凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
他者とのつながりで、さらに先へと進む。
それが、僕の勇者としての力だ。
深いつながりを持てば持つほど、よりだれかを感じ取れるようになる。
固く結ばれた者と対した時、何をしようとしているのか、その感情の向きが分かるようになる。
その力は、誰かの深層に踏み込む時だけでなく――戦いにおいても、僕を助けてくれる。
「そら!」
「っ……」
ネルガルの気持ちは、“愉しみ”を求めること、ただ一つ。
今の戦いを彼女は心から楽しんでいる。僕が何をするのか、どうやって自分を超えようというのか、如何にして、自分の企てを乗り越えられるか。
そんな、“よくある”魔族らしさ。
他者を――弱い存在を自分の都合のよい立場に置いたそれは、完成された魔族の価値観だ。
両手それぞれに剣を持っての戦い方は、大振りで力強いもの。
普段共闘しているクイールのそれと比べれば、経験の差があまりにも大きい。
けれど、吸収率が凄まじいのだ。相手の戦法を見定め、学び、そして自分の動きに反映させる――その工程が、数秒単位で繰り替えされ、その地力を高めていく。
既にクイールの戦い方には慣れたのだろう。それだけなら対処の容易い動きの中に、時折クイールのような自信に満ちた踏み込みが繰り出される。
僕とクイールの戦いのセンスには開きがある。
完全にクイールのそれを模倣されてしまえば、僕はネルガルに勝つことが出来ない。
では何故、こうして彼女と渡り合うことが出来ているのか。
“――ユーリ、足元……右です!”
――決して、聞こえているわけではない。
ただ、感じるのだ。カルラが、こちらに注意を促してくれていることを。
地面を滑るように迫る剣を、虫たちが壁になって受け止める。
その間にネルガルに踏み込み、拳をぶつければ、腕を覆う外装になっていた虫たちが追撃する。
「くっ……!?」
この外装――『バラーズフューリー』の強みは、無数の虫たちが寄り集まった外装を自在に変化させること。
変化の幅は、アッシュによる外装の、灰の変化よりも広い。
時には攻撃を防ぐ壁に。時には相手を貫く槍に。そして、時にはより巨大な虫に。
後退したネルガルが放った魔力の斬撃を、間に飛び出た虫たちが受け止める――幾らかが地に落ちて、残った個体がもう一度姿を変え、羽を広げたバッタを形作る。
周囲のアルラウネたちの喧騒が、悲鳴へと変わった。
――おぞましい!――こわい!――
――支配よりも!――戦乱よりも!――青褪めた病よりも!――
――わたしたちを食べ散らかす、冬の怪物!――
「なるほど……余への反抗を、そう表現するか! まさか
ネルガルに喰らいつこうとするバッタは、動くたびにそれを構成する個体が零れ落ちる。
零れ落ちたそれらが再び集まり、小さなバッタとなって襲い掛かる。
「我らにとっての冬の象徴を操るその趣向、素晴らしきかな! まさしくピカレスク! 勇者でありながら、ヴィランとして余に立ち向かうか!」
「っ、言ってる意味が、分からない!」
虫は植物を食い荒らす天敵――カルラも苦手ではあるようだし、アルラウネが騒ぎ立てるのも当然だ。
しかし、ネルガルはそれを前にして、なおも高揚しているようだった。
あくまでもこの状況を舞台と見立てこちらの反撃さえ、自らを楽しませる展開でしかない。
――そう感じているのならば、それでいい。どう思われているかなど関係ない。彼女を倒して、カルラを助け出す。それだけだ。
「だが、その暴食の嵐はあくまでも草花を喰らうもの。それでこの場のすべてが解決するわけではないぞ?」
「――ユーリくん! そっち行きました!」
「――――!」
直後、後方から向けられる強烈な圧。
振り返るよりも先に、外装に残っていた虫たちが反応した。
これまでの半分自動的なものとは違う、明確な意思をもって、虫たちは三つ首の魔族に纏わりついていく。
「 ――――――――ッ 」
牙はこちらに届くことなく、ケルベロスは虫たちを振り払おうとその場で暴れ始めた。
その隙にバッタとしてネルガルに襲い掛かっていた個体たちもそちらに向かっていく。
かれらがあのケルベロスを憎いと感じるのは、理解できる。
僕たちが駆けつけた時には、既にあのアラクネは事切れていた。結局彼女が、どういう存在だったのか、僕は知らない。
けれど、かれらにとっての母であることには間違いない。あのケルベロスは、母を食い殺した仇敵なのだ。
周囲に炎熱を奔らせ、虫たちを追い払うケルベロス。だが、それに怯むことなくクイールが突っ込むことで、被害を最小限に押しとどめた。
一方の僕は外装に残った虫で刃を作り出し、ネルガルに立ち向かう。
頑丈なものではないが、それは彼女の剣も同じ。決して鍔迫り合いで負ける強度ではない。
「あれほど分かりやすい憎悪を、虫が抱くとはのう」
「……家族が殺されたんだ。怒るのは……憎むのは当然のことだよ」
「ふむ――そういうものか。やはり、我らはそなたたちとは根本から違うと見える」
弾き返され、体勢を立て直してもう一度接近。
虫たちの形状を変え、鰐の如き大顎に変化させて剣に喰らいつき、打ち砕く。
さらに槍のように鋭く変化した先端で外装を削るものの、剣も、付けた傷も、たちまち修復していった。
「もし余とそなたたちが同じであれば、余はそなたを決して赦さぬはずだ。しかし、現に余はそなたに一抹の憎しみさえ抱いておらぬ」
「なんの、話を……!」
「そうであろうに? そなたの――正確にはあの擦り切れた小娘の旅路の中で、我が子が一体幾度命を落としてきたことか」
「――――――――」
何でもないかのような言葉で、怒りも、憎悪もそこにはなかった。
けれど、確かな結果として知っていた。彼女の言葉には、実感があった。
ここではない、“かつて”の“どこか”で、リッカが――カルラが辿った道を、ネルガルは確かに認識していた。
「余には憎しみなどない。何故か? カルラが憎んでおらぬからよ。我が娘の感情を、余は尊重する。カルラに憎悪がないというのに、余が憎んでどうするというのか」
「……」
「余が我が娘と共有したのは愛おしさ――そして、そなたたちを救おうという想いのみ」
「……救う、だって……?」
そんな、突拍子もない言葉は、カルラという根拠があってのものだった。
不意に立ち止まった隙に、修復された両の剣が立て続けに振るわれた。虫たちによる盾が砕けては再び形成されることで、それをどうにか防いでいく。
「愚かしくも、愛おしい娘よ。具体的に叶える手段を知らぬまま、身の丈に合わぬ望みを抱く。まさしく夢よな。苦痛なき、永久の安寧を、などと」
「それを、カルラが……?」
ああ――カルラが全てを知ったのならば、きっと、そう願うだろう。
それは僕たちの、共通の願いだ。
そのために、僕も、リッカも歩いてきた。
「然り――ゆえにこそ、方法を知る余が叶えてやろう。同じ願いを持ち、同じ愛を持つ、余と我が子たちのすべてでもって、その小さく完結した願いを現実にしてやろう」
そして、カルラの願った理想を、ネルガルは共有した。
アルラウネとして当然のことなのだろう。当たり前の生態でその理想に共感し、心から、僕たちを想っている。
「ここがそなたたちの終着点。そなたたちの手は世界に届かず、しかし世界の方がそなたたちに手を伸ばす。それが余の慈悲。それが余の舞台」
この舞台は、僕たちを招くもの。僕たちの旅のフィナーレを、彼女なりに定めたもの。
カルラの願いを、彼女なりに解釈したもの。
「これが最後なのだ。好きなだけ足掻け。それが、そなたたちの幕引きを彩る花になる――」
「――ふざけないで」
「む……?」
……そうだとするならば、落第点だと断言できる。彼女は少しも、カルラという存在を理解していない。
「ここで僕たちが立ち止まるのが、カルラの願い? そんなわけないじゃないか」
「安寧への最たる近道だ。否定する理由があるまいて」
「そんな甘ったれた選択、カルラは許さない。“それ”をカルラが認めるんだったら、これまでだって選択肢はいくつもあった」
ここで止まることをよしとするならば、リッカの憎悪を、恐怖を知ってなお、リッカに尽くそうなんてしない。
僕の決意を知ってなお、僕の背中を押すなんてしない。
僕たちが目指すのは全てをやり遂げて辿り着いたハッピーエンドのその先だ――行き止まりの妥協点なんかではない。
「まだ、僕たちの旅は終わっていない。僕の、勇者としての使命は、果たされていない」
「その使命とやらの意味さえ、余は失くすことが出来る。これから先を走ったとて、待っているのは虚無。闇雲に目指す意味がどこにある?」
「都合の悪いものが待っていたら、何をしてでも変えてみせる。それに、こんなところで止まっても、僕も、リッカも、カルラも納得できない」
今更、百点満点以外を目指したりはしない。
ここまで来たのなら、最後まで走り抜けて、僕たちの足で至るのだ。僕たちの、理想に。
「……ふふ、ふふふふふ……! その強情さ。カルラが熱くなるわけよ。良いぞ。否定してみせよ。余の行き止まりを打ち壊し、余の舞台を打ち砕け!」
「――そのつもりだよ。キミにこれ以上、好き勝手はさせない。
「みんな……ッ……!?」
宣言して、変化が起きたのはその直後。
待ちに待った瞬間だ。布石は既に打っていた。この外装は、そういうものだ。
ネルガルの纏う外装にノイズが走る。そして、背後でクイールと戦っていたケルベロスがその場に崩れ落ちた。
体に炎を纏わせ、命知らずな個体以外を寄せ付けていないが、明らかな異常が起きている。それで復讐は終わったと判断したのか――虫たちは再び僕の外装へと戻ってきた。
「やれやれ。狙っていたことは同じか。単純なクイールと違って、ユーリくんは狡猾だね」
「僕は出来ることを全力でやっただけだよ」
「今、僕を引き合いに出す必要ありました?」
僕がここに来るまでに何かあったのかもしれない。
外装を纏わず、戦いを静観していたイリスティーラが近付いてきた。
彼女も、考えることは同じなようだ。格上と戦うのであれば、それは最も強力な手札となる。
「……なるほど、毒か……!」
「その通りさ。ちなみにそこのケルベロスには、冥界に来て早々に打ち込んでおいた。ヒュドラ由来の毒だ――ここまで耐えるのは想定外だったがね」
「ふっ……やつも死を超えた冥界の従者。死に至る毒には強かろうよ。そして余も、この程度の毒では気さえ飛ばせぬな」
『バラーズフューリー』が操る虫たちは、相手を傷つけることで毒へと変転する。
単体では人さえ侵せない弱い毒を、手数で少しずつ重篤なものへと変えていく。それが、この形態の戦い方だ。
この戦いでネルガルにまで届いた毒など、大したものではないだろう。
だが、元より――狙いはそれではない。
「それでいいよ。目的通りに影響は出ているから」
「何……?」
かれらの牙を受け止め、ネルガルにまで沁み込むのを防いでいた、外装はどうか。
毒は十分に浸透し、外装の組成が僅かでも崩れた。
“外装自身”が今を否定し、抗うことが出来る程度に。
――パキリ、と外装に罅が入り、内から手が伸びてきた。
「――――カルラを、返してもらうよ」
「ッ……! させぬ……!」
振り上げられようとした剣を虫たちが押さえつける。
力尽くで振り払われ、放たれた斬撃を、展開した盾で防ぎつつも後退する。
何か特殊な力でも働いているのか、余力がある筈なのに外装は解れていき――しかし、その手を掴んで、引っ張り上げることは出来た。
「っと、わわっ……!」
外装の罅を大きく広げながら飛び出してきたカルラを、後退しつつも抱き留める。
虫たち諸共、外装ははじめから無かったかのように消えていく。
当然、力も発揮できなくなって、カルラの体を支えきれずに、その場に倒れ込んだ。
「ちょっと!? 女の子に対してそれは失礼じゃないですか!?」
「仕方ないでしょ……僕、そこまで力あるわけじゃないもん」
「所詮人間はよわよわ種族……!」
器用に僕をクッションにして衝撃を和らげたようで、カルラは僕の腹に跨りながら文句を言ってくる。
良かった――無事みたいだ。少し蔦はへたっているが。
「……カルラ、重い。下りて」
「このままぶっ潰してやりましょうか」
それは、いつも通りの遠慮のない会話。
ほんの一時、日常に帰ってきたような――カルラを取り戻したことを実感できるやり取りだった。