凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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永遠にビー・ウィズ・U/シアワセに満ちた街(6)

 

 

「はぁ……はぁ……っ!」

「ほらほら、そんなふらふら走ってても、すぐ捕まっちゃうわよ? 捕まえてほしいの? なら、これ以上鬼ごっこもいらないわよね。それじゃあ、いただき――」

「させない……!」

 

『ユニゾンリンク! U-リッカ!』

 

 外装を纏って飛び出し、体力の限界を超えて今にも倒れそうな男性に手を伸ばすサキュバスへと魔弾を放つ。

 

「きゃっ……!?」

 

 間一髪――放たれた魔弾はサキュバスを吹き飛ばし、男性はその衝撃でその場に倒れつつも、何が起きたのかとこちらに目を向ける。

 続けてクイール、イリスティーラ、ナディアも、周囲に飛び回るサキュバスへと攻撃を始めた。

 

「た、たすかった……?」

 

 状況を掴めていない男性の前に立ち、魔剣を構える。

 他にも逃げている人々を追い回すサキュバスたちがいたが、乱入した僕たちを認識したようで、苛立ち混じりに襲い掛かってきた。

 

「勇者――せっかくのお楽しみに、水を差してくれちゃって!」

 

 数は多いが、ここにいるサキュバスたちはそこまで実力に秀でた個体ではないらしい。

 武器を持っている者はおらず、尾を振り回したり、魔力を放ってきたり――或いは、種族として最大の武器である催眠を仕掛けてこようとする。

 油断は出来ないものの、手強い相手ではない。

 彼女たちはこちらを攻撃しつつも、追いかけていた人々に意識が向いていた。

 一度獲物と定めた以上、逃がしたくないのだろう。ならば、まずはかれらへの注目を外すべきか。

 

「リッカ!」

「ん……いつでも」

 

 リッカはすぐさま、術式の準備を整える。

 無意識を誘導し、相手の注意を惹きつける――必ずしもメリットとならないその機能が備わった力が、僕たちにはある。

 

『フィーチャリンク! U-リッカ――セプテニファ!』

 

 プレートのような盾が左腕に取り付けられ、きらめく粒子が辺りに散らばっていく。

 戦場で不用意に目立てば、攻撃を集中して受けるばかりになってしまう。

 しかし、その注目を、逆に相手にとっての脅威へと変えるのが、この外装だ。

 

「こっちだよ!」

「あら、自分から“食べて”アピール? やっぱり勇者っていっても男の子なのね!」

 

 一斉に向けられる情欲――それに言いようのない寒気を感じながらも、逃げ惑う人々からサキュバスたちを引き離す。

 離れた場所にいる個体は、クイールたちがそれぞれ相手をしている。まずはこちらに向かってくる四人をどうにかしなければ。

 盾に表示されたアイコンに手を置き、あらかじめ構築された“催眠機能”を実行する。

 注目を受けた上で行使される、きわめて強力な暗示。それこそが、この外装の真髄。

 

「ふぁ――っ!?」

「な、何これ……!?」

 

 体を、次いで思考を弛緩させて、動きを止める。

 やろうと思えば緩めた思考をそのまま改変し、自在に操ることさえ可能な力。

 誰かを好き勝手に操るこの力は、好んで使いたいとは思わないが――自己暗示のためだけに使ってもいられない。

 

『アドラ・エクスラッシュ!』

 

 大きく隙を晒している間に、魔剣に膨大な魔力を溜めて、振り抜くことで解放する。

 耐久に秀でたサキュバスであっても、ここにいる者たちはそう強力な個体ではない。

 鋭い爪の如く顕現した斬撃は、たちまち無防備なサキュバスたちを呑み込んでいった。

 

「ラフィーナ――」

『問題ないわ。こっち側に立つって決めた以上、いつかはやらないといけないことよ』

 

 魔剣を使用し、サキュバスを倒す。それの意味するところは、かつての同胞を手に掛けさせるということだ。

 しかし、ラフィーナには躊躇いもない。

 僕たちに対する気遣いだけではなく――ラフィーナなりに“吹っ切れた”結果だということは、伝わってきた。

 

『それよりも、あの結界の中から漂ってくる淫気……尋常じゃないわ。外装を纏っていれば耐えられるでしょうけど、生身だと何分ももたないわよ、あれ』

「……ってことは、元々中にいた人たちは……」

『助けたいって思うのなら、急いでその元を断った方がいいわね。私が思うに……もう、助かっていない人間も出ている筈よ』

 

 ラフィーナの言う淫気というものは、僕たちでは具体的に感じ取ることが出来ない。

 だが、サキュバスにとっては当たり前の存在であるようで、ラフィーナの声にも焦りが見られた。

 事は一刻を争う状況……だとしても、突入前に話は聞いておいた方が良い。

 クイールたちがそれぞれサキュバスたちを倒し、こちらに向かってくるのを待ちつつ、近くで唖然と戦いを見ていた男性にあらためて声を掛ける。

 

「教えて。ナイトラクサで何が起きているの?」

「え、あ……わ、分からねえ。いつもの店に向かう途中、体がバカみたいに熱くなって……怖くて逃げ出そうとしたんだ。何処へって、考えてねえよ……そんなこと、考えてる余裕もなかった」

『淫気の影響ね。頭に熱がのぼって、まともにものを考えられなくなるの。逃げようって考えられたのは、理性を保てている証拠ね。こんな街にいて、大したものだわ』

「お、俺はまだここに来て浅いから……剣が喋った!? い、いや、剣、なのか……? ――なんだお前!? 鎧……?」

『もういいわよ、そのくだり』

 

 ……アリスアドラと相対した時に否応でも感じる、あの熱。

 つまり、あれと同じものが、街全体にまで広がっているということらしい。

 そうなれば、あの街で起き得ることは――いや、あまり考えていたくはない。それよりも、ラフィーナの言う通り、その元をすぐにでも断つべきだ。

 

「行きましょう、ユーリくん。多分、これの原因は……」

「アリスアドラかネリネのどっちか――急ごう。何をしようとしているにしても、止めないと」

「そうだね。中は既に、淫魔どもの領域だろう。用心したまえ、気をしっかり持つようにね」

 

 イリスティーラの忠告に全員で頷いてから、クイールが男性に近付き、魔除けの魔道具を一つ手渡す。

 

「これを使えば一晩は大丈夫な筈です。夜が明けたら、近くの町を目指した方が良いですけど……分かります?」

「あ、ああ……俺は元々そこから来たんだ。噂を聞いて……出戻りなんて、親に合わせる顔がねえが……い、いや、ここにいてどうにかなっちまうよりマシだよな」

「はい、ずっとマシです。それじゃ、僕たちは急ぎますので」

「あの中に入るのか……!? ……わ、悪いが、助けられる奴がいたら助けてやってくれよ。あ、あんたたちなら出来るだろ?」

「努力はしますよ。勇者なので」

 

 “勇者……?”と呟く男性を置いて、ナイトラクサに向けて走り出す。

 彼以外にも、逃げていた人々は無事だ。あの魔道具で気付かれないように朝まで過ごせば、少しは危険も減る。

 そうしたら他の町まで逃げられるかもしれない。最寄りの町でもかなり距離があるが……この街にいるよりも幾分安全な賭けと言えるだろう。

 

「ヨハンナ、この外装、サキュバスの気に対する備えは出来ていまして?」

『無論。ゆえにこそ、戦闘は慎重に行うことを進言する。万一外装が解除されれば、ナディアも影響を受ける可能性がある』

「ええ、分かっています。ですが――」

 

 夜の闇でさえ目立つ、黒い結界。

 その中に飛び込めば――外装の機能で悪影響を遮断してなお、噎せ返るほどの甘い匂いが鼻を抜けていった。

 

「これは……!」

「予想以上、ですね――うぇぇ……イリス、これどうにかならないですか?」

「ならないよ。毒草でも噛んでおきたまえ。淫気がそっちに吸われて楽になるともっぱらの噂だ。試したことはないが」

「民間療法にも程がありますわ……」

 

 広がっていたのは、それまでと変わらない眩しいほどの夜の街。

 だが、即座に危険だと分かるその匂いが、ナイトラクサという街であっても只事ではないと警告する。

 外装を纏っている内は影響はないだろう。だが、ヨハンナの言う通り、万が一保護機能が失われてしまえば、どうなるか分からない。

 

「ここまで人気のないナイトラクサとは不気味この上ないな」

「そうですね――みんな、屋内に避難しているんでしょうか?」

 

 目に映る範囲には、人がいなかった。

 喧噪も人の群れもなく、ただ明るい夜だけがあるナイトラクサには、いつ来ても感じられた溢れんばかりの“欲”がない。

 

「とりあえず、行きましょう。大通りの真ん中あたり、ですよね」

 

 誰もいない道の真ん中を突っ切って、先ほどの店員に教えられた場所へと向かう。

 ――ネリネのラボだという場所に辿り着くまで、誰か人を見つけられるのか、本当に誰一人として出会わないのか。

 どちらを自分が望んでいたかは分からない。何が起きているか不明だからこそ、その不気味さが明かされることに少なからず不安があった。

 

 何か声が聞こえた気がして、道を一つ曲がって。

 そこにあった光景に、暫くの間、思考を止めざるを得なかった。

 

「あら……? もう打ち止め? ここの人間も大して変わんないわね。ま、いいや、枯れたら次いこっと」

「……ぁぁ――っ――」

 

「抵抗しないと死んじゃうわよ? ……いや、死ぬとか生きるとかより、自分が何だったのかも分からなくなるの。いいの? ――そう。なら、搾りきっちゃうわね」

「――――――――」

 

「ネリネさんの誘いに乗って正解だったな。人間も他の魔族もより取り見取りとか、エヴァネスさんの“畑”とは段違いだぜ」

「ぃ……っ、あ……」

 

 ――広がっていた、その異様な光景を見て、取り乱しかけたリッカの意識を繋ぎ止める。

 しかしながら、僕自身、動揺は隠せなかった。

 ナイトラクサの入り口から見えていた場所で“それ”が起きていなかったことが、不思議な程に――“それ”は、今のこの街のありふれた様子となっていた。

 

 そこが外――街中であることなど、誰も気にしていない。

 あちこちから聞こえてくるのは、呻き声。そこには今がひたすら長く、永く続いてほしいという不気味な渇望があった。

 ぐちゃぐちゃと、無数の水音が混じり合った不協和音は、淫気からくる匂いと相まって、より現実感というものを薄れさせる。

 そして、その水音とは裏腹に――目に映る光景にある命の瑞々しさは、次から次へと失われていく。

 

「ごちそうさま。十回ももたずに枯れるとか、それでよく自分から向かって来られたものね。情けないったら」

 

 立ち上がったサキュバス。その場に置き去りにされたのは、元が何だったのかも分からない、乾き切った抜け殻。

 原型も留めず、サキュバスが無意識に、軽く尾で払っただけで、ぱらぱらと崩れていく。

 おが屑のようなそれは――注視していなかっただけで、ここまで来る途中にも、幾らでもあった気がする。

 走ってきた通りで、何も起きていなかったのではない。

 既にそこでの“食事”は済まされていたのだ。

 

「……淫魔というのは、これだから。呆けている場合じゃない。キミたち、急ぐよ」

「っ、イリス――」

 

 絶句していた僕たちの中で、イリスティーラがいち早く復帰し、小声で促してくる。

 

「連中は食事に夢中だ。このまま裏路地を駆け抜けて目的地に向かう」

「で、でもイリス、あの人たちは――」

『助からないわ。途中で解放されても、もうまともに生きてはいられない。見捨てなさい。助けるのだとしても、それはまだ捕まっていない人間だけにするべきよ』

 

 遊び感覚のサキュバスやインキュバスに捕まり、犯され、死ぬまで快楽から逃れられない。

 ……アリスアドラは、ネリネがこの街を“誰もが幸せになる街”に出来たら、楔を譲与すると言っていた。

 その手段の果てがこれだというのか。

 多幸感に満ちた状態で、その生命の一端まで絞り尽くされて、やがてこの街には誰もいなくなる。

 そして――ネリネがこの街に来てすぐに宣言したという言葉。

 

 ――誰もが幸せになる世界……ナイトラクサが、その始まりの街になるんだよ。

 

 全てが繋がるのだとすれば、楔の有無にかかわらず、ネリネを止めなければならない。

 

「……行こう。イリスティーラの言う通りだ」

「キミが冷静で助かるよ、ユーリくん。さあ、二人とも。ここで暴れたところで、別のどこかでの被害は止められない。さっさと大元を断って、“それ以上”が出ないようにするんだ」

「ええ……わたくしも同意見です」

「……そう、ですよね。そっちの方が、一人でも多く、助けられるんですから。……きっついなぁ、こういうの」

 

 幸い、サキュバスたちは犯している人間に夢中になっているようで、こちらには気付いていない。

 イリスティーラの先導に従って、その道の隅から別の路地へと入り、ナイトラクサの中心へと向かっていく。

 そこら中に転がる“なにか”と、鼻をつく異臭に気付かないふりをしながら、走り抜ける。

 そして――ようやく辿り着く。

 

「――キッヒヒ。重役出勤、ごくろうさま。来ると思った。勇者なら、この方法に辿り着いて、結末を奪い合うことになるって、こなたは確信してたんだ。なんでって――」

 

 大通りの真ん中に置かれた、巨大な柱。間違いなく、魔王の楔だ。

 その前に立つ――否、浮いている、サキュバスとしても異形であるその姿。

 

「こなたは世界の誰よりも、真実に近いから。“(エヌ)”を否定するもの、果てを破壊するもの。キミがそうであるのなら、きっと“ネリネの夢”も否定する。――ね? 勇者ユーリ」

 

 ――底のないような、星がきらめく瞳が、じっとこちらを向いていた。

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