凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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共犯のポールスター(1)

 

 

 ――カルラとの一時の別れの翌日。

 

 僕とリッカはイリスティーラの屋敷の庭を借りていた。

 新たな目的地こそ知ることが出来たが、聖都を発つのはもう少し先になる。

 というのも、どうやら僕たちが冥界にいる間に、この屋敷で何かがあったらしい。

 

 僕たちがここに戻ってきた時、この庭には戦闘の跡があり、屋敷の壁は何かが叩きつけられたように罅が入っていた。

 無事であったホープから話を聞いてみれば、この場所に“骨の魔族”がやってきたという。

 ホープはとにかく逃げていたようだが、そこにどこからともなくやってきた『Ⅳ』なる人物が助けてくれたとか。

 骨の魔族というホープの言に、冥界で遭遇したオドマオズマの戦闘形態の可能性がある、リッカやナディアはすぐに思い至った。

 それからすぐにイリスティーラはリーテリヴィアに確認を取ったが、オドマオズマの仕業であるという確証は取れたものの、『Ⅳ』の正体については不明のままだった。

 『Ⅳ』曰く、この屋敷の防備をもっと固めた方が良いとのことで――誰とも知れない他人に指摘されるのは癪だが、事実突破されたのだから仕方ないと、イリスティーラは現在、ナディアと共に防衛魔法の構築に取り組んでいる。

 そんなわけで、聖都での滞在は少しだけ延びた。

 僕たちだけでナイトラクサやホロゥへ行くという選択肢はない。

 ここまで来たのだ――協力してくれる者たちと共に、可能な限りの備えをしていこうというのは、共通の認識だった。

 

「えっと、僕はとりあえず、こっちに立っていればいいんですよね?」

「ん……それで、こっちの攻撃を対処してくれればいい」

「了解ですっ」

 

 そうして出来た時間で、僕たちはクイールに頼み事をしていた。

 外装を纏い、いつでも大丈夫とばかりに合図をするクイール。

 対して、僕たちは特に外装を纏うということもない。

 とはいえ、そのままクイールを手合わせをするかといえば、そうでもなく。

 

「始めるよ、ユーリ」

「うん、いつでも」

 

 新しい外装――正確に言うと、その機能の一部を切り出した、テストのようなもの。

 数日前にリッカと話した、“最強”の外装。

 僕とリッカで色々と意見を出し合い、そこからリッカはインスピレーションを得られたらしい。

 試験的に構築した魔法であり、外装のように形にはならないものの、想定した性能は発揮できる筈とのことだが……。

 リッカが軽く杖を振るうと、その体に術式が浮かび上がり、魔力へと分散していく。

 そして、それがいつも通り、僕の方へと集まってきて――

 

「くっ……!?」

 

 瞬間、体中が強張り、あちこちに重りを付けられたかのように自由が利かなくなる。

 初めて纏う外装だって、こんなことはなかった。

 目に見える変化は、体の表面を這うように、金色や銀色の粒子が跳ね回っていることくらい。

 外装を纏った状態にも劣らない力が湧き上がってくる一方で、指一本動かすことすら難しい重圧。

 そんな中で、目の前に出現した魔剣を、渾身の力で掴み取る。

 

「ッ……!」

 

 外装を纏わなければ、振り回すどころか持ち上げることさえ難しい魔剣は、片手で持ちあがった。

 自由の利かない体に鞭打って魔剣を両手で持ち、どうにか振り抜く。

 

「うわ――っと……!?」

 

 魔力を伴う斬撃は、振り抜いた勢い以上の威力を発揮し、クイールを弾き飛ばす。

 追撃をするつもりはないが――そもそも不可能でもあった。

 動くことが出来たのはそこまでだった。体は余計に重くなり、耐えられないと思った直後、リッカの魔力の内から弾き出される。

 すぐに元の姿に戻ったリッカが、慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「ユーリ、大丈夫……?」

「大丈夫……っ、けど、あのままだと流石に……」

「ん……実戦で使うのは厳しい。調整が必要、だけど……」

 

 リッカは険しい顔で考え込む。

 確かに、発揮される力はかなりのものだった。生身の状態で、外装を纏ったクイールを弾き飛ばせるほどだ。

 しかし満足に体を動かせなければ意味がない。外装を纏った状態であれば負担も軽減されるのかと思ったが――リッカの表情を見る限り、そうでもないようだ。

 

「……威力、どのくらいに感じた?」

 

 外装を解除しつつこちらに歩んできたクイールに、リッカが問いかける。

 

「えっと……」

「正直に教えてほしい。そのために見てもらった」

「それなら……実戦だったら、そんなに怖くはないかなって思います。外装ありなら多分、結構耐えられちゃいますし、動きに慣れて対処できるようになる方が早いかと」

「そう――まだまだ、出力が足りないか」

「リッカちゃん。仮想敵が僕になってません?」

 

 クイールの指摘は無視しつつ、リッカは手元に出力した術式を弄り始める。

 ……仮想敵をクイールと定めているかはともかくとして、少なくとも対抗はしていると思う。

 聖剣から出力されるクイールの外装は、リッカが構築したものとはコンセプトが異なる。

 状況に応じた変化ではなく、どんな相手にも対応できる高性能――恐らく、そういうものを用意することは、リッカをもってしても難しいのだろう。

 

 僕には難しい魔法の構築は出来ず、試行錯誤するリッカを助けられない。

 それならそれで、出来ることはある――日常の援けで負担を減らしたり、基礎体力を付けたり。

 旅の中で、村にいた頃とは比べ物にならないほど、力はついている。

 だが、魔族と戦うには全然足りない。根本的に体のつくりが違う相手がいるような場所で生き延びられるほど強くない。

 それを目標にしようとは思わないけれど、結局のところ、そこがクイールと僕の差なのだと思う。

 

「リッカちゃんが今作っているのって、どんな外装なんですか?」

「……秘密」

「えー」

 

 術式の構築を覗き込むクイールに短く返しつつも、リッカは手を止めない。

 その様子に、少しだけかつてのリッカらしさを感じた。

 秘密主義……というよりも、考え付いたことを隠しておいて、後で僕たちを驚かせる――或いは、呆れさせる。

 カルラの一件で、当たり前の三人だった頃に、少しの間でも戻れたからだろうか。

 

「まあ……魔王だって倒せる。そのくらいのものには、したいと思ってる」

「――試練は全部終わりましたもんね。僕も、二人に負けないくらい、強くならないと」

 

 きっともうすぐ、旅は終わる。そのためにも、出来る準備はしておきたい。

 まずは……外装に頼らなくても、魔剣を振るえるようにはなりたいものだが。

 

 

 

「――――魔王の討伐。勇者の目標は、遂にそこに至ったか。実に喜ばしい。始まりから千年、ようやく勇者は生贄の名ではなくなったと」

 

 

 

 ――気配を感じられたのは、その声が聞こえてからだった。

 魔剣を構える――ことは出来ないが、リッカの手を引き、すぐにでも外装を纏えるように。

 クイールもいつでも飛び出せるよう構えつつ、声のした方に目を向けて。

 

 僕たちの拠点として使っているゼクセリオンの翼に腰掛ける、その存在を見た。

 

「二人の勇者、魔族との共闘……まさか、そんな時代が来るとは。もしも、私の時代でそのようなイレギュラーがあれば……クク、未練だな。妄執に満ち亡霊となってなお、生は私を誘惑する」

「……誰……?」

 

 魔族、ではない。人間だが、耳が尖っている辺り、純粋なそれでもないらしい。

 人とエルフのハーフというのは、この聖都においてはそう珍しくもないと聞く。

 圧倒的ともいえる寿命の違いから、推奨はされないらしいが、同じ街で生きる以上それも聖都における“当たり前”のかたちの一つなのだろう。

 とはいえ、僕たちにそういう知り合いはいない。

 上品に、しかし傲慢にこちらを見下ろす、長身の女性を、僕たちは知らなかった。

 

「生前であれば聖都の誰しもが知る存在であった私も、今や歴史に葬られた。名乗ったところで何の意味もあるまいさ」

「……それだと……あなたを不審者としか見れないんですけど」

「まあ、不審者だろう。かといって、私が何者であるか、明かしたところで容易には信じられまい。何故なら私は妄執。聖都にこびり付いた汚物に過ぎないのだから」

 

 態度はそのままに自虐を口にしつつ、黄色い瞳が細められる。

 敵意はない。感じるのは興味と――それから、歓喜。

 ネルガルのように、超常的なそれではない。妙な存在感ではあるものの、あくまでも人間の、等身大の感情。

 しかし、それだけではない何かを感じた。

 ああしてこちらに意識を向けていながらも、僕たちに向けられてはいない、なんらかの感情がなければ不自然なほど、か細い興味と、か細い歓喜だった。

 

「だがそう警戒されても、私はお前たちを害することなど不可能だ。私は何でもかんでもを人並みにこなせるだけの人間でしかなかった。そしてそれ以上に、お前たちと敵対する理由がない」

「敵意がないのは分かる。けど、キミが何者か分からないから、それを信じることも出来ないよ」

「クク、もう少し“謎の人物”として対話に興じたかったが、仕方ない。こういう機会は貴重でな。まあ良い、私は――」

 

 勿体ぶって、ようやく名乗ろうとした、その時。

 飛んできた魔力弾が女性の額に突き刺さり、女性は吹き飛ばされゼクセリオンの翼から転げ落ちた。

 聞き間違いでなければ直撃と同時に、ふべ、という情けない声が零れた気がする。

 

「……まったく。一体これはどういうことだい?」

 

 魔道具の銃口を落ちた女性に真っ直ぐに向けながら、屋敷から歩いてくるイリスティーラ。

 その表情は不可解そうで――他にも色々な感情が混じった、複雑なものだった。

 

「亡者共が大挙して押し寄せてきたと思ったら、今度は亡霊が化けて出てくると来た。最近の聖都はどうなってる?」

「イリス、知り合いなんですか……?」

「誠に遺憾ながらね。まあ、キミたちに話すようなことでもなかったんだが……」

 

 ……あまり好意的には見ていないのだろうか。

 いや、その割には、イリスティーラの拒絶の意思は小さい。

 どちらかといえば、“彼女にはこのくらいの対応で良い”と思っているかのような……。

 

「――イリス。イリスなのか?」

「私を認識しないでもらえると嬉しいんだがね。生憎、私は既に成人して久しい。キミの好みからは外れているだろうから」

「もしかしてイリス、私をペドフィリアか何かだと勘違いしていないか? 私があなたを恋慕していたのは容姿からではないぞ」

「恋……? イリス、を……? え、イリスをっ!?」

 

 目を丸くするクイールの反応に、イリスティーラの表情は余計に苦くなる。

 立ち上がった女性は心外とばかりに肩を竦めた。

 ――やはり、背が高い。百七十は超えるだろう。

 黒と白が不規則に入り乱れる長髪という、外見の雰囲気を歪にする特徴がありつつも、隙なく立つ姿には気品が見られた。

 

「言いたいことがあるならはっきり言いたまえよ、クイール」

「い、いや……だって、イリスって……」

「やっぱり言うな。どうせ碌でもないことだろう」

「イリス?」

 

 クイールを黙らせるイリスティーラ。

 しかし、あの女性の言葉を否定はしていなかった。

 

「なに、イリスから語らせるようなものでもない。ただ、遠き日の私がイリスに懸想していたというだけの話だ。いや、遠き日というのは間違いか。私は今もあなたを想っている。“それだけ”の存在になれなかったことが、口惜しいほどに」

「それが未練で化けて出たんじゃないだろうね。……いや、その方がマシか。どうせ違うのだろう?」

「そうであったのならば、どれほどドラマティックであったことか。知っているだろう? イリス、私が末期にどれほど狂っていたか。今だってそうだ。我が身に受けた理不尽を思えば、狂わずにはいられない」

 

 クク、と喉を鳴らすような笑みを零しながら、女性は僕たちに向き直る。

 

「イリスに遮られたが、改めて名乗っておこう。我が名はポラリス。家名は……必要ないか。私の代でさえ、名乗るのは稀だったのだしな」

 

 しかし、感情はやはりどこか遠くへと向けられたまま。

 空虚だとは感じない。

 僕たち以外に向いたままの、一つの感情が――あまりにも巨大なものだということは、確信できた。

 

「遥か昔に、勇者として選ばれ、その運命に絶望し――憎悪に狂い果てたはずの、イリスの言う通り、亡霊さ」

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