凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「……どこまで行っても、何もないね」
どこを見ても何もない空間をただ歩くのは、不思議な感覚だった。
自分が本当に進んでいるかさえ判然としない。ただ、目の前を行くフミナが堂々としているから、疑わずに付いていけるというだけだ。
「何がある必要もないんだ。余裕がない、とも言うがな。ここから観測できる世界は膨大な数に渡る。余計なものがあると、管理の邪魔になるんだろうよ」
「管理……あの『管理人』は、ここにいる僕たちに気付かないの? 僕たちがここにいるっていうのは、彼にとって不都合だと思う」
「自覚があるようで何より。……最近あいつ、仕事増えたからな。ここまで意識が及んでいないか、或いは……分かっていて見逃しているってこともあり得るか」
「見逃して……?」
「ああ。ともあれ、その件に関しての言及は避けておきな。こっちを見ていた場合、後が怖いぜ」
何が面白いのか、くつくつと笑いながら、フミナは迷いなく歩き続ける。
相変わらず、僕には何も見えなかった。どこにいるかも分からないリッカに向けて手を伸ばすのは――ぐっと堪える。
フミナの忠告は、僕を気遣ってのものだ。この状況で唯一の希望が彼の存在。今は、彼に従うのが最適だろう。
「フミナ。キミには、この場所で方角とかが分かるような目印が感じられるの?」
「お前らの世界の座標を覚えているだけだよ。そこに向けて歩いている。安心しろ、遠くはない。状況だけ見れば、お前がそこから弾き出されただけなんだからな」
……クイールを助ける一件で、僕がかれらの力を借りた時だろうか。
かれらを介入させるために、僕はリッカのつながりを使った。
彼の言う“座標”が一体どれほどの情報量なのかは分からないが、あの時は僕たちがあの世界にかれらを招いたようなものなのだ。
彼は多分、慎重な性格。あの時点である程度の情報は回収していたのかもしれない。
「にしても、お前の方とまた関わることになるとはな。手を貸すにしても、あいつ越しになると思っていた」
「……リッカが、色々とお願いしていたんだよね」
「大したことじゃない。こっちの世界は基本的に暇なんだ。片手間で出来ることだったから、やってやったってだけだよ」
「でも……一体いつから? いつからリッカはキミたちの存在を知って、それで、どうやって交流をしていたの?」
「……あー」
リッカはかれらについて、詳しいことを話そうとはしない。本来、僕が知るべきことではないのだろう。
だが、こうして直接出会い、手を借りることになった以上、聞けることは聞いてしまおうと思った。
フミナは足を止め、言葉を選ぶ素振りを見せる。
「いつからだと聞かれれば、お前たちで言う“今回”が始まってからだ。“どうやって”は……俺が教えて良いものかな、これ。一応、俺たちが共通で持っている手段でやり取りしていたとは言っておく」
「それって、僕も使えないの? ――いや、待って。確か、『管理人』が言ってた。僕が、リッカの何かを使って、ここに不正アクセスしていたって」
「無意識に出来ることじゃねえけどな……他の世界と繋がるってのは、それこそ特別な才能だ。一つの世界に、多くても一人。お前の世界の場合、それがあいつだった」
それは、魔王の繰り返しの影響……いや、違う。
リッカが特別だってことは、ずっと前から分かっていた。
リッカはああなる前から、自分の特別性というものを自認して、体の弱さに見合わない無茶をやらかしていた。
かれらに頼ったのは“今回”から。それでも――その特別性というものは、あの頃から自覚していたのかもしれない。
「まあ、誇れる才能じゃねえ。アクセス手段を持っていても、気付かないヤツもいる。それに、俺らは基本的に観客なんだよ。大半は、誰かを助ける気なんざない。奇行を煽り、偉業を批評し、失敗を肴に酒を楽しむ。どこかの世界では救世主でも、他の世界にとってはろくでなしって訳だ」
「えぇ……」
かれらに抱いていた印象とはまるで反対の自己評価。或いは、僕が抱いていたどこか超常的な印象が過大評価に過ぎなかったのかもしれないが。
……少しだけ、納得できる部分もあった。主に彼を“相棒”と呼ぶ彼女の言動を思い返すと。
そんなかれらに頼らざるを得ないほど、リッカは追い込まれていたのだ。かれらを杖としなければ、歩くこともままならないほどに。
「……でも、そんな中で、キミはリッカを助けてくれたんだね」
「乗り掛かった船……ってやつだ。そういう性格なんだよ。ここまでやったんだ。最善にしろ最悪にしろ――納得のいく結末は迎えてもらわねえと俺が困る」
「心配しないで。僕たちは、ハッピーエンドに辿り着く。――まだ、終わってない」
今がどんな状況なのか、未だに良く分からない。
きっと事態は最悪に近い。リッカが倒れていたこと、そして僕が受けたのが致命傷であることは事実だから。
けれど、僕はまだこうして思考し、前に進むことが出来ている。であれば、まだ最悪ではない。まだいくらでも挽回できる。
「……こうして直に会うと、余計に眩しいな」
「え?」
こちらに振り向かないまま、どこか声色に苦みを含んで、彼は呟いた。
「俺らがこうして他の世界に目を向けるのは、大抵その生涯でやることを終えてからだ。世界の行く末にも、他者の未来にも関心がなくなった連中の、数少ない拠り所。それが、他の世界とのコミュニティだ」
「……」
「……俺の世界はもう、まともに人も残っちゃいない。尚更、眩しく映るんだよ。お前みたいな、真っ直ぐな勇者ってのは」
柄でもないことを言った、とフミナは足を速める。
それに付いていきつつ、かれら――リッカの支援者たちのことを考える。
リッカがどれだけの情報を開示して協力を仰いでいるかは分からないが、僕たちの旅は、関心の薄れたかれらにとって娯楽であるのだろう。
複雑に思う気持ちは、ない訳でもない。僕たちにとっては命がけで、自分たちが現在進行形で形作っている物語なのだから。
だが、僕は自分の価値観を――リッカのために生きる在り方を、誰に対しても恥じるつもりはない。他の世界の誰にだって、胸を張って宣言できる。
だからこそかれらに、どのような形であれ輝きを灯せるのならば、悪くない。
いつかの、楽しみを追い求める妖精たちとの演劇もそうだ。
その生きざまで誰かを照らせる。その生きざまが誰かを動かせる。そうした、誇らしいつながり。
「……そっか」
自覚してみれば、感じ取れる。どこか、ほんの少しの縁さえない世界との――細い細い、油断すれば容易く千切れてしまうほどのつながり。
それが、生に飽きて捻くれた誰かの、ひどく遠回しな応援であると思えば、自然と笑みも零れた。
そんな状況ではない筈なのに、足取りも軽くなる。それどころか、背中を押されているように、足が自然と前に進む。
「……?」
早足で歩いていたフミナに並ぶ。
怪訝な表情で見下ろしてくる彼を、胸の内にあるつながりを感じながら見上げた。
「誰かの楽しみのために戦っている訳じゃないから、キミたちを優先することは出来ないけど、ハッピーエンドに向かう僕たちを求めているなら、この先も損はさせない」
「――――」
「――ここに来ていない皆に、そう伝えておいて。フミナなら出来るんでしょ?」
大言壮語のつもりはない。だって、僕はまだ諦めていないのだから。
その鋭い目を見開いて、歩みを止めるほど呆気に取られていたフミナは、数秒後に再起動する。
次の表情は、苦笑だった。荒い口調からは想像できないほど、穏やかな苦笑の後、おもむろに頭に手が置かれる。
「……ネキがいなくて良かったな。下手したらお前、ここでバッドエンドだったぞ」
「えっ」
意味の分からない、突然の宣告。
“ネキ”とはもう片方の、虹色の彼女のことだったか。
彼女がいたら何が起きていたのか――いや、あまり考えるのも良くない気がした。
この思考を縁にしてこちらに飛んでくる可能性を、あり得ないと思いつつも否定し切れなかったのだ。
「さて、この先だ」
妙な疑問を残したままにフミナは再度歩き始め、程なくして立ち止まる。
それまでと何か景色が変わった様子はない。同じ場所に留まって、歩いていると錯覚していただけと言われても納得するほど、周囲は白い景色のままだ。
だが、フミナからすればそうではなく、最初から目指していた目的地に辿り着いたらしい。
「ここは、お前たちと初めて会った時の座標だ。お前たちの世界から一番近い、この転生領域の末端。あの世界に戻るのなら、ここがやりやすい筈だ」
「ここが……」
『管理人』に連れて来られて訪れた場所。リッカの旅路を知った場所。
懐かしさは感じられなかった。どこまでも景色は変わらなくて、ここをあの時の場所とは結び付けられない。
けれど確かに、元の世界に戻るのならば、最も近い場所からというのは道理だ。
「……でも、どうやって?」
「俺が自分の世界に戻るのとはワケが違うからな……あまり俺もはっきり言えることじゃねえが、お前の力が使える筈だ」
「僕の、力……」
誰かとつながる力。目の前の彼や、どこかの世界の誰かと、現在進行形で結ばれる、目には見えないつながり。
ここに来てからというものの、元の世界で当たり前のように感じていた、親しい者たちとのつながりはひどく薄れている。
――だが、消えた訳ではない。
どれだけ薄く、細くとも、集中すれば感じられる。
クイールとの絆。イリスティーラとの絆。ナディアとの絆。カルラとの絆。
そして――――リッカとの絆もまだ、断ち切られてはいない。それは、まだ手遅れにはなっていないことへの、僕が最も信頼できる証明だ。
「これを手繰って……ううん、違う。このつながりで、フミナを引っ張ったように……僕の方があっちに引き寄せられれば良いってことだね」
「――なるほど、感覚的にそこまで理解するのか。本当、応用と解釈次第で何でもできる力だな」
フミナの言う通り。この見えないつながりは、僕がこれまで誰かとの絆の確証として感じてきただけのものよりも、ずっと広い使い方がある。
はじめの、自覚した頃の僕とは違う。今ならもっと、深くこの力を理解することもできる。
うん……問題ない。ここから元の世界に、飛べる。
「なら、急げ。そして、油断するんじゃねえぞ。経験則だが、お前にとっての試練は、ここからだ」
「……ただ戻って解決って訳じゃないんだね」
「お約束ってヤツだ。絶望からの逆転も、そのために必要な苦難もな。それを見られないのは少しばかり残念だし、お前を一人送り出すってのも大いに不安だが……やれるな?」
ここから先は、僕たちの世界。当然、フミナがこの先に付いては来られないのだろう。
試練とやらが僕たちの世界で起きることならば、それに挑むのは僕の役目だ。
迷うまでもなく、成し遂げるしかない。力強く、僕は彼に頷いて見せた。
「もちろん。それに、僕は一人じゃない。応援してくれているんでしょ?」
「……敵わねえな。さあ、行けよ、ユーリ。振り返らず、躊躇うな。宣言したんだ、ハッピーエンドを遂げて見せろ」
「任せて。それじゃあ――ありがとう、フミナ」
“向こう”へのつながりを強く意識し、引っ張るように、飛ぶ。
それを感覚で実行するだけでいい。あとはこの絆が、導いてくれる。
背中に感じる、彼の気配が遠くなっていく。空間を超えて、世界観を超えて、当たり前の僕の世界の、還るべき場所へと降り立って――――
「……ここは?」
一度、まばたきして、目を開けた時に広がっていたのは、見たことのない景色。
先ほどまでの真っ白な空間ではない。そこには色があって、形もある。けれど、見知った光景ではなかった。
空はどこまでも続く銀色。ほんの少し前までは縁がなくて、試練が終盤に至ってから、不自然なほど関わり始めた、自然の極致たる冥界の色。
「……」
僕が立っているのは、薄く色がついた、大きな半透明の箱の上。
宙に浮いているらしきその箱以外にも、届かないほど遠くにいくつもの箱が浮いている。
……感じ方によっては、転生領域よりも不可思議な空間だ。
ただ静かなだけではない。穏やかで――心地良い。ただ立っているだけで、揺り籠の中にいるかのようなあたたかさが、僕を包もうとする。
「……?」
とにかく、この場所が一体どこなのか、それが分からなければ何をすればいいかも分からない。
ひとまず一番近くの手掛かりである、僕が立っている箱を調べてみようと、そこに膝をつこうとして――遠くから飛んでくる何かが目に入った。
小さな気配、小さな魔力、小さな姿。
近付いてきてもその姿は小さいまま。その二人の魔族は誰だったのかと、思い出すのに少々の時間を要した。
「キミ、たちは……」
出会ったのは旅を始めて、間もない頃だった。
その頃とは、姿も、気配の質も、少しだけ違っている気がするけれど。
今だからこそ自覚できるつながりが、勘違いではないことを何よりも証明していた。
自由な魔族たちは、その小さな羽で僕の傍まで飛んできて、いつかと同じ無邪気な笑みを向けてきた。
「――うぇるかむ・とぅ・あんだーぐらうんど。ようこそクソスぺ勇者」
「やはりメリーなシーズンか。いつシャケ食う? 私たちも相伴にあずかる」
何やらもぞもぞと動く白い袋を抱え、赤い帽子を被った――かつて戦った、二人の
【フミナ】
辞書。仕方ないのでユーリを元の世界に戻すナビを請け負った。
擦り切れ気味の転生者のため、ユーリの天然の輝きに弱い。会ったのが生前じゃなくて良かったと思ってる。
ユーリの能力の可能性について調べたかったが、そろそろ管理人に気付かれそうだったのでさっさと送り出した。
この後、件のユーリの発言をスレで書き込んでどこぞのゲーミングサキュバスを筆頭としたりっかりかサポーターの転生者たちに大ダメージを与えた。
割と優越感に浸っていて思考力が落ちているため、この後「なんで選ばれたのがお前なんだよ」と詰められることは気付けていない。
【ユーリ】
対転生者:A+
天然の魂の輝きにより、転生者に対するあらゆる判定を有利にする存在感。
主に人生に疲れた転生者を絆しやすく、その真っ直ぐな意思を前にすると、如何に否定的でも「助けないといけない空気」という圧力を感じるのだと言う。
【シナト&トノカ】
主にクリスマスシーズンに出没する特級危険生物。更新が遅いのが悪い。
【シャケ】
「クリスマスっつったらシャケだろ!」