凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
――いつか、リッカが復讐の方向性を定めた時。
はじめに手に入れたのは、自分と同じく、運命に怒り、憎悪を抱いた存在を基にした使い魔だった。
それに変じた勇者の名など知らない。その勇者が、どんな人生を歩み、どんな経緯で絶望したのかも分からない。
ただ、リッカは自分の希望を幾度となく打ち砕いた触手の塊に、単なる憎悪とは異なるなにかを抱いた。
触れた者を侵す澱みを必要としていたというのは、確かにある。
それ以上にリッカが第一歩として選んだ理由は――。
「――勇気が欲しかったのだろう? 正しいと思わぬ道へと踏み出すのは困難だ。勇者でないものであれば、猶のこと」
「……知った口を利かないで」
「禁忌に一歩踏み出す恐怖は知っている。その感情は、私にもあった。さぞ、はじまりには躊躇いがあっただろう。そして、その先に今がある」
頬を上気させ、興奮した様子でポラリスは口を動かし続ける。
ギリ、と腕を掴む手に力が入り、それを拒もうとするも、ポラリスは笑みを更に深めるだけで離すことはない。
「私であったものを使い、勇者の道を、そして復讐の道を歩み出した。私は常に、お前たちと共にあった。これを共犯と言わず、何と――」
「ッ、さっきから……っ!」
『メビウスリンク! U-リッカッ!』
「リッカ……くっ!?」
掴んでいた手が引き剥がされ、次の瞬間ポラリスが部屋の壁まで吹き飛ばされた。
本棚に乱雑に積み上げられていた本がバラバラと落ちてくるが、リッカが放つ魔力に押しのけられ、そこら中にばら撒かれる。
黒い外装に身を包んだリッカは、目にも止まらない速さでポラリスに迫り、その首に杖を突き付けていた。
「さっきから……なんなの……っ、私をどうしたいの!?」
「クク……! 言っているだろう? お前はその炎をより強く、暗く燃やすべきだ。私と同じように、純粋に、理不尽を憎むべきだ。そういう道を歩んでほしいのだよ」
少し突き出されれば首を貫きかねない杖を恐れることもなく、今度はリッカに手を伸ばそうとするポラリス。
興奮を隠さず、さらにリッカを唆そうとする彼女に対して――銃口を突きつけながら、イリスティーラが口を挟む。
「いい加減にしたまえよ、ポラリス。キミの自己満足でリッカくんの調子を崩されては困るんだ」
「何を言う、イリス。憎悪とは毒だ。溜め込めば溜め込むほど内を侵すが、より強く燃やせば己が力となる。彼女は、そうあるべきだ」
「それは建前に過ぎない。キミは押し付けたいだけだろう。キミが果たせなかった復讐を」
ああ――ポラリスが求めていたのは、そういうことか。
リッカが抱く復讐心に、一方的に共感し、その魔族に対する憎悪に便乗しようと。
そのために、リッカに自分の色を注ごうとしていたのだ。
自分の分まで、より強く、より深く、憎悪しろと――。
「――ああ、そうさ。そうだとも」
それを、ポラリスは否定せず、あっさりと認めた。
そして自身の首に突き立てられた杖を掴み、なおもその狂気的な瞳をリッカに向ける。
「お前が抱く復讐心、その根源を聞かせろとは求めぬ。復讐に貴賤などなく、平等に甘いもの。それを知るからこそ、私はお前のその炎を貴く思う」
「……それで。どうしろって?」
「言わずとも察しているのではないか? お前の瞳には、私と同じものがあった。まあ、いい――口にせよというのなら、そうしよう。頭を下げろというのなら、従うも吝かではない」
杖を振るって手を払いのけ、ポラリスを拒絶するようにリッカが一歩下がる。
飛び掛かってくるならばいつでも対処できるよう、外装を維持したままのリッカを見上げ、再びポラリスは歯を見せて笑う。
「私を薪と燃やせ。お前が復讐を果たすその時に向け、灰の一粒まで使い潰せ」
言い放ったのは、そんな、リッカの手段を知っていれば誰もしないだろう提案。
もちろん、今日出会ったばかりのポラリスが、その手段を知る筈もない。
だが――どれほど悍ましい手段であろうとも構わないと、ただ自分を使えという、理解し難い狂気がそこにあった。
「……何を言っているのか、分かっているの?」
「知らん。その上で、皆まで言う必要もない。復讐など必然、二択に絞られる。殺すか、尊厳を失墜させるか」
「……」
「クク――後者だろう? お前の憎悪には、殺意がない。魔族どもを壊すことに固執する歪んだ悪意。刹那の絶頂よりも、永い陶酔にお前は価値を見出したわけだ」
思わずといった様子で、リッカが杖を下ろす。
立ち上がったポラリスの手がリッカに伸びかけて、動かざるを得なかった。
『ユニゾンリンク! U-リッカッ!』
「まったく……二人とも、落ち着きたまえよ。一応私の家なんだが」
リッカの前に立ち、ポラリスと真っ向から向かい合う。
その瞳の奥にあるものを、理解できるとは思えなかった。彼女に向けて、僕は踏み出すつもりはない。
けれど、リッカに望まないことを迫るというのならば、僕はこれ以上、ポラリスを近付かせはしない。
「やっぱり、駄目だ。キミがリッカに望んでいることを、リッカ自身が望んでいない」
「言っているだろうに。好ましいことばかり拾っていては、お前たちの理想へは届かない」
「逆にキミを受け入れてどうなるの。キミがリッカに協力した結果、僕たちはハッピーエンドに近付けるの?」
「ハッピーエンド……?」
僕の言葉に、ポラリスは不意を打たれたように目を瞬かせる。
何もおかしなことは言っていない。それが、僕たちの目指す先だ。
「僕はリッカの気持ちを――やりたいことを受け入れている。けれど、キミの介入によって、目指す場所から遠のくっていうのなら、僕はキミを許さない」
「――――クク……ハッ、ハハハッ!」
ポラリスはやがて、耐えられないとばかりに頭を押さえ大笑しはじめた。
「ハハハハハハハハ! 復讐の先に幸福を求めるか! 暗き炎で身を焦がし、焼き尽くすのではなく! すべてを終えてなお、完全であることを望むのか!」
「うん――もうリッカは、捨て身にはならない。……だよね、リッカ」
「……ん。あなたのように、それを果たして終わりにするつもりはない」
「――強欲だな、お前たちは。復讐者が勇者と組めば、そうなるのか。本来、その道は交わらぬもの。怨念の先には何もない。だからこそ、如何なる判断をも下せるというのに」
「はじめはそうだった。でも、今は違う。ユーリが、私を受け入れてくれたから……こんな世界でも、生きていこうって思えた」
それは、半ば……いや、ほぼ僕が押し付けた目標だ。
復讐の先で、リッカに満足させはしない。その先も、共に歩み続ける。
だからこそ僕は、リッカを否定しないのだ。復讐の終わりとハッピーエンドに同時に至り、そこからの平穏のために。
「私の復讐は、ただのそれじゃない。すべてを使い尽して終わる気はないし、何よりも一番大切なことってわけでもない」
「そのような生温い気概で、果たせるとでも?」
「これを生温いと思われるなら、それこそ心外。今更、半端な覚悟で決意なんて出来ない。復讐は、前に――理想に向けて進むためにある」
だから――と、そこで言葉を一度切って。
リッカが、僅かに顔を向けてくる。
顔を覆う無機質な仮面。その奥の瞳がどんな意思を持ったものなのか、理解できた。
……リッカがそれを選ぶというのなら。それが、自暴自棄の結論ではないというのなら、僕は受け入れるまでだ。
「私はむしろ、あなたに問う」
「――――」
「それでもなお、私の復讐に加担する? 私の共犯だって、言い張れる?」
これまでとは逆に、リッカが突きつけた選択肢。
それは、ポラリスがリッカにしていたのと同じように、強要に等しいものだった。
何故ならば、ポラリスがそれを断る筈がないと――他ならないリッカが確信していたから。
「――クク……前を向き、希望を見て、復讐を糧に歩む。その行く末の薪となるのも一興か。どうせ私にとっての希望を定義するのならば、お前ひとりなのだから」
百パーセント、望んだ選択ではない。
しかし、それさえどこか楽しげに受け止めて、ポラリスはイリスティーラのもとまで歩いていく。
「騒がせたな、イリス。そろそろお暇させてもらおう」
「……私は半分も理解出来ていないが――化けて出てきた目的は果たせたのかい?」
「八割程度は、といったところか。彼女が完全な復讐鬼になってくれるのならば、これ以上は無かったのだが……それを願えば、我が後輩の逆鱗に触れる。なれば、ここで妥協するほかないだろう」
「キミのその無神経さは、生涯治らなかったようだね。そら、さっさと行きたまえ。ここは幽霊屋敷じゃないよ」
「私の時代からそう言われていただろうに。……クク、偶然か必然か、会えて嬉しかったよ、イリス。またいずれ」
それまでとは違う微笑み――彼女が正しく、人であった頃の名残を浮かべてから、ポラリスは部屋を出ていく。
リッカと共に外装を解いて、次の瞬間、部屋の外でざわりと魔力が波打った。
「リッカ――」
「……大丈夫。
リッカは、ポラリスを受け入れた。
今頃彼女はリッカの管理する空間にいるのだろう。昨日その空間を去った、カルラと入れ替わるように。
……バルハラに、ポラリスに。
リッカが受け入れている者の中には、完全には信じられない者がいる。
どちらもリッカの進むべき道に賛同しているようだが――警戒をしないで良いものだろうか。
……いや、リッカの選択を、僕が疑っていてはいけない。
リッカならば大丈夫だと、僕が誰よりも信じなければ。
「えっと……結局、何も理解出来なかったんですけど、あの人はリッカちゃんに何をさせたかったんですか?」
「……別に。大した話じゃない。ただ……あの人も、勇者として、成し遂げたいことがあった。それだけ」
「んー……リッカちゃんもユーリくんも納得しているなら、それでいいんですが……」
クイールの疑念、心配はもっともだ。
彼女たちからすれば、ポラリスがやってきた目的も、リッカと何を交わしたのかも分からないだろう。
だが、それを説明することは出来ない。
長い時間をかけて、リッカはクイールたちを信頼することが出来た。
信頼するからこそ、ここから先も手を組むことが必要だと確信しているからこそ――それは、話すことの出来ないものとなってしまったのだ。
「……リッカ。何か不安や懸念があるのなら、話してくださいな」
「……平気。自分で、背負えること、だから」
ナディアからの心配を、リッカは躊躇いがちに拒否する。
もしも、彼女たちにリッカが隠している秘密が知られれば、協力関係はたちまち瓦解してしまうかもしれない。
そうなれば、魔王を倒す目標はまた、夢の向こうへ遠のいてしまう。
今のリッカにとって、それは耐えられるものではない。
「……気にしなくていいさ。聖都にいれば、今みたいな不可思議な出来事の一つや二つ起きることもある」
「起きないと思いますけど……」
「そうかい? まあ、リッカくんの“秘密”には毎度驚かされているんだ。疑念もその内、サプライズに変わる筈さ。聞くのは野暮というものだよ」
「いやまあ、それはそうですが……」
――多分、イリスティーラは、少なからず察している部分もある。
けれど彼女は、それを口にはしない。きっと、クイールたちにとって有用ではないと確信しているから。
或いは、このまま秘密であり続けることが、彼女たちも含めたハッピーエンドへの、唯一の道だと考えているから。
【ポラリス】
数百年前に選ばれた勇者。
エルフの血が混じっている人間は現在の聖都でもそれなりにいる。
身体的特徴に変化が表れる可能性は低いが、彼女の場合は尖った耳という特徴を受け継いでいた。
当時聖都で名を上げていた商会の代表で著名な人物だったが、勇者として選ばれ、水の試練に大敗したことからその栄光が陰ることになる。
水の試練から逃亡し、持ち前の才能に助けられ土と火を突破したが、聖都に戻ってきて再度挑んだ水の試練で心を折られる。
栄光は取り戻せず、使命の完遂も見えない状況における絶望は、魔族や勇者の使命への憎悪に変転し、聖都の真ん中で巨大ローパーと化した。
ローパーは多くの被害を出した末に、四天王リーテリヴィアにより倒し切れないと判断され、一冊の本に封じられた。
本編における水の試練でリッカに利用され、今度こそ完全に倒されたが、亡霊にすらなり得ない残滓がユーリたちの前に姿を現した。
+
彼女にとってリッカは自分と同じ憎悪を抱き、そしてその復讐を実現できる存在である。
そして、それ以上に、深奥から自分との共通点がある存在である。
ならばこの残滓如きどうなっても構わない。共犯たる彼女に全て捧げて見せよう。
そんな気概から、彼女はリッカの復讐の園へと身を投じた。
【リッカ】
割とドン引きしてる。
けれど、自分にとって都合の良い存在であることは確か。
人間である以上、苗床にするつもりはないものの、やってほしいことはある。
――望み通り、復讐の片棒、担がせてあげる。
【ユーリ】
りっかりか過激派。
【イリスティーラ】
現れた亡霊にも満たない女性は、彼女にとって昔の知人である。
既に聖都の何もかもが気に入らない時代。そんな中で、偶然関わった。絡まれたともいう。
人間如きの懸想に、興味は湧かなかった。うつつを抜かす暇さえなかった。
【クイール】
気になるけどユーリくんがいいならそれでいいか……くらいの気持ち。
【ナディア】
リッカを放ってはおけないと思っている。今回のことも、果たして追求しなくて良いものだろうか。