凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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冥界色のエンゲージリング(16)

 

 

 はじめにリッカが迅速に立ち上がった。

 わたくしも同じように立って――どう抵抗したものかと、辺りを見渡す。

 通常のそれと比べれば十分大きくとも、牢の出口は一つだけ。内部には使えそうなものなど、何も存在しない。

 

「え……あ……魔族……?」

「見ての通り。いや、見た目は人間そのものだが。その警戒心の無さは喜ばしいが改めた方がいい。痛い目を見てからでは遅いだろう?」

「立ちなさい、トーカ! 彼は四天王――悪辣極まる魔族です!」

 

 トーカの腕を引っ張るように立たせる。

 あのスフィンクスに出会った時よりも、遥かに危険な状況であることは間違いない。

 冥界の守り人として、命を積極的に奪う様子のなかったスフィンクスとは、わけが違う。

 

「否定はしないが、何も言わず即座に手に掛けるほど非道でもない。それに、愛しき我が妹の友人――或いは友人候補だ。つまらない処理などしないとも」

「妹って……?」

「……何故ここにいるのです、オドマオズマ。アンデッドの分際で冥界を自由に闊歩するなど、恥を知りなさい」

「キミが言えた口かい? まあ、自由ではないようだが、それは私だって同じさ。自由の身であるのなら、そもそも冥界になど来ない」

 

 肩を竦めるオドマオズマ。

 冥界とは、絶対的に死の上にあるもの。死を操る彼にとって、祝福と同じく天敵に当たる概念だ。

 この出来事に四天王が関わっているとして、何故彼なのか。

 碌でもない理由しか考え付かなかったが、どうも彼自身が望んだことではないらしい。

 

「ここのスフィンクスに脅されてね。自分たちの舞台に上がれと。察するにキミたちと同じ理由だろうさ。この冥界の主の我儘に付き合わされているんだよ」

「舞台……? 冥界の主……? 一体どういう……」

「キミたちが今ここに囚われているのも、私が牢の番に従事しているのも、冥界の主のお導きということ。キミたちを攫い、試練を設け、キミたちを救い出す者たちの勇姿を見たかった。身勝手だろう? いい迷惑だ」

 

 その言葉を信じるべき、なのだろうか。オドマオズマの様子は、心底から嫌気が差しているようだった。

 本当に冥界の主……大いなるものより分かたれた八つが、関わっていると?

 オドマオズマの言葉が真実なのであれば、死者を管理することを使命と定めた存在が、生者を冥界に招いてまで、“舞台”とやらを設えたということになる。

 今の時代では存在すら知らない者が多いようだが、わたくしの時代ではかれらは信仰の行き先に他ならない。

 一度死したわたくしを過ちだというなら、まだわかる。

 しかし、リッカとトーカを巻き込むなど、それがくだらない理由であるのならば――面白いとは思えない。

 

「まあ、真偽は当人にでも尋ねるといい。私が言うのもなんだが、あれは相当だ」

「……そうですか。では、あなたはその者に従いここにいるだけで、わたくしたちを害する気はないということですね?」

 

 今、重要なのはその一点。彼はわたくしたち三人では、どうにもならない。

 彼に害意がないのであれば、恨み言も言うまい。

 

「ないとも。役柄が気に入らなかったからこうして錠を壊すことこそしたが、後はキミらの好きにするといいさ」

 

 オドマオズマが扉を開けば、わたくしたちが囚われていた牢は銀色の炎となって消え去った。

 外された錠前が放り捨てられる。機構は焼き切れ、既に使い物にならなくなっていた。

 ――彼なりの、不満を表した抵抗ということか。

 しかし、その抵抗は、今のわたくしたちにとって都合の悪いものだった。

 牢の内と外という形だが、オドマオズマと領域を隔て、冥界の主の庇護下にあったとも取れた状況は解かれたのだ。

 

「……っ」

「リッカ。落ち着きなさい、大丈夫」

 

 リッカの中にある、尋常ならざる魔族への恐怖。

 それはユーリと共にいるからこそ、どうにか耐えられているものだ。

 こんな場所で、しかも四天王たる存在が目の前にいる状況は、最悪といっていい。

 生身の手を、震えるリッカの手に重ねる。熱は感じないだろうが、その冷たさで落ち着きを取り戻してほしいと思いながら。

 

「……ふむ。勇者の覚醒は未来への希望と化した。しかしその恐怖心は依然健在か。聞いた話では聖都のエルフと共闘していると聞くが……」

「――ここにいる必要がないというのなら、疾く立ち去ったらどうですか」

「恐怖の由来……アリスアドラの共感の意味……ふふ、なるほど、合点が行った」

 

 わたくしの言葉を無視し、オドマオズマは不気味に笑う。

 ――このままではいけないと、リッカを背に隠す。トーカもまた、リッカの様子を異常と見て、躊躇いがちに前に出てきた。

 

「そもそも私は察して然るべきだったんだ。痕跡が残るのには、必ず理由がある。勇者ユーリが特別なのではない、キミが特別だったのだね」

「――ぁ――――!」

 

 要領を得ない彼の言葉に、リッカが強く反応した。

 オドマオズマの気付きの意味するところが、魔族への恐怖以上に己の禁忌であるかのように。

 彼としては、ほんの些細な発見だったのかもしれない。取るに足らない見落としを、リッカに注目したことで偶然気付いた、それだけかもしれない。

 しかし、それはリッカにとって、あまりにも触れられたくない部分であった。

 怯えるリッカから視線を外し、オドマオズマはトーカに目を向ける。

 

「そちらのお嬢さん。今のような、限りなく死と定義できる状態に瀕したことはあるかい?」

「は……? ……死にかけたことなら、ある……けど」

「やはり、囚われはそういう基準か。運命に抗った者――まあ、正確にはナディアを還したのは私なのだが」

「……やめて」

 

 ぽつり、とリッカが呟いた。

 しかしそれで、開いた口を閉じるほど、今の彼は――優しくはない。

 

「……魂に刻まれた恐怖は何より雄弁に物を言う。トラウマは死に還ってもトラウマだ。何度繰り返しても癒えることはなく、繰り返すからこそ積み上がって――」

「っ、それ以上……言うなっ!」

 

 ――――リッカの叫びの直後、起きた変化は一瞬だった。

 

 無数の鋭く尖った岩が体中に突き刺さったオドマオズマが軽く浮き、そして力なく倒れる。

 後ろに隠れていた筈のリッカはいつの間にか目の前にいて、消耗を隠せないように肩で息をしていた。

 

「……え……? リッカ、いつの間に……?」

「……っ、別に……ただの、魔法。驚くような、ことじゃ……」

「ただの魔法であるものか。時への干渉が普遍的なものに成り下がれば、それこそ生に意味などなくなるじゃないか」

 

 ――声は、背後から。

 振り返ればそこには無傷のオドマオズマがいて、岩の突き刺さった体は土塊となって崩れ去っていた。

 

「キミの例外性には驚かされる。勇者ユーリを覚醒まで導けたのも納得だ。もっと早くに対話が叶っていれば、或いは試練に新たなインスピレーションを込められたのだが」

「――黙って」

 

 ……何が起きているのか、理解できなかった。

 オドマオズマの喉に、岩の刃が突き刺さり、また土塊として崩れていく。

 かと思えば、最初の残骸を拾い上げ、手の中で転がす“三人目”が現れる。

 それをリッカは、やはり姿さえ追えないほどの速度で攻撃し、次の残骸へと変えていく。

 

「気付きを得られたのだから、この舞台に上がれたことには感謝をするべきか。甚だ不満ではあったが、十分に釣りがくる。冥界に、時。いずれも私が自在に出来るものではないというのが惜しいところだが」

「黙って!」

 

 リッカにこれほど、戦う力があったとは――という驚愕は、なかった。

 それよりも不安の方が大きかった。一つ、オドマオズマを残骸へと変える度に、リッカがどんどん消耗していくから。

 

「っ、ぁ、――く……っ」

「リッカ……もしかして具合悪いんじゃ……!」

「無理をしないでくださいっ、相手は四天王……一人で勝てる相手じゃ……」

 

 膝から崩れたリッカを支える。

 ――体が弱いということは知っている。今のリッカには、魔法を補助する役割があるのだろう杖もない。

 ひゅうひゅうと荒い息を繰り返すリッカの限界が近いことなど、分かり切っていた。

 トーカがリッカを守るように、前に立つ。その手元には、リッカが作り上げたのだろう、鋭い岩の刃。

 ナイフの代わり程度にはなるだろう武器を持つトーカを、その目の前に現れたオドマオズマは嘲るように見下ろした。

 

「……あたしたちに手を出す気はないんじゃなかったの?」

「抵抗さえしていないじゃないか。やられ放題だ。そして、私が煽った手前、彼女の激情を抑える資格は私にはない」

「だったら、さっさとどっか行ってよ。ここにいるの、気に入らないんでしょ? ユーリもクイールもいないこんなところで、四天王サマが人間襲ってるなんて、サイアクだよ」

 

 ――トーカに恐れはなかった。

 勝ち目などない筈なのに、それを感じさせないほどに堂々と立って、オドマオズマと対峙していた。

 

「それが魔族というものだよ、お嬢さん。四天王だろうがそこらのゴブリンだろうが同じさ。昔はそうでなかったとしても、そのように時は進み、そのように魔族は変わった。最悪であれ。悪辣であれ。欲望に忠実であれ。それが、今世界に蔓延る魔族なのだから」

「んなこと言ったって――さっき言ってたよね。ナディアのお兄さんだって。それじゃあ、元々人間だったんじゃないの」

「遠い昔の話だよ。人間だった何十倍、魔族でいると思う? 今の私を動かしているのは情じゃない」

 

 くすりと笑ったオドマオズマの体が、その言葉を最後に真っ黒な炎に包まれる。

 リッカがまた何かをした――という訳でもなさそうだ。リッカもまた、呼吸を整えながらも目を見開いている。

 叫ぶことも、驚くこともせず、ただ立っているオドマオズマの様子はあまりに異様で、それが自身の意思であると証明するには十分だった。

 

「――享楽さ。世界を面白おかしく彩るエンターテインメント。それを追い求める高揚感が、私という存在をどこまでも人の道から外していく」

 

 たちまち焼き焦げて炭のようになった体に張り付く黒衣と、体から突き出たり黒衣に垂れ下がったりと好き放題で彼を飾り立てる多種多様の骨。

 色合いから死と直結せざるを得ない黒煙をまばらに灯し、フードから覗いた顔を覆う山羊のような頭蓋の向こうは土気色の光が爛々と輝いている。

 その出で立ちだけは人間の、あの頃のままであった彼の印象さえ、悪鬼の如き風貌は容易に消し去っていく。

 それは、かつての兄であった存在の――死を操るもの(リッチ)として許された異形であった。

 

「な、なに、それ……」

「言うなれば死化粧(エンゼルケア)……人が死んだらやるだろう。先を行く者に見送る側が施す自己満足。死への隷属――その悪用はこのように、死した肉体に力を与えるのさ」

 

 

 抗ってはいけないと、冷たい胸の底が訴える。

 絶対的に、死の上に立つオドマオズマ。わたくしはそもそも、彼によってアンデッドとなった身だ。

 支配されるべき魔族としての諦観が、否応なく心を覆っていく。

 ――そんな風に納得するなと、叫ぶ己の意地さえ埋め尽くして隠すように。

 

「ぅあ――!?」

「リッカ!?」

 

 支えていた小さな体が、突如としてオドマオズマの方へと引き寄せられた。

 いつの間にかリッカを鷲掴みにしていた骨の手を、指でなぞりながらオドマオズマは呆れるように言う。

 

「体力は平均以下。肺も弱い。旅を成立させるために随分と周到に準備したようだ。だが、悲しいかな。キミの魂は擦れる一方。判断能力は老いさらばえ、勇者が戦うための道具でしかないのが現状……いや、介護をしなくて良い分、ただ道具であった方がマシか」

「っ、ぁ……」

「時への干渉がどれだけ自由なのかは知らないが、逃げれば良かったんだよ。あの二人を連れてそれが出来るなら最善だ。それが叶ったなら、私が勘付くことさえなかった」

 

 その状態で、彼はリッカの過ちを指摘する。

 先程からリッカの動きの根拠として彼が言う、時への干渉――そんなことに驚いている暇はなかった。

 ――竦んだ足を意地が奮い立たせて。

 そのかけらほどの勇気を、本能からの恐怖が台無しにしていく。

 

「この……リッカを離して!」

「っ、トー、カ……待っ――」

 

 そんなわたくしを尻目に、当たり前のように岩の刃を振り上げて、トーカが駆けていく。

 対して、オドマオズマは軽く手を払うのみ。魔力を乗せた風に煽られてトーカが飛んだ。

 制止の声は間に合わない。いや、声となっていたかさえ定かではない。

 ――岩の刃が目の前に落ちた。わたくしを、役立たずと断じるように。

 

「ぐぅ……っ!」

「少し気が変わったが、大人しくしていればキミにもナディアにも何もしないとも。どう足掻いても事態の変わらない抵抗ほど退屈な脚本はないよ、お嬢さん」

「う、く……リッカには、何かするってことじゃん! それなら、ヤだね! 脚本家気取りなのか何なのか知らないけど、あたしたちが生きるための足掻きをそんな感覚で消費しないでよ!」

 

 飛んだ先で受け身を取り、近くにあった岩の破片を掴み上げ、振り回す。

 先端から伸びた魔力が束ねられ、鞭のようにオドマオズマに迫るが――それが腕に巻きつけられたのを見下ろした彼は、退屈そうにそれを引き千切り、トーカに向けて指を突きつける。

 直後、どこかから現れた黒い靄のような手の群れがトーカを押さえつけ、抵抗を封じた。

 

「度し難いな。平穏無事でいられる選択肢をどうして捨てようとする? 千年のうちに人間はどこまで愚かになったんだ?」

「そ、んなの……!」

 

 ――千年のうちに、人間はどこまで愚かになったのか。

 

 それは、あまりに不可解なトーカの態度を、疑問に思っての発言だったのだろう。

 勇者でさえない、ただの人間の抵抗。力ある魔族になった身としては、不気味にさえ映るのかもしれない。

 けれど――オドマオズマは……彼は知っている筈だ。

 

「命欲しさに誰かを売る方がずっとバカだよ! リッカを売って生きるより、あたしは抗って皆で助かりたい!」

「っ……」

 

 技術で魔族に勝り、興味の手を広げ、未知への可能性を追い求めた。

 ネシュアはそうして発展した国だ。末路がどれだけ下らなくとも、技術の裏がどれだけ汚らわしくとも、ネシュアは愚直さで前進していった国なのだ。

 そんな、人間の愚かさ――素晴らしささえ、彼は忘れてしまったのか。

 ……なんて、これに関しては彼を責めることは出来ないか。

 わたくしだって、すっかり忘れていた。いや、そんな覚悟も勇気も、持っていなかった。

 だからこそ、動いていない心臓が、震えたのだ。

 

「……彼女はキミにとってそれほどの存在だと?」

「当たり前じゃん! リッカはあたしの友達候補だもん! 兄ィと並べられたって、切り捨てようとは思わないね!」

「っ……」

 

 リッカのように、戦うための力もなくて。トーカのように、抗う気概もなくて。

 妹だから、アンデッドだから、抵抗に意味はないとどこかで諦めていた。

 

「……大した友情だ。状況次第では私の胸を打ったかもしれないが……残念ながら今の興味は彼女にある。間の悪さを呪いたまえ」

「こんの……離して!」

「――繰り返す妄執、その残滓を掬うのは私が相応しい。ふむ、騎士と姫、か……図らずも連作になったな」

 

 けれど、ああ……やはり、諦めは間違いだ。

 トーカの抵抗を無視してリッカへと向かうオドマオズマ。

 リッカの恐怖など意にも介していない。最早、彼女は自身の手の中にあるも同然。そこから、リッカがいくら時を止めようとも、事態を動かすことは出来ない。

 エンターテイナーを自称し、生の輝きを尊んでおきながら、心の奥底は、死の側にあるものとしての生者への蔑視が染み込んでいる。

 彼のような存在が、リッカの頑張りを無駄にする。トーカの意思を嘲笑う。

 

 ――そんなふざけた話があってたまるか。

 彼女たちの道はこれからも続いていく。それを、人間を捨て、生を諦めた者が、阻んでいい道理などあるものか。

 

 震えが止まる。足に力が込められる。

 感覚のない義手。その使い方? 分かっているとも。

 生前から慣れ親しんだ、己の一部だ。わたくしの思い描く通りに動き、望んだものを手に取れる。

 

 硬い義手に、生身の手を添える。

 熱のない体に、血の流れない体に、懐かしいあたたかさを錯覚した。

 

「その怯えもすぐに分からなくなる。いや、寧ろ残しておいた方が――」

 

 ――リッカとトーカ、二人の視線には気付いていた。

 その驚愕が、なんだか清々しかった。

 まあ、一番驚いているのは他でもない、わたくし自身なのだが。

 

 かつて、ネシュアの姫であったわたくしが。戦いになど縁のなかったわたくしが。

 

 ――手に取った岩の刃を、こうも躊躇いなく、かつて兄であったものの脇腹に突き刺すことが出来るなど。




【トーカ】
兄が向かないから、戦いを経験する道を選んだ。それは間違いない。
だが、その選択をすることが出来た覚悟と勇気は、彼女本来の気質によるもの。
数十年前、二人の祖母であった人間は、彼女たちの母となる娘が生まれて間もなく、逃れ得ぬ死を定められたという。
それは遺伝するものではなく、存在に刻まれる運命だ。トーカにその属性が芽生えたなどという事実は存在しない。
それでも、かつて女傑と謳われた者の勇気は、見ることの叶わなかった孫娘に継がれた。
冥界に惚れられた勇気の萌芽。それを、とあるトリックスターは、灰の縁と呼んだ。

【リッカ】
己が囚われた運命を二人に知られる訳にはいかなかったというのが、貴重な時を使ってまでオドマオズマを止めようとした理由の九割。
残る一割は、それを知ることで、望まない選択をしかねないナディアを――それから、そっちの変わり者も――守らなければという、彼女なりの、打算抜きの情だった。

【オドマオズマ】
死化粧(エンゼルケア)――死者を加工し、在り方を変質させるその技法は、ただアンデッドとして操るものとは似て非なるもの。
動きが鈍く、単体での性能を期待できないのが通常のアンデッドだが、それを施したものは強力な魔族にも匹敵する。
オドマオズマの得意とする秘術であり、統一騎士(デュラハン)もこれによって強化されたものだという。
個人の戦闘能力では四天王の内でも劣る彼だが、自身に死化粧を施せばその限りではない。
骨と魂魄の鎧で身を覆った彼は、術者という弱点の消えた理想的なアンデッドマスターと言えよう。

【ナディア】
戦闘など、勇気など、自分には縁のないものだと思っていた。
この時代で生きてみるというのも、“なんとなく”義理を果たすためでしかなかった。
“なんとなく”の中に、情熱など生まれるわけがない。
けれど、自分と変わらない身の丈の少女たちの抵抗は、そんな生きる屍(アンデッド)であった彼女の心を震わせた。
生への叫びは、熱のない体に小さな炎を灯らせた。
ここに、彼女は生者としての最初の一歩を踏み出した。本能(きょうふ)に蓋をして、意地(たてまえ)を貫く――それが、人間というものだ。
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