凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
荒地に佇む黒く大きな箱にある程度近付いてから、僕たちはゼクセリオンから下りた。
本来の予定では、すぐ傍まで飛行する予定であったが――この変更は、その箱の周囲の雰囲気がどうも知らないものであったからだ。
「……こんなんでしたっけ?」
「いや……絶対違う。あんな家なかった」
その黒い箱は、ナイトラクサ。
日光を遮断する特殊な結界により、常に夜を維持している巨大な街だ。
かつて僕たちは、この街を訪れて、思い出したくもないほどの苦い経験を味わった。
それでももう一度やってきたのはこの街に、魔王を完全に倒すために避けては通れない楔が存在するから。
イリスティーラの屋敷の防備が完全になり、聖都を発って三日後。
再訪したその黒い箱の周囲に、仮設だろう簡素な住居が幾つか出来ているのを見て、僕たちは目を疑った。
明らかに、様子が変わっている。
あそこはあの街の入り口の筈だ。そこに、集落と言える程度の住居が立ち並んでいる意味が分からない。
あの街に住みたいならば、中に入ればいい。
ナイトラクサは、その支配者曰く、運命を賭して生きる街。生きることを許されたのなら、魔族に理不尽に殺されるようなこともない筈だ。
だが結界の外はなんの加護もない。いつ魔族に襲われてもおかしくない荒地なのだ。
「……とりあえず、近付いてみようか。魔族も当たり前にいる街なんだろう? 私が先頭で行く。用心はしておきたまえ」
様子が変わっていたとしても、入らない選択肢はない。
ゼクセリオンを仕舞って、イリスティーラを先頭に、ナイトラクサへと近付いていく。
「……っ」
僕たちの接近を察知したのか、住居の一つから何者かが顔を出す。
大きく後ろに巻いた山羊のような角は、彼女を魔族と証明して余りある。
こちらを見るや否や、にんまりと笑った魔族は、住居を飛び出してこちらに飛んできた。
赤黒い肌に、灰のような髪。中心が赤く輝く、黒い瞳。
背丈は僕たちとそうは変わらないが、人間とは異なる特徴だらけのその魔族。
コウモリのように皮膜のある翼と、先端が口のように開くその尾は、紛れもなくサキュバスのものだった。
「あは……凄い。勇者くんだぁ。え、試練終わったんでしょ? なんでまたこんな街に?」
――その感情が、突き刺さるように向けられて、吐き気のようなものがこみ上げてきた。
これまで出会ったサキュバスとは一線を画す、不快な感覚。
戦って勝ち目があるかとか、そういうことを考える時に感じる危険とはまったく違う。
その寒気の正体、魔族が向けてくるモノがなんなのかは、すぐに分かった。
「うふふ、言わなくても分かってる、分かってる。勇者といえど人間だもの。欲には抗えない。危険を顧みずここにやってくるのも当然の話だよね」
「ネシュアにこれ以上近付かなければそんな危ない地帯じゃないですけどね、この辺り」
「あら、あなたは先代勇者――それに、エルフにアンデッドも。あっはは! すっごく面白い勇者だったみたいね、キミ」
クイールの返しを受けて、何がおかしいのか、魔族はふわりと浮き上がりながら笑う。
その友好的な様子に、気を許すことは出来ない。その態度が、僕たちを手にかけるつもりがないことの証左にはならないから。
「どうせ今回もハズレだと思ってたのに、まさかここまでやるなんて。見た目、そんな風には見えないのにね? ねえ、本当にキミって強いの? どうやって試練を四つも終わらせたの?」
「……」
「怖がらなくていいよ。ほら、力抜いて。私に全部任せたまま、話してくれれば――っと!?」
黒い翼が広げられ、こちらに近付きながら手を伸ばしてくる。
その瞳は明らかに“獲物”に向けられたものだった。
明確に人間を弱い存在だと見なす魔族。何を話していても、その言葉の内容に意味はない。彼女の意識が、そもそも自分の発した言葉に向いていない。
じっとりと、胸を締め付けてくるような寒気は、言うまでもなく情欲の類だ。
それを受け入れる訳にもいかないと魔剣を取り出し、リッカと共に外装の準備を整えれば、魔族は大仰に後退った。
「ありゃりゃ、そんなに殺気立っちゃって。というか、何その剣……? その狂気……アリスアドラ様……? それに、この三下感漂う匂いって――」
『だぁれが三下よ、万年噛ませ犬』
「んなぁ!?」
鼻をひくつかせながら怪訝そうに首を傾げる魔族に、魔剣からラフィーナが吐き捨てる。
確かに同じサキュバスのようだが……知り合いなのだろうか。
「その声、ラフィーナ!? え、なに、どこ!? どこにいるの!」
『目と耳まで可哀想になったのかしら。目の前にいるじゃないの」
「……勇者くん?」
『頭が残念なのは変わらないどころか悪化しているようね』
呆れた様子のラフィーナ。
きょろきょろと辺りを見回していた魔族の視線が再び魔剣に向き――何を思ったか、今度は腹を抱えて大笑し始めた。
……なんだろう、とても忙しいというか、あっという間に危険そうな雰囲気が霧散してしまった気がする。
「あっはははははっ! さすがラフィーナ! 滑稽! 滑稽だわ! サキュバスのクセに剣に傾倒したあまり剣になるなんて! 勇者くんの武器に成り下がるとか、私たちを笑い殺したいの!?」
『そうね。それでくたばってくれればどんなに楽か。頑丈なサキュバスを仕留める画期的手段になるわね』
ひぃひぃと苦しそうに呼吸しながら、魔族は目尻に浮いた涙を拭う。
魔族がラフィーナを、まるで玩具のように馬鹿にしている一方、ラフィーナは不快げだ。
「……ラフィーナ、知り合い?」
『同じ頃にサキュバスに仕え始めた……同期というかなんというか、よ。とにかく反りの合わなかった相手。ま、私の周りは全部そんなんだったけど』
「ふ、ふふ……ひぃ……ラフィーナの場合は、あなたが悪いだけじゃないの。何に対しても、真面目すぎるから」
『それが理由でイルミナ様に見初められて、アリスアドラ様に初戦試験官を任命されたんだけどね』
「そしてその結果が勇者くんの武器堕ち――あっはははは! やっぱ無理! 本当に笑い死ぬ!」
本当にそのまま死んでしまわないか心配になるほど、魔族の息は次第に細くなっていく。
もしかするとそれがラフィーナの狙いなのかもしれない。
あわよくばこのまま倒してしまえないかと。
『相っ変わらず腹立つわね……私の身の上話とかどうでもいいでしょ。んで、あんたは一体どうしてここにいるのよ? ネピィ』
ラフィーナが急かしても、暫くの間――ネピィと呼ばれたサキュバスは呼吸を整えていた。
ようやく笑いが収まったようで、何事もなかったかのように、数分前までの危険な雰囲気を復活させ、魔剣に向けて挑発的に微笑む。
「どうしても何も、お仕事だけど? ほら、少し前に始まった事業の――あっ、ラフィーナもういなかったんだっけ! あっはは! それじゃあ知りようもないね!」
『前置きが長いわ。なんであんたがナイトラクサにいるのかって聞いてんのよ』
「情緒がないなぁ。やっぱラフィーナはラフィーナかぁ」
『こちとら暇じゃないの。能天気なあんたと違って“真面目”で、忙しいの。私も、それからユーリ――勇者たちもね』
「真面目な割に絆されてんじゃん……ま、ラフィーナはいいや。勇者くんたちには、知らないなら話しておかないとね。ね、勇者くん、この街は初めて?」
「いや……前にも来たことがあるけど。土の試練の前に……」
「そう。それなら、この街が変わる前ってことだね」
街が変わる……?
良い思い出のないこの街が、僕たちが去った後にどうなったのか。それを気にしている余裕はない状況だった。
この街を支配していたヴァンパイアを倒し、それっきり。ネピィが言うには、そこから何かがあったらしい。
「ナイトラクサ――人も魔族も差別なく、運命を奪い合って生きる弱肉強食の街。運命を持つ者にはすべてが与えられ、運命なき者は存在さえ許されない。明日を奪い合うおバカな民が快楽に溺れる街……少し前までは、そんな街だったんだよねえ、ここ」
「今は……違うってこと?」
「その通り! 噂を聞きつけて来たとかじゃなかったんだ。それなら、キミは幸運な勇者くんだよ! 何せここには男の子の――ううん、人間の夢が詰まってる! ――あ、ちょっと待ってて」
一度ネピィは仮設された住居の中へと入っていく。
残された僕たちは、どうしたものかと顔を見合わせた。
「……一体、何があったんだろう」
「前の時は……結構あれでしたけど。ここを支配していた二人の魔族のうち、一人は残ってるんですよね?」
「……そのはず」
最後は殆ど覚えていないけれど、リッカはもう一人を見逃していた。
てっきり、彼女が支配するまま変わっていないものだと思っていたが……。
そう、過去を思い出している内に、ネピィが戻ってくる。何やら冊子と、片手にいっぱいの首飾りを持ってきた。
「さあ、まずはみんなにこれをプレゼント。あ、前にここで横行していた、趣味の悪い魔法みたいなのは掛かってないから安心してね」
ここで受け取るようなものに警戒を抱かないなど不可能なのだが、彼女は前にこの街の誰もが持っていたそれを知っていたようで、笑い飛ばすように否定した。
「それはこの街の入場証にして、この街を楽しむための許可証でもあるの。ここに来た者には分け隔てなく、平等に、それを配るようになっているんだよ――あっ、でもラフィーナにはいらないか。だって剣だし! 剣だし!」
『……』
けらけらと笑い、ラフィーナを煽りつつも、ネピィは“入場証”にして“許可証”だという首飾りを僕たち一人ひとりに押し付けていく。
リッカは見知らぬ魔族に近付こうとはせず――僕が代わりにそれを受け取る。
「……確かに、魔法は掛かってはいないみたいだね」
「さすがはお偉い聖都のエルフ、疑り深いね。なんにもないってば。なんなら持ってるだけでいいよ。困るのは自分たちだもん」
「……何に困るというのです?」
「そりゃあ、欲望の捌け口と勘違いされても知らないよってことだけど? サキュバスじゃないキミたちにとっては、それはすっごくイヤな話でしょ?」
「――――」
それは、かつてこの街で価値ある者であることを示す証を持たない者と、まったく同じ扱い。
結局この街は変わっていないじゃないかと言いかけて、違和感に気付く。
前のナイトラクサであれば――証を持たないことは、その者が完全に無価値であることを意味する。
何をする権利もない。抵抗すら許されず、価値ある誰かに食い荒らされるしかない存在。
しかし――今回のそれは、意味が微妙に違うようだった。“欲望の捌け口”として、その存在を――価値を認められているかのような。
「……ねえ。この街は、結局今はどういう街なの?」
改めて、聞き直す。
ネピィは笑みを深めた。興味を持ったとでも思われたのか――待ってましたとばかりの笑みだった。
「今のナイトラクサはね――欲望の街。運命を競うまでもなく、すべてが叶う願いのるつぼ」
誰もの欲望が叶い、誰もが幸せに溺れる、誰もにとっての
望むことすべてを夢が実現させる。一つのそれに溶けるもよし、他の望みに手を伸ばすもよし。
代償などない。手放し難い空想を限りなく現実に近付けて、そこに甘く沈むだけ――。
「それが『狂障』のネリネ様が送る超体感型サキュバス・テーマパーク、ナイトラクサ! あはは、これ以上は説明するより見て、触れて、経験してもらった方がいいよね。さ、入って入って!」
この街に来た目的がある以上、入らない訳にはいかない。
しかし、概要を聞くだけで寒気がするほど、碌でもない街となっていることは明らかだった。
【予告】
「弱者としての人間が根強く関わっている種族。そのために“使われる”人間ってのが、この世界にはいるの」
「え、人間くん、キミそういう趣味? いや、あんまり否定したくはないけど……」
「誰もかれも幸福そうだね……気持ち悪いほどに」
「この日を――この日をずっと、待っていたッ!」
「勇者の最期ってのはいつだって、かわいそうなほど呆気ないんだよねぇ」
『永遠にビー・ウィズ・U/シアワセに満ちた街』