凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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永遠にビー・ウィズ・U/シアワセに満ちた街(1)

 

 

 ナイトラクサに一歩踏み入って抱いた感想は、最初に訪れた時と殆ど変わらなかったと思う。

 眩しい。そして、やかましい。

 縦に長い建物が並び、それぞれに灯った光が過度に自己主張する。

 けれど――そこを行き交う人々の雰囲気を見て、なにか違和感を持った。

 

 この街の人々は、覚えている限りでは大半が顔を青褪めさせ、足取りもおぼつかない者が多かった筈だ。

 隣り合う人でも貧富の差が激しく、当たり前のように浮浪者がいる。

 自意識過剰からか、或いは追い込まれた脅迫感からか、身の丈に合わない賭けに挑み敗北した者。

 小さな負けが徐々に積み重なり、取り戻せないほどに膨らんでしまった者。

 そんな、この街においては奴隷にも等しい敗者たちの姿は――どこにも見えなかった。

 

「今日はどうする?」

「アネットちゃんの店だろ。あそこ以外考えられねえっての」

「好きだよなぁ。メシは旨いけどさ、もっとこう、ボリュームが――」

「それが良いんだろうが!」

 

 気が高揚しているとすぐに分かる大きな声で言い合いながら、目の前を横切っていく二人の男性。

 その顔に、現状に絶望や焦りを抱いているような様子は見られなかった。

 寧ろ、持っているのは多幸感。今に不満など一切なく、そしてこの先に待ち受けているものが楽しみで仕方ないという、およそ理想的な状態。

 ――偏見ではある。けれど、この街でそんな幸せな人がいるものだろうかと、疑問に思うほどだった。

 

「……彼らの目、見たかい?」

「熱にでも浮かされているようでしたね……ネシュアの民が由来の街と聞きましたが、ここまで悪趣味とは」

 

 他の人も注視してみれば――確かに、その目は揺れていて、どこを捉えているか判然としない。

 その状態でも足取りは確かで、迷いがない。だからこそ、より異様に感じられる。

 

「前のこの街も嫌な感じでしたけど……今はなんというか、不気味ですね。鳥肌が立つっていうか、見ているだけでこっちまで酔ってきちゃいそうな」

「うん……リッカ、辺りに変な魔法とか掛かっていないか、分かる?」

「……魔法の類は、何もない、と思う。けど……細心の注意を払っておいた方がいい。何が起きるか、分からないから」

 

 眉を顰めながら周囲を見渡して、リッカが言う。

 魔法の影響ではない……ひとまずの安心と共に新たな不安を抱く。

 であれば、この街を行き交う人々の様子は、未知の力が働いている可能性もあるのだ。

 たとえば――サキュバスによる、魅了の類とか。

 

「……ラフィーナ。ネリネってどんなサキュバスなの?」

 

 どこに危険が潜んでいるか分からないとはいえ、大勢人がいる場で魔剣を出しっ放しにしておく訳にもいかない。

 アッシュを取り出して聞いてみれば、ラフィーナは少しの間悩む素振りを見せた。

 

『……はっきり言って、あまり知らないわ。ネリネ様とは会ったことないし……碌でもない噂を聞くばかりだったわね』

 

 このナイトラクサをここまで変えた首謀者と思しき、冊子に書かれていた名前。

 それが、ジルのように名のあるサキュバスであるのは明らかだ。

 しかし、ラフィーナは詳しく知らないらしい。悪評を思い出す口ぶりは、躊躇いがちだった。

 

「噂?」

『仕入れた人間を使って実験に明け暮れていたとか、アリスアドラ様にさえ理解できない与太話を提唱していたとか。あんたたちの価値観じゃどうか知らないけど、私たち(サキュバス)にとって、アリスアドラ様が理解できない概念って排斥されがちなのよ。それだけ、アリスアドラ様が偉大だってことなんだけど』

「いや、今もっと気になる情報があったんですけど」

 

 しれっと流された、指摘せざるを得ない情報に、クイールが思わず突っ込む。

 人間を使った実験……真偽は確かではないにしろ、それは眉を顰めざるを得ない所業だ。

 だが、それよりも前。正確には、その人間の出自について。

 

「“仕入れた人間”ってなんだい? いや、あまり深堀りしたくないが」

『……? ――あぁ、そっか。そりゃそうだわ。ってかなんであんたまで知らないのよ。そりゃ、聖都じゃそんな人間いないでしょうけど』

「さも常識みたく言わないでくれないか。それは多分サキュバスの価値観だぞ」

『別に違うと思うけど……まあ、とはいえ流せる話でもなかったわね。……分かるでしょ? サキュバス、ヴァンパイア、森のエルフもそうね――自分たちの性質や風習に、弱者としての人間が根強く関わっている種族。そのために“使われる”人間ってのが、この世界にはいるの』

 

 ……そうか。考えてみれば、当たり前だ。

 人間を“獲物”とする魔族は多い。それらがすべて、村や町から出た者たちだけを襲っているなどということはない。

 初めから魔族に使われるために用意された人間――当然、存在するに決まっている。

 ラフィーナだってサキュバスだ。元々は、人間なんて下に見る存在でしかなかった。

 かつてのラフィーナは、その常識を当たり前に受け入れていたのだろう。

 

「……わたくしの時代にも、少なからずそういった話はありましたわ。聞こえは悪いですが……いわゆる、人間牧場の類は」

『ええ。そんな、強力な種族が人間たちを過剰に襲わないための抑止力でもあるわ。オルト・ノーマ、スノーマギ、フェダルナ、メリーリデル、リーインローグ……私でも知っている、パッと出てくるのはこの辺かしら』

「牧、場……」

 

 ただ、獲物となるべき人間を育てるための居住区。

 必要なものなのだろう。それがなければ、魔族による予期されていない被害は一層増えることになる。

 フェダルナ――ホロゥの傍にあった村だ。ホロゥの鍵を開くという目的以外がなくとも、そもそも人々に碌な自由は許されていなかったのか。

 

『……ともかく。そういうところから仕入れた人間をどう使うかは、大体種族で決まっているけれど。ネリネ様はそうじゃないって噂。何人も仕入れて、何人も“ダメ”にしてるって』

「それが本当なら、そのサキュバスが主体になっているらしいこの街も碌でもなさそうだね」

「はい――念のため聞いておきますけど、イリスの実験ってそういうことしてな――痛いっ!?」

「口は災いのもとだよ、クイール」

 

 クイールの軽口染みた疑念に対し、イリスティーラはその頭を叩いて否定する。

 イリスティーラはともかくとして、魔族にはそういう存在もいる。人間の生が軽視される魔族の価値観の一端だろう。

 その“牧場”の一つ一つに対し、僕たちが何を出来る訳でもない。

 だが、その機構を悪用する魔族が関与しているらしいこの街は、一層注意する必要がある。

 

『ネピィを始めとして、サキュバスたちが動員されているみたいだし、間違いなく下らない状況にはなってるんだろうけど――その冊子、何が書いてあるわけ?』

「えっと――まずは街の見取り図に、施設の紹介かな。どこに何があって、それはどんな場所なのかっていう」

「観光案内ですね……そういうのをくれるのは助かりますけど、どんな施設があるんです?」

 

 適当に開いていたページをクイールが覗き込んできて、たちまち微妙な表情になる。

 ……正直、流し読んでいるだけで嫌気が差してくる。

 それぞれの施設について、詳しく書いている訳ではない。

 概要と、そこの担当者。それから、どんな願望を持った人に対して推奨される場所なのか。

 

 人間か魔族か。男性か女性か。その年齢。どのような嗜好を持っているか。

 施設一つ一つには食事や酒を提供するだの、入浴設備があるだのと書かれていれど、その本質が違うことくらい訪れなくても理解できる。

 そんな施設が、街中に百を超えて存在しているのだ。

 

「……はぁ。サキュバス共が集まって何をしているかと思えば、色街の類か。下らない――とは気軽に言い切れないな。それだけの数を敵に回す可能性もあり得るということか」

 

 かつてのナイトラクサも、多くの魔族がいるという点は変わらなかった。

 それらと敵対することはなかった。今回もまた、目的を果たすために必ずしも彼女たちと敵対しなければならないとは限らない。

 だが、一歩間違えばそれだけのサキュバスが敵となる。

 加えて――それはこの街で幸福を感じている者たちの反感を買うことを意味する。

 早いところ街を去りたいところだが……この街にあるという柱がどこにあるかは現状のところ不明だ。

 

「目的は魔王の楔。それ以外に用はないが……あてもなく歩き回っても碌なことはなさそうだね」

「普通の町なら、教会か宿かを目指すんだけど、この街の教会は……今はどうなっているんだろう」

「どうなっているにせよ……あんまり近付きたくないですよね。残ったヴァンパイアが今どうしているかは知りませんけど、間違いなく、僕たちに恨みはあるでしょうし」

「ふむ――宿の類も、これに書かれている場所は軒並みサキュバスの“手付き”状態ですか。近付けるような場所ではないようですね」

 

 冊子をぱらぱらと捲りつつ、ナディアは溜息を零す。

 正直、この街にある店はどこも頼りにすることは出来なさそうだ。

 物資に不安はないし、宿はなくともゼクセリオンがある。ここが危険のない街であったのならば、時間をかけて探索することも考えられたのだが……。

 

「あら、キミたち、新しいお客さん? まだお店は決めていないの?」

 

 ――その時、行き交う人々を避けながら、一人のサキュバスが近付いてきた。

 先ほどのネピィと同じだ。その、人に向けるには過剰に過ぎる情欲は、どろりとした熱を帯びながらこちらに向けられている。

 

「それならいいところに案内しようか? えっと、人間くん? キミのハーレム? うんうん、良い事ね。なら、私も混ぜてもらえる? 最高の時間を約束するわ――」

「生憎ですが、我々は特に一晩に困っている訳でもありません。下がりなさい」

「……アンデッド? え、人間くん、キミそういう趣味? いや、あんまり否定したくはないけど……ちょっと臭いとか、病気とか心配じゃない? サキュバスならそういうこともないよ?」

「…………」

 

 ――時間が止まったかのようだった。

 当然ながら、リッカは何もしていない。ただ、リッカも僕も、目の前のサキュバスが躊躇なくナディアの地雷を踏み抜いたことだけは、直感で理解した。

 

「……な、ナディア?」

「……ええ、大丈夫です。わたくし、サキュバスの妄言に乗せられるほど短絡的ではありませんから」

「いや、妄言とかじゃなくて。アンデッドでしょ? 死に還りだよ? ただの病気だけじゃなくて、冥界由来の熱病とか持ってそうじゃない? 人間くん、悪いことは言わないからやめておいた方が良いって」

「……」

 

 すぅ……と、ナディアは妙にはっきりと息を吸った。

 普段、呼吸は必要ないなどとジョーク感覚で言いつつも、癖のようにしているらしい呼吸。

 ナディアのそれが、これほど緊張感を孕んだものになる日が来るとは思わなかった。

 引きつつも妙に真面目な様子のサキュバスをジッと見ていたナディアは、やがて静かに、右腕の義手に取り付けられたツールに手を掛ける。

 

『7 - 4 - 1 >> [Accept]』

 

「ストップ! ナディア、ストップ! 早速騒ぎを起こすのはまずい!」

「落ち着いてくださいナディアちゃん! 多分向こうに悪気はありませんから!」

「なお悪いです! 止めないでください、二人とも!」

「何やってるんだい、キミたちは……」

「……」

 

 その後、ひとまずナディアを落ち着かせるのに結構な時間をかけた。

 そして元凶となった名も知らないサキュバスは、こちらを厄介な輩と判断したのか、ナディアが落ち着いた頃にはどこかへと消えていたのだった。




【ナディア】
アンデッドジョークは自虐ネタとして気に入ったのか十八番となりつつあるが、それはそれとして他者にド失礼なアンデッド煽りされるのは腹が立つ。
一般的にアンデッドが衛生面で大変な問題を抱えているのは確かだが、ナディアは最高位のリッチが丹精を込めたアンデッドのため多分悪臭もなければ変な病気もない。

【サキュバス】
体制の変わったナイトラクサで従業員(クルー)として働く一人のモブサキュバス。
魔族としての力量は下位であり、ユーリやクイールが勇者だということにも気付いていない。
サキュバスとしてハーレムの存在には寛容だし性病の類には真摯。ナディアへのそれも煽りのつもりはなく本人なりに真剣な心配である。

【リッカ】
そんなことよりパーティが「ユーリのハーレム」扱いされていることにもにょっていた。
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