凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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冥界色のエンゲージリング(12)

 

 

 足に力を込めて立ち上がる。

 自分を無視し、傍を走り抜ける選択を、ナルラトは想定出来ていなかったのだろう。

 通り抜ける直前、僅かに息を呑む音が聞こえた。

 

「ユーリ!?」

 

 痛みに耐えながらでは、満足に走ることも出来ない。

 ひどく不格好なものだったと思う。

 何をする気なのかという疑問が勝ったのか、ナルラトが追ってくることはなかった。

 枝分かれした細い道の先で、やけにゆっくりと落ちてきたそれを手に取る。

 生身で使うには向いていない、ずっしりとした重み。魔剣とはまったく違う重心。

 

 そして、それ以上に――正しい担い手でないものを拒絶しているような感覚。

 手の内で暴れ、あわよくば抜け出そうとするそれをしっかりと握りしめながら、走ってきた道を戻る。

 

「ほう……?」

「ユーリ、あんたそれ……!」

「その剣――クイールが持ってた……」

 

 この剣が拒絶するのも仕方ない。この剣に選ばれた勇者は、僕ではなかったから。

 そもそも、剣に選ばれるということの意味を、これまで深く理解してはいなかった。ラフィーナとはまた違う仕組みで、剣に宿っている何かがいるかもしれないと考えた時もあった。

 しかし、そういうものではない。この剣に生命は宿っておらず、そうあれかしと造られた機能があるのみ。

 その認証機能が、正規の担い手ではないと僕を拒絶しているだけ。説得しようもないほどに絶対的で、頑なな判定が下された。

 

「……あなたが持って、使い物になるとは思いませんが」

「……うん。僕も、そう思う」

 

 持って、振るうことは出来よう。しかし、細い木さえ断つことは出来まい。

 担い手以外が振るうのであれば、そこらで買う武器の方が遥かにまともに扱える。

 この剣の在り方について、リッカに聞いたのは、クイールが同行するようになって暫く経った頃だったか。

 曰く――この剣は担い手の証明として契約を求める。

 己をこそ唯一無二とすること。担い手の最強で在り続けるがゆえに、その他の武器を一切認めないこと。

 色々な意味で重い剣だと、リッカは言っていた。まったく、その通りだと思う。

 

「っ、逃げなさいユーリ! そんなもの使っても、リッカのいないあんたじゃ……!」

「そんなこと、わかってる。けど、やらなきゃいけないんだ」

 

 この剣は、ひどくクイール想いなのだ。一度決めた担い手を、何があろうとも支える。

 決して失われることはなく、如何な手段を取ろうとも、担い手のもとに帰り着く――その意思ならぬ意思は、感じ取れた。

 ならば――と、強く握り込んで、高く掲げる。

 ふざけるなと魔力を逆流させて抵抗する剣に、僕は自身の想いをぶつけるのみ。

 

「――今の僕には、力が必要なんだ。リッカが傍にいない今の状況を打破するための力。打ち破れると確信できる力が、今欲しいっ!」

 

 腕の内を駆け巡る魔力が、少しずつ肉を裂いていく。

 その激情は、理解できる。身勝手な理由で、僕はこの剣の在り方を捻じ曲げてでも、利用しようとしている。

 契約すらしていない勇者が、自身を振ろうなどと烏滸がましい。自身を振るえるのは、クイールを置いて他にはいない。

 それが最終解答であるのならば――それでもいい。必ずしも、剣である必要などない。

 

「取引だ! 僕はキミを利用して、この危機を乗り越える。キミは僕を利用して、クイールのもとに帰る。お互い、今はそれしか方法がないんだ!」

 

 肌に走った傷から跳ねた血が顔に飛ぶ。

 腕だけでは飽き足らず、体中に痛みが伝う。

 今、体に起きていることは異常だと、脳が軋むような頭痛をもって警鐘を鳴らす。

 屈して、意識を手放してはならない。言うなればそれは、担い手でないものが聖剣の力を使うための代償だ。

 

「ッ……ふ――!」

「ユーリッ!」

 

 込み上げてきたものが口から零れ出る。喉の痛みを感じながらも、残ったものを呑み込む。

 最初の……この剣を初めて手にした時、クイールもこの洗礼を受けたのだろうかと、益体もないことを考えた。

 だとすれば、尚更、屈してなるものかと己に喝を入れる。

 

「ぐ……っ、どんな、形でもいい――今回限りでいい! 僕に力を貸して! 聖剣ブレダリオンッ!」

 

 ――瞬間、脳がふわりと浮くような感覚の中で、不思議なほどに痛みが消えた。

 視界が白みがかり、体が軽くなる。それはこの剣に認められたということなのか、はっきりとはしないけれど。

 剣を胸元にまで戻し、柄に手を当てる。クイールがずっと、そうしていたように。

 それだけで、今の僕の選択は正しかったのかは、理解できた。

 

『――WARNING――WARNING――』

 

『――BRAVE CODE――STAND BY――』

 

 ノイズまみれの音声が、響き渡る。

 瞬間、ごく短時間の鎮痛剤が切れたように、全身を激痛が襲った。

 

「う、ぐ――あ、うああぁああああああああぁぁぁぁ――――――――ッ!」

 

『――REDIRECT LINK――DARKNESS UP――』

 

 真っ白になった視界が一点、黒一色に染まる。

 闇の中で体を苛む苦痛は、見えざる相手の攻撃を受けているかのよう。

 それを追い払わんと藻掻けば、それさえ許さないとばかりに腕に何かが組み付いて、強く縛ってくる。

 聖剣の眩い輝きとは正反対の、闇の苦悶。担い手でないのならばそれが似合いだとばかりに、押し付けられたのはそんな力。

 けれど――それでも構わない。どんな形でもいいと言ったのは僕だ。

 聖剣は溶けて鎧へと変じていき、それを掴むべき両手には何も持っていない。

 かつて、クイールらしくないと断じたその姿。まさか、こんな形で肯定することになるなんて。

 

『――TRIAL MODE――BRAVE DYSTOPIA――』

 

 何も見えない。体中が、締め付けられるように痛む。

 その代わりに、どうしようもないほど力が湧いてくる。これが聖剣の力なのかと、的外れな感心を覚えた。

 

「お、おい、ユーリ……?」

「――縛られ、苦悶し、それでも立つことを強要される。なるほど、正しく勇者の姿です」

 

 闇の向こうから、声が聞こえる。

 視界が失われ、代わりにその声が、音が、気配がどこからくるものかが、不気味なほど脳に伝わってくる。

 この広いとはいえない戦場。一歩踏み外せば奈落に真っ逆さまという状況で、視界が奪われることは、致命的と言える。

 では、せっかく力を得たというのに、こうして目を閉じたまま諦めるか――そんなこと、あり得ない。

 

「っ……ぁ……!」

 

 一歩踏み出すだけで、足が痛んだ。

 体を覆う外装の内側に棘でも付いているのではと思うほどに、僅かな動きが痛みを生んで、全身へと広がっていく。

 ただ歩く、それだけで一つの試練であるかのようで、一歩一歩が重く、遠い。

 

「……満足に歩くこともままならないとは。人の権利さえ奪われた使命の虜囚。実に皮肉で痛ましい。見ていられませんね」

 

 ――それならば。どう動いても痛みから逃れられないのならば。

 

「結論を急かすことは好みませんが、人の一生で受けるべき苦痛など優に超えていることも事実。なれば慈悲を与えることこそ、冥界の守り人としての――ッ!」

 

 いっそ素早く、強く踏み出し、拳を振るう。

 感じられる慈悲の感情が揺れ動き、手は空回る。もう一歩踏み込み、振り上げた左足は魔力による障壁に叩きつけられ――それを力尽くで蹴り壊す。

 たたらを踏みつつも距離を置こうとするナルラト。その分かりやすい動揺が消え去る前に、追って走る。

 大丈夫――ラフィーナとリヒトがどこにいるかは分かる。戦いに巻き込むことは、しない。

 

「ぐ、ぅ……!」

「……それで私を討ったとして、苦痛を耐えるに足る幸福はありません。単純な損得の話で――」

「それを、決めるのはっ、……ッ、キミじゃないっ!」

 

 目の前から気配が消えた。

 だが、纏う装飾が擦れ合う音も、不気味なものを見る感情へと変化したつながりも、この闇の中で不足ないほどにナルラトの居場所を示している。

 

「――あっ!?」

 

 その位置に向けて跳躍し、突き出した拳は今度こそ直撃する。

 けれど、倒すにはまだ足りない。

 ナルラトが吹き飛んだ先で聞こえた、床に叩きつけられる音。

 そこに足場があると判断し、足を縛る鎖を伸ばす。鎖は体勢を立て直そうとするナルラトに絡み付いて、もう一度引き戻ることで僕を引っ張っていく。

 

「くっ……器用な真似を……! ……よろしい。あなたがそこまで抗うのであれば!」

 

 鎖はすぐさま断ち切られるが、ナルラトの目の前に降りてくることは出来た。

 彼女が即座に距離を開けた直後、接近するよりも前に周囲に幾つもの魔力の反応を感知する。

 一つ一つは小さな魔力弾――ならば、防ぐのは難しくない。

 

「う――ぁあああっ!」

 

 外装を縛る無数の鎖を周囲に伸ばし、魔力を感じる方向に向けて暴れさせる。

 自在に操ることは出来ない。この鎖そのものには、外装を強く固定する力しかない以上、受け付けるのは単調な魔力を追う指示くらい。

 今は、それで十分。魔力の反応を悉く弾き飛ばしている内に――前方の気配、その戦意が一際鋭くなる。

 そこから攻撃に移るまでの速度に対応しようとしたが、感じ取れていても反撃に向けて体を動かすには至らない。

 であれば――

 

「ッ、ふ……っ、捕まえ、た――!」

「は……っ?」

 

 ナルラトが接近してくるまでの僅かな猶予で可能な限り体をずらし、突き出された刃を左腕で受ける。

 魔力を纏わせた一突きは外装と一瞬拮抗した後、紙の束を通すように、深く、深く貫通した。

 だからこそ、剣を持つ手を掴めた。素早く動き回り、剣により容易に接近さえ出来ない彼女の動きを、完全に止められた。

 

「捨て身……!? 正気ですか、人間……!?」

「正気だよ、っ、こんなところ、でっ……! 諦めてなんて、いられないんだっ!」

 

 振るった拳は、障壁で防がれる。

 使い捨ての障壁は拳を弾いて消えていく。しかし、追撃までに新たな障壁が構築される。

 これだけ近距離にありながら、高速で魔法を紡げる――その技術は、杖による補助あってのものだ。

 だが、連撃を防いでいる最中ならば、こちらに反撃することもままならない。

 防いでいる内に、彼女は徐々に消耗していく。魔力の流れに僅かな遅れが見えた瞬間、不意打ちとばかりに腕を引き寄せ、ナルラトの額に頭突きを見舞う。

 

「っ――きゃっ!?」

 

 全身が罅割れたような痛みも、それまでと同じものだと思ってしまえば耐えられた。

 怯んだ彼女の首を押さえつけて、床に叩き伏せる。魔力の反応が遠のいていく――杖を取り落としたのだろう。

 反撃の手段は断たれた。力に関して、こちらが秀でているのであれば、如何に魔族でも覆す手立てはない。

 

「ガッ、ぐぅ……っ、ぅぐ!?」

 

 拳を叩きつける度に、痛みの幾分かが戻ってくる。

 だが、もうさほど気にならなかった。どう動こうとも全身が痛むのならば、目の前にいる魔族を追い詰めた方が良い。

 困惑が、ようやく苦痛に、恐怖に変わる。

 それでは足りない。攻撃を続けろと、外装が最適な選択を導き出す。

 

「答えて! リッカたちが――リッカがっ! どこに……っ! どこに、いるのか!」

「理解、できません……、どうしてそこまで、っ、苦しみ、なおもつながりを守ろうと――」

「――答えろ……っ!」

 

『――FINALIZE――STAND BY――』

 

 その選択に、従うしかなかった。思考が半分、麻痺しているようだった。

 腕から刃を無理やり引き抜き、立ち上がる。

 外装の案内に従うように、力が集中された右足を軽く上げて、真下の“魔族”に向けて振り下ろす。

 

『――DYSTOPIA EXTREME――』

 

 機械的な魔法音声が、頭の中に響き渡る。

 耳を覆いたくなるほどの残響により、判断が遅れた。今の攻撃で、立っていた枝の道ごと粉砕したということに、体勢を崩してから気が付いた。

 

 この外装に、飛行能力はない。

 クイールがやるように、魔力の放出による推進も、内部に力を溜め込むことに特化したこの外装では叶わない。

 ――無意識の内に、腕を上に伸ばした。二つのつながりが迫ってきていることを、体が先に感じ取ったようだった。

 腕に何かが絡み付く。魔力の、紐のような何か。鎖の上からそれが巻き付いて、落下が停止した。

 

「危機一髪……! ぐ、ぎ……お、重てえ――!」

「んの……! あんた、絶対離すんじゃないわよ! ああもう、こんな力仕事、私の役目じゃないってのに……!」

 

 ……リヒトと、ラフィーナだ。

 どうやら、ギリギリのところで助けられたらしい。

 外装が解れかけるのを耐えながら、どこかに運ばれる感覚に身を任せる。

 

 体中の痛みが、内側を反響するように繰り返される。

 戦いが終わってみれば、この中で動けていたことが不思議なほどに、耐え難い苦痛に感じられた。




【聖剣ブレダリオン】
クイールが手にした聖剣。
担い手に圧倒的な力を与える代わりに、自身以外の武器の装備を強く制限する。
これは聖剣とクイールとの間に交わされた専属契約のようなもので、聖剣自身も、クイール以外の者の要請に応じようとはしない。
このままでは詰むのは分かっているのでユーリの声には渋々応じ、腹いせ混じりに『ディストピアブレイブリー』を貸与した。

【Q-クエスター ディストピアブレイブリー】
聖剣が紡ぎ上げた緊急術式。本来は、現実や恐怖から目を背けるクイールのために用意されたもの。
高い戦闘性能と、障害の解決手段を攻撃的に提示する機能により、その場を凌ぐ非常手段としては優れた力を発揮する。
装着中の想像を絶する苦痛は、ダメージを受けることでさらに増幅する。代わりに、その痛みに耐えることさえ出来れば、常識はずれな継戦能力を得られる。
視界を塞がれるデメリットを補うほど、周囲の状況把握を正確に行うための強力な感覚装置を備えている。
加えて――ユーリの有する、他者を感じ、共鳴するつながりの力はきわめて相性が良い。
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