凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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永遠にビー・ウィズ・U/シアワセに満ちた街(3)

 

 

「ああ、ほら。ここだよ、ここ」

 

 ネリネがいる場所は、それなりに有名であるらしい。

 店員に街の見取り図を見せてみれば、彼女はすぐにそこに記された建物の一つを指さした。

 この冊子で、施設として紹介されていない建物だ。

 大通りに中央付近にある、それでいて目立つことのない――強いて言えば周囲よりほんの少し背が高い程度の建物に、ネリネはいるようだ。

 

「ここはね、ネリネの研究所(ラボ)。ネリネは基本的に四六時中、ここに籠りっきりらしいよ」

「何をしているのか、知ってる?」

「さあ? ラボなんだし、なんか研究してるんだろうなってことしか。ただ、会うのは難しいね。扉は閉め切っているし、強行突破とかは……まあ、おすすめしないかな。分かるでしょ?」

「……そうだね」

 

 ……もし、魔王の楔がこの建物にあり、ネリネがそれを守っていてどうしても戦うことが不可避であるのならば、手段の一つとして考えなければならないことだ。

 だが、楔とは無関係で――この街にいるというだけの可能性も否定できない。

 その場合無駄な戦闘は混乱を呼び、それ以上の調査は難しくなるだろう。

 土の試練でのアンデッドほどではないが相当な数のサキュバスがいる街だ。

 あまり短絡的な方法は避けた方がいい。確証が取れるまでは、慎重に動くべきだろう。

 

「とりあえず、根城は分かったわけだ。……ネリネの存在は、この街では知られているのかい?」

「噂聞いてやってきた新参はともかく、前から住んでいる人なら、大半が知っていると思うよ。ネリネはサキュバスたちを連れてナイトラクサにやってきたその日に、“この街を変えてやる”って高らかに演説していたからね」

「演説?」

「そ。“誰もが幸せになる世界……ナイトラクサが、その始まりの街になるんだよ”ってな具合で」

 

 誰もが、幸せに……?

 もしもそれが、僕たちの考える“幸せ”であり、本当に実現できるのだとすれば素晴らしいことだろう。

 だが、喧伝するのがサキュバスで、しかも拠点としているのがナイトラクサともなれば、潔白な手段であるとは思えない。

 胡散臭いという思いは、みんな共通のものであるようだった――店員も含めて。

 

「そういう反応になるよね。私たちもそうだった。いきなりやってきて、何を言うんだろうって。ルメリーシャがいなくなって、ヴァージニアが失墜してから、この街はより無法に、より自由になった。今更誰かに幸せを定義されるなんてごめんだって、そりゃあ批判だらけだったよ」

 

 この街において発言力があったのだろう、一等級などと言われる者たちは、既に自分の望むことが大半出来ていたのだろう。

 ヴァンパイアたちが支配者ではなくなって混乱も起きたのだろうが、ナイトラクサは大きく変わることはなかった。

 かれらにとっては、その生活が自分の思う幸福に近かった。

 ゆえに、また街が魔族に支配されるなど許容できる事態ではなかったと。

 

「……けど、今は街にそんな雰囲気もないね」

「サキュバスたちが街に入ってきてから、すぐにこんな感じになったの。……分かるでしょ? 身も心も、欲望のままに動かすのなら、サキュバスより上の種族なんて存在しない。この街は元々、人も魔族も、欲で動くやつばっかりだったから」

「――だからこういう街になった訳だ。連中としては実にやりやすいのだろうね。自分たちにとっての“捕食活動”をするだけで支配できるんだから」

 

 ナイトラクサは、サキュバスにとっては支配しやすい街だった。

 誰もかれもが欲で動くのだから、それを操るのに長けるサキュバスからして見ればナイトラクサは“餌場”にも等しいのだ。

 

「……つまり、街中にサキュバスの店があるのは……」

「街の住民の新しい依存対象だろう。この街における望みは、運命をやりくりして手に入れるものから、連中に求めるだけで誰でも手に入るものになったってことだね」

「……通貨は利用されていますの? この店のメニューには金額が設定されているようですが」

「完全に消えた訳じゃないからね。ただ、サキュバスたちの店じゃあ殆ど、あってないようなものみたい。今はまだ、細々と馴染みの客も来ているけど、あと何年もしない内にこの街から金貨銀貨なんてなくなるんじゃない?」

 

 どうやら“店”と言いつつも、サキュバスが営む施設は金銭を必要としていないらしい。

 そういう、金儲けを目的としているのならば、まだ話が早かっただろう。

 街の住民を自分たちに依存させようとしている――その先にある目的が分からないのが、余計不気味さを感じさせる。

 

 ……ラフィーナの言葉を思い出す。

 人間を消費する資源として扱う牧場の存在。ネリネをはじめとしたサキュバスたちは、この街を新たな人間牧場にしようとしているのではないか。

 

「まあ、こうして自分の店なんて続けているのは、連中にとっては“分からず屋”なんだろうね。うちは小さい店だからまだ大丈夫っぽいけど……目を付けられる前に畳んで街を出るつもりだよ」

「賢明だね。外は危険ではあるが、それでもこの街に居続けるよりはマシだと思うよ」

 

 彼女のような“正気”を保った存在であれば、この街に居続けても良いことはないだろう。

 この店を営む彼女もまた、この街の変化に付いていけなくなった存在なのかもしれない。

 

「あなたのような方は、街にどのくらいいるのですか?」

「多くはないかな。新しい体制を警戒しているのって、要は“一度もサキュバスに関わっていない”ってこと。今のこの街で、それは難しい話だと思うよ。好奇心に負けて虜になっちゃった連中は数えきれない。まったく、恐ろしい魔族だよね」

 

 苦笑する店員の表情からは、寂しさのようなものが見られた。

 彼女には今の体制を好ましいと思う気持ちはないようだ。

 同じように欲に溺れる街でも、今の退廃的な雰囲気を受け付けられない者は多少なり存在するということか。

 

「――――……まあ、だからさ」

 

 少しだけ、長い沈黙。

 愛想笑いを続けていた彼女は、そこで初めて、外向きではない本音を零した。

 

「あのサキュバスたちを全部追い払ってくれるのなら、願ってもないことだなって思うよ」

 

 叶わないことだというのは、百も承知なのだろう。

 本音ではあるものの、本気で言っている訳ではない。そんなこと出来る筈がないと、最初から諦めている上での、小さな望み。

 それでも、彼女が好ましいと思っていたのは、かつてのナイトラクサなのだ。

 全てに賛同してはいない。ヴァンパイアたちのことは、他の大多数の住民と同じように嫌っていた。

 それ以外の――自分が手に入れた権利(もの)をもって気ままに振る舞う刹那的な生き方を、彼女は惜しいと思っているのかもしれない。

 

「……それはそれで、結構過激派な意見じゃないか」

「ナイトラクサで長くやってれば、そうもなるんじゃない? 精一杯築き上げたものを取り上げられて悪い気のしないヤツなんていないよ。この店での生活、それなりに気に入ってたんだから」

「まあ、淫魔どもの悪巧みだというのなら、それを壊すくらいなんの罪悪感も湧かないが。とはいえ、だ」

 

 イリスティーラに目がこちらに向けられる。分かっているね、とでも尋ねるように。

 当然だ。僕たちの目的はあくまでも、魔王の楔を見つけて、破壊すること。

 そもそも、この街がサキュバスに支配されたきっかけも僕たちではあるが――それ以上に混乱させることは、僕たちが望むことではない。

 

「……それを叶えることは、難しいかも。無暗に彼女たちと敵対するつもりはないから」

「だよねぇ」

 

 駄目で元々だったのだろう。

 店員は肩を竦めて、その苦笑をより深めた。

 

「そこまで期待してないって。ともかく、喧嘩を売る必要が出てきたなら、気を付けた方がいいよ――なんて、勇者ご一行に言う話でもないか。まあ、これで私が知っていることは話したつもりだよ。助けにはなれなかったかもだけど」

「ううん。ネリネの居場所が分かったことは大きい。ありがとう」

「そう思うんなら、何か注文していってよ。うちの料理、ちょっとした自慢だよ。水も食材も調理用の魔道具も、全部外から仕入れているし、疑われた薬の類もなし。ただ単に料理だけをウリにした、潔白で“つまらない”店でやってるし」

 

 メニューを指さしながら、店員は笑みの種類を変える。

 この席にやってきた時のような、店の主としての愛想笑い。

 ただし、今度のそれには少しだけ素の表情が含まれている気がした。

 

 ……また、みんなと顔を見合わせる。

 彼女は嘘をついていない。言っている通り、後ろ暗いことやこの街の住民に喜ばれるサービスには手を出していないのだろう。

 万が一があっても、毒の類でイリスティーラの目を欺くことは難しい。

 加えて――時間も時間だ。歩き回って空腹を感じ始めたところでもある。

 であれば、ネリネの情報と、この街の現状について教えてくれたことだし、夕食をここで済ませるのも良いかもしれない。

 そんな心境の変化を、目敏く感付いたらしい。店員はふふんと自慢げに笑ってから、追加のメニュー表を人数分持ってきた。

 

「毎度あり、ってのはまだ早いか。ごゆっくりどうぞ。なんなら、メニューの端から端まで全部頼んでくれていいよ」

「小隊単位で宴をしようとしている訳ではありませんわ。普通に、常識的な範囲で、楽しませていただきます」

 

 改めてとばかりにそれぞれのもとに水を置いて、店員は店の奥に引っ込んでいく。

 

「まあ、適当にお腹を満たして帰ろうか。この街にしてはひどく良心的な店らしいしね」

「知らない料理がたくさんですね。あの店員さん、どこでこんなに料理を覚えたんでしょう」

「それが、この街の特色かもしれませんよ。魔族にしろ人間にしろ、この街の民はどこかから流れてきた者なのでしょう? 多様な文化が集まり、そしてこの街に適応していったということでは?」

 

 渡されたメニューに目を落とせば、聖都で見たことがあるような料理から、名前さえ聞いたことのない料理まで、色々と書かれている。

 ジャンルごとに分かれているようだが、名前だけではどんな料理か分からないものも多かった。

 ナディアの言う通り、あちこちの文化が集まっているのだろう。聖都に昔からあると聞いた料理も書いてある。

 

 ナイトラクサにやってくる者たちは、大半がやむを得ない事情を持っているのだろうが、そういう者が集まった結果の一つがこれというわけだ。

 覚えのない話ではない。僕たちの村だって、行商人から伝えられた料理はいくつかあった。

 その中でも、肉や魚を香草と一緒に包んで蒸し焼きにする料理は……カルラの葉でも出来ると、僕たち三人にこっそりと教えてくれたのが印象的でよく覚えている。この旅でそれを実践することはなかったが。

 ふむ……どれがどんな料理かという説明は残念ながらないが、あれと似たような料理はあるようだ。

 思い出した懐かしい料理に惹かれ、注文するものを決めた、その直後。

 

「いらっしゃ――っあー、と……ごめん、うちサキュバス向けのサービスは――」

「いらないわぁ。普通に食事をしにきた、だけだから」

 

 ――聞き覚えのある声と、ふらふらと不安定な声色で、警戒は瞬時に最大級になった。

 リッカと共に術式の準備を整える。クイールは席を立ち、聖剣を構える。

 イリスティーラとナディアは恐らくは初対面だが、僕たちの様子を見て、来店した者に警戒を向け始めた。

 

「あら……?」

 

 ほとんど閉じられたような、とろけた目がゆっくりと僕たちを捉えていく。

 ……僕たちを目的にしていたのではないのか。意外なものを見たように、ほんの僅かに目が開かれた。

 

「……奇遇ね、ユーリくん。それから、リッカちゃんに、クイールちゃん。それから……そっちのエルフは知らないけど……ああ、そっちのお嬢ちゃんは知ってるわ。ナディアちゃん、よね?」

「……何故、わたくしの名を?」

「見たこと、あるもの。あなたの、生きていた頃……いえ、あれは、死んで間もない頃、かしら。あの頃は、惜しいと思ったけど、今のあなたを見ると“お預け”されたのは正しかったわねぇ」

 

 パリッとした黒い服を雑に着崩し、“最低限の常識”に覆われながらも、覆い切れない狂気は健在だった。

 店員が何も感じていないことを不思議に思いつつも、狭い店内から外に出す方法を考える。

 そうしている間にも――彼女の言葉から、ナディアはその正体に思い至った。

 

「……ネシュアの、仇……『狂宴』の、アリスアドラ……!」

「まぁ……初めまして、ってことにしましょうか。よろしく、ナディアちゃん」

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