凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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永遠にビー・ウィズ・U/シアワセに満ちた街(7)

 

 

「キミが……ネリネ……?」

「うん。初めまして、勇者ユーリと、愉快な仲間たち。こなたがネリネ。今は……そう、このナイトラクサの代表をやってるかな」

 

 彼女がサキュバスであるということは、事前情報がなければ分からなかっただろう。

 角があり、翼があり、尾がある。サキュバスとして当たり前の特徴は備えているものの、それらがあまりに異形だった。

 その幼い体躯の何倍も大きな翼の指を、まるで蜘蛛の足のように地につけて、体を持ち上げて浮かせた奇妙な状態。

 長い長い尾の先端は開くことなく縫い付けられたかのように閉じ、彼女の体よりも大きな植木鉢のようなものを抱えている。

 そして角は左右対称ではなく、右に三本、左に二本。それぞれ長さも捻じれもばらばらで、どれ一つとして同じ方向を向いていない。

 

 そんな異形が醸す雰囲気を、纏まらないままに無理やり統一させているのが、丸い眼鏡の奥にある、言いようのない“悍ましさ”を湛えた瞳。

 小さな、小さな、星空があった。

 広がる暗闇の中に無数の星が瞬くその瞳は、じっと僕に向けられているようにも、視界の届くすべてを捉えているようにも見えた。

 

「……キミが、この街にサキュバスたちを招いたの?」

「ん? うん。まあ、元からこの街には少数いたんだけどね。今いる内の九割は、こなたが連れてきたんだよ」

「……何のために?」

「――この街を、幸せに満ちた街にするために」

 

 その目は見開かれたままに、彼女――ネリネは微笑む。

 すべてを慈しむような、穏やかな笑み。ともすれば、それが心からの願いであると錯覚してしまいそうだった。

 

「こなたはね、世界の全部が幸せになることを望んでいるんだ。だって、それって素敵でしょ? 喧嘩もなく、種族の争いもなく、人間が虐げられることもない。そんな世界になったらいいなって思わない?」

 

 桃色の髪が揺れて、その小さな体がこちらに近付いてくる。

 胸の真ん中から体中に広がる罅のような裂け目は、各所で粗雑に縫い合わされて、無理やりその形を繋ぎ止められているかのようだった。

 そんな姿でもなお、万人の幸福を望む。

 献身的な在り方を思わせ、その信念を素晴らしいものだと思わずにはいられない。

 ――あくまでも、ここまで見てきたものが無くて、今目の前の彼女の態度から感じられるものも無ければ、の話だが。

 

「その方法がこれっていうのは、恥ずかしいことだけどね。サキュバスの思う、他種族の幸福って、まずはこれだから。うん――出来れば教えてほしいな。キミの……勇者の思う幸せってのはなんなのか――」

「――嘘はいいよ。“誰かの幸せ”なんてどうでもいいって思っているのは、キミが何を喋っても伝わってくる」

 

 今の言葉に乗せられた感情は、全てが飾り立てられたものに過ぎない。

 相手の同情を誘うために出力された、“それらしい”感情だ。

 もっと言うならば、ネリネは僕たちの同情さえ求めていない。僕の問いに対して、誰の感情も含めない無難な回答を構築しただけなのだろう。

 

「キミは今、この街でサキュバスたちが起こしていることも、それに対して僕たちが何を思っているかも全部理解している」

「……ありゃ、そうなの」

「僕が聞きたいのは、キミが(それ)を使って何をしようとしているのか。そのために、こんなことを起こす必要があったのか、だよ」

 

 先ほどの言葉で納得していればいいものを、とでも言いたげに、ネリネは少しだけ煩わしそうな表情を見せた。

 しかし、そこで言い淀むことはない。

 

「必要はあったんだよ。アリスサマに聞いてない? こなたはアリスサマから、コレを使う権利を貰った。そのための条件はね、この街を幸せで満たすこと。こういう叶え方ってのは下らないけど、まあ、手っ取り早いし」

「……幸せで満たす? これが?」

 

 ネリネの認識は、アリスアドラが言っていたことと変わらない。

 だからこそ、これで実現させているつもりだとでも言うような、ネリネの態度が理解出来なかった。

 魔族の価値観は、僕たちのそれとは決定的に異なる。そんなこと、とっくに知っていたつもりだったのだが。

 

「快楽に溺れ、恍惚の中で命を終える。これ以上ないほどの幸福じゃん? 幸せってのは、時間が経つと薄れるよ。いつまでも幸福でいれば、それは当たり前になって、幸福って意識も消える。“いつまでも幸せに暮らしました”なんて、とんだ嘘っぱちさ」

「……っ」

「だから、幸せを感じる内に、その絶頂の中で終わらせてあげているんだよ。なんの後悔もなく、ね。それでこの街が枯れ果てれば、幸せで満ちた街の完成ってわけ。ほら、とっても効率的!」

「……それじゃあ、今日までこんなことをしなかったのは? 街の在り方を変えて、何をしていたの?」

「ああ、それ。言ってしまえば……調教? 今日のこれをするための布石だよ。サキュバスたちは精気を吸えれば良いから、唆して連れ出すのは簡単だし。今日までやり過ぎないようにって言い含めるのにはまあまあ苦労したけど」

 

 さも、妙案とばかりに言ってのけるネリネ。

 実際に、最適な方法ではあるのだろう――サキュバスという魔族の価値観からすれば。

 ……それでも、幸せに満ちた街とは、とてもではないが思えなかった。

 たとえば昨日のかれらに、今日こういう形で幸せな終わりを迎えると伝えて、かれらはそれに甘んじただろうか。

 だとすれば、逃げ惑う者などいなかった筈だ。この街の一体どれほどが、恐怖もなく、サキュバスたちの蛮行を受け入れただろうか。

 

「キッヒヒ、嫌だなあ、その殺気。勇者ってそんな野蛮なの? 死への恐怖なんてすぐに忘れるよ。それよりも快楽による多幸感が勝る。枯れる寸前、その都市は確かに幸福に満ちているんだ。これ以上に大きな、国なんて規模でも、それは変わらない」

「ッ、あなた……それは、ネシュアのことを……?」

「んー。……ん? キミもしかして、話に聞いていたネシュアのお姫様? へぇ、お姫様までもが戦えるんだ。凄いね、その鎧。人間の可能性を遥かに引き上げる代物だ。いや、キミはもう人間じゃないんだろうけどさ」

「御託は結構。あなたは、ネシュアの落陽は幸福であったと、そう言うのですね?」

「もちろん。そう考えているサキュバスって多いと思うよ。他の種族は知らないけど。じゃなきゃ、アリスサマの国枯らしの大罪が種族内で持て囃されるわけないじゃん。――ねえー、アリスサマ」

 

 ナディアの怒りを受けても、ネリネの感情は少しも浮き上がることはなかった。

 喜びもなく、怒りに対抗する怒りもなく、嘲笑もなければ、罪悪感もない。ただ、サキュバスの中で称えられている行いを適当に比較し、出力する。

 唐突に、何もなかった方向へと言葉を投げれば、いつの間にかそこには、“国枯らし”を成したという、サキュバスたちを統べる四天王がいた。

 

「あら……気付いてたの。別に私の出る幕じゃないし、気配は消していたつもりなのに」

「それじゃあ困るって。だって、こなたじゃ勇者たちに勝てないもん。せっかく来てくれたんだし、守ってもらわなきゃさあ」

「……私の記憶が確かなら、あなた、私の部下だった気がしたけど」

「部下を守るのは上司の役目ってね。というか、こなたも忙しいから、あまり勇者たちの相手をしていたくないんだよ。何この無駄の多すぎる機構。こんなん、追記の手間が増えるだけじゃん。作ったヤツら、どんだけ後のこと考えてないのさ」

「さぁ……? その機構の大元を構築した人間はもういないから、答えられる者はいないんじゃないかしら」

 

 ぐいぐいと尾でアリスアドラの背を押し、隠れるネリネ。

 彼女にも、魔族として戦う力はあるのだろう。

 だが、それどころではないと、こちらにアリスアドラを嗾けている――本来、彼女を守る立場であるのだろうに。

 

「というわけで、質問終わりでいい? こなた、これの改変を急がないといけないから。キミたちに壊される前にね」

 

 魔王の楔――アリスアドラ曰く、理想の世界を実現させられる機構。

 それはどうやら、すぐさま発動できるものでもないらしい。

 ネリネが手で楔に触れれば、そこから波紋のようにその魔力が広がっていき、楔に浸透していく。

 彼女の願いが書き込まれているのだと、直感で理解できた。あれは完了させてはいけないものだ。

 

「――待ちたまえ。キミ、どんな世界を求めているんだい?」

 

 だが、踏み込む前に、イリスティーラがネリネに問いを投げた。

 必ずしも聞くべきことではないが、ネリネにはナイトラクサ全体をこうしてしまえるほどに、あの楔を使う動機がある。

 その問いに対して、ネリネは僅かに首を傾げた後、初めてその表情に確かな喜びを表した。

 

「こなたの望みはたった一つ。みんなに真実を知らしめること。こなたの真実が、誰もにとっての当たり前になった世界」

「……その、真実というのは?」

「キッヒヒ、今は言っても分からないだろうけど。いいよ、教えてあげる」

 

 その問いに、ネリネは楔から手を離し、イリスティーラに向き直って答える。

 言いたくて堪らない――そんな歓喜があった。

 

「空の先にあるもの」

「は……?」

 

 指さした先は、結界で閉じられた暗闇の空。

 だが、ネリネが言っているのはそれではない――僕たちが普段見ている、本当の空の方。

 

「空は星々を描いた天井なんかじゃない。星ってのは、その先に在るものの無限の瞳。果てしなく広がる海からこちらを睥睨する、遥か上位のなにかの意思」

「……何を言っているんだい?」

「始まりの混沌、自然の最果て――かつて八つへと分かれた大いなるものは、こなたが考察するにかれらの一個体さ。……その真実を、こなた以外誰も知らない。誰もが、空の向こうの新天地を、或いは脅威を知らないで生きている」

 

 星のまたたく瞳には、これまで知り合った誰とも違う狂気があった。

 自分の中だけで構築された世界観。そう断言できるほど、荒唐無稽な話である筈なのに、ネリネはそれを認識していない。

 事実であると、心の底から信じていて、それを誰かと共有できることを、この上ない幸福だと感じている。

 

「空はこなたに知恵をくれた。存在の証明として、落とし子の種をくれた」

「ッ――!」

 

 歓喜とともに掲げられた尾が抱える、大きな植木鉢。

 そこから突如飛び出した触手の群れ――咄嗟に魔剣を振り払い、それをどうにか迎撃する。

 あれは……ローパー?

 『勇蝕写本(ポラリス)』とはまるで違う。伸縮する黒い触手から――深い深い感情が流れ込んでくる。

 

 ――――■■■■■ こんにちは こんにちは。 すてきな あなた。

 

 ――――はじめ まして。 この■■の いのち。

 

 ――――こなたと はじめて つながった あなた。 あなたに つたえたい。

 

 ――――こなたを にんしき して。 こなたの なまえ――――

 

「ぐ……ぅ……ッ!」

「ユーリ――!?」

「ユーリくん!?」

 

 流れ込むだけではない。凄まじい速度で深奥まで迫り、手を伸ばしてきたそれを、反射的に拒絶する。

 嫌な寒気だけが、胸の内に残っている。

 今の感情は、確かにあの触手から流れてきた。あの魔族は、確かに僕に向けてコンタクトを取ってきた。

 だが、ただ接触しようとしてきただけではない。何かを伝えようとしていた。

 ――あれを受け入れていれば、今頃僕は僕でなくなっていた。ほとんど確信だった。

 

「キッヒヒ……この子にある混沌を、空の向こうの混沌を、誰もが共有する。そのために、こなたは楔を使って、世界に働きかける。かなたの全てはこなたなれ。こなたと全ては、一つにならん……ってね」

 

 あの感覚が、ネリネの望みの先にあるものなのだとしたら。

 その願望を絶対に、あの楔に叶えさせてはならない――!

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