凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
正直プレイに忙しくて執筆が止まっていますが、更新は切らさないように頑張ります。
「……うん。いいじゃない。やっぱり、人間の料理って美味しいわぁ」
……どうしてこうなったのか。というより、何が起きているのだろうか。
どうにも、この数十分間の出来事が、アリスアドラの性質によって引き起こされた夢であるかのような気がしてならない。
しかし、これは正真正銘、現実だ。
隣のテーブルいっぱいの料理に、表情は変えないながらも満足そうなアリスアドラ。
戦うべき四天王と同じ空間で食事をとるという意味不明な状況に、僕たちは困惑のような、警戒のような、微妙な感情を捨てられずにいた。
「サキュバスって、そういうの作ったりしないの?」
「長命の種族は、無頓着になりやすいのよねぇ。それに、サキュバスの料理は癖が強くて……私は好みじゃないの」
サキュバスを好んでいる訳ではないが、客として来たのならば問題ないらしい。
店員はごく普通にアリスアドラを迎え、料理を用意した。
最初に互いに驚き合って、しかしアリスアドラはこちらに仕掛けてくるようなことはなく、席に着いてからは僕たちに意識を向けてもいない。
そんな中で、気付けば僕たちのテーブルにも、空の皿があった。
空腹感はないし、困惑のまま僕たちも普通に食事を済ませていたようだ。
釈然としない気持ちのまま、他のみんなと同じようにアリスアドラを睨みつける。
彼女は我関せずとばかりに、ふわふわの卵に包まれた米料理を食べている。……面白そうな料理だ。今度試してみよう。
「……それで? 何故、四天王ともあろうものがこんなところにいるんだい?」
「んー……? さっきも言った通り、食事をしに、だけど……? ……エルフって記憶は良いものだと思っていたけど、個体差はあるみたいねぇ」
「そういうサキュバスは大体が理解力に乏しいみたいだね。なんとも没個性じゃないか。私は、何故この街に四天王がいるのかと聞いているんだ。そこまで大切な街なのかい?」
苛立った様子でイリスティーラはアリスアドラに問いを投げる。
店員は聞かなくて良い話だと判断したのか、足早に店の奥へと引っ込んでいく。
エルフ、ヴァンパイア、サキュバス……人型の魔族は総じて、互いに相性が悪い。
しかし、アリスアドラの側は特に気を悪くしてもいないようで――暫く眠そうに目を瞬かせた後、くすりと笑った。
「別に、この街はどうでもいいわぁ……ここに来ているのはね、半分はプライベートで……半分は、部下の頑張りを見るため、かしら」
「この街に鬱陶しいほどいるサキュバスたちのことかい? それとも、街が変わった発端らしいネリネとかいう個体の話かな?」
「それに私が答える義務もないのだけど……」
テーブルの料理に向いていたアリスアドラの目が、僅かにこちらに向けられる。
……あまり、目を合わせていたくない。
どこかには視線を交わしただけで悪影響を与えるという魔族もいるようだが、もしかするとアリスアドラの目はそれに近い力があるのかもしれない。
引き込まれて、そのまま溶けてしまうような悪い感覚。食事の場だろうが、決して気を抜けない不気味な相手だ。
「まあ、どっちも、かしら。ただ精を吸うだけの子たちには、あまり興味はないのに、それでもやらないといけないのよねぇ。ネリネが募集したみたいだけど……あの子たち、たくさん食べれば強くなれると思っているみたい。おかしな勘違いじゃない……?」
「なるほど。やはりここはサキュバス専門の“牧場”と化したみたいだね。精を啜れば力ある個体になれると考える者たちを集めている訳だ。まあ、勘違いだとして、それが広まった原因は間違いなくキミだろうが」
「向上心があるに越したことはないわねぇ。あの子たちが精を吸うのが、悪いことではないのだし」
つまり……あのサキュバスたちには、それ以上の目的はないということか。
何かを企んでいるとすれば、やはりネリネのようだ。
「それで……? ユーリくんたちは、ここに何をしに来たの? こんな街、二度と来たくないんじゃないかと思ってたけど」
「……」
話すべきか、と考える。
アリスアドラは絶対的に魔王の側の魔族であり、僕たちの敵だ。
最も魔王に近い存在であることから、僕たちが探すものの場所を知っている可能性も高いが、その重要性を知っていれば答える理由などないだろう。
そんな警戒を、彼女は目を揺らしながら笑って受け止め、僕から視線を外す。
そしてシチューを匙でゆっくり掻き混ぜながら、何でもないように言ってきた。
「……ああ……あの楔かしら。あれを知って、壊して回ってるんじゃない……? この街にまた来る理由なんて、そのくらいしか思い浮かばないわぁ」
「ッ……」
「他が今、どれだけ残っているかは知らないけど……まあ、この街のは狙いやすいかもね。面倒なところに、ある訳でもないし」
僕たちが何を言う前に、アリスアドラは僕たちの目的を言い当てた。
「ただ、そうなると……ネリネとは奪り合いになるわねぇ。あの子の手助けはしないつもりだったのに……もしかすると、あなたたちと戦うことになるかしら……?」
「ネリネが……?」
「えぇ……あなたたちはあれを壊そうとしていて、あの子はあれを使おうとしている。相容れないわぁ」
楔の存在に行き着いたアリスアドラは、そこで言葉を止めて、シチューを食べ始める。
ネリネが楔を確保しているというのは恐らく正しい。恐らく、戦いは避けられないだろう。
だが、“使おうとしている”とはどういうことなのか。
魔王の存在のバックアップであり、僕たちが使命を終わらせるため、すべて壊さなければならないもの。
それだけではなく、他に何か重要な存在意義がある……?
「……僕たちが探しているのは、確かに“楔”って呼ばれているものです。魔王のバックアップだって聞いていましたけど……それ以外に使い道があるんですか?」
「あら……そこまでしか知らなかったのね。なら失言、かしら。……なにも知らないってのも、かわいそうね。あなたたちにも、利のあることだし……」
クイールの問いに、少しの間悩む素振りを見せてから。
考えるのも面倒になったのか、目を閉じるすれすれまで細めて、頷いた。
「ええ、そうねぇ。あれは確かに“もしも”に備えた時のもの……でも同時に、“もしも”を確約するためのものでもあるわ。正しき結論、その枝となるべき柱……分岐する可能性の核」
「……? えっと、何を言っているのか分からないんですけど……」
「簡単に言うとね……あれは誰かの願いを叶えるの。使い方を知ってさえいれば――やがてどんな世界も創れるようになる」
本気で言っているのか疑わしい世迷言。
アリスアドラの思考も、僕たちとのつながりも、あまりにもふわふわとしていていまいち掴むことが出来ない。
それまでと何ら変わらない様子のアリスアドラは、付け合わせのパンに手を伸ばしながら続ける。
「楔の数だけ、誰かの望みは受け入れられる。正しい道筋から分岐した可能性が生み出される。……際限はないわ。伏線がなくとも、機械仕掛けであっても、どんなどんでん返しでも、その理は確立されるの」
「……信じられないです。今の世界を作った魔王が、そんなものを用意する理由が、分かりません」
「そう? 信じられなくても、これは本当よ。バックアップなんて副次的に備えられた機能でしかないわ。楔は全部で四つ――私たち四天王に据えられた者たちの、理想を結論付ける……やがて完成する世界に、自由度と選択肢を与えるための機構」
――なんのための我が生か! なんのための千年か! わしの世界を否定はさせぬ!
――強き者のための世界を! 弱き者がのさばらぬ世界を! そうでなくて何が平等か!
――生まれからすべてが決してこそ真に平等足り得る! わしの理想を、何をもって否定するか!
かつて、バラルバラーズが叫んだ彼の理想を、思い出した。
あの頃はその真意が分からなかったが、アリスアドラの言い分が正しいのであれば、それこそが彼が生にしがみ付いていた何よりの理由。
彼が繋がれていたあの楔には、もしかすると彼の理想を叶えさせる想定だったのかもしれない。
彼の言うような、強き者がすべてを支配する、僕たちが到底認められない世界を。
「……もし、キミの言っていることがすべて真実だとして、ならば何故ネリネというキミの配下がそれを使おうとしていて、キミはそれを容認しているんだ?」
「――私はね、誰にでも、望みを叶えるチャンスがあると思っているの」
イリスティーラの指摘は、当然のものだった。
どの楔が、誰のものという決まりがあるのかは知らないが、どうあれ楔はそれぞれの四天王に紐付けられたものなのだろう。
だとすると、そのうちの一つをネリネが使おうとしていて、アリスアドラがこの街にいてそれを認識しながらも放置している理由が分からない。
アリスアドラには託すべきの望みがないのかと言えば――それも否だとばかりに、アリスアドラは微笑む。
「ねぇ、あなたは聖都のエルフ? この街……今のナイトラクサを、どう思うかしら」
「――誰もかれも幸福そうだね……気持ち悪いほどに。悪いが、私たちが好むような場所じゃないよ。それが?」
「そう、幸せ。幸せの街。ネリネが楔を使いたいって言うから、条件を定めたのよ。ここを幸せに満ちた街に出来たら、使わせてあげてもいいって。こういう方向性だとは思わなかったけど。相変わらず、あの子は何を考えているか分からないわぁ」
「悪趣味だね――一体何故、そんなことを?」
「……? みんなが幸せなのは良いことじゃない」
サキュバスによって齎された、自由に欲を謳歌する街。
それの何が悪いのかと、アリスアドラは心底不思議そうに、首を傾げた。
「ネリネは、楔を使わずにこの街全部の“幸せ”を実現させようとしているの。サキュバスとして、幸福を誘導させる形でね。誰かを幸せにしたのなら、その頑張りは報われるべきじゃない?」
「……そのためなら、自分の望みはどうでもいいってことですか? 四天王として楔を使う権利を手放すって、そういうことですよね?」
「そんなことは言ってないけど――まあ、そうとも言えるかしらねぇ。自分の願いがどうでもいいってくらいには、あの子の悲願に共感しているもの」
「共感……?」
「えぇ、そしてそれは、なにもネリネに対してだけじゃないわ」
時間が経って、乗せられていたアイスの溶けきったジュース。
それをストローで啜り、一呼吸おいてから、アリスアドラは僕たちを順に見ながら、言葉を続けた。
「――リッカちゃんたちの、復讐を果たした先でのハッピーエンドも」
「ッ……!」
「――――!?」
「クイールちゃんの、好きな人やホープちゃんと穏やかに暮らす未来も」
「え……?」
「ナディアちゃんの、お友だちに囲まれ、新しい生を謳歌する希望も」
「……」
「あとは――あなたの、それこそ楔でも使わなければ叶わないような、幼気で愛らしい願望も」
「――――答えろ。私の何を見た」
使命を果たそうと旅をする目的。奥底に秘めている訳でもない理想。
僕たちの場合は、そうだった。アリスアドラが知っている理由も、推測できる。
だが、アリスアドラはクイール、ナディアと続けて、その理想を口にしていき――――最後のそれを発した直後、イリスティーラに魔道具の銃口を突きつけられた。
「別に、見た訳じゃないわぁ。ただ、そう感じただけ。その濁った目の奥。ごちゃ混ぜの仮面に隠した、見ていられない顔……ふふ……リッカちゃんよりも先に会っていたら、あなたのことがお気に入りだったかも」
「……、……リッカくんには悪いが、そうじゃなかった事を感謝するよ。もういい。今すぐ私の前から消えてくれないか」
「そう? まあ、満足したし、いいかしら」
――イリスティーラの怒りを涼しい顔で受け止めるアリスアドラのテーブルの皿は、気付けばすべて空になっていた。
彼女は手元にピンク色の炎を灯し、内から十分すぎるほどの金貨を取り出して、テーブルに置く。
「つまりは……そういうこと。あなたたちにも、それを叶える資格をあげる。明日の夜……大通りの、ネリネの研究所の前。そこに楔を置くわ。ネリネにも、言っておかなくちゃ――」
そう言い残して、アリスアドラはふらふらと店を出て行った。
途端に、寒気を感じる。というよりも、先ほどまで体が、頭が、異様な熱を持っていたかのように、芯まで冷たさが染み込んでいく。
「寒……イリス、落ち着いてください。下手に戦っちゃいけない相手だって、分かってますよね」
「……ああ。悪かった。ナディアも、大丈夫かい?」
「ええ。わたくしは大丈夫です。――彼女の戯言はさておくとして、今優先すべき手掛かりを残していきましたね」
――その通りだ。
魔王の用意したものに頼るつもりなどない。僕たちの望みは、僕たちの手で実現させるべきことだから。
それよりも、重要なのは楔を壊す好機について。
当然ながら、ネリネも備えをするだろうが、それでも今の楔の在り処が分からない以上唯一の手掛かりだ。
明日の夜――ナイトラクサの楔を破壊する。万全の状態で臨まなければ。