凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「どう? 理解してくれた? こなたにこれを、譲ってくれる気になった?」
今の話を聞いたことで、共感を得られるだろうと。
僕たちが賛同して、この場が丸く収まると、本気で信じていたのだろう。
星のきらめく瞳からは、期待の感情が出力されていた。
「……無理だ。キミの言いたいこと――したいことは、少しも理解できない。ただ、一つだけ……それは絶対に叶えちゃいけないことだってことは、理解できる」
「……はぁ? 理解できないのに一丁前に否定はするって? まったく、未知を恐れるのは、ちょっと力を持ったヤツの悪い癖だよね。ううん――いいよ、それでも」
一転、声色に苛立ちが乗ったのは、ほんの僅かな間だけ。
もう少しで、その悲願が実現するのだから、今目の前の人間が否定してきたところで関係ない。
そう判断したようで、ネリネは再び楔の方へと戻っていく。
「すぐにみんな理解するんだ。こなたに見える真実を。キミは何を思うのかな。そのままでいられて、勇者を続けられる? 勇者でいるためのちっぽけな夢を、忘れないでいられる?」
「そんな心配はいらないよ。僕たちは、僕たちの望む世界のために、キミの望みを否定する」
「ふぅん? やっぱり、キミもこれを使うんだ。用意された機械に縋るって、それ魔王様に屈するようなものだけどね?」
「勘違いしないで。僕たちは、それを使うつもりなんてない」
断固として告げる。
アリスアドラが、興味深そうに首を傾げた。
「僕たちは、それを壊しに来たんだ。魔王を真の意味で倒すために」
「……あぁ、魔王様のバックアップってあれか。大変だね、四つの試練が終わったら、そんなおまけが付いてきたってわけ。……ま、いっか、どうでも。キミたちとこなたがこれを取り合うって事実は変わりないんだしさ」
楔に手を置いて、ネリネはそこに願いを込める。
これ以上話している時間も惜しい。こうしている間に、まだ助かっている者が手にかかることだって考えられるのだ。
一斉に構えれば、ネリネは興味薄そうに鼻を鳴らした。
「それじゃ、こなたはこっちに集中するから。アリスサマ、あとよろしくー」
「別にいいけど――あなた……自分で守る手段とか用意していないの……?」
「あるけど、アリスサマいるし……でも、念には念を、かぁ。助っ人を呼んでおくから、やっぱりそれまではアリスサマに頼るね」
「ああ、そう……本当に相変わらずねえ、あなた」
溜息をつきながら――ネリネを守るように、アリスアドラが立ちはだかる。
肌を縫うような熱さが、甘い匂いが、外装越しにまで伝わってきた。
外装の守りを貫くほどの淫気を、リッカが慌てて対応した。
少しだけ楽になり、軽くなった体の調子を確かめる。大丈夫――戦える。
「それじゃあ……ちょっとだけ遊びましょうか」
「……僕たちは遊び気分じゃないですけどね……少しの加減も出来ませんよ」
「求めてないわぁ。せっかくの機会だもの……退屈させないでくれると嬉しいのだけど」
今にも眠ってしまいそうに、目を蕩けさせたアリスアドラ。
その体がゆっくりと、そのまま倒れるのではというほどに揺れていき――
「ッ――――!」
次の瞬間の、事の起こりを目にするよりも先に、魔剣を盾にして衝撃を防いだ。
後退って衝撃を逃がしても、魔剣から手に痺れが伝わってくる。
叩きつけられた拳は完全に握り込まれてはいない。アリスアドラは軽く体勢を低くしているだけで、それらしい構えを取っている訳でもなかった。
「……あら、意外。私の初撃が、防がれるなんて――」
言葉を途中で途切れさせたアリスアドラは、そのまま起き上がらず崩れ落ちかけた。
それを隙と見て踏み込んだクイールが聖剣を振り下ろし――両断されるよりも先に、霞のようにその場から消える。
「ぅあ――っ!」
「クイールッ!」
いつの間にかクイールの背後に立っていたアリスアドラの、決して鋭いとは言えない蹴り。
クイールが吹き飛ばされるも、片足が浮き上がった状態で避けられないと踏んだのか、イリスティーラは攻撃を優先した。
銃口から放たれた閃光は、しかし標的を捉えることはなく、引き金を引くよりも先にアリスアドラに手首を掴まれていた。
「……うん。やっぱり、あなたたちには驚かされるわぁ」
その五秒にも満たない連撃から、イリスティーラに意識を向けているその一瞬が隙になるなんて思わなかったが、それでもイリスティーラから引き離すために、魔剣を振るう。
アリスアドラの手首を狙った斬撃は、捉えた感触があったにも関わらず、空振りに終わる。
しかし誰に対しても追撃はない。
――ナディアが誰もいないところへ向けて振るった円形の大刃を、アリスアドラは肩肘と片膝で挟み込むように受け止めていた。
「……ナディアちゃんよね? 初めて私を捉えたのが、あなただなんてねぇ。強くなった、みたいじゃないの。どうやって、私の動きを、読んだのかしら」
「あなたに感慨を覚えられる謂れはありません。そして、何か仕掛けがあったとして、敵であるあなたに伝えるとでも?」
「まあ、無理に聞いたりはしないわぁ。それで対策が思いついても、つまらないもの」
ギリギリと刃は唸りを上げつつも、その拮抗は動かない。
あの武装は、刃を凄まじい勢いで回転させることで驚異的な破壊力を実現させるものだ。
しかしその刃は回転することなく留まり続ける。アリスアドラは力を入れているようには見られないが、回転機構が動く様子は見られない。
状況が動かないと踏んだナディアが刃を押し込み、拮抗を崩す。
その動きに合わせて、僕も魔剣を振るう。クイールの聖剣と、イリスティーラの魔弾。三つの攻撃はやはり、その場から消え失せたアリスアドラを捉えることはなかった。
……掴みどころがない。まるで、何が起きても不思議ではない夢の中で戦っているみたいだ。
今いるここは紛れもない現実。だというのに、辺りの淫気も相まって、アリスアドラという存在は相対したものが拠り所にしている現実感を奪ってくる。
相手の不意を突く、その独特の立ち回りは、彼女が意識して鍛え上げたものではないのだろう。
サキュバスという種族が、正しくその性質を成長させていった極致こそ、今僕たちが戦っている相手なのだ。
「みんな、強くなってる。連携も悪くない。けど……まだ、駄目ね……夢を破る経験が、あなたたちには足りていないわ」
背後。咄嗟に振り返れば、アリスアドラの尾が大口を開けて迫ってくる。
迎撃をするべきかと考え、距離を取るべきだと思い直し、地を蹴ろうとして――
――――はいれた。 はい れた。 こんにちは すてきな あなた。
「な、……!?」
「ユーリ……っ!?」
頭の中から、体の内から、直接囁かれるような、初めての感覚。
それは、先ほど流れ込んできた深い感情。
拒絶した筈のそれが、僕にもう一度手を伸ばしてきて――僕が何をする前に、繋がった。
感情はあまりにも一方的で、もう一度拒絶しようとした意識がそちらに奪われる。
――魔剣にアリスアドラの尾が喰らいつくのに、十分すぎる隙だった。
「くっ、ぅ……!」
それを振り払おうと、魔剣に魔力を込め、術式を起動する。
食らいついた刀身に直接、高い威力を発現させれば捉えられる――少なくとも、彼女は魔剣を手放すと判断して。
『ッ――――ユーリ、駄目っ!』
「え――」
「あら……駄目じゃない。自分から手を伸ばしてきたら……」
声を上げたラフィーナの制止は一歩遅く、魔力を流し込んだ直後だった。
そして、それを認識したのはさらに数秒後。体に違和感を感じてから。
――魔力が、そしてそれに巻き込まれて、失ってはいけないナニカが急速に体から失われていく感覚。
「……ぁ」
「ユーリくん……? ユーリくん!」
『っ、これ、ヤバ――リッカ、拒絶! ああ、もうっ!』
風邪を引いた時のような、曖昧な感覚。
ラフィーナがその中で叫び、魔剣の刀身を自壊させることでアリスアドラの尾を振り払う。
途端に力が抜け、崩れ落ちそうになる体を、ナディアに支えられた。
「ユーリ! リッカ! 二人とも、しっかり!」
「っ……大丈夫。けど、今のは……」
僕たちの前にクイールとイリスティーラが立つ。
すぐにそこに並ぶために立とうとするが、どうにも力が入らない。
「
楔に手を当てながら、ネリネが意外そうに言葉を投げてくる。
サキュバスによる捕食――その真髄を、これまで知らないでいた。
ラフィーナからも、ジルからも、知り合ったサキュバスからそれを受けることはなかったが……本来は、これこそが彼女たちの正しい在り方。
思考が上手く纏まらない。この酩酊感から始まれば、抵抗する気力もすぐになくなってしまうのだろう。
「本来は粘膜接触を介してしか出来ないんだけどね。アリスサマだけは特別ってわけ。数秒でも“国枯らし”の絶技に耐えられるなんて、勇者って凄いんだねぇ。……殺すの、勿体なくなってきたかも」
「今ので、ネシュアを……?」
「今のは反射だし、あの時ほど吸うつもりだった訳じゃないけど……ナディアちゃん、安心して? あの時吸った人間たち――最後は至高の快楽の中だったって、私が保障、するから」
「……どこまでも、人を馬鹿に……!」
「抑えて、ナディア」
まだ戦える。動く気力が吸われたのであれば、内に燃える勇気をもって補えばいい。
それが尽きない限り、僕は戦い続けられる。それが、リッカと共にある、僕の力だ。
刃の割れた魔剣を杖にして立ち上がる。もう武装として使えないことは明らかだった。
「……それにしても、そこにいたのね。ラフィーナちゃん」
『――――アリスアドラ、様』
ラフィーナとアリスアドラに面識があるのなら、声を上げれば当然気付くだろう。
自身の狂気を基にした魔剣。そこから表出されていた意識は、行方知れずになった『初戦試験官』のものであると。
「ユーリくんが私を拒絶できたの、あなたの判断でしょ? 立派になったわぁ。イルミナも誇らしいって、思ってるはずよ」
『アリスアドラ様、私は……』
「怯える必要はないわぁ。私はあなたの、そういうところを、好ましいと思ったんだから」
明確に想定と違うだろう、ラフィーナの今の立ち位置を、アリスアドラはいとも容易く肯定した。
その独立は、アリスアドラにとって新鮮なものであったからか。
「ラフィーナ? ああ、今回の『初戦試験官』だっけ。なんだって剣になってるわけ? 勇者の専属オペレーターに転職した?」
「そうみたいねぇ。いいわ、連れ戻したりはしない。私に抗える子なんて、これまでいなかったわ。それがあなたであるのなら、どこまでもユーリくんたちを強くしてあげなさいな」
『……はい』
アリスアドラと出会えばどうなるか分からないと、ラフィーナは再三言っていた。
だが、ここでラフィーナは、自分の意思でこちら側に立ってくれた。
それは、ラフィーナ元来の付き合いの良さから来たものかもしれないけれど――そこにひどく安心する自分がいた。
魔剣の刀身が修復していく。ラフィーナが働きかけているのだろう。
今の彼女なら、アリスアドラの狂気に屈することなく、共に戦ってくれる。ならば、負けることはない。
「……それで? ネリネ、助っ人とやらはまだ来ないの?」
「アリスサマだけで勝てるじゃん……ま、いっか」
いつの間にか取り戻した気力で、一歩前に出ようとして。
「それじゃあ、はい。これで勇者たちは詰みってことで」
――大したことではないかのように変わらない調子で発動させた転移魔法。
一人の魔族をこの場に呼び寄せるというたった一手で、ネリネは状況を決定的に変えた。
「――――――――」
後退するアリスアドラと、僕たちとの間に転移してきた、その魔族。
薄汚れた真紅の装束と、元は不気味な程に白かった筈の、黒ずんだ肌。
爛々と輝く、赤い瞳だけが、かつて戦った僕たちの知る彼女と変わらない特徴だった。
「キミは……!」
「――――――――ああ。やっと会えた」
それは、かつてこのナイトラクサという街を支配していた二人のヴァンパイアの片割れ。
一人、リッカの判断でこの街に残され、先ほど噂を聞いたばかりの、落ちぶれた魔族。
彼女――ヴァージニアが浮かべた笑みには、血色の復讐心が滲んでいた。
「この日を――この日を、ずっと待っていたッ!」
「くっ……!」
「ユーリくん!」
僅かな動作で地面を強く蹴り、飛び掛かってきたヴァージニアの爪を、クイールと共に受け止める。
その瞬間、感じたことのない重圧に膝を突く。踏みしめていたナイトラクサの道に、一瞬で罅が入った。
「お前たちがこの街にさえ来なければ! 私が苦痛と屈辱に塗れることも! ルメリーシャが死ぬこともなかった!」
「三人とも――ッあ!?」
振り回された足を受け止め切れず、胸に受けた衝撃に息が詰まる。
クイールも、フォローのために駆けてきたナディアたちも、たったその動きだけで生じた瞬間的な風圧に吹き飛ばされた。
「――ヴァンパイアってのはこの時代じゃ珍しいほどに、血統を重んじるんだ。高貴なプライドを持っているヤツほど、他種と交わるのを嫌う。人間なんて、肌を見せるにさえ及ばない下賤な獣としか映らない」
続けざまにヴァージニアの爪から伸ばされる、血液の奔流。
炎のように苛烈に、刃のように鋭利に舞う血は、鞭の如く魔剣を弾き飛ばし、がら空きになった懐に飛び込んで、外装を貫いてきた。
「そんな中でもとびっきりのお貴族様ってのがいてね。最悪のヴァンパイアたる
その痛みに、屈する訳にはいかない。
まともにヴァージニアと戦ったのは初めてだ。まさか、これほどの力を持っているとは思わなかった。
だが、僕たちはそれ以上の強敵とも戦ってきた。同じように――突破する手立てはある筈だ。
「この街の教会にこびり付いた、彼女の血。こなたはそれを、裏路地で“公衆トイレ”になっていた彼女に打ち込んであげたの。落ちぶれた力は一気に元通り……ううん、それ以上。
「……ネリネ。多分、誰も聞いてないと思うわよ」
「えー」
イリスティーラの撃ち込んだ弾丸を、ヴァージニアはその体で受けた。
麻痺や毒――組み込んだであろう異常は発現せず、僕とクイールの斬撃を容易く鷲掴みにする。
その隙に放たれた、ナディアの武装による嵐のような弾丸が、ヴァージニアを蜂の巣にするが――その射撃が終わるよりも前に移動し逃れると、即座に損傷を再生。
反撃とばかりにナディアの武装を蹴り上げ、その砲身を粉砕した。
「くっ……リッカ、こうなったら――!」
「……ん――」
圧倒的な再生能力と身体能力。それを上回る火力か、速度。
僕たちにある手札で最適なものは、リッカが有する力。あの外装の力を借りれば、再生速度を超えた攻撃を実現できる。
リッカにあまり無理はさせられない。可能な限り最短で決着をつける。
そう決意して、リッカと共に術式を起動して――――
――――力が抜けるとともに、外装が解れ、リッカがその場に倒れ込んだ。
『なっ――』
「……リッカ?」
「リッカちゃん!? 何が……、ユーリくん、前――っ!」
はじめに、手に持っていた魔剣が消失した。
その事実を正しく認識するよりも前に、クイールの叫びが聞こえて。
咄嗟に前に目を向けた直後、ヴァージニアの爪は砂でも掻き分けるように抵抗なく、僕の体を斜めに裂いた。
「 」
声は出なかった。その直後に受けたヴァージニアの蹴りがやけにスローに感じられた。
吹き飛ぶ体の、手を伸ばした。
致命傷を負ったことよりも、リッカから離れたくないという気持ちから。
けれど、目を閉じて倒れるリッカに届く筈もなく、壁に叩きつけられて、腕の感覚もなくなってしまう。
「あれー……? アリスサマ、もしかして勇者だけじゃなくて、そこにいる子も吸っちゃったわけ?」
「ん……そんなつもりは、なかったけど。ユーリくんとリッカちゃん、よほど深く、繋がっていたのねぇ」
「ふーん。体は無事なのに、枯れ切ってるよ。よほど無茶していたんだね、あの子。――はいはい、ヴァージニア、戻って。一旦戻ってー」
意思とは正反対に、なんの抵抗もなく体は倒れて、動かなくなる。
首は“どうでもいい方向”に向いて、リッカが見えなくなってしまった。
それどころか、リッカとのつながりが感じられない。そんなこと、これまでなかったというのに。
「え……? あれ、ユーリくん――リッカちゃん……?」
「リッカ! ユーリッ! しっかりなさい! 一体、何をして――」
「っ……まさか、こんな……!」
轟々と耳の奥でノイズが鳴り響き、どの声が誰の声なのか判然としない。
「ともあれ……あなたの勝ち、なのかしらね。ネリネ」
「みたいだね。珍しい見世物ではあったけど……まあ、これが道理。勇者の最期ってのはいつだって、かわいそうなほど呆気ないんだよねぇ」
けれど、そんな中で、なおもはっきりと聞こえてくる――感じ取れる、幼い感情。
――こんにちは。 こんにちは すてきな あなた。
――こなたを かんじて。 こなたを にんしき して。
こちらの状況なんて考えることなく、一方的に話しかけてくる、得体の知れない存在。
戦いの中でさえ手を伸ばし、妨害をしてきた、僕たちには理解のできない何か。
他の声が聞こえなくなってなお、その感情だけが頭の中に響いているのが、どうしようもなく不快だった。
――こなたは。 こなたの なまえは。
ああ――うるさい、うるさい。
今、感じているべきことは、これではない。
今はリッカを探さないと――必死で手を伸ばし、リッカとのつながりを、闇の向こうに求めて。
そして――意識はゆっくりと沈んでいった。
【予告】
――ここから先はエピローグ。終点の先の、ちょっとした後日談。
「こんなの……最悪のバッドエンドじゃないですかぁ……!」
――そこに平穏も幸福もなく、ただ絶望があるばかり。
「 あなたは こなたに なにを のぞむの? 」
――だから、見る必要なんてない。見たところで、後味が悪くなるだけだから。
「新たなる世界の誕生を!」
――残された者は救われず、残された謎は明かされない。ここが、五千四十の旅の果て。
「弱いユーリは……ずっとここにいればいいの」
『永遠にビー・ウィズ・U/今、終点の先で』
――……そのはずなのに、さ。なあ……俺、理解できないよ。
「――これが私の、転生特典」
――なんで、まだ諦めてないんだよ、ユーリ。
「一緒に行こう! リッカ――!」