凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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冥界色のエンゲージリング(22)

 

 

 この領域の、雰囲気が変わった。

 不気味で冷たいものから、どこか、あたたかくて安心できるものに。

 もしかすると、そう感じるのは僕たちだけかもしれない。何故ならば、このあたたかさは、カルラが持っているものだから。

 遠くから聞こえるアルラウネたちのざわめきは、少しずつ静かになっていく。

 はじめは、その変化に驚いて。

 次第に、その変化を受け入れる。

 

「……愚かなことを、と言うべきかのう。カルラや。生き急ぐにはまだ早いぞ」

「いいえ。遅すぎたんです。気付くのも、行動するのも。リッカのように自分から駆けだすことも、ユーリのようにリッカの手を引くことも、わたしには出来なかった――わたしに出来るのは、背中を押すことだけだった。そんなわたしが今、やっと二人と並んで走れたんです」

 

 吹き飛ばされた木々も、次々と再生していく。

 アルラウネたちはそれで満足したようだった。

 各々、木に登っていくマイペースな彼女たちは、もうこちらに興味はないらしい。

 

「そなたの想い、そこまでか」

「そこまで、です。言ったでしょう? 世界さえ引っ繰り返してやるって。ここでお母様の道楽に巻き込まれるなんていう、どうしようもない終わりを取り払えるのは、わたしだけですよね」

「……カルラ。どういうことなの?」

 

 そんな中で、僕とリッカは未だに、カルラの行動を理解し切れないでいた。

 戦いの最中にカルラが僕たちに言ったのは、ネルガルに妨害出来ないように、自分をあの玉座のもとに連れていくということだけ。

 あの玉座につくこと――その意味は、なんとなくだが分かる。

 けれど、確証というか現実感がなかった。ネルガルはそんな僕たちの様子を見て苦笑する。

 

「独断とはのう。まったく、余の手には負えぬわ」

「だって反対されますもん。二人とも意固地ですから、こういう時は我を通すのが一番です」

「――つまるところ。カルラは余からこの冥界を奪い取ったということよ。いま、この領域の権限は、徐々にこやつに移りつつある」

 

 呆れ顔のネルガルの説明に、僕とリッカは瞠目し、思わず顔を見合わせた。

 冥界。すべての生命が、死後に招かれる安寧の領域。

 その権限を――本当にカルラが?

 

「カルラは、元より“これ”を余から受け継ぐ才覚があった。とはいえ、興味もなく、余のもとから去って幾年か。呼び戻すにしても、もう数百年先の話かと――少し前までは思っていたのだが……よもやそなたたちのために躊躇なく玉座を奪うとはのう。カルラ、その玉座に掛かる負荷、今のそなたでは重かろうて」

 

 その行動は、あまりにも一時の選択で行うには大きすぎるものだった。

 だが、カルラには確かな決意があって、そうする理由にも、理解が出来た。

 それが出来る者が、たとえ僕たちであっても、同じようにしただろう。そして……。

 

「……まあ、否定はしません。領域の管理と制御とか、なんですかこのマルチタスク。お母様、こんな状態で戦ってたんですか」

「この程度の領域管理など、百年もやれば慣れるわ。手慰みでシステムも組んでおる、動かしてみよ」

「いや、無理ですって。ちょ、これ並行作業とかどうしろって」

 

 ……うん、いつものカルラだ。

 暴走するだけして、やりきってから大慌てで後悔するカルラだ。

 今回も、ここまで困難なものだとは思っていなかったらしい。僕たちのみならず、ラフィーナまでもが呆れてその様子を見ていた。

 そんな中で、一つ溜息をついて、リッカがカルラに近付いていく。

 

「リッカ……?」

「……カルラ。その権限、貸して」

 

 困惑するカルラの手に重ねるように、リッカが玉座に手を置く。

 ――遠くで、何かが唸りを上げて動き出す音がした。

 ナディアがここに来る際に開けた穴もたちまち塞がっていき、ネルガルが感嘆を零す。

 

「え、なんでリッカの方が手慣れてるんですか」

「コツを掴めば……これくらいなんてことない。カルラ、知ってるでしょ」

「いや、あれとこことは別でしょう。なんでそんなすぐ適応できるんですか、チートですチート」

「チートじゃない」

 

 ……リッカの管理するあの空間。あれを使うことで培った経験ということ、なのだろうか。

 カルラが苦戦している一方で、リッカはどうやらあっさりとその操作に適応してしまったらしい。

 

「あれは……」

「にゃ、にゃあ……!? あ、あり得ないにゃ。いくらバルハラさまの“名残”とはいえ……!」

「なるほどのう。ただ出自から、その香を漂わせていただけではないということか。ふふ……やってくれるわ、バルハラめが。あやつの落とした欠片を自覚しておるのならば――真に果たせるのやもしれぬな」

 

 どこか――憑き物の落ちたような。或いはただの気紛れのような、晴れやかな表情で、ネルガルは玉座に近付く。

 それにリッカが気付いて、一歩下がったのを見て、僕は思わずリッカの前に出ていた。

 既にネルガルには、戯れとして僕たちと戦うつもりもない。

 それでも、親しくない魔族をリッカに近付かせてはならないと。

 

「そう警戒するな。義母(はは)として傷つくではないか。そら、立てカルラ」

「きゃっ!?」

 

 ネルガルはカルラを結晶の蔦で掴んで玉座から立たせ、もう一度そこに座る。

 しかし、再度領域の雰囲気が変化することはない。

 ただ、カルラがリッカの手を借りてやろうとしていたことを実行しているだけのようだ。

 

「もはやそなたたちの道を阻みはせぬ。しかし、であればそなたたちにはもう一つ、この冥界で果たさねばならぬ試練がある」

「試練だって……?」

「うむ。勇者ユーリ、そして勇者クイール。そなたたちは勇者として、四つの試練を終えた。残るは魔王を討つのみ――だが、それだけでは不十分だ」

 

 そう言って、ネルガルは指を鳴らすと、彼女の頭上に何かの映像が浮かび上がった。

 それは――柱。

 どこに置かれていても違和感があるだろう、無機質な柱は、地味なものでありながら僕たちに既視感を覚えさせる。

 

「あの柱は……!」

 

 そうだ、初めて見るわけではない。

 あれの前で、大きな真実を知らされた。あれの前で、一つの戦いを乗り越えた。

 最初に見たのは、魔王に遭遇した時。そして、風の試練においてはバラルバラーズを長命たらしめていた仕掛けとして、僕たちを苦しめた。

 依然何なのかは分からないが、魔王に通ずるものであることは確かなあの柱が……僕たちの試練?

 

「これは、魔王に“もしも”があった時、機構の破綻を防ぎ異変を修復するためのバックアップ。たとえそなたたちの前に立ちはだかる魔王を討ったとて、これが残る限り、そなたたちの望まぬあやつの目的は果たされよう」

「バック、アップ……ですか……? 僕たちはムルゼ霊山でそれを壊しました。あとはユーリくんたちが、ホロゥで見たんですよね? それを壊せば……?」

「二つ――か。上々ではあるが。この楔は、四天王に準え四つ存在する。ホロゥはバルハラを封ずるためのもの。ムルゼは嵐を監視するためのもの。残るは二つ」

 

 ムルゼにあった柱は、戦いの中でクイールとイリスティーラによって破壊された。

 バラルバラーズを倒すための手段であったが、あれはそれ以上に重要な一手であったようだ。

 そして、ホロゥにあった柱もまた、壊さなければならないもの。

 もう一度あそこに向かう必要がある――あの時とは違う。今度こそ、魔王に惑わされることはない。

 

「一つは、毒血のヴァンパイア共に送られていたものの、あやつらの同族間の抗争の中で持ち出され、紛失して久しい……とは言うが、知った上で放置している輩も多かろうよ。今は亡きネシュアを望む、そう、何といったか……ナイトラクサとかいう街に置かれておる」

「ナイトラクサに――」

「っ……」

 

 それは、二度と赴くことなどないだろうと思っていた場所だった。

 僕たちにとって、苦い思い出しかない、眠らない夜の街。

 あの場所は、僕たちが使命を果たす上で、避けては通れない場所だったのだ。

 

「地上に戻ることが出来たならば、それらにある楔を壊すが良い。一筋縄ではいかぬだろうが――それを果たすことで、そなたたちが真に魔王を打ち破ることも叶おうさ」

「……“戻ることが出来たならば”っていうことは、つまり、最後の一つは……」

「うむ。この領域にある。かつて余が貸与してやった領域の深層に安置されておるのよ。ゆえに、そなたたちはここを出る前にもう一つ、戦いを乗り越えねばならぬ。あの楔には、魔王の一端とも言うべき、“記録”の破片が埋め込まれておるのでな」

 

 ……彼女が敗北を考えた上で、僕たちを招いたということはない。

 けれど、どのみちこの場所には、僕たちは来なければならなかったということか。

 ネルガルはそれを隠すつもりはない。既に彼女は、僕たちを支援するつもりの――優しい目をしていた。

 

「勇者を前にすれば、あれはたちまち起動しよう。そのまま放置しておけば、地上まで這い上がり何もかもを塗り替える災厄ともなり得る。そなたたちが出会ったものとは違う、一つの魔王のかたちと、そなたたちは相対する」

「……今から魔王と戦うってことですよね。本物かどうかはともかくとして」

「真実、魔王ではある。だが、そなたたちがいずれ最後の地で出会うそれとは別物だろうよ」

 

 クイールと頷き合う。

 一度地上に戻って、それからまたやってくるというのも難しいだろう。

 冥界とは、そう簡単に訪れられるものでもない。今回は向こうから招いてくれたからこそ、ネルガルや、スフィンクスたちも協力的だった。

 だが、自らやってきたというのなら話は別になる筈だ。

 彼女たちと再度敵対したくない以上、ここでその“魔王”を討ち、楔を壊すしかない。

 であれば、ここからは僕たちの事情だ。一般人である二人を巻き込む訳にもいかないかと、スフィンクスたちに向き直る。

 

「……リヒトとトーカを、外に――出来れば、聖都に送ってくれないかな」

「……ふむ」

「ナルラト、アンニャ。わたしからも、お願いします」

 

 カルラが僕に並んで、頭を下げる。

 ――これから先、どうするにせよ、この領域は今カルラの手にある。

 スフィンクスたちは何より理解しているのだろう。二人揃って溜息をついた。

 

「……お嬢様。あまり頭は下げないように。主たるもの、品格が求められます」

「にゃあ……姉貴、あたしが行くにゃ。戻ってきて早々悪いけど、この領域は任せるにゃあ」

 

 そして、頭を掻きつつ、アンニャが名乗りを上げた。

 

「アンニャ――そうですか。好きになさい。ただし、嫌気が差したと戻ってくることがないように」

「にゃ。どんな仕事が待ってても、“仕事がない”よりマシにゃあ。姉貴も働き過ぎで倒れないようににゃ」

 

 アンニャは二人が乗る獅子の頭に飛び乗る。

 彼女ならば……少し不安だが、問題なく二人を聖都まで送ってくれるだろう。

 

「リヒト、トーカ」

「ああ――よく分かんねえけど、あんたらにとって必要なことがまだ残ってるんだよな。なら、俺らは大人しくしとくよ」

「みんな、ちゃんと勝って、戻ってきてよ!」

 

 三人を乗せて、獅子は去っていく。

 有力な手掛かりを見つけたのだ。当然、こんなところで負けるつもりなんてない。

 

「さて。当初の目的とは変わったが、この舞台を締め括る大一番よ。見届けさせてもらうぞ、勇者たち」

 

 もう待っていられないとばかりに、ネルガルが指を鳴らす。

 彼女の言う“救い”は諦められた。しかし、舞台を楽しもうという気概は、何も変わっていないらしい。

 僕たちが言葉を返す暇すらなく、視界が切り替わった。

 

 ――広く、どこまでも灰色が続くものさびしい空間。

 その中心に屹立している柱は、僕たちを認識するや否や、内側から開くようにばらけていく。

 

「ちょ……早速!? っていうか私また()()()()で巻き込まれてるんですけど!?」

「まったく、魔族というのはこれだから……カルラ、ひとまず私の力を返してくれ。今のキミなら多分、出来るだろう」

「え、あ、はい――!」

 

 僕とリッカとカルラ、クイールにイリスティーラ、そしてラフィーナとナディア。

 揃ってこの場に転移させられたようで、変じていく楔を見て、カルラは慌ただしくこの場でも出来るらしい権限の操作を行っている。

 やがてイリスティーラの手元に光が灯り、彼女はそれを握り込んでから、いつもの魔道具を取り出す。

 

「やれやれ。キミらに付いていくとなると、こうでもしないとね」

『I-スティーラー、ショー・タイム』

 

 黒衣の外装を身に纏ったイリスティーラは、既に聖剣を構えるクイールに並ぶ。

 それにナディアも並ぼうとして――突如、彼女が纏っていた外装が消失した。

 

「へ……?」

『進言。ナディア、魔力が切れた。十分な継戦能力を確保していたつもりだったが無念の極み。撤退を推奨する』

「どうしろと?」

 

 鞄の中から、突然のヨハンナのカミングアウト。いや、ただでさえ今回初めてそれを使用し、恐らく連戦の状態となっていた以上、仕方ないことではあるのだが。

 今この場に、唖然とする彼女の疑問に答えを出せる者はいなかった。

 誰もが答えに窮している間に、楔の内から鋭い敵意が零れ出す。

 伸びてきた黒く巨大な鉤爪を、咄嗟にクイールとイリスティーラが受け止めた。

 

「っ、とりあえず、ナディアちゃんを守りながら……!」

「そんな余裕があればいいけどね……!」

「――とにかく、僕たちもやろう。リッカ、カルラ――!」

 

 カルラも一緒にここに来たのなら、先程の新しい外装が使える筈。

 ナディアもラフィーナも、今の状態で無理に巻き込む訳にも行くまい。

 これを倒せば、冥界での戦いは終わる。出せる全力で挑むべきだ。

 

「……」

「……カルラ?」

 

 しかし、カルラは答えず、口元に指を添えて考え込んでいた。

 そうしている内にも、楔から零れ出た黒い靄が、悍ましい姿を形成する。

 細長い腕を、蛇のような体のあちこちから伸ばし、体の先端で血走った単眼が開く。

 靄を滲ませる、骨と皮の怪物。これまでに見たどんな魔族とも違う異形は、掠れ切った絶叫を辺りに響かせる。

 

『 ――――――――――――――――ッ! 』

 

 理性のようなものは見られない。ホロゥで姿を見ていなければ、その邪悪な姿が魔王の印象として固まっていたことだろう。

 僕たちの背丈の十倍は優に超える巨体は楔に縫い付けられており自由ではない。

 しかし、腕を伸ばし、爪を振るえばどこまででも届いてしまう気がした。

 

「カルラ!」

「……いける」

「え?」

「いけた! いけました! この領域の余剰魔力リソースにアクセス……こっちに回せます!」

「は?」

 

 ずっと俯いているカルラが何をやっているかと思えば、そんなことを。

 リッカ共々呆れ返った直後、背後からやってきた魔力の奔流を、カルラが制御して僕たちの周囲に漂わせる。

 

「……カルラ。別に魔力はそんなに不足してないけど」

「けれど、これでもっと自由に出来るってことです! あんなにグロいのでも、魔王様だっていうのなら――出し惜しみなし、やれることを全部やっちゃいましょう!」

 

 リッカも意図が分からないようで指摘するが、カルラの笑みは変わらない。

 カルラが続けて何かを操作する。

 すると、僕の内から何かが分かれて――否、広がった気がした。

 それでようやく、リッカが何かを掴む。

 

「……また、カルラは勝手に……」

「だって――こんなこと、今しか出来ないじゃないですか」

 

 広がった何かが、リッカの、カルラの――そして、ラフィーナの、ナディアの手元に集束する。

 それを愛おしそうに握り込み、カルラは僕たちに向き直った。

 

()()()()()で、あの魔王様を倒すんです。こんな、本来あり得ないメンバーが集まった、夢のようなパーティで」

「……カルラ、あんた」

 

 ラフィーナと共に、リッカに一歩遅れてカルラの望みに気付く。

 ――僕たちは経験していない。ただ、知って、感じているというだけの、リッカの“いつか”。

 三人で旅を始めて、ラフィーナと出会い、ナディアを救って。

 どうにもならない躓きで瓦解する前の、夢のような旅路。

 

 最早、リッカだって鮮明には覚えていない。けれど、そんな旅があったことを、忘れ切ってはいない。

 それを僕が知って、カルラが知って、ラフィーナが知った。

 ナディアは知る由もないが……リッカとの間には、既に信頼がある。彼女が僕たちと戦うことを選んでくれたのならば――その“夢”をもう一度実現できない理由なんて、どこにもない。

 

「ユーリ、リッカ。ラフィーナ、ナディア。それだけじゃない――クイールに、イリスティーラも。みんなで一緒に、戦いましょう。たった一度っきりの大盤振る舞いで、クライマックスを飾ってやりましょう!」

「ちょ――待ちなさい、あんたまさか……!」

「――わたくし、あなたとは先程出会ったばかりなのですが……まあ、いいでしょう。リッカたちの幼馴染だというのなら、わたくしは信じます。わたくしに、戦う力をくれるのでしょう?」

「ナディア!? あんたなんでそんな早く順応できるわけ!?」

 

 ナディアが、カルラと同じように手元の力を握り込む。

 ラフィーナのそれは、有無を言わさず彼女の内に入り込んだ。

 

「……もう。()()()()()だと思ってたのに。本当、カルラには振り回される」

「リッカもたいがいだと思うけど……」

「ユーリには言われたくない」

「ユーリには言われたくないです」

 

 軽口を叩きつつも、リッカもそれを手に取った。

 ようやく済んだかと、クイールとイリスティーラが爪を弾き返し、構え直す。

 リッカ、カルラ、ラフィーナ、ナディア――四人が僕に並んで立つ。……ラフィーナだけは、ナディアに手を引かれ思わずといった様子で。

 魔王の絶叫が体を震わせる。しかし、少しの恐怖も湧いてこなかった。

 

「お喋りは終わったみたいだね。さあ、さっさと片付けるよ」

「はい! この七人なら――負ける気がしません!」

「いや、待って。私はいいから。剣でいいから!」

「いつでも行けますわ。お願いします!」

「始めましょう! ユーリ、リッカ!」

「……ん」

「よし――やろう。みんなで、一緒に!」

 

 リッカが魔法を起動する。いつもとは違い、術式は飛び散って、所狭しと舞い踊る。

 

『トランスコード! アクセプション!』
 
『トランスコード! アクセプション!』
『トランスコード! アクセプション!』
『トランスコード! アクセプション!』』
『トランスコード! アクセプション!』

 

「――――変身」

 

 短く小さな、リッカの呟き。

 それが引き金となって、術式はそれぞれの元へと集まっていく。

 全員にこの場で戦うための力を与える、絆の外装として。

 

『ユニゾンリンク! U-リッカ!』

 

 炎熱が、僕の内から湧き上がる。

 それは、リッカと歩むことを選んだ僕が掴み取った、勇気の外装。

 

『メビウスリンク! U-リッカ!』

 

 黒衣のリッカが、拡張された僕の鞄に仕舞い込んでいた杖を手元に呼び出す。

 それは、リッカが新たなる一歩として己に纏うことを選んだ、時の外装。

 

『エンゲージリンク! U-リッカ――――カルラ!』

 

 結晶に覆われた外装を着込んだカルラが、二つのユニットを起動させる。

 それは、僕たち三人の希望に向かって飛ぶための、冥界の外装。

 

『フィーチャリンク! U-リッカ――――セプテニファ!』

 

 きらめく粒子を纏い、他者を侵す盾を左腕に装備したラフィーナ。

 それは、こことは違うどこかの、リッカの支援者から力を受け取った、夢の外装。

 

『フィーチャリンク! U-リッカ――――フィルミナイ!』

 

 右腕に大型の射出装置を装着したナディアが、何故か手慣れた様子で全身の変換工場を起動させる。

 それは、クイールの悪夢さえ覚ましたリッカの支援者の力を宿した、毒の外装。

 

「わあ……!」

「何とまあ、確かに大盤振る舞いだね」

 

 確かにこんなこと、二度とはあるまい。だが、だからこそ、目の前の災厄に一歩も劣るとは思わない。

 絶対の自信を持って、魔王に向かい合う。そんな中で――

 

「――――ああもうっ!」

 

 立て続けに起きた理不尽を総括するように、ラフィーナが叫んだ。




【魔王ゼット(冥界)】
魔王の存在を確立させるためのバックアップたる楔から出力される、魔王の一つの解釈のかたち。
勇者の接近によって起動するようになっており、一度起動すれば時間の経過と共に悪意を増大させ、やがて世界を覆うほどの災厄となる。
蛇の如く細長い骨と皮だけの体に、大きな単眼が忙しなく動く頭部、鉤爪の伸びた何本もの腕という異形。
望まれたる絶望を無慈悲に叶える舞台装置。

【カルラ】
森の領域たる冥界の新たなる主。『カルラフューリー』担当。
魔王との戦いを前に、母が有事のために溜めていた魔力リソースを勝手に解放した。
冥界編最後の好き勝手、並列フォーム一斉変身である。

【ユーリ】
『ユーリフューリー』担当。地味にこの冥界編で初めての『ユーリフューリー』。
リッカとカルラの突拍子もない暴走は、二年ほど前までは日常茶飯事だった。
取り戻せないいつかとまったく同じではないものの、それが少しだけ戻ってきたようで実は楽しい。

【リッカ】
『リッカフューリー』担当。
もう二度と使うことはないと思っていた外装をカルラに引き摺り出された。「変身」は言う。
こんな感じの展開、なんか昔見た気がする。映画みたい。

【ラフィーナ】
『セプテニファフューリー』担当。自分が変身することは想像していなかった。
巻き込まれて無茶振りされるのが板についてきたサキュバス。「ああもう!」が口癖になりつつある。
どこぞの支援者は後々これを知って草生やしてると思う。彼女としてはラフィーナのことは嫌いではない。
「この外装飛べないんだけど!? 翼も尻尾も動かなくて気持ち悪いんだけど!?」

【ナディア】
『フィルミナイフューリー』担当。
吹っ切れて新たな生き方を定めた結果、適応力が爆上がりしてこの程度のことでは驚かなくなった。
どこぞの支援者は後々これを知って「まあ、あの姫ならすぐに使いこなせるだろ」と納得すると思う。
「薬液の調合と注入……なるほど、理解しました」

【ネルガル】
「ゆうしゃー! むすめー! がんばえー!」
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