凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
動ける、という確信があった。
これまで、ユーリたちのようにまともに体を動かしたことなどない。
その上、初戦となる相手が相手だ。本来であれば、不安を抱くべきなのだろう。
だが、今のわたくしにそれはない。
不安など抱く必要はない。今のわたくしがすべきこと――やりたいことに全力を尽くすのみ。
「行きます――オドマオズマ」
「ッ……」
ヨハンナによって用意されたこの外装は、素の状態で高い戦闘能力を有するわけではない。
無論、魔族に肉薄するポテンシャルはあるものの、彼ほどの魔族に通用するかといえば、それは否だ。
では、何がこのすがたの強みとなるのか。
『2 - 1 - 1 >> [Accept] >> [DECODE]』
あらかじめ定められたコマンドを入力し、パーツ化した術式を魔法へと昇華させる。
組み上がった魔法は、かつてヨハンナが己の一部として取り込んだ機能の数々を再現し、出力するもの。
その中でも、手ごろなもの――取り回しの良いナイフを手に持ち、駆けだす。
手に取ることを想定していなかったリッカの岩の刃とは段違いに手に馴染む。
食事に使うナイフとはまるで異なる。これは、敵を害し、そして殺傷するための武器だ。
「ナディア……! 言っているだろう、キミにそんな物騒な武器は――」
「似合う似合わない、出来る出来ない――そんな戯言はもう聞き飽きました。今のわたくしはナディア。地位も立場もないただの一人の人間です」
果たして、物理攻撃が通用する相手か。はっきり言って、そこはどうでも良かった。
自身が動けることの確認。そして、先の宣言よりも確かな、彼との訣別の証明になるのであれば。
向こうには攻撃の意思はない。動揺が大きく、こちらの攻撃を捌くので手いっぱいに思える。
「ふっ……!」
最早わたくしたちは完全に敵同士。躊躇う必要など、どこにあるのか。
いや、構うまい。わたくしに甘い兄様でいてくれるのならば、彼を――ユーリたちの大きな障害となるだろう四天王の一角を、今ここで倒すまでだ。
ナイフの柄に取り付けられたスイッチを押し込む。
ヨハンナが開発したというこのナイフが、ただ取り回しの良いだけの利口なナイフである筈がない。
装填されたカートリッジから流し込まれた薬液が刃に浸透し、電撃を発することで威力を増強させる。
刃は彼の黒衣を切り裂き、広がった電撃は、咄嗟に膨れ上がった黒炎が掻き消す。
熱は感じない。まだ追撃は可能だ。
炎を躱すように懐に飛び込む。ナイフを突き刺して手放し、背後に回り込みながら、“次”の力を招き寄せる。
『2 - 1 - 8 >> [Accept] >> [DECODE]』
出力されたのは、ナイフの何倍もの大きさを持った
持ち手を覆う装置の先端に取り付けられているのは、車輪を思わせる円状の巨大な刃。
装置を起動すれば、刃は猛回転を始め、纏わせた魔力を周囲に飛び散らせる。
「は……っ? いや、待て。待ちたまえナディア!」
振り返ったオドマオズマに向けて刃を突き出したが、彼は辺りに放った呪詛と自身を置換することでそれを回避する。
ならばその手品の種を全て潰すのみ――大きく振るえばその分、嵐にも匹敵する破壊を巻き起こせるこの武装ならばそれも叶う。
リッカとトーカを巻き込まないように出力を調整しつつ、目に映る呪詛を薙ぎ払いながら、オドマオズマに迫る。
「これの振るい方をはじめに教えてくださったのは、あなたでしたね。いえ、型の違いこそありますが――刃に振り回される経験、あれはとても得難い、恐ろしい経験でした」
恨みを口に出しながらも、動くことはやめない。
時間と共に威力を向上させていき、やがて制御もままならなくなるほどの暴走を、この武器がすることはない。
一定の威力を常に発揮し、担い手の扱いに則った破壊を巻き起こす。使い方を誤れば、その先に待っているのは破滅。
過ちが自業自得を生むなんて、どんな武器を使おうと同じことだ。
「な、ナディア、すごい……! そのままやっつけちゃえ!」
「ええ――そのつもりです」
本来わたくしの手にあるにはあまりにも大きすぎる、バルハラに至るための力。
それに調整を行うことで、外装を纏った状態であればわたくしでも振るうことが出来る程度に収まっている。
優雅さ、丁寧さとはかけ離れた、野蛮極まりない戦い。そうだと強く意識するといささか躊躇いも生まれるが――
「オドマオズマ。これで“滅びる”身であるとは思えませんが、あの時の返礼に、この刃で裂かれる経験をプレゼントいたしますわ」
「ぐ、ぅぅぅうううううう――――!」
その野蛮さは、こうして生きている以上は学ばなければならないことだ。
これから先は誰かに守られているばかりではいけない。自分の力で立って、歩かなければならないことの方が多いはず。
対外的なことばかりを気にした王女のままではいられまい。
「っ、決戦機構……ネシュアの秘奥に刻まれた
「ええ。そのようなことが叶うのは、世界でただ一人、ヨハンナのみ。ゆえに、彼女の権限を用いて実行したまで。この力は、そういうものです」
刃を叩きつけ、押し付けることで、彼の――どうせ偽りであろう姿を構成する骨と呪詛はたちまち砕けていく。
思いのほか、わたくしの中に躊躇いがないことに気付いた。
やらねばと分かっていても、臆するに決まっている、誰かを手にかけるという行動。
それを迷いなく実行出来ているのは、守るべき友を優先する覚悟があるからか。
霧散した呪詛が視界を妨害する。
しかし、次に彼の力が集束していく場所を、外装の演算装置がすぐさま導き出した。
「――そもそも、どうして聖女ヨハンナがこんな場所に……キミたちと共にいる? 彼女はバルハラと共に封印されたはずだ」
『視野が狭いな、王子。おまえの持ち得る情報で解は出せる。出せぬのであれば、おまえには相応の末路しか待つまい』
「っ……」
刃の駆動を止める。それで終わりかといえば、当然否だ。
『3 - 8 - 7 >> [Accept] >> [DECODE]』
武装を警戒してか、離れた場所に現れたオドマオズマ。
それに対する追撃のために右足に出力された武装は、羽のような刃が突き出ただけの奇妙なもの。
「はっ!」
その場で大きく足を振り払い、刃を射出することでその武装は真価を発揮する。
捕捉した標的を狙い、獣のように追い続ける“ブーメラン”として。
「そんなものまで……!」
先の武装に比べ、高い威力を持つ訳ではない。
一度通り過ぎ、戻ってきたそれを、振り返って対処するオドマオズマ。
これは元より、そうした隙を生み出すための武装だ。
『6 - 2 - 4 >> [Accept] >> [DECODE]』
『5 - 4 - 8 >> [Accept] >> [DECODE]』
左足、左腕にそれぞれ武装を出力する。
合計四つを装備し、ずっしりと感じられる重量――ここまですると、流石に動くのも一苦労だろう。
飛び回る刃を迎撃した彼を見届けてから、空っぽになった右足の武装を解除する。反撃に備え、念のために。
こちらに振り返ったオドマオズマは、準備万端のわたくしを見てか、一歩後退った。
「なっ……」
「喰らいなさいっ!」
左足に装着されたのは、火を吹きながら標的へと突っ込んでいく三連装の弾頭。
発射の衝撃に耐え、爆音と共に疾走するそれを追うように、左腕の武装を構え、起動させる。
複数の銃身が高速で回転し、効率的に発射までのフローを繰り返すことで、ただの銃火器とは比較にならない速度で吐き出される嵐の如き弾丸の群れ。
一発一発に命を奪い得る威力の込められたその武装はつい先ほどまで知るものではなかったが、ヨハンナに組み込まれていたということは、とうの昔にネシュアで開発されたものだということに他ならない。
全てはバルハラに至るため。決戦派に名を連ねた狂人たちの、“ロマン”の結晶――。
「ぐ――ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
黒衣を貫き、骨を抉り、呪詛を裂き、弾丸は彼という存在を削り取っていく。
辺りに響く絶叫に呼応したように形を得ようとする、彼に囚われた悪霊の魂もろとも、嵐は彼を蹂躙する。
――そこで油断はしない。
彼ほど悪辣な魔族が、この程度で滅ぶ筈がない。
あの絶叫さえ偽りに過ぎないと、わたくしの直感も、外装に取り付けられた演算機能も解を出す。
「ッ――だが! 果たしてそれでいいのか、ナディア!」
「……なるほど。あなたは、よもやそこまで」
そうして導き出した、彼の行動。そこに納得してしまい、もの悲しさのようなものが生まれた。
わたくしへ直接手を出すことを躊躇っている様子。それが、彼の情によるものかどうかは、わたくしには分からない。
その上で、わたくしの心に傷を刻むことに躊躇はなく、今の状況でそれをするならば、狙うべきものなど決まり切っている。
――外装を纏ったところで、わたくしには何も守れないという、無力の証明。
「……!」
「ヤバ……っ!」
背後にいたリッカとトーカに迫る呪詛の群れと、一瞬にして構築された
彼の真骨頂はアンデッドを操ること――当然、戦闘よりもそうした数の暴力の方が得意分野なのだろう。
二人を守ろうと思えば、武装を止める必要がある。しかし、そうしてからでは何もかもが手遅れだ。
であれば、わたくしは今この場でどうすれば良いのか。
迷うまでもない。周囲の状況は把握できている。
彼に対し、勝利を確信できる段階になるまで、二人を守り切る。それで十分だったのだ。
「――不意打ちとは、つくづく卑しいものです。無為に生きれば価値を失う。不死者であっても同じことですか」
元来、冥界とは死者を支配し、管理する領域。そんなところで、アンデッドがいつまでも好き勝手出来ると思えば大間違いだ。
呪詛の悉くが切り捨てられる。魔族を構成する骨がたちまち寸断されていく。
そんな中でも、素早く対処し再度スケルトンを構築するオドマオズマの判断速度は少々驚かされたが――それもまた、恐れるべきことではない。
「そうはさせるかってのっ!」
「――ラフィーナ……!」
「ッ……トーカに手ェ出してんじゃねえ――!」
「あ、兄ィ!?」
現れたスケルトンの手はリッカにもトーカにも届くことなく、吹き飛ばされた。
弾丸を吐き出し終えて、武装の冷却を行いつつ、振り返る。
そこにいたのは、先程わたくしたちを捕えた、片刃の剣を持ったスフィンクス――何があったのか知らないが、体中に亀裂が入っている。
そして、トーカのためにここまで駆けつけたのだろうリヒトに、見慣れない魔族が一人。
外見からして、サキュバス。本来ならば警戒すべき相手ではあるが……その聞き覚えのある声と名前、そして何より、リッカが拒絶を示している様子がないこと。
ああ――なるほど。ユーリとリッカを支えていた彼女は、魔族だったのか。
「……彼は逃げたようですね。まあ、追うまでもないでしょう。この冥界に、もう彼の支配下にあるアンデッドはいないようです」
周囲を見渡し、危険がなくなったことを確認してから、スフィンクスはその剣を鞘に納める。
……オドマオズマは、去ったのか。
わたくしの対応は、甘かっただろうか。ヨハンナであれば、もっと無情に、敵を討つための戦闘を実行出来たかもしれない。
ユーリたちの今後のためになれればという思いもあったが――終わってしまった以上は、仕方ないか。
『ナディア、見事な初陣だった。当機も誇らしい。同胞たちもまた、満足せずにはいられまい』
「ありがとうございます、ヨハンナ。この力――有効に使わせていただきますわ」
ふわりと飛んできたヨハンナは満足気だった。
外装の機能に頼りっ放しの戦いだったが、合格点は得られたようだ。
使っていない武装は山ほどある。それらをどう扱うかによって、この外装による戦闘の方針は大いに変わる。
訓練とシミュレートは万全にしておかなければなるまい。
「……で、どういう状況なワケ? オドマオズマ様がいたのは確かみたいだけど……あんた、ナディアで良いのよね?」
「ええ――ラフィーナ、ですね? お互い、顔を合わせるのは初めまして、になりますか」
「あんたの顔、見えてないけどね」
……にしても、変わった格好だ。サキュバスにしては肌を隠している方なのだろうが。
あの不格好な鎧はなんなのだろう。構成する素材もバラバラだし、戦いの後なのか、壊れかけだ。
「ナディアまでそんなことに……まあいいや、もう突っ込まねえ。ともかくだ。なんともないか、トーカ」
「う、うん……! リッカとナディアが助けてくれたから」
「そっか。世話になったな、二人とも」
ともかく、難は逃れたようだ。トーカは力が抜けたのか、リヒトに体を預け、安堵の様子を浮かべている。
礼は素直に受け取っておこう。友人なのだから、助け合うのは当然だ。
とはいえリッカは未だ認められてはいないようで、ラフィーナの意外そうな視線を受け、ばつが悪そうに目をそらしている。
「……? ユーリは……? それに、その魔族……」
「このスフィンクスは一旦、味方よ。ユーリは別行動。こっちをあたしたちに託して、クイールたち……それから、カルラを助けに行ってるわ」
「――――!? カルラ、って……ッ、いない……!? だって、なんで――ラフィーナ、一体何が……!?」
カルラ……? 知らない名だが、どうやらリッカにとっては重要な存在らしい。
彼女らしくない取り乱しようだ。心を許した者の少ないリッカの数少ない、大切な存在なのだろう。
「落ち着きなさい。あんたたちが無事だっていうなら、今からユーリの方へ行くわ。あんたがいないと、ユーリも全力出せないでしょ」
「ッ……」
「ユーリたちがいるのはずっと上よ。……スフィンクス、簡単に上に行ける装置か何か、ないの?」
「ありません。ですが、獅子に乗せましょう。我々の事情に付き合わされているのですから、そのくらいは」
「……さっきとまるで別人じゃん」
トーカの思わずといった様子で呟く。
重傷に見えるが、余力はあるようだ。先程とは違って杖は持っていないものの、スフィンクスは手で魔法を紡ぎ上げ、自身の魔力で巨大な獅子の形を構築する。
あれを、この広い冥界の移動に使っているのだろう。
「乗ってください。落ちないように保護はしますので、ご安心を」
「随分協力的になったわね、あんた」
「終幕が近いことは予想できます。あとは主のもとに演者が集まるのみでしょう――まあ、先のリッチは逃げましたが」
……協力者として考えて良いのだろうか。
少なくとも、ラフィーナはそうするしかないと判断しているらしい。先に獅子の背に飛び乗り、リヒトたちを引っ張り上げている。
ならば、ひとまず信じようと考えて――そこに近付くのを躊躇うリッカに気付く。
「……」
――リッカとしては、このスフィンクスは命を預けるに値しないのだろう。
彼女の信頼を代替できるユーリはここにはいない。今のリッカには、誰かを信じるということすら困難だということは分かっている。
「……リッカ」
「え……――!?」
全ての武装を解除して、リッカに近付き、抱き上げる。
その上で、背に新たな武装を背負う。魔力の推進と姿勢制御により飛行を可能とする翼。
外装を纏った状態で発揮できる膂力であれば、リッカ一人抱えるくらい造作もない。
この状態で、獅子を追うように飛べば、リッカの不安も幾分解れよう。
「な、ナディア、なにを……」
「急ぎますわよ。ユーリのもとへ」
「――――」
「……ま、いいわ。上に向かいながら、起きている状況について話すわよ。よく聞いておきなさい」
……よし、どうやら大人しくなったらしい。
誰かを抱えて運ぶなんて初めてだ。そんな立場でもなかったし。
けれど、これからは必要ならばこのくらい、いくらでもやってやろう。目を丸くするリッカの珍しい表情も見られることだし。
ラフィーナの話を聞きつつ、狭い通路を抜けて、広大な穴の底に出る。
目指すは遥か上方――もう暫く、リッカには大人しくしていてもらおう。
【D-RIKKA Xグロウリー】
外装による身体強化もそれなりに魔族と渡り合えるものだが、真価は決戦派がヨハンナに組み込んだ数多くの武装にある。
回転のこぎりだのガトリング砲だの、大半はクセが強く扱いづらいもの。
それらを適宜各部に装備することで、臨機応変で奇怪、なおかつ派手な戦闘を可能とする。
ナイフなど割とまともなものもあるが魔力カートリッジを利用した発電機構が組み込まれていたりと、例外なく妙な機能がある。
いわく、「決戦派はこんなんばっか」とのこと。寧ろ何にでも手を出し、余計なことさえ惜しまない自由さと柔軟性が、ネシュアの技術改革に大きく貢献してきたらしい。ロマンは国を進歩させるのだ。
【リッカ】
??????????(宇宙リッカ)
【ラフィーナ】
ナディアまで変身しだした。行くところまで行ったわね。
もう何があっても驚かない自信があるわ。
【オドマオズマ】
――土の試練は良いだろう。あれは勇者の物語として用意したものだ。だが、今回のこのざまはなんだ?
強制的に下らない舞台に付き合わされ、妹に反逆される?
面白くない。実に陳腐なシナリオだ。付き合っていられな……いや、待て。
……ふむ。聖都の方に放った死者たちはまだ数が残っているな。暫くはエルフの騎士どもも掛かり切りか。
……いいさ。爪痕の一つでも残さないと納得がいかない。この脚本に、一滴の絶望を追記してやろうじゃないか。