凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
・章の追加
・第一話の前書きに警告の追加
ここまで読んでくださっている方には改めて確認するまでもないことですが、もしかするとTSっ子のハートフルな青春ストーリーを期待して開いてくださった方がいるかもしれないので、配慮が必要だと感じた次第です。
このバージョンアップによって、難易度変更などのバランス調整は行っておりません。
――その出会いは、昨日のことのように覚えている。
そこから始まった当たり前は、いつだって思い返せる。
「ま、魔族……!?」
「に、人間……?」
木の根にぐったりと体を預ける女の子を最初、わたしはどこかから迷い込んでのたれ死んだ不幸な死体だと思った。
大して深くもない森だ。珍しい野草も採れなければ、魔力に満ちた水が湧き出る泉がある訳でもない。
ともなると、あれだ。きっとこの森の浅い場所にある小さな村の住民だろう。
仕方ない。野蛮な獣の類が臭いを嗅ぎつけて食い荒らし、この辺りに居付いても困るし、未練を残してゴーストやらレイスになられても困る。
せめて埋葬してあげようと近付いてみれば、女の子はぱっちりと目を開けた。
正直、怖かった。向こうの驚愕から零れた言葉を、ついアレンジして返してしまうくらい。
暫くの間、驚きの表情同士でにらめっこ。
その後、飛び跳ねるように立ち上がった女の子は近付いてきて、くるくると周りを歩いてわたしを観察し始めた。
「おぉ……! わぁ……! 本物の魔族、初めて見た! 本当にいたんだ! “植物属性”ってことはトレントか、もしくはマンドレイク!?」
「喧嘩売ってます? なら買いましょうか? 魔族の恐ろしさ思い知りたいんですね?」
いたいけなアルラウネを捕まえておいて、
本当に、彼女はわたしが温厚な気質であったことを感謝してほしい。
別にアルラウネという種族にプライドなんてないけれど、それでも許しがたい蔑称の一つや二つあるものなのだ。
――ところが、それがわざとではないというのだから性質が悪い。
「っとと、なんか地雷踏んだ……!? ……あ! アルラウネ! アルラウネだろ――っこほ、ッ」
「……? 正解ですけど……あなた、なんでこんなところに倒れてたんですか?」
まあ、生きていたようなので何よりだと思ったものの、彼女の様子はどこかおかしかった。
元気そうに跳ね回っていたというのに、顔は真っ青だわ息を荒くしているわ咳き込むわ。
なんなら、暫定どこかから迷い込んでのたれ死んだ不幸な死体であった時より心配になる有様であった。
「いや……ちょっと冒険というか……度胸試しというか……げほっ、こほっ」
「――ああ、もう」
なんかそのまま本当に死んでしまいそうな様子を前にして、仕方がないのでわたしは善意で動くことにした。
適度に扱えば癒しの効能がある、わたしの葉っぱを口元にあてて、ゆっくりと呼吸させる。
魔族であるわたしが、人間に対してそんな治療をする日が来るなんて、想像すらしなかった。
けれど、それから先、わたしの些細な日常の一つとなる。
わたしにとって初めての、人間との関わり。
わたしという――“カルラ”という個体が、本当の意味で始まった瞬間。
「っ……助かった……ありがと。俺はリッカ――あんたは?」
「――――カルラ。アルラウネのカルラです」
初めて名乗ったその名前は、忌み名にも等しかった。
アルラウネのコロニーで、個々が名前を持つ意味は薄い。
中心であるお母様だけが個として在ればそれでいい。考える必要なんてない。子供たちは、ただ根付き、歌い、笑うだけで存在できる。
――そんな中でわたしはその生態に疑問を抱いて、コロニーを出た。
群体として在るべきアルラウネの中にいて、まったく“普通”の我を持った突然変異。生まれた時からおかしかった暗がりの花。
たまたまお母様の近くで生まれて、他の子たちよりも浸透した冥界の魔力が、わたしをそうさせたのだろう。
とにかく歩いて、歩いて、個の確立以外の何を求めるのでもなく遠くに行って、ようやく見つけた安全な森。
そこでわたしはのんびりと暮らし始めた。
近くの村に興味はあったけれど、魔族が人間の住む場所に入ってはいけない。
一生関わることはないと思って、何をするでもない、平穏で、退屈な日々を、自立の先で消費していた。
そんな中で出会ったリッカは。
「ユーリ! おーい、ユーリ!」
「リッカ! 一体どこに……ま、魔族!?」
「はい、魔族です……じゃなくて。ちょっとリッカ、どういうことですかこれ。なんでわたし村に連れてこられたんですか」
そして、リッカに紹介されたユーリは。
わたしにとって、何者にも代えがたい、何より大切な存在になった。
「まさか本当に村の外に出てるなんて……えっと、キミは……植物だから、トレントとか、マンドレイク……?」
「もしかしてわたしイジメられてます?」
なんというか、波長が合ったのだ。二人ともすぐに友達になれると、確信できた。
個ができて、なんの目的もなく暮らしていたわたしはこの日、永遠の親友を得た。
魔族に対して差別的な目をしない、あまりにも変わった二人の人間。かれらは村の大人たちを説得して、わたしをその一員としてくれた。
こんなこと、世界のどこを探しても、二度とあるまい。
わたしだけに起きた奇跡。
わたしだけに齎された出会い。
そうなる筈だった。そうであってほしかった。
わたしは、二人との日常の中で、アルラウネとしての生態の根本を――突然変異としての異常を忘れることが出来ていた。
別に、自分が異常であることを、二人に知られたくなかったのではない。
あの二人はどうせ話したところでしれっと受け入れてくれるという確信があったから。
――本当に怖かったのは。
――考慮しなければならなかったことは。
「――カルラ! 二人とも!」
「ユーリくん!」
回想をやめて目を開けば、状況はまた一つ、変わっていた。
聞き慣れた声が、胸の内まで染み込んでくる。
いつの間にか頼りなさのなくなった“男の子”の声は、こんな状況でありながら、わたしをひどく安心させる。
ああ――やっぱり、ユーリは来た。
下層へと落ちていったことに心配こそしたけれど、ユーリが死ぬ筈なんてないと思っていた。
……あのスフィンクス、誰だろう。
お母様に古くから仕えているっていう、ナルラトとはまた別人。
彼女の作り出した氷の獅子の背に乗って、ユーリはまたここにやってきた。
「よかった、無事で……! ……えっと、その子って……」
「ムルゼで会ったスフィンクスだね。こっちに来ていたのか」
「うん。また――助けられたよ」
「にゃあ……」
知り合いのスフィンクス……なるほど、そんなことが。
旅の細かいところまで、わたしは知っている訳じゃない。
けれど、いつの間にか――周りを驚かせるのは、リッカだけの専売特許ではなくなったらしい。
「クイール、事後報告になっちゃったけど、聖剣の力を借りたんだ。おかげで危機を切り抜けられた」
「あ、やっぱり。大丈夫です、そうなってほしいって思ってました。きっとユーリくんなら、ブレダリオンも力を貸してくれるだろうって……っと」
ユーリが抱えていた剣は、ユーリの手から離れてひとりでにクイールのもとまで飛んでいき、絡まっていた蔦を切り裂いていく。
手が自由になったことでクイールは剣を掴み取り、残った蔦を斬ると、イリスティーラを捕えた蔦もまた一掃した。
「……カルラ」
一方で、剣をクイールに返したユーリは、獅子から下りてこちらに近付いてくる。
先程までのように、外装を身に纏っているわけではない。
ラフィーナも、リヒトもいない。リッカもナディアも、傍にいない。
よく見れば鞄だって持っていない、どうしようもないほどの丸腰状態。
「……うん。来ちゃうんですよね、ユーリは」
多分だけれど、ラフィーナとリヒトは、リッカたちの方に向かったのだろう。
二人ならば問題ないと判断して、自分はこちらを心配してやってきたのだ。
自分だけで何が出来るというわけでもないのに。なんの展望もないくせに。一丁前に、なんの不安もない瞳で、わたしを助けようとしている。
「……本当、ユーリはバカです」
「知ってる。そうじゃなかったら、リッカも見つけてないのに戻ってきたりしないよ」
どちらも切り捨てられない。どちらも助けないと気が済まない。
どうしようもないほど欲深だ。ノープランなのにそれを本気で成し遂げたいと思っているなんて、弱い人間が抱いていい願望じゃない。
けれど――それがユーリだ。
ちっぽけな勇気から始まって、今や世界の変革に王手を掛けている。
かつて、鬱陶しいほどリッカが憧れていた、おとぎ話のような“勇者”。
それにユーリが近付けているなんて、そうは思わない。そんなユーリ願い下げだ。笑い死ぬ。
まあ、それでも――自分に何もなくても、周りに頼り切りであろうとも、自分の信念を貫いて、最善を勝ち取らんとするまで至った成長は、認めてあげないこともない。
「くく……やはり戻ってきたか、勇者ユーリ。それでこそ――それでこそよ」
――ああ。もちろん、ユーリもリッカも、わたしの自慢の幼馴染だ。
生きている限り、わたしは二人との出会いを誇れる。いいや、死んだとしても、この魂がある限り誇って見せよう。
二人を大切な幼馴染だと、そう言い張れるのは、わたしだけだ。
「――カルラを返してもらう」
「出来るものなら、というべきかのう? 我が娘を大事に想ってくれておるようで何より」
「誰の子だとか、関係ない。カルラはカルラだ。キミに捕まった僕の幼馴染を取り戻す。それだけだよ」
まったく……ユーリのくせに、生意気なことを。
そんな風にお母様に向かって啖呵を切ることを意味を分かっているのだろうか。
分かってないに違いない。そもそも、そんな考えにさえ至っていまい。
いつか、揶揄ってやろう。けれど、そのためには。
――ざわざわと騒がしくなる姉妹たちが。わたしの想いに干渉しようとするお母様が、このままでは困る。
ユーリを愛するこの気持ちは。リッカを愛するこの気持ちは。
誰でもない、わたし一人のものだ。
アルラウネとしての生態……そんなことはどうでもいい。
この気持ちの共有なんて、わたしは許さない。他のアルラウネに伝播する必要なんてない――わたしだけが、この気持ちを抱いていればいい。
暗がりの花であるわたしを見つけたリッカから始まった、わたしの幸せ。
ここまでの数えきれない思い出も、これから先の未来図も、譲るつもりはない。
この気持ちは、わたしの――わたしだけのクオリアだ。
「――――――――」
熱を帯びた吐息が零れる。
それがお母様に、そして姉妹たちに伝わってしまうことに嫌気が差しながらも、わたしはそっと、お母様の玉座に触れる。
今のわたしに出来るのは、そのくらい。リッカのようにユーリを直接助けられない。けれど。
「しかし、そなたが頼りとしていた玩具はもう品切れと見える。その状態で、如何様にして余に抗う?」
――たったそれだけで、ユーリの援けは向こうからやってくる。
お母様は、そのことに気付かない。
何故ならば、お母様は冥界の全様を知る
この冥界はお母様が創造したのではない。その管理を受け継いだのだ。
ゆえに、本当の意味で全能を振るえるわけではなく、目の前のユーリを楽しんでいる内は、それを察知できない。
勿論、ユーリさえ気付いていないけれど、大丈夫。
「……?」
「ユーリ、上です!」
その羽音が聞こえるくらいまで近付いてきたならば、お母様も阻止できない。
「なに……?」
見上げれば、わたしたちと冥界の“空”を彩る銀色との間に現れていた、雨雲のように黒い靄。
取るに足らない命――しかし冥界にそんな命が存在していることは異常で。
それが群れを成しているということは、わたしたちにとって、とんでもなく恐ろしい事態であることを意味する。
「――――ッ!」
お母様が息を呑み、姉妹たちが一斉に悲鳴を上げる。
わたしも怖いけれど、ぐっと堪えた。
叫んでしまえば、これが不測の事態だとユーリに心配させてしまうから。
「あれは……!」
「まさか……ここに来るための入り口を?」
うん、ご明察。イリスティーラは実に理解が早い。
ちょっと不安だったけれど、ユーリとリッカの仲間として合格点をあげよう。
どこに入り口があって、どこに出口があって、いつそれが閉じてしまうのかなんて誰も知らない。
そんな冥界の入出は、この玉座で管理されている。
ほんの少し触れただけで出来る小細工なんてたかが知れている。精々が――あの洞窟から繋がる入り口を、この場所の真上に開くくらい。
そこから脱出することは叶わない。寧ろ、新たな侵入者が増えるだけだ。
ただし、数千、数万という単位の、だが。
「……そっか」
あの子たちが何を思っているかなんて知らないけれど、何かを思うことのできる感情があることは知っている。
冥界へ招くのに邪魔だからという理由で放たれたワンちゃんにより、絶対であった母を喪ったあの子たちは、怒るか、悲しむか。
どちらにしても、今この場で“復讐”のために、ユーリに手を貸してくれるのは変わらない。
「それなら……うん。力を貸して」
ユーリが“空”に向けて手を伸ばす。
ユーリの勇者らしさ。その感受性は、あの子たちからも何かを掴んだみたい。
黒い靄は落ちてくる。やがてその姿が、大きさも形もバラバラな群れの正体が鮮明になる。
「――僕と一緒に、戦おう」
今の場所に立っていたら危ないだろうと、クイールとイリスティーラが思わずといった様子で少しユーリから離れた数秒後、落ちてきた群れはユーリをあっさりと呑み込んだ。
本来であれば、一分もしないうちにユーリは喰らい尽くされて骨になってしまうだろう。
けれどその群れは、自分たちの母の意思をしっかりと継いでいた。
リッカの歪みに、自身と同じものを感じた母が、自分たちに与えた新しい役割。
あの子たちと、リッカに渡された子たちは厳密には違うけれど、同じものになることは出来る。
ユーリに染みついた残滓にアクセスして、即興でその魔法を復旧し、今のユーリに最適化された状態で実行することが、あの子たちには出来る。
『U-リッカ――バラーズ!』
無数の虫が形作る外装。そうなることを受け入れてしまえば、リッカに協力してくれる可愛い子たちと変わらない。
今のユーリを支えるには力が不足しているものの、この状況に限っては話は別だ。
――虫の群れとは、すなわち。
植物を食い荒らし
「……なるほどな。やってくれるではないか、カルラ」
「わたしは、何があってもユーリの味方です、お母様」
わたしの反抗に対し、喉を鳴らすように笑うお母様が手で軽く合図をすれば、後ろに巨大な気配が現れた。
そして、聞こえてくる唸り声――先程切り抜けた筈のワンちゃんだと、すぐに分かった。
彼を呼んだうえで、お母様は再び立ち上がる。
すぐにユーリの傍に並び立つクイールも聖剣を構え、力を解き放つ。
『
輝ける鎧を纏うクイールと、見るからに邪悪な姿のユーリ。
ああやって見比べてしまうと、やはり到底勇者には見えないと、笑みが零れる。
面白おかしさを感じたまま、わたしは再びお母様の鎧へと変わる。
先程までの不安はなかった。この事態の好転を、ユーリならば間違いなく活かせる。そんな確信があったから。