凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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冥界色のエンゲージリング(15)

 

 

「んんん……! 開かないっ!」

 

 大体三十分ほどは格闘していただろうか。

 ピッキングの知識などないので、これが長いか短いかは分からない。

 ともかく、結局鍵を開けられることなく、トーカは牢の扉を封じる錠前から手を離し、その場にへたり込んだ。

 

「だから無理だと言ったではないですか」

「だって……兄ィはこんなの、軽く開錠出来ちゃうんだもん。特に道具なんてなくてもこう、魔力で針金作る感じで」

「リヒトは随分と手癖が悪いようで。……彼の方が器用なのですか?」

 

 わたくしたちが捕えられているのは、銀色の牢だった。

 結局のところスフィンクスに抗える道理などなく、三人仲良く降伏することになったわたくしたちは、それまでいた場所から更に下層にあるらしいこの牢まで連れてこられた。

 相当な強度があるようで、少しの間、解析を試みていたリッカもお手上げのようで、今は牢のすみっこ――わたくしの傍で膝を抱き蹲っている。

 

 彼女の魔法技術はこの状況における頼りの一つではあったが、普段彼女の魔法を補助している杖も手元にはない。

 ユーリもおらず、精神的に不安定な今のリッカの様子は、“三人とも離れたところに迷い込んでいなくて良かった”という安心材料になった。

 その後、リッカに代わってトーカがここからの脱出を画策し始め、これみよがしな錠前に目を付けたわけだ。

 

「んー……魔道具作ったり、デリケートな商品の整備は兄ィの仕事。兄ィ、昔っから細かい仕事が得意だったから。どっちかと言うとあたしは体動かす方が得意だし」

「体を動かす?」

「うん。重いもの運んだり、魔族追い払ったり。兄ィ、そっちのセンスはないからね」

 

 ……そういえば、初めて彼女たちとあったあの時。

 ユニコーンから逃げてはいたが、武器を持っていたのはトーカの方だったか。

 抵抗しつつも勝てないと分かり逃げていたのだろうが、彼女がある程度戦えるというのは、紛れもなくこの兄妹の生存のための武器なのだろう。

 

 それに対して、リヒトの長所はその器用さ。

 彼女曰く、このくらいの錠前であれば簡単に開けるという魔法技術。

 ……まあ、ここからただ出られただけでどうにかなるとも思えないものの、トーカにとってはリヒトが希望であることは間違いない。

 

「……流石にこれがどうにもならないんじゃなぁ……。大人しく、兄ィたち待とっか。きっと兄ィは来てる。それに、ユーリたちも。でしょ?」

「ええ――そうでしょうね」

 

 トーカの奮闘を無駄だとは言わないが、どうあれわたくしたちには助けが必要だ。

 ユーリに、クイール。それから、イリスティーラ。風の試練を成し遂げて聖都に戻ってきたあの三人は、きっと動いている。

 

 イリスティーラは長命の魔族だ。割り切りも出来るかもしれないが、ユーリやクイールは違う。

 たとえばトーカやリッカが無事で、ここに放り込まれたのがわたくし一人であっても、迷いなく冥界に飛び込んでくる――あの二人は、そういう人間だ。

 間違いなく、かれらは冥界に辿り着く手段を探し、わたくしたちを探している。それは確信だった。

 だから、利口なのは大人しくしていること。

 じっと動かないリッカも、そう思っているようだ。……正確には、リッカは碌に動けないだけかもしれないが。

 

「大丈夫だよ、リッカ。ユーリ、勇者なんでしょ? それもただの勇者じゃない。全部の試練を突破した、初めての勇者」

「……」

 

 今にも押し潰されそうなリッカの不安を、当然トーカも把握している。

 傍に寄って、顔を覗き込みながら微笑むトーカに、リッカはちらと視線を向ける。

 

「あたしはユーリのことよく知ってるわけじゃないけどさ。どれだけリッカのこと大切にしてるかは知ってるつもり。ユーリなら、何としてでもリッカを助けに来る」

「……言われなくても、分かってる」

 

 絞り出すように言うリッカの態度は、相変わらずトーカを拒絶するようなもの。

 けれど、トーカに気分を害した様子はなく、笑顔で頷きながら、リッカの隣に座り込んだ。

 ……へこたれないな、トーカ。それが彼女の性質なのだろう。相手が魔族ではないからか、それともそんな気力もないからか、リッカもトーカを追い払おうとはしない。

 

「そっか。それなら、平気だね。ほらほら、笑って。そうしないとさ、いざユーリと会えた時、ユーリが心配しちゃうよ」

「……」

「あたしもさ、最初に冥界に迷い込んだ時は不安で仕方なかった。あたし、生まれてからずっと兄ィと一緒だったんだもん。独りになることなんて、初めてだった」

「……」

「あの時は兄ィが来てくれるって信じていたけど、内心無理だとも思ってた。兄ィだって人間だから、無理なものは無理だろうなって」

 

 それは当然だ。わたくしも、ほんの少し前――人として生きていた頃は、そう思っていた。

 かつてのネシュアが技術でその差を無くした、人間と魔族以上の格差。冥界という領域は生命である限り抗えない、絶対的なものだ。

 魔族に出会えば逃げればいい。けれど、冥界に迷い込めば満足に逃げることすら叶わない。

 そんな当たり前を、かつてのリヒトは覆したのだ。

 

「でも、兄ィは死に物狂いで、当たり前を引っ繰り返した。“トーカのためなら、このくらい”って。ユーリもさ、多分同じタイプじゃない?」

「……」

 

 リッカはまた、僅かに顔を俯かせた。

 話を止めないトーカにうんざりして渋々頷いたようにも見えたが、トーカはリッカが反応を見せたことに嬉しそうに笑う。

 ……呆れるほどに明るいというか、大らかな性格だな。

 

「――過保護なんだよね、兄ィ。そこが良いところなんだけどさ。普段ならちょっと体調悪そうなフリして甘えたりするけど、こういう兄ィが見てない時にネガティブになっても意味ないじゃん?」

「……なんの話?」

「こういう時こそ笑った方が得だって。ね?」

「……私は、あなたみたいに能天気なわけじゃない」

「むー、手強い……」

 

 というよりは、放っておけない性質なのだろう。

 どうにかしてリッカを笑わせようと画策しているらしいトーカに、わたくしだけでなく、リッカまでもが呆れ始めていた。

 冷たく返しても効果がないことを悟ってか、リッカがこちらに目を向けてきた。助けろということだろうか。

 

「……トーカ。リッカはただでさえ無理をしています。程々にしておきなさい」

「あぅ……まあ、あんまりベタベタするのも駄目だよね。あんましお客さん以外との距離感って意識したことないからさ。……っていうか、なんだろうね、あたしたちの関係」

 

 口を挟んだ結果、返ってきた疑問に、確かにと少し考える。

 同性の、おおむね同年代。そのような相手、わたくしも生前はいなかった。

 とはいえ別に、あえてその関係はなんなのかと定義する必要もないとは思うが……。

 早々に思考を切り上げれば、うんうん唸るトーカがいた。解を見つけないと納得のいかない疑問になったらしい。

 

「…………冥界友達?」

 

 やがて、トーカはそんな謎の言葉を言い放った。

 縁が遠ければ遠いほど良い単語と、普通の人間であれば身近な単語、奇跡のマリアージュである。

 

「なんですかその胡乱な概念は」

「いや、せっかく三人揃ってこんなところに迷い込んだんだし、さ。こんな関係性、世界中のどこを探したって他にないよ」

「私を巻き込まないで」

「わたくしも、“冥界友達”はちょっと……」

「……それじゃ、普通の友達なら?」

「……まあ、それなら構いませんが」

「やった」

 

 その言葉を呑み込んでみれば、不思議なほど腑に落ちる感覚があった。

 これまで、疑問には持っていなかった。わたくしにとって、誰かと自由に関わること自体が、生前は許されないことだったから。

 この、新たなる時代で知り合った者たち。深い関係を持つことになった者たちは、わたくしにとってなんなのか。

 恩人とは、まあ……認めてやらないでもない。けれど、それだけではどうも違う。

 

 試練としてわたくしと相対し、救ってみせたユーリは、そしてクイールは。

 その学者気質から幾度か議論を交わし、その屋敷に身を置くことで人となりを知ったイリスティーラは。

 魔族や、他の人間とは違う。出所の分からない信頼を向けてくれるリッカは。

 弟子でもある、聖都のあの子たちは。

 

「そういえば、人として生きていたかつては、そんな間柄の人はいませんでしたね」

 

 ネシュアにいた頃ならばともかく、今は市井で満足に友人さえ作れないような立場でもない。

 今のわたくしは、ただのナディアだ。であれば、“なんでもない同年代の女の子”の友人がいても良いのかもしれない。

 

「そうなの? んじゃ、お互い初めての友達じゃん。ね、リッカは?」

「……何を、勝手に……友達なんて、いたところで、なんの役にも立たない」

「――リッカ」

 

 動いてもいない胸の奥に感じたあたたかさは、リッカにはないようだ。

 リッカの他者との壁は、友達という言葉で崩せるようなものでもない。

 

「確かに、役には立たないかも。その上でのセールスポイントだけどさ」

 

 けれど、素気無く返したリッカに、なおもトーカは歩み寄る。

 

「友達ってのは、役に立つとか立たないとかじゃなくて、一緒にいて息苦しくないとか、心地いいとか、そういう間柄なんじゃないかな」

「……だから、別にあなたにそんなことは――」

「――あたしじゃなくても。ちょっとくらい、不安を打ち明けられる人がいても良いと思うよ」

 

 ともすればそれは、行き過ぎたお節介だ。

 リッカはそれを求めていない。にも関わらず、トーカは真剣に、しかしリッカを安心させるように微笑みながら、その心に踏み込んでいく。

 

「リッカ、今だけじゃなくて、ずっと無理してるでしょ? もうなんか、潰れちゃいそうなくらい」

「……」

「もっともっと、リッカは誰かに頼って良いと思う。だってさ、試練が全部終わって、魔王ってのを倒すまで、あと一歩じゃん」

 

 そこには、善意しかなかった。

 自分を拒んでいようも、リッカを心の底から心配できる。

 魔族の蔓延る世界を旅する、弱い人間。だからこその、無遠慮なまでの同情。

 今のリッカが形成されるまでに起きた“何か”の大きさによっては、的外れも良いところかもしれない。それを理解した上で、トーカはなおもリッカの奥底に触れようとする。

 

「せっかくならさ、もっと楽しく生きないと。魔王を倒しても、“人生”ってのはまだまだ続いていくんだから。友達とテキトーに話して、遊んで、美味しいもの食べて。そういうリラックスできる時間、作ってみない?」

「……」

 

 リッカの瞳が、僅かに揺れた。

 どこまでも、相手の地雷を踏むことを恐れないトーカの性質。

 或いはここにユーリがいれば、リッカは彼女の言葉を意にも介さなかったかもしれない。誰かと交流して、絆を育むのは、ユーリの役目だと――リッカはそう、割り切っているから。

 

「……今はそんなこと、考えてる暇はない。そういうのは、全部が終わってから、ゆっくり決める」

「――そっか」

 

 こんな状況だったからこそ、本来会話にすらならなかっただろうトーカの提案を、リッカは消極的に先送りにした。

 相手にされなかったとは捉えない。トーカからすれば十分に手応えがあったのだろう。

 わたくしとしても、随分な偉業だと感じる。どうあれ、トーカはリッカの心を動かしたのだ。

 トーカは上々とばかりに笑っていた。それもまた癪であると、リッカは眉を顰めていたが。

 

 まあ、リッカの常に何かに追われているような精神状態は、わたくしにとっても不安の種ではあった。

 彼女としては悩みの種が増えたのだろうが、同時に解消のきっかけともなり得るもの。

 全部が終わったら――うん、そういう関係も悪くないだろう、と。

 

 冥界の、それも牢の中で抱くようなものでもない感情に心地良さを覚えていた、その時。

 

 

「――ふむ。友情の芽生え。過去も未来も冥界なんて場所で起きる筈もない、極めて珍しい展開だが」

 

 

 その余韻にも浸らせないほどに心を冷たくさせる、何かに反響する声がきこえてきた。

 

「思うに、キミという奇矯な運命によって形成された怪物の安らぎのきっかけとなるには、些か“テンプレート”に過ぎる。救いというものは、もう少し劇的でないと」

 

 一体、いつから。

 牢の外、取り付けられていた錠前を外し、手で弄ぶ、黒い外套姿の――かつて慕った、血を分けた兄。

 ――四天王、オドマオズマがそこにいた。




【リッカ】
クイールは勇者として、信頼を置き、協力すべき相手。じゃあ、この女は?
……分からない。覚えてない。
……ユーリの使命と関係ない人間って、どう関わればいいんだっけ。

【トーカ】
魔族ではなく、勇者の使命に関わらず、邪な気持ちを抱いてもいない普通の少女。
旅の商人特有の軽いフットワークでリッカの懐に踏み込んだ。
本人としては、同年代の少女同士のトークでテンションが上がっただけ。
地雷を踏んだつもりも、気遣ったつもりもない。友達ってこういうものでしょ――と、そんな憧れはあったかもしれない。

【ナディア】
友達などと呼べる存在はいなかった。
息苦しい千年前の人間関係よりは、こういう、難しく考えずとも良い関わりの方が好ましい。
――いや、息などしていないのだが。

【オドマオズマ】
「丸くなったな復讐者 ディスってみろこれはフリースタイル」
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