の訓練さえしていない、まともに使えるとは思えない装備だと――ラフィーナ自身が思っている。

 それでも、この場にある、唯一の装備だからと、仕方なく。

 

「急拵えの自覚がある武器で私の前に立つ。その愚行に、あなたなりの根拠があるというのなら、私はあなたを敵として処理しましょう」

「言うまでもないわ。……こんなところでバッドエンドとか、やってられないっての」

 

 戦意を露わにするラフィーナに並ぼうとして、外装が解けていることに気付く。

 鞄の中に戻っていたアッシュを手に取った。大丈夫――戦える。

 

「よろしい。では、小手調べといきましょう。我が名はナルラト――ネルガル様に仕えるスフィンクスです。名乗りなさい、サキュバス。そして二人の人間。仕合う前の、作法というものです」

「……ラフィーナよ」

「……ユーリ」

「え……あ……り、リヒトだ。おい、ちょっと待てあんたら。本当に戦うのか? さっきより状況悪いぞ?」

 

 分かっている。彼女がケルベロスに負けず劣らず、強力な魔族であることなど。

 戦って勝つことの難しい相手であることなど。

 だが、だからといって抵抗しないなど認められない。それでは、進むことさえままならないから。

 

「多少の手応えは期待しましょう。少なくとも、先に招いた呼び水の娘たちよりは、戦うに値すると」

 

 ――挑発的に、悪意を込めた発言だった。

 そうすれば僕たちを焚き付けられると、分かっての言葉。

 間違いない。それを無視できるほど、冷静にはなれなかった。

 

「ッ……リッカたちのこと……? みんなは何処にいるの?」

「力で口を割らせる段階であると、理解しての問いに価値があるとは思えません」

 

 ……それならば、なおさら彼女を倒さなければならない。

 僕たちがここに来るより前に、彼女はリッカたちに会っている。居場所を知っているというのなら。

 

「……絶対に無理するんじゃないわよ」

「ラフィーナも。けど……ごめん。今は頼らせて」

「今は、じゃなくていつも、でしょうが」

 

『――アッシュリンク――』

 

「おい、ユーリ……!」

「リヒト、下がってて!」

 

 灰の外装を身に纏い、ラフィーナと合わせて駆け出す。

 手元に魔剣はない。普段のように突出は出来なくとも、ラフィーナの助力はそれを補って余りある。

 ナルラトと名乗ったスフィンクスは、自然体のまま。

 こちらの接近を待ち、その長い剣のリーチに入ったと同時、体よりも先に意識がラフィーナへと向く。

 ――ならば、と枯れた結晶の路を踏みしめる力を強める。

 初撃は受け止められるという信頼があった。振るわれた刃を受けるために剣を構えるラフィーナの脇を抜け拳を叩き込み――その手応えのなさに違和感を抱く。

 

 伸ばし切った腕の先が、まるで水に浸けたように冷たい。

 否――ようにではなく、ナルラトの直前に広がる波紋――拳が沈んだ先には、水が広がっていた。

 僅かな入り口ではあるが、この場所と遠方とを繋ぐ魔法。その応用による防御。

 それを悟って腕を引っ込め、ラフィーナが弾いてこちらに向いた刃を躱しながら、ナルラトの背後に回る。

 

「ぐぅ……!?」

 

 そこからもう一度攻撃に繋げる前に、全身に衝撃が叩きつけられた。

 魔法による衝撃波――それは僕だけでなく、ラフィーナにも襲い掛かったらしい。

 体勢を立て直そうとして、それよりも前に杖で殴りつけられる。

 灰が舞い、体が浮いた。後退した先は枝の道の外で、そのまま体は落ちていく。

 しかし、その直後、同じく落とされたラフィーナと視線を交わし、手を伸ばせば――ラフィーナは翼を広げてこちらへと飛んでくる。

 足場が狭くとも、ラフィーナには翼がある。そのアドバンテージは小さくはない。

 手を掴まれて、体が引き上げられる。ナルラトを超えて飛び上がり、手が放されると同時、“いつも”の炎の要領で黒灰の弾丸を放つ。

 

 だが、これで通ずるようならば最初から落とされたりしていない。

 当然その弾丸は断ち切られるが、その間に僕たちは再度ナルラトに接近する。

 

「なるほど。抗う気概を見せるだけのことはあるようです」

 

 振り下ろされる刃を、灰を重ねた盾を作ることで受け止める。

 その後一秒も経たずに砕け散るものの、回避して次に繋げられさえすればいい。

 ラフィーナと僕、どちらに意識を置いているかは伝わってくる。

 どちらかを疎かにしてはいない辺り、この魔族は本来の能力だけでなく、鍛え上げた技術も一流なのだろう。

 妨害を徹底すれば、戦闘にはなる。けれど、一向に有効打を与えられない。

 

「ですが、まだ未熟。殺意、或いは害意があなたたちには足りていない」

 

 接近を防ぐためにもう一度張った灰の盾は、真っ二つに分断される。

 そこまでは予想通り。分かれた上半分を殴って周囲に撒き散らし、視界を妨害しながらも、残った下半分を持ち上げ疑似的な武器とする。

 切れ味も何もない。硬いというだけの、不格好な鈍器。

 威力に期待を込め、その体に叩きつける。しかし闇雲な一撃は、構成していた灰が負けて砕けるという結果に終わった。

 ドラゴンのように堅牢な鱗を持っている訳でもないスフィンクスが、備えもなく無傷でいられるとは思いにくい。

 

「防御魔法……! 器用なことね!」

「器用だという自覚がなければ、杖など持たないでしょう」

 

 接近戦をしつつも、魔法を構築し、発動したということらしい。

 局所的だが、即座に、強靭な防御を実現できる魔法――戦闘の中でそれを紡げるほどの技術力の持ち主。

 或いは――それが可能なほど、“僕たちが弱い”ということか。

 

「っあ!」

「ユーリッ!」

 

 斬撃をギリギリで躱したものの、魔力の砲撃が直撃し、僅かに意識が遠のいた。

 外装が消失し、踏ん張ることが出来ずに滑り落ちかけて、リヒトに腕を掴まれる。

 しかし――引っ張り上げられ、立ち上がる前に、ナルラトは踏み込んできた。

 

「やべぇ……!」

 

 リヒトが僕を引っ張りながら飛び退くことが出来たのは、彼の危機に対する直感からか。

 僕もそれ以上の傷を受けることなく回避が叶うが、これだけの技術を有するナルラトが本気でここまで甘い踏み込みをするとは思えない。

 ――それが誘いだと確信する前に、背後を狙ったラフィーナを、即座に振り返ったナルラトの剣が襲った。

 

「ッ――――!」

「ラフィーナ……!」

 

 虫の鎧はあっさりと刃を通し、抵抗なく剣は振り抜かれる。

 跳ねた鮮血を、やはり魔法で弾き、赤を纏うことなくナルラトはラフィーナを見下ろす。

 

「真面目な剣ですね。かつて私も、()()学んだものです。ですがその剣では、“自分以上”を超えられない。経験の差を、覆せない」

「う、く……!」

 

 すぐには起き上がれないと踏んだのか、ラフィーナから目を離し、もう一度こちらに歩いて来ようとして。

 ナルラトは足元に転がる“それ”を見た。

 先程の浅い踏み込みの斬撃により、紐が断たれたのだろう、僕の鞄。

 その上に立ってナルラトを威嚇するアッシュ。

 

「……」

 

 それを――なんでもないかのように、ナルラトは鞄ごと、軽く横に蹴り飛ばす。

 手を伸ばしても届く筈もなく、鞄も、アッシュも、奈落の底へと落ちていく。

 

「他に手札は? 品切れだというのならば、早々に幕を引かせていただきますが」

 

 剣の切っ先が突きつけられる。

 断じて――断じて、まだ、終わるつもりはない。

 今度こそ戦う力はなくなって、だからといって、ここで目を閉じ、冥界の在り方に身を委ねるなどあってはならない。

 突きつけられた刃を、彼女はまだ振るう気はない。いつ首を飛ばされてもおかしくない状況にあることへの悔しさを噛み締めながらも、ナルラトを見上げる。

 

 熱のない魔族の瞳。その後方――銀色の靄の向こうから落ちてくる、ひとつのきらめき。

 ――もう一人の勇者の、勇気の象徴が見えた。




【ラフィーナ】
百代目勇者の『初戦試験官』として選任されたサキュバス。
普段は魔剣や魔道具『アッシュ』を介して、ユーリたちのナビゲーションをはじめとしたサポートを行っている。
今回、非常事態を察したカルラが色々と根回しをしていたため、リッカ不在にも対応できた。
自分と共に魔剣側に移されていた、虫素材の軽鎧と剣を大変遺憾ながらも装備し、冥界に顕現した。
――その剣は、ひたすら型通りに鍛えられたもの。
剣士としてそれなりの水準にはなっていれど、積み上げた時間がものを言うスタイルのため、格上を押し切る爆発力は発揮できない。
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