凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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冥界色のエンゲージリング(13)

 

 

 無事な通路に辿り着き、降り立つと同時、外装は解除された。

 聖剣はその場に転がり、僕自身もまた、力が抜けて座り込む。

 全身の痛みがなくなって、それと引き換えに雪に包まれたような冷たさが襲う。

 激痛の中にいるよりも素早く意識が遠のいていく冷たさに――そうだ、何度か刃を受けていたと、思い出した。

 

「っ、しっかり! ユーリ、寝るんじゃないわよ!」

「やべぇ……クソ、治療薬これだけじゃ足りねえぞ!」

 

 リヒトが自身の鞄から引っ張り出した瓶の蓋を開け、生温かい中身を僕の傷口にかけていく。

 じわじわと染み込んでいく感覚があるが、傷が深く、多いことは自覚していた。

 腕に、脇腹、それから胸に浅い斬撃を受け、魔法による傷もあちこちにある。

 この薬だけでは、治癒に限界があった。

 

「おい、なんかないのか? 魔族に伝わってる治療魔法とか」

「んなもんないわよ……! サキュバスと体の治療ほど縁が遠いものもないっての! ああもう、どうしたら……」

 

 騒がしい二人のおかげで、意識を手放さずに済んでいた。

 このままでは不味いことは嫌と言うほど分かる。そんな中でも、やり取りを聞いて、心に余裕が出来て。

 そうして、こちらに近付いてくる一つのつながりを感じ取れた。

 下層から枝の道を飛び移ってやってくるのは、風の試練の真っ最中に知り合った魔族。

 

「え……あんた……」

「ま、またスフィンクス――!?」

「にゃぁ……やっぱりコイツにゃ……相変わらず人らしくない無茶してるにゃあ」

 

 視界に入ってきたスフィンクス。ナルラトと比べ、少し幼く見えるその顔を知っていた。

 その呆れの表情は、以前の僕がやったことと重ねてのものだろう。

 

「なんでここに……あんたが向かった冥界って……」

「その声、あの剣の中にいた意識かにゃ。んで、そっちの人間は……ま、どうでもいいにゃ。まずは勇者、あんただにゃあ」

 

 彼女の杖が振るわれると、魔力の霧が僕を覆う。

 薬の効果を増幅させ、最善、最高の効率で回復を進めているのだ。

 そのまま放置すれば致命傷にもなったかもしれないそれはたちまち癒えていき、一分と経たないうちに痛みさえなくなった。

 体を起こす――うん、もう動けそうだ。

 

「……ありがとう。また、助けられたね」

「はぁ……冥界で傷を治すとかどんなジョークにゃ。というかお前はなんにゃ。性懲りもなくまたこんなところまで踏み入って。いっそ感心するにゃ。自殺志願者でももう少し倫理観というか、良識があるにゃあ」

「僕だって、入りたくて入った訳じゃないんだけど……」

「だから性質悪いって言ってるにゃ。冥界に好かれてるにゃ」

 

 少しも嬉しくない評価だった。

 スフィンクスは馬鹿にしているのか引いているのか、よく分からない感情を向けてきている。

 

「こっちのスフィンクスは顔見知りかよ……ユーリ、お前どんな人脈してんだ?」

「一応、あちこち旅はしてきたつもりだから」

「一体どこでスフィンクスと会うってんだ……」

「……冥界の跡地?」

「……今いる場所よりレアな気がしてきたぞ」

 

 まあ、他に冥界としての役割を終えた場所というのも聞いたことがない。

 あそこに行くのであれば、ミツカイとの衝突も避けられないし、こうした冥界の方が入る分には容易いかもしれない。

 ……出ることが出来るかは別として。

 

「……助かったわ、スフィンクス。こっちに来ていたのは予想外だったけど」

「にゃ。たまたま見つけたから助けただけにゃ。その上、ナルラトの姉貴と戦ってそれだけの怪我で済んだ挙句、姉貴を叩き落とすとか本当、悪運は一流だにゃあ。今まで見てきた人間たちの中でも、ぶっちぎりにゃあ……」

「あんた、そんなに人間見たことあるの……?」

「いや、別に」

 

 悪運……か。まあ、それに幾度も助けられてきた自覚はある。

 今回もまた、そういうことなのだろう。たまたまこの冥界にいた、知己のスフィンクスに出会い、治癒を受けられるなどと。

 

「というか、キミはなんでここに……?」

「元々あたしはここのスフィンクスだったにゃ。向こうにスフィンクスが一人もいなくなったから管理のために移っていただけにゃ。けど、あそこを守っていた最後の“ソロ”が壊れた以上、あたしはお役御免にゃあ」

「……それじゃあ、ジルは――」

「安心するにゃ。こっちまでちゃんと送り届けたにゃ」

 

 ――それを聞いて、彼女が言う通りの安堵を覚えた自分がいた。

 ジルとは、完全に理解し合うことは出来なかったし、あの後、生きていたとしても和解することはなかった。

 けれど、報われることなく死んでしまうのは、間違いだと思った。

 この領域の主に良い感情なんて抱けていないが、死者が穏やかに眠る場所としては、正しい場所なのだろう。

 

「ま、それは今重要じゃないにゃ? お前ら、こんなところまでやってきた理由があるにゃ」

「そうだ、トーカたちの――えっと、あんた名前は……」

「スフィンクスのアンニャにゃ。人間に名乗るなんて初めてにゃあ」

「アンニャニャ……?」

「アンニャ、にゃ!」

 

 ……紛らわしい。どうしてあんな語尾なのだろう。

 そんな感想を持ってから、彼女の名を聞いていなかったことに気付く。

 アンニャニャ……アンニャは、名前と語尾が事故を起こすことに今まで気付いていなかったのか、ばつの悪そうな顔をしている。

 

 彼女の様子に呆れていた気持ちを引き締めたのは――警戒せざるを得ない、鋭い気配が再び戻ってきたから。

 ただし先程までのような戦意はなく、僕たちと同じようにアンニャの様子に呆れながら、彼女の背後に音もなく立って、片刃の反対側で、アンニャの頭を小突いた。

 

「ぶにゃ!?」

「だから安易なキャラ付けは慎めと言ったのです、アンニャ」

「あ、姉貴……!? 生きてたにゃ!?」

「死んだと思われていたのですか。まあ、下手を打てば死にかねない威力ではありましたが」

 

 ほんの少し悔いの浮かんだ、ナルラトの視線がこちらに向けられ、思わず聖剣を拾い上げる。

 掛けている眼鏡は片方が完全に割れて、もう片方は罅だらけになり、最早意味をなしていない。

 体のあちこちにも、また罅が入り、そこから銀色の魔力が零れるさまは、まるでその体が仮初であるかのようだった。

 しかしその異様な姿を、彼女自身が気に留めている様子はない。

 

「――応じても構いませんが、そうではありません」

 

 全身の罅は、少しずつ修復されているらしい。

 あの速度であれば相当掛かるだろうし、杖を拾い上げる余裕はなかったのか、持っているのは剣だけだ。

 倒すならば今だという気持ちもあった。だが、戦意が膨らむ様子もなく、戦うつもりがないという言葉も嘘ではない。

 では、わざわざ戻ってきたのは何を目的にしてのことなのか。

 

「“答えろ”と、あれだけ訴えられ、何も答えぬままではスフィンクスの名折れ。問いを投げたならばその分、答えもしましょう」

「相変わらず律儀にゃあ……」

「元より、我々の事情に付き合わせているのです。それに主も、自身に勝ったと思うのなら答えよと、そう言う筈ですから。勇者……ユーリ、でしたね。それから、リヒト。あなたたちの大切なもの――彼女たちの状況を伝えましょう」

「ッ」

 

 こちらの反応に対して、ナルラトは静かに頷き、空いた左手で真下を指さす。

 リヒトと顔を見合わせて、思わず下を覗き込む。

 乾いた枝の道がまばらに張られた、ひたすら下層へと続く広大な孔。

 底は見えず、何百メートルあるかも分からないが――もしかして。

 

「この領域の最下層、その更に地下……此度の催しのために用意された、牢の中に、彼女たちはいます」

「……リッカたちは、無事なの?」

「生きてはいるでしょう。この冥界に死者が出れば、私たちに伝わります。ですが――」

 

 ナルラトはそこで言い淀む。

 リッカにもしもがあれば、きっと僕にも分かる。それがないということは生きてはいるだろうと、希望混じりに想像できた。

 だが、彼女として懸念要素が存在するらしい。

 

「牢の番には、冥界に連なる身ではない者を置いています。かのリッチも言わばこの舞台の“登場人物”。役割の上で何をするのも、彼の自由です」

「リッチ――って……まさか」

「……オドマオズマ、様?」

 

 ――考える限り、最悪の名前だった。

 “劇的”を至高として、何もかもを自分の物語に染め上げようとする悪辣な魔族。

 出会ったのは、試練の一度きりだけれど、こういう場に嬉々として参じる性質の持ち主だろうという確信がある。

 決して自由にさせておいてはいけない魔族がこの冥界に――リッカの近くにいるという事実は、こんなところに突っ立っている訳にはいかないと僕の背を押すに十分なものだった。

 

「ッ――――」

「ってバカ! 何飛び降りようとしてんのよ!?」

「離してラフィーナ! リッカが――」

「今あんた飛べないでしょうが! ここで飛び降りたってなんにもならないわよ!」

「お、おい、そんなヤバいヤツなのか……?」

「土の四天王よ――あんたも飛ぼうとしないっ!」

 

 ラフィーナに腕を掴まれ、引き戻される。

 外装もない状態では、どうあっても力で彼女に及ばない。

 それでも、行かないといけないという抵抗を、アンニャとナルラトは、呆れの表情で見ていた。

 

「……己の命さえ投げ捨てるほどに、あの者たちが大切なのですか? ……やはり不可解です、人間の価値観は」

「……別に、死ぬつもりなんてない。けど、何かあってからじゃ遅いんだ。オドマオズマは、何をするかわからない」

「相変わらず家族でもない、“他人のため”が行動原理にゃあ……どうするにゃ、姉貴? この人間、こうなるとだいぶしつこいにゃあ」

「ええ。それは私も痛感しました。試練とやらを終わらせ、その使命さえ果たさんとしている――生者の世界の催しとはいえ、評価せざるを得ないでしょう。……勇者ユーリ、聞きなさい」

 

 ――そんな暇などない、後にしてほしいと言おうとして。

 

「――カルラと言いましたか、あなたを連れてきたアルラウネは。彼女は我らの主の手に落ちました。そして、もう一人の勇者や、混ざりもののエルフもまた危機にあります」

 

 その前に、ナルラトは冷たい声色で、僕に二択を突き付けてきた。

 熱くなった頭が、急速に冷えていく。

 

「主が何を最終目標としているか、私たちは聞かされていません。ゆえに、あのアルラウネやもう一人の勇者たちをどうするかは不明。今のところ殺意を持っていないようですが」

「……わかってると思うけど、お前がどう動くにせよ、どっちかは後回しにゃ」

「……ユーリ」

 

 今すぐ、両方に向かうことは出来ない。

 片方を優先すれば、もう片方を好きにさせることになる。

 

 ――自分を、リッカのための勇者だと定義した。

 であれば、最初にどう動くべきかなど決まっている。

 けれど――それはもう片方を見捨てる選択も同然で。

 その非情な選択を肯定してくれるリッカのいない今の僕には、答えが出せなかった。

 

「……ラフィーナ、リヒト」

「……何よ。何言い出そうとしてるわけ?」

 

 そんな中で、たった一つ思いついたのは、どうしようもないほどの無謀。

 双方を、同時に対処できるだけ。寧ろ、悪手でさえある。

 それでも、僕には“どちらか”を選べない。

 

「僕は、上に行く。カルラを――クイールたちを助けに行く。だから、二人とも。リッカたちを、お願い」

「あんた――」

 

 どちらも取り零せない。だから、どちらも掴むしかない。

 そのためには、こうするしかなかった。諦めを付けることなんて、僕には出来ない。

 

「い……いや、お願いったって……あのスフィンクスを倒したのだって、あんた頼りだっただろ!? 四天王の相手とか……」

「……」

「……くそ。泣き言なんて言ってられねえか。こっちだって、トーカの命がかかってんだ」

 

 リヒトに魔族と戦う力がないことなんて、分かっている。

 ラフィーナも剣に心得はあるとはいえ、オドマオズマと戦い合える確証はない。

 それでも、これまで人の身で旅を続けてきたリヒトの悪運を、本来の立場からこちらに付いて僕たちの理解者となってくれたラフィーナの優しさを、信じられる。

 

「……あんた、そういうところ……一回リッカに怒られた方がいいわよ」

「ごめん」

「謝るんなら地上に戻ってからにしてもらいたいわね」

 

 不安はあった。

 二人を信頼して、リッカたちを任せる。だが、アッシュも落としてしまった今の僕で、どうにかなるかという不安が。

 ――聖剣はこれ以上力を貸してくれる気はしない。

 けれど、それを口にはしなかった。この場でなんの役にも立たない、意地のようなものだった。

 

「いや、どうする気にゃ……その剣は他人のもの。それをぬかせばお前丸腰にゃ。上に行くっていっても、お前には手段がないにゃあ」

「……キミたちに、頼めないかな?」

「図々しすぎるにゃ……」

 

 呆れられようとも、どんな手段だって取る覚悟はある。

 ゼクセリオンもまた、鞄と一緒に落ちてしまった。空を飛ぶ手段なんてない。

 ラフィーナに下層を任せる以上、僕が上に戻れる方法は、彼女たちスフィンクスに頼むだけだ。

 

「んにゃあ……まあ、あたしらなら容易いことだけどにゃ……仕方ない、前に断った眷属の話、今受けるっていうのなら――」

「やってあげなさい、アンニャ。私は残る二人と下層に向かいますので」

「にゃあ!?」

 

 それは、賭けだった。

 アンニャとナルラトが僕たちに対して、役割以上の敵意を持っていなかったから。

 彼女たちの力を借りることが、一つの活路になり得ると。

 

「スフィンクスとは即ち、冥界の守り人。同時に、迷える魂の案内人でもある。生者であろうと、冥界をさまよう者であるのなら、私たちが導くべきなのです」

「……姉貴、この人間のこと気に入ったにゃ?」

「――さて、どうでしょうね」

「にゃあ……」

 

 呻くように零しながら、アンニャは氷で作られたような透明の獅子を傍に出現させた。

 ラフィーナと、リヒト――それぞれと視線を交わし合う。

 お互いに、“任せた”“死ぬな”という思いを込めて。




【ナルラト】
森の領域たる冥界に使えるスフィンクス。
主たるネルガルの命に従い、己の役割を遂行していたが、激情に駆られたユーリの渾身の攻撃を受けたことを敗北と認め、リッカたちの居場所を伝えた。
冥界の番人として正者を手にかけることは望んでおらず、どちらかというと案内者として導いてやりたい気持ちの方が強い。
人間を虐げ支配する現代の魔族の文化には浸っていないこともあり、ユーリとリヒトの事情に親身。

アンニャニャアンニャ】
少し前までムルゼの冥界であった氷の領域に出向していたスフィンクス。
領域の閉鎖に伴い、山で死したジルの魂を連れて森の領域に戻ってきた。
言動が珍妙なだけでスフィンクスとして高い能力を持っており、ムルゼのクギミゴたちの管理は十全に行っていた。
諦めの悪さを見せればなんだかんだ言って付き合ってくれるタイプ。どっかのサキュバス(ラフィーナ)と同じである。
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