凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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先輩として

「おやすみ、ママ」

「はい。おやすみ、ホープ」

 

 ホープを寝かせて、起こさないように部屋を出る。

 本当は一緒に寝てあげたかったけれど、ぐっと我慢。またしばらく、ホープには留守番をお願いするのだし、ここで負けてしまっては寂しさが倍になってしまう。

 イリスはどうしているだろうと、部屋の扉を音を立てず少しだけ開けて確認。

 ……うん、眠っているようだ。よかったよかった。

 起きていたら流石に怒っていた。結構な日数、碌に眠りもしないで術式を構築していたのだ。今日くらいはよく眠ってもらわないと。

 

 まだ、そんなに遅い時間ではない。日が変わるまで、そこそこ時間がある。

 明日を迎える前に、少し体を動かしたかった。

 鈍っているつもりはないけれど、万全の方が良いに決まっているから。

 

 ――その前に一度、台所に行く。

 うん……イリスが買い溜めしたレトルトはたくさんある。

 僕と一緒に勉強して、少し料理が出来るようになったホープではあるけれど、まだ一人で料理をさせるのは難しい。

 ……いや、実際のところ僕よりよほど上手くはあるのだけど。

 あたたかさと美味しさに溢れるユーリくんやリッカちゃんの料理には遠く及ばない。こちらはまだまだ、修行が必要みたいだ。

 

 まあ、僕は実戦担当だから。戦いにおいて頼れる先輩であればいいから。

 そう自分に言い聞かせ、微妙にコンプレックスとなりつつある料理スキルから目を背ける。

 ちょっとした創意工夫や思い付きをやめろと、二人には何度も言われているけれど、どうしてもそちらの方が良いのではないかという気持ちと抑えきれない好奇心が湧いてくるのだ。

 アレンジ万歳、チャレンジ万歳。きっといつか実を結ぶ。

 そんな考えをリッカちゃんに「馬鹿じゃないの」と一蹴されたのは記憶に新しい。

 その時にユーリくんは何か言いたげにリッカちゃんを見ていたりしたが。

 

 ……ともかく。ともかく。

 僕たちが留守にしている間の、ホープのご飯は大丈夫そうだ。

 ひとまず安心して、台所を離れ外に出る。

 夜の風が程よく涼しくて気持ちいい。暑くもなく、寒くもなく、このまま横になって眠ってしまえるくらいの良い気候だ。

 外装を纏っている間はそこまで気にならないけれど、あまり極端な気温だったり湿度だったりは、やはり気が滅入る。

 僕たちは人間だ。生きていられる環境にも限度がある。使命の終わりに近付いてきたのがこの時期で良かったと、なんとなく思った。

 

 他愛のない思考を振り払い、聖剣を構える。

 特に仮想の敵は置いたりしない。昨日の自分を超えられるように、より動きを洗練させる気持ちで振るう。

 昨日の自分は、これくらいの速度で振れていた。ならば、それよりもほんの少しだけ速く。それでいて、鋭さは失われないように、或いはもっと鋭くできるように。

 鍛錬というのはその繰り返し。少なくとも、僕はそういうものだと認識している。

 剣なんて、まともに学んだわけじゃない。初めて持った時から最低限振れていて、それを自分なりに、使いやすいと思う方向に磨いていただけ。

 これが、はじめからリーテさんとかに教えてもらっていたのであれば、今の僕の戦い方も違っていたかもしれない。

 今ではこんな我流を、僕自身が気に入っている。剣を正しく極めた人からすれば、ひどく不格好に見えるかもしれないが、僕はそれで生き残ってきた。

 

「ふっ……それっ……!」

 

 無心で剣を振るえれば最善なのだけど、こうしていると案外色々なことが思い浮かぶ。

 その中でも一番考えるのは――僕は勇者として、正しく在れているかどうか。

 僕はユーリくんの先輩だ。ユーリくんもそれを認めてくれているし、世界を変える勇者として強くあり続けなければならない。

 そう、そこ――ユーリくんの先輩。その肩書に相応しい力を、僕は持ち続ける必要がある。

 魔王を倒すに足る力をつける。それは必須課題として、後はもう、僕の意地だ。

 

 リッカちゃんはここ暫く、“最強の外装”を作るために試行錯誤を繰り返している。

 ユーリくんに力を与えているのはリッカちゃんだ。二人三脚で、百代目勇者は強くなってきた。

 ムルゼ霊山、風の試練で使われた、黒い魔女のような外装。つい数日前、カルラちゃんと力を合わせることで成立したという、神速の外装。

 あれらだって、満足しようと思えば満足できる、とんでもない外装だ。

 けれど、リッカちゃんはそれに甘んじることなくもっと強い外装を構築しようと努力し、ユーリくんも各機能の試験に全霊で臨んでいる。

 

 この数日、出力の試験に付き合っているが、外装として形にしていないにも関わらず、驚くほどの力を発揮できている。

 僕の見立てでは、それ単体ではまだ魔族と戦えるほどの力は出せていない。

 だが、それは外装という形でユーリくんの体を保護していないためだ。

 それで出力の全容が把握できているのかは知らないけれど、リッカちゃんの組む魔法は、ユーリくんの力を外装を纏った僕に匹敵するほどにまで高められている。

 どんなコンセプトの外装を作ろうとしているか、リッカちゃんは話してくれない。

 けれど、完成すればさぞ僕たちを驚かすだろうと確信できる。

 

「……ふぅ……」

 

 完成すれば――か。

 その時になったら、ユーリくんたちはさらに強くなる。そうなったとき、僕はかれらの先輩だと、胸を張って言えるだろうか。

 なんとなく、ここ暫く胸の片隅にある、ちょっとした疑問だった。

 ただでさえ今の世界にとって、僕はイレギュラー。過去の勇者がリタイアすることなく試練を再開させて、今の勇者と一緒に魔王を目指している。

 このまま魔王を討つことが出来れば、僕は日常を得られる。それは、ユーリくんたちに任せて引退なんてしてやるものかと僕を奮い立たせるに十分な動機だ。

 

 けれど――とはいえ。

 

 今の僕は、この先もユーリくんたちと共に駆けて行けるに足る存在か。

 あの二人の“最強”が完成した時、僕はそれに付いていくことが出来るだろうか。

 そもそも、それがどんな性能なのかも分からないのに、そんなことを考える。

 今のユーリくんたちが使う赤い外装は、何よりユーリくんに適した外装みたいだが、外装そのものの性能は聖剣の外装と同等くらいらしい。

 その上で、対抗心かどうかは分からないけれど……リッカちゃんの負けず嫌いがこちらに向けられているのは、分かっていた。

 だからこそ、リッカちゃんが目指す“最強”は、僕が至った“究極”を上回らんとしているのだと思う。

 

 ――それが実現したとして、立つ瀬があるかな、という気持ち。

 こんなこと、考える必要はないなんて分かっている。ユーリくんはそうは思い至らないだろうし、リッカちゃんも――少なくとも僕たちを戦力として頼りにはしてくれている。

 だからこれは、僕が無駄に思考しているだけのもやもやだ。

 もっと強くなりたい。ユーリくんたちが今に満足せず“最強”を目指すように、僕もまた、もっと上へと到達したい。

 

「……」

 

 もやもやに惹かれるように、聖剣の柄に手を当てる。

 自分の内の輝きに手を伸ばし、その深奥にある可能性に触れる。

 負荷なく使える、“万全”の力。

 それを先鋭化させた、“最大”の力。

 僕の勇気の果てにある、“究極”の力。

 

 僕は僕の至れる最果てにまで辿り着いている。そんなこと知っている。

 けれど、ユーリくんたちが先へ先へと進んでいるのだ。僕だって、“究極”に甘んじたくないじゃないか。

 リッカちゃんがそうであるように、僕だってそれなりの負けず嫌いだ。

 最果ての、更にその先へ一歩踏み出せば、きっと何かが見えてくる。

 僕の可能性にもきっと――“究極”の先が――

 

「――――っと……そんな簡単に踏み出せたら、最初っから悩んだりしないですよね」

 

 旅の中で培った直感が背筋を急激に冷やし、思わず柄から手を離す。

 ……呑まれてしまうところだった。ブレダリオンがそんな危ない誘惑をしてくることなんてないから、これは僕が調子に乗り過ぎただけだ。

 あと一歩踏み出すこと、その勇気くらいは、僕にもある。

 けれど、それだけでは駄目な気がした。今の僕では、限界を超えることは出来ない。

 

 それなら、どうすれば?

 果たして限界を超える手段なんて存在するのか。その限界とは、超えられる代物なのか。

 頭がごちゃごちゃしてきた……整理するために、また剣を振り始める。

 僕は何をするにしても、感覚派だ。魔法の知識だって大してない。

 今ある力だって、聖剣によって得たものだ。僕自身が外装に改良を加えられればベストなのだけど、それは残念ながら叶わない。

 

「ふっ……ん? んん……?」

 

 外装に手を加える……か。もしかすると、出来ないこともないのかもしれない。

 聖剣が力を用意してくれるのではなく、僕の方から聖剣にアプローチするという形。

 他にも、イリスやリッカちゃんの助力で聖剣を解析してもらう……ううん、これは出来れば、避けたいところ。

 だって、それだと僕がブレダリオンを信じていないみたいに思えるから。

 

 一人きりだった頃から、僕をずっと支えてくれたのがこの聖剣だ。

 イリスはこれを胡散臭く思っていたみたいだけど、聖剣が真摯に僕を助けようとしてくれているのは、担い手となった僕が誰よりも知っている。

 僕の可能性を引き出し、勇者として相応しい力をくれるこの聖剣を、僕が信じなくてどうするのか。

 僕にまだ、この先があるというのなら、それを引き出せていないのは僕のせいだ。

 何かが足りない。僕の内に――或いは、外にそれがあるのかもしれないけれど、どちらにせよ見えていないのは確か。

 ならば、剣を振っていれば見出せるだろうか、とまた素振りを繰り返す。

 

 ――この聖剣がなんなのか、と時々考える。

 魔族が言うには、魔王が用意したもの。では、なんのために?

 あまりにも不甲斐ない勇者に対し、救済として用意したものだとすれば、あんなところに置かれている説明がつかない。

 ブレダリオンは自身の由来を教えてはくれない。ただ、僕の力として在り続けてくれるだけだ。

 裏切りなんて兆しはない。逆に、ユーリくんの力になってほしいと頼んだ後は、少しの間だが癇癪がひどかった。

 ……まあいいか。いずれ、また魔王に会ったら聞けばいい。それが“きっかけ”に繋がるかもしれないし。

 

「よし……いい汗かいた。お風呂入って、僕も寝よっと」

 

 剣を振りながら、ぐだぐだと思考するのは気持ちがいい。

 旅の中で培った趣味の一つだと言えるそれに区切りを付けて、夜風を感じつつ屋敷へと戻る。

 

 ……明日、また聖都を出る。

 今度の目標は、魔王の力の一端である、楔の破壊。

 ナイトラクサと、それからホロゥとかいう土地にある楔を壊すことで、真に魔王を討つことが可能となるらしい。

 多分――僕の使命の終着点までの最後の試練。そう考えると、気も引き締まるというもの。

 ホープを一人留守番させるのは不安だけれど、ホープ自身は心配しないでと自信ありげに言ってくれた。

 ならば、僕もそれを信じて、僕に出来ることを全力でやるまでだ。

 ナイトラクサもホロゥも、なんのその。

 ユーリくんと、リッカちゃん。イリスにナディア。一人旅だったことが信じられないくらいに、心強い仲間がいる。

 負ける気がしないとはこのことではないか。




ちょっと寄り道しましたが次回からようやくナイトラクサに突撃します。
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