凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
ナイトラクサは街中が眩しいほどに明るいが、それは人工的な明かりによるものだ。
日の光は相変わらず入ってくることはなく、空そのものはずっと、星の見えない日の夜のように暗い。
外を歩いていても、薄暗くなってきたなどの理由で時間の経過を察することが出来ないのだ。
ひとまず、危険は少ないだろうと思える、“人間が主として開いている店”などを回って情報を集めてしばらく。
そろそろ外は日が暮れている頃だと気付いたのは、自分の中で時間を刻んでいたのだろうヨハンナに指摘を受けたためだった。
……それで実感したが、この街にはそもそも朝も夜もない。
これは、ナイトラクサという街が変わる前からそうだったのだろう。
だからこその、『眠らない夜の街』。ここの住民は好きな時に眠り好きな時に食べ、好きな時に遊び回るということなのだろう。
「調査を始めたのは昼過ぎだったが、まさか休みなしで日暮れまで歩き回っていたとはね。時間感覚が狂うというか、喪失するというか……自覚すると嫌な感じだな、これは」
「……それに、歩き回ってみると本当に広いね、この街」
「はい――僕もこの街は観光する気は起きなかったですし、初めてこんなに見回りましたよ」
少し休もうと訪れたのは、情報を集める中で立ち寄ることのなかった料理屋だ。
この街の店ではあまり多くないらしい、お酒の類を出すことを主としない店。
ゆえにあまり人気が無く、気を休めるにはちょうどいいという判断だった。
店の奥の席に案内され、椅子に座ると、歩き通しだった証左の疲れを実感する。
「……なんというか、お疲れ、ユーリくん。まあ、私たちの責任でもあるのだが」
「いや……うん」
苦笑するイリスティーラにどう返したものか、それを考えられるほど、頭は回らなかった。
この街には異常なほどにサキュバスがいる。すれ違った彼女たちが、次から次へと誘ってくるのだから、気を休めている暇さえない。
時にはサキュバスだけでなく、他の種族や……人間が声を掛けてくることさえあった。
欲しい情報は一切見つからず、ひどい時にはまともに歩みを進めることさえ難しいような続けざまの誘いを受ければ、辟易するというものだ。
「……はぁ」
「リッカちゃんも、お疲れ様です」
“そういうこと”の断り方などまるで知らなかったことから、主にリッカとイリスティーラが彼女たちをあしらってくれた。
とはいえ、そもそも人付き合いが苦手なリッカにとっては心労であったようだ。
リッカと合わせて、深く溜息をついていれば、店員が人数分の水を持ってくる。
「どぞー。お疲れみたいね、キミたち。お楽しみだった……ってワケじゃなさそうだけど」
気安い様子で話しかけてくるのは、このナイトラクサで享楽に染まったとは思えない、穏やかな女性だった。
街を歩いていて数えきれないほどにすれ違った人々や魔族のような、一見して“関わってはいけない”と分かるような目をしていない。
向けられる感情も、ここに来たことに対する同情が強く感じられた。
「この街の連中みたいな“終わった”目をしてないし、新しいお客さんかな? 今から楽しむ予定なのか、それとも何か、別の目的で来たとか?」
「楽しもうという目的で訪れた訳ではありませんわ。ああ――水は結構です」
盆に乗せられたコップをテーブルに置こうとする店員をナディアは制し、席代代わりの料金を手渡す。
店員の方はしばらく目を瞬かせていたが、やがて理解したとばかりに苦笑した。
「あ、そっか。何入ってるか分かんないもんね。その警戒はこの街にいるなら正しいよ。お酒や料理に変な薬混ぜ込んでるとか、この街じゃザラだし」
「……やっぱり、そういうこともあるんだ……」
「大半の連中は盛られても大して気にしないけどね。そのくらいは日常茶飯事、そんなこと気にするんだったら明日の楽しみ方を考えた方が有意義って街だもん」
「……あんまりここに住んでる人の前で言いたくないですけど、それって……」
「狂ってる、でしょ。そりゃそうだ。ナイトラクサが変わる前の一等級民だって、そこまで好き勝手しなかったよ」
「キミは、この街に住んで長いのかい?」
「そだね。最初に奴隷として連れて来られてから……もう七、八年くらい? この店は開いて五年くらい。これでも等級なしから二等級まで成り上がったんだよ――まあ、等級も今はなんの意味もなくなったけどさ」
……かつてのナイトラクサでは、他者から運命を奪い取ることで、己の等級――価値を上げることが出来たという。
そして、そもそも等級が存在しない者はこの街において一切の権利を持たない。
そんな状態から、二等級という位にまで上り詰めるには、どれほどの苦難があったのだろうか。
目の前の彼女からは、そんな争いを潜り抜けてきたような雰囲気は感じられない。きっと、店を開く前の出来事なのだろう。
「まあ、つまりこの街結構長いし、キミたちが何をしたいか知らないけど、私が知ってることなら教えてあげられるよ?」
「……見ず知らずの相手に、どうしてそんなことを?」
「ワケありっぽいから? 何も知らずにこの街にいて、酔った連中とかサキュバスたちに悪さされるのを見過ごすのも忍びないっていうか。ちょびっとの物珍しさもあるけど」
悪意は感じられない。少なからず、好奇心でこちらを見てきているというのはあるが。
……あまり長居をするつもりはなかったが、有用な情報を教えてもらえるかもしれないか。
「……その前に。キミ、この街の体制が変わったことをどう思っている?」
イリスティーラが尋ねると、店員はさもありなんと肩を竦める。
「新しい人たちに結構聞かれるよ、それ。別に何もって感想かな。この店に一等級が来ることなんてなかったから、正直今と前とでそんなに変わらないし」
「ふむ……他者に等級を振りかざす生き方はしていなかったのかい?」
「そういうの、趣味じゃなかったしねぇ。二等級まで手に入れたのも、虐げられず、まともに生きられる程度の立場が欲しかっただけ。そりゃ、その過程で色々やったけど、あの頃は必死だったからなぁ」
意外に思ったのは、この街に、かつてのナイトラクサを惜しむような声があまり見られない点。
彼女に限った話ではない。イリスティーラの問いはその前にも何人かに投げかけられていたが、かつての方が良かったと言う者は少なかった。
もちろん、この街でも穏健であろう人々に絞って声を掛けているというのもあるが、この変化は概ね好意的に見られているということだろうか。
……まあ、いいか。
彼女に悪意は見られない。リッカたちを害そうという気もない。
その親切心に甘えさせてもらおう。僕たちが求める情報を知っていれば良いのだが。
「それで、何が聞きたいの?」
「えっと――まず、これを見てほしいんだ」
これまでと同じように、店員に差し出したのは、一枚の絵。
リッカが用意した、自身の記憶を焼き付けた、魔王の楔の写し絵だ。
ホロゥで見たものが一番最初。そして、ムルゼ霊山で見た、バラルバラーズと繋がり延命を行っていた楔。最後に冥界に存在しており、カルラと共に破壊した楔。
形状としては、特段差異がある訳ではない。この街のものも、同じ形状である可能性が高いだろう。
「これと同じものがこの街にある筈なんだけど、どこにあるか知ってる?」
「うーん……なんか周りの建物と似たような感じだね。お店を探してるってワケじゃなさそうだし、そこまで大きくはない感じ?」
「うん。人よりは大きいけど……この街の建物ほどじゃない。やっぱり、見たことないかな?」
「そだねー。これ、なんなの? 探し物の“あて”であれば分かるかも」
皆の視線を交わす。目的を話してしまえば、僕たちが何者であるかも知られるだろう。
相手が人だとはいえ、この街でそれを知られることは、悪影響を及ぼしかねない。
だが、このままでは何の手掛かりもないのも事実。
悪意のない相手ではあるし、一つ踏み込んでみるのも手だ。
「……魔王に関連したものなんだ。僕たちは、それを絶対に見つけないといけない」
「魔王、って……あの魔王? え、ってことはキミたちって……」
当然ながら、思い至ったようだ。
店員は店を見渡し、他に客がいないことを再確認してから、声を細めて尋ねてきた。
「……もしかして、勇者とかってやつ?」
頷けば、店員は驚愕の表情を返してくる。
……少し珍しい反応だった。人にそれを言えば、曖昧な反応が返ってくることが殆どだ。
それほどに、勇者の使命というものに興味のない人間が多いということだが、彼女は違うらしい。
「へー……初めて見た。噂、聞いてるよ。試練を全部終わらせた初めての勇者。それに――ナイトラクサを一回終わらせたのが、キミたちだって」
「……うん」
そこまで、住民には伝わっているのか。
ここを支配していたヴァンパイアたちを倒したことで、ナイトラクサは変わらざるを得なくなった。
この体制に至るまでの混乱は、僕たちが招いたようなものだ。
「……? ――ああ。もしかして余計なことしたって思ってる? キミらが後悔することなんてないよ。ルメリーシャとヴァージニアに良い感情抱いていたやつなんていないから」
「まあ……我儘な魔族だなって思ってはいましたけど」
「ルメリーシャなんてみんな嫌ってたからね。いなくなって清々してるよ。ヴァージニアも今やあんなザマだし、もうあの頃を思い返す人も碌にいないんじゃない?」
ナイトラクサの支配者にして、嫌われ者。
その様子は――あの頃の街の住民からも伝わってきた。嫌われているというよりは、恐れられていたが。
彼女たちの気分次第で、命さえ奪われかねない。
そんな中で、かれらは運命を奪い合い、自分たちの幸福を勝ち取ってきたのだろう。
「ヴァージニア――あのヴァンパイアだよね。今、どうなっているの?」
「あー……なんていうか。ネリネのペット?」
「……え?」
「あんまり気にしない方が良いんじゃない? つまりは、前のナイトラクサで落ちるところまで落ちて、ネリネの改革にも置いていかれたってだけだから」
彼女の今について、知っているようだったので聞いてみたところ、返ってきたのはさらに疑問を生むような答えだった。
ネリネという、今のこの街の支配者たるサキュバスの手にあるというが……。
いや、重要なことではないか。それよりも、ネリネについてだ。
「――分かった。なら、ネリネについて教えてくれる? この街を変えたサキュバスってのは知っているけど……どこに行けば会える?」
ネリネの存在は今のところ、唯一といってもいい手掛かりだ。
この街の中心となっているサキュバスであれば、僕たちが探している楔に最も近しい存在である可能性が高い。
彼女が何をしようとしているのかは分からなくとも、居場所さえ分かれば、彼女から聞き出せるかもしれない。
「ネリネに会いたいの? もしかしてそういう趣味――冗談冗談。……連れのその子、怖くない? めちゃくちゃこっち睨んできてるんだけど」
――この街はそういう冗談が常というか、誰もかれも軽口が得意であるらしい。
街中で何度も受けたその手の言葉に、またこの類かとリッカが店員を睨みつける。
出来ることならば、早く用事を済ませてこの街を出たいと思った。
なんというか、この街は僕たちにとって相性が悪すぎるのだ。