凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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冥界色のエンゲージリング(20)

 

 

「お帰りなさい、カルラちゃん。怪我はないですか?」

 

 外装がないことを心配してくれたのだろう。

 僕たちとネルガルの間に立ったクイールが問えば、カルラは笑顔で頷いた。

 

「はい。たった今、ユーリに言葉のナイフで刺された心の傷以外は特に」

「あはは……まあ、今のはユーリくんがちょっと悪いかなって思いますけど」

「カルラはこのくらいじゃ傷つかないから大丈夫」

「生きてることを後悔させてやってもいいんですよ、ユーリ」

「どうでもいいが……立った方が良いんじゃないか? 事が解決した訳じゃないだろう」

 

 言葉をぶつけ合う僕たちの傍に歩いてきたイリスティーラが、呆れの表情で見下ろしてくる。

 いつ飛び掛かってくるかも分からない以上警戒を怠る訳にはいかないとばかりに、魔道具の銃口をケルベロスの方に向けたまま。

 

「……ま、それもそうですね。ユーリをわからせるのはまたの機会にしましょう。どうせいつでもできることです」

 

 渋々といった様子で、ようやくカルラが退いてくれた。

 立ち上がって、体に問題がないことを確認する。

 大丈夫、まだ動ける――が、纏っていた外装は既に解除されている。

 先程のように、やってきた虫たちの側から、僕に残っていた術式の残滓にアクセスして外装化してくれる、などという事象はもう起こらない。

 

「それで……一体どういう仕掛けなんだい? キミの奇妙な力を受けた後、因子の適応が出来なくなったのだが」

 

 どうやら、イリスティーラが外装を纏っていないのも、同じ理由らしい。

 ネルガルが放った攻撃により、戦闘の限界が来たわけでないにも関わらず、維持することが出来なくなったのだ。

 問いを受けたネルガルは、広がった罅を修復しながらも、余裕を保ったまま返してくる。

 

「元から“無い”ものであると再定義したまでよ。戦うための鎧など、余が齎す安寧には必要あるまい」

「えっと……それは困ります。僕たち、まだ戦わないといけないので……」

「言ったであろう? じき、その使命も消えてなくなる。そなたたちは勇者の軛から解き放たれ、平穏を生きるのだ」

 

 外装を纏ったまま、ネルガルは玉座へと戻り、腰掛ける。

 カルラが離れてなお、その外装が消失する様子はなかった。

 

「これは最後の舞台。この戦いの果てに、勇者が、そして魔王が意味を持つ世界は変わる。何を果たすまでもなく、元来の当たり前へと立ち返る。悪い話ではなかろうに」

「ううん……」

 

 ネルガルが、結局何をしようとしているのかは、分からないまま。

 けれど、その誘惑はクイールにとっても、頷けるようなものではなかったらしい。

 

「確かに、当たり前の日常って憧れます。ちょっと前にそれを経験して、なおさら得難いものだなって思いました」

「では――」

「でも、やっぱり嫌です」

 

 断固として、クイールはその誘いを拒絶した。

 

「ここまでやってきたんです。最後までやりきらなきゃ損だし、気持ち悪いじゃないですか」

「キミ、賭けには向いていないね。膨らんでいく損を引っ繰り返したくなるタイプだ」

「イリス、うるさいです。そういうことを言ってるんじゃなくて……そう、例えるなら、読んでいた本を途中で没収されてしまうとか、そういう感じです!」

「……ふむ。それは確かに、許し得ぬ行いよな」

「いや、それで納得するのか」

 

 思わず突っ込むイリスティーラ。

 ネルガルは合点がいったとばかりに頷き、顎に手を当て思案し始めた。

 

「うむ。余は、物語を好む。逆境から掴む希望も好し、平穏に続く日常も好し。絶望で終わる物語も、趣向とは異なるがそれもありだ。だが、中途半端に途切れるのは納得がいかぬ」

 

 どうやらクイールの例えは、ネルガルにとっては的を射るものであったようだ。

 物語の途中で、その本を没収されれば――うん、経験はないけれど、あまり良い気分はしないだろう。

 そして、今の僕たちの場合、それは誰かが書いて、読んでいるだけの本ではない。

 僕たちが生きて、歩んだ証だ。誰かの手によって取り上げられるなど、許容できるわけがない。

 

「――余が行おうとしているのは、つまるところそれであると?」

「はい。だから、僕たちの物語を取り上げようっていうのなら、僕たちは全力で抵抗します!」

「……なるほど」

 

 それが、改心に至ることはない。誰か(カルラ)をきっかけにしたにしろ、その意思は固かった。

 けれど同時に、ネルガルの心を動かすものがあった。

 彼女が思案に顔を伏せた――その直後。

 

「ッ――――危な!?」

「きゃあ!?」

 

 ガリガリという音が真下から近付いてきて、カルラの手を取って後退したと同時に、地面をぶち破って何かが飛び出してきた。

 殺気も戦意を感じないものの、この広い領域で僕たちをピンポイントで狙っていたとしか思えない、何者かの襲撃。

 冷や汗が背中を伝い、カルラと共に、飛び出してきたそれを見上げて――思わず、声が零れた。

 

「……え?」

 

 それで地面を貫いたのだろう――強く回転する、先端の尖った武装を装着した右足。背中の鋼の翼で飛行する、白と青で彩られた外装。

 リッカ(ぼくたち)のそれとも、クイールのそれとも、イリスティーラのそれとも違う異質なデザインのそれは、無機質ながらも澄み切った雰囲気を持っていた。

 外装の下の顔は見えない。

 しかし、それが誰なのかは、僕の力がすぐに答えを出した。

 見慣れないその外装を纏っているのは、他でもないナディアであり、そして彼女が抱えているのは――

 

「ユーリ! カルラ!」

「ちょ、大人しく……!」

「リッカ!?」

「ゆ、ユーリ! キャッチ! キャッチです!」

 

 目が合うや否や、外装を纏ったナディアに抱えられていたリッカは、その手の中から飛び降りた。

 それほど高い位置ではなかったので、どうにか受け止め――カルラが支えてくれたことで事なきを得る。

 全部が終わった訳ではないけれど――リッカが無事であったことに、ひどく安堵を覚えた。

 

「危機一髪……まったく、こういうところは相変わらずなんですから、リッカは」

「っ、カルラ……わ、たし……」

「――――久しぶり、ですね。リッカ」

「――――うん」

 

 そうして、“まとも”に顔を合わせるのは、もしかすると旅立ちの日以来なのかもしれない。

 言い淀むリッカに、カルラは心からの親愛を込めて、微笑んだ。

 なんの蟠りも生まれないのは、異常だろう。

 けれど、こうやって何もなかったかのように、当たり前の会話が出来る――僕たちは、そんな“おかしい”関係だった

 

「はぁ……肝が冷えました。いえ、元から冷たいんですけど……」

「ナディア、だよね……? リッカを、ありがとう」

「友を助けただけ。礼には及びませんわ」

 

 傍に降りてきたナディアは、翼と右足の武装を解除しながら言う。

 友人、か……。風の試練の時と同じように、僕がいない間に何やらあったらしい。

 

「ナディアちゃんなんですか……? その恰好……」

「これは、また……大した祝福の込められた外装じゃないか」

「ええ。ヨハンナに、力をいただきました。これでようやく、あなたたちと共に戦えます」

 

 ナディアと、一緒に……。

 少なくともそれは、この()には経験のないことだった。

 リッカの“いつか”の当たり前と、まったく異なる道の先で、僕たちに並ぶような力を手にする。

 ナディアの答えは、自信に満ちていた。それが、ナディアの選択だったのだ。

 

「……ほう。囚われたちも自力で抜け出したか」

「その節はどうも。牢の番は逃げたので、わたくしたちも脱出させていただきました」

「女子がもう一人いた筈だが?」

「もちろん。付いてきていますよ。ほら――あそこに」

 

 ナディアの指した方向。乱立する木々の一本、そのうろから現れた、氷で出来たような獅子。

 スフィンクス――ナルラトが操るそれの背に乗っているのは、リヒトにトーカ――そして、ラフィーナだった。

 

「リヒトくん! トーカちゃん! それから……?」

「ラフィーナよ。こっちでは初めましてね、先代勇者。それから、ユーリ、落とし物拾っといたわ」

 

 翼を広げて獅子から離れ、こちらに飛んでくるラフィーナが、ナルラトとの戦いで落とした鞄を手渡してくる。

 中身を確かめれば――アッシュとヨハンナも、そこにいた。

 

「下で何があったのやら……ともかく、これで全員集合だね。あとは、この舞台とやらをどうにかするだけな訳だが」

「――そうさな」

 

 残るは、この一件を企てたネルガルのみ。

 彼女が納得すれば、すべて終わる。

 だが――そう上手くはいかないことなど分かり切っていた。まだ彼女の戦意は、衰えていない。

 

「ナルラト、アンニャ。ご苦労だった。そなたたちは下りてよい。だが、その前に――ノゥムを癒せ」

「にゃ、にゃあ!」

「御意のままに」

 

 ネルガルの命令を受けて、ナルラトは静かに、アンニャは跳ねて動き出す。

 ノゥムと呼ばれたのは、呼吸の細くなっていたケルベロス。

 その喉元にまで手を伸ばした二人は、ケルベロスに向けて回復魔法を行使し始めた。

 

「全員そろって、これでめでたしとはいかないようだね」

「当然であろう。そなたたちの言い分は理解した。だが、それは余の始めたこの舞台にも言える話よな?」

 

 物語を途中で中断されることに対して、僕たちは抗った。

 ならば、僕たちの妨害をすべて一蹴することはネルガルの権利だ。

 どちらも譲れないものがあるというのなら、あとは意地のぶつけ合い。

 

「余はこの舞台を最後に、そなたたちに救いを齎す。それが、カルラの望みであり、そなたたちの幸福だと判断したゆえに。余の定めた終幕(フィナーレ)に異を唱えるとあらば、一度そなたたちのすべてを奪うも止む無し」

「……お母様。わたしはそんなこと、望んでいない――といっても、無駄なのでしょうね」

「うむ。それでは余を動かせぬ。好きに想いを共有し、好きに解釈し、好きに動く。それゆえにアルラウネにも個性が生まれる。余とそなただけではない――我が子たち皆、出した結論は異なるやもしれぬ」

 

 カルラの望みを、ネルガルは自分なりに解釈した。

 その望みを叶えられる道筋を、ネルガルは知っており、それを慈悲をもって実行するという形で。

 受け取る側の感情は考えない。考慮するに値しない。

 強烈な自我があるからこそ、彼女は冥界の機構を利用してまで、僕たちに手を差し伸べている。

 

「それなら……わたしは、お母様も含めたみんなに、解釈違いを突きつけます」

 

 その手を、カルラは自ら振り払う。

 理想への光明だろうと、関係ない。ネルガルの回答は、百点満点ではないから。

 僕は思わず、笑みを零していた。リッカもまた、変化が乏しいながらも、僅かに口角を上げていた。

 

 ――それでこそカルラだ、と。

 

「わたしの出会い。わたしの日常。それは、お母様から離れて、たった一人になったカルラ(わたし)が得たものです。そこで感じた想い、そこで手にした幸せの本当の価値は、わたしにしか分からない」

「それを理解できるのが、アルラウネであろう?」

「いいえ――いいえ。それは、()()です。誰かが感じたものに感情移入して、批評した結果に過ぎません」

「――――なんと?」

「すべてを捧げたい。すべてを手にしたい。そんな尊い気持ちは、当事者だからこそ持てるもの。これはお母様でも、みんなでもない――わたしだけのクオリアです。他の誰にも、渡しはしません」

 

 カルラのそれぞれの手が、僕の手を、そしてリッカの手を握り込む。

 あたたかいつながりだ。僕たち三人の――何よりも大切なつながりだ。

 それを実感して、なおさらここで止まる訳にはいかないと思えた。この当たり前のあたたかさを、もう一度日常にするために。

 

「そのわたしが思う、二人の結末はここじゃない。もっと先の、さらにその先です。ね? リッカ、ユーリ」

「……ん。ちょっと、話についていけてないけど……止まっていられない」

「そうだね。この先に何が待っているかなんて、知らない。けれど――僕たちが、必死に歩んできた道だ。これから先も続いていくし、その邪魔をするなら、誰だろうと倒して進む」

「……ならば、示してみせよ。そなたたちの苦難の道の方が、余の齎す救いよりも優れていると!」

 

 再び、ネルガルは立ち上がった。

 それに呼応するように、にわかにアルラウネたちが歌い始め――ケルベロスの三つの遠吠えが周囲を震撼させる。

 そんな中でも、恐怖はなかった。

 カルラの手を強く握り込む。リッカもまた同じ。握った手を通して、浮かんだ術式が僕たちを囲う。

 

「これって……」

「二人の力に、わたしが加わったんです。とびっきりの変化が起きるのは当然でしょう?」

「……それもそっか」

 

 大して魔法の知識がない僕でも分かる、見慣れない構成の術式。

 それは、いつものやり方にカルラが加わったことによる、当たり前の変化。

 これもリッカが想定していなかったことではあるが――今のリッカに、その一歩を踏み出すことへの躊躇いはなかった。

 三人をつないで生まれたこの力が、弱い筈がないのだから。

 

「――いこう、ユーリ、カルラ」

「ええ。お母様の決めた行き止まり(デッドエンド)なんてぶっ壊して……」

「うん――僕たちのハッピーエンドを、勝ち取ろう」

 

『トランスコード! アクセプション!』

 

 いち早く襲い掛かってきたケルベロスを、術式が弾き返す。

 反発する二つの銀色が混ざり合い、形成されたのは黒いスーツ。

 普段のそれとは明らかに違う、深くから湧き上がってくる冷たい力が、僕自身の内に灯る熱と繋がり、新たな力を紡いでいく。

 

『エンゲージリンク!』

 

 装甲の代替を成す魔力結晶が体中に展開されていき、その上を緑の蔦が這っていく。

 さらに、左右に現れた、僕と同じくらいの大きさの、結晶で覆われたつぼみのようなユニットへと、蔦が接続された。

 

『U-リッカ――――カルラ!』

 

 勇気の色に、二つの銀色が重なり合う。

 未来を掴まんとする光が、冥界中を眩く照らした。




【ネルガル】
カルラが外で感じたものを受け入れて、己なりに解釈した。
結果として、魔王がその目的の完成に至る前に、根底を覆してしまおうと考える。
言わばこの舞台は、それを行う前の余興。混沌が正される前に、自らもただ一度、主役として立ちたいという――魔族らしい欲望の発露。

【U-リッカ カルラフューリー】
ユーリとリッカ、二人で実行していたU-リッカに、カルラがつながることで成立した新たな姿。
いわゆる劇場版限定フォーム。三人の理想に向かって飛ぶ――かれらの希望の象徴。
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