凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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永遠にビー・ウィズ・U/今、終点の先で(4)

 

 

 きゃっきゃとはしゃいで飛び回る、二人の妖精は、周囲の景色を異常と捉えている様子がなかった。

 というか、既に僕のことも意識から外れている気がする。

 事態を呑み込むまでに妖精たちは興味を切り替え、追いかけっこをしていた。

 ――赤い帽子と袋は、用事が済んだとばかりにその辺に投げ捨てられている。袋からはどこから持ってきたのか、数匹の小魚が飛び出し、跳ねていた。

 

「……ねえ、キミたち」

「ん? なあにー?」

「もしかして新しいあそびをおもいついたの? やったあ! 混ぜてー!」

「ちょ、ちょっと……!」

 

 僕の指を抱えるように持って、そのまま持ち上げようとする二人を止める。

 声を掛けるだけで、それが遊びの合図だと解釈する――それが当然とばかりの自由さにかすかな頭痛を覚えるが、それに屈している場合ではない。

 現状、この空間における唯一の手掛かりなのだ。

 

「待って――教えて、ここはどこなの?」

「んー? あはは! 変なこと聞くね。ここがどこなのか、わからないんだって!」

「笑っちゃ駄目だよ、シナト。知らなくて当たり前なんだもん。だってここは、新しいせかいなんだから」

「新しい、世界……?」

 

 思わず聞き返すと、二人は揃って頷いた。

 

「ここはね、りっかりかがつくった、新しいせかいなの!」

 

 ……“りっかりか”?

 奇妙な呼称だが――それが意味するところは、なんとなく分かる。

 

「……ここは、リッカが作った世界なの?」

「そう、その通り!」

「りっかの絶望、りっかの希望、二つ合わせてチンしたものがこちらになります」

「言うなれば創世三分クッキング」

「……」

 

 二人の言葉は殆ど意味を持っていないものの、確かに僕が認識するべき、重要な文言は存在していた。

 リッカの絶望、リッカの希望。詳細は不明ながら、それらによってリッカが作り出した空間。

 ――そう解釈すべき場所を、僕はたった一つ、知っている。どのような場所なのか、一体どこにあるのかも分からないけれど、それの存在は知っている。

 僕自身は見たことがない、リッカが管理する――倒した魔族たちを収容する空間だ。

 

「……リッカの、世界」

 

 そう意識してみれば、この不自然なほどの心地良さも納得できる。

 この空間は知らないけれど、リッカのことは誰よりも知っている。そんな、僕であるがゆえの、親しみのある違和感なのだ。

 きっと、他の誰かにとっては、ここは決して心地良い場所なのではない。リッカの憎悪を、恐怖を知っているからこそ、それが理解できる。

 だが、そんな気配は、少なくともこの数メートルの立方体の上では感じ取れなかった。

 リッカがどこかにいるかさえも判然としない。目の前の、二人の妖精にも――誰にもつながりの手を伸ばせそうにない場所。

 

「……ねえ、キミたち。教えてほしい――この空間にリッカはいるの?」

「うん、いるよ! ここからずぅっと、ずぅっと遠く!」

「キミでは辿り着けないくらい険しい道を、ずっとずっと歩いた先!」

 

 ……何故それを知っているのか、そもそも、この空間にいてこの二人の妖精はどうして自由で在れるのか。

 先ほど、世界の外でさえ感じ取れたリッカとの絆が、どうしてリッカの空間の中で感じ取ることができないのか。

 その辺りの答えは出ないけれど、この二人の言葉を手がかりとして考えるしか、今の希望はない。

 どこかにリッカがいる。手の届かない、遥か向こう。

 感覚を集中させてみても、何も指先に触れるものはない。胸中の不安を握り潰す。

 

「……それでも僕は、リッカに会いに行きたい。教えてくれないかな、リッカがどこにいるのか」

「いいよ! さ、こっちこっち!」

 

 手招きをする二人に向けて、少しだけ足を進める。

 どちらに歩いても、すぐに箱の端にまで辿り着いてしまう。

 この真下には、何も見えない。ただどこまでも、薄い銀色の靄で包まれているだけだ。

 それを覗き込む――早くリッカのもとに辿り着かんという焦りから、妖精たちの前でそんなことをする意味を、その瞬間の僕は忘却していた。

 

「一名様、ごあんないしまーす!」

「崖落ちは生存フラグだっ!」

「え――――、ッ!?」

 

 背中を二人に押され、堪えることも出来ず前に踏み出してしまう。

 当然その先に足場などなく、空を切った足は何も踏みしめない。

 戻ることはかなわず――手遅れだと気付いた時には僕は落下しており、立っていた箱は見上げる遥か上方にあった。

 

「うわ、ぁ……っ!」

「落っちるー!」

「きゃはははははっ!」

「なんでキミたちまでいるの!?」

 

 羽を持ち、先ほどまで僕の周りを飛んでいた筈の妖精たち。

 二人は何故か僕の腕にしがみ付き、共に落下していた。

 

「だって面白そうなんだもん!」

「バンジージャンプーっ!」

「紐は!?」

「キミ、いいツッコミしてるね!」

「苗床チームに入らないか!」

 

 耳元で騒ぎ立てながら一緒に落ちる二人が何をしてくれるということもない。

 もがいても、何も掴めない。真下に目を向けても、景色は一向に変わらず、銀色の靄も近付かない。

 体感で数分もすれば、自分が本当に落ちているかさえ、判然としなくなってきた。

 

「……」

 

 ふわふわと浮いているような。ゆらゆらと揺れているような。

 どの方向を見ても何もない、妖精たちが何を言っているかも、少しずつわからなくなって。

 柔らかな感触に身を任せていれば、なんの不安を感じる必要もないと、本能が理解している。

 景色は変わらないから、もう目を開いている必要はなくて。

 傍の騒ぎも気にならないから、耳でさえ必要がなくて。

 

「……」

 

 ――そこは、至上の揺り籠。

 ただ全身で、この心地よさを甘受していればいい。それを、この空間は僕に求めている。

 声を上げることも、違和感を持つことも、愚かでしかない。

 だから、このままこの場で、目を閉じてしまえばいい。何もかもを捨て去ってしまえるような安らかな眠りに、身も心も委ねてしまえばいい。

 

 遠いいつかの毎晩のような眠りへの誘惑が、脳に浸み込むように思考を奪っていく。

 思い返せば、それが僕たちにとってのしあわせだった。

 

 僕にとって――僕たちにとっての日常。幸福の象徴。

 当たり前のように、カルラや、リッカと――――

 

「――――リッカ」

 

 …………駄目だろう。この、仮初の幸福に溺れてしまっては。

 目を閉じて、眠ってしまえば、何も考えずにすべてを終えることが出来たのだろう。それは確かに、一つの正しい終わりの形なのかもしれない。

 だけど、そんな普遍的な終わりを、僕は求めていない。足掻いて、足掻いて、その先にある最上を求めて歩き出したのだろう。

 たとえこの空間がリッカのもので、この眠りがリッカの求めるものなのだとしても、僕は認められない。

 

「……背中を押されたばかりなんだ。この世界じゃない、どこかのみんなに」

 

 誰とのつながりも感じられないこの場所でも、フミナや他のみんなが背中を押してくれたことに変わりはない。

 その直後に、ここで目を閉じてしまうなど、かれらにとって興醒めも良いところだろう。

 まだ“詰んだ”という確信はない。諦めていなければ、まだ足掻く方法はどこかに存在している筈だ。

 だから、この安寧に抵抗する。

 今の僕には、まだそれは必要ない。これを享受するのは、すべてが終わった後でいい。

 そして、穏やかな幸福を噛み締めるのであれば、この何も見えず、感じもしない場所ではなくて。

 

 リッカとカルラがいる、いつかのような日常の中でなければならない。

 

「ここでどれだけの幸せを感じられるのだとしても、僕が立ち止まるべきはここじゃない。だから、僕は諦めないよ、リッカ」

 

 確たる意思をもって、何も見えない目の前を掻き分ける。

 抗うという気概で、空ぶるだけだった空間を踏みしめる。

 ただ、安らぎだけがある空間に、道を見出す。ここがリッカの空間なのであれば、きっと“希望”へ繋がる道はあると信じて。

 ――ほら、見えた。

 それがトリガーであるかのように、何もなかった空間の向こうの、銀色の靄は晴れていく。

 留まることを受け入れてしまえばきっと、後からどれだけ心変わりしても見えなかっただろう、その先へと歩む。

 

「……」

 

 いつの間にか、くっ付いていた筈の妖精たちはどこかへ消えていた。

 ……考えていても仕方ないか。この空間で何が起きても、僕は理解出来まい。

 もう一度手で眼前を払えば、辺りが鮮明になっていく。

 先ほどと同じような半透明な箱の上に、僕は立っていた。

 それと同じものが無数に並んで、広い床を形成している不思議な場所。

 その、いくつか先の箱の上に――誰よりも見知った姿はあった。

 

「リッカ!」

 

 この何も感じ取れない場所では、話すこと、触れることで、ようやくつながりを得られる。

 一刻も早くそれを取り戻したくて、乾いた白のロッキングチェアに座るリッカの後ろ姿に駆け寄って。

 

「――まあ、それはそうか。ユーリがあのくらいで諦める訳がない。そうだったら、とっくにどこかで折れていた筈だから」

「……え?」

 

 その声色の寒気がするほどの冷たさに――後ろ姿のあまりの存在感の無さに、思わず足を止めてしまう。

 間違いなくそれはリッカの声で、あたたかさを感じるべきものであるというのに。

 

「あそこで目を閉じてさえいれば、全部知らないで済んだ。謎は謎のままだけれど、それを疑問に思うことも忘れて、安らかな幸福の中で眠っていられたのに」

「……やっぱりあれは、リッカがしたことなの?」

「……ん。そうだね。どうあれ私は、ここでユーリに、諦めてもらわないといけないから」

 

 背筋が凍るほどに冷たく、感情の見えない無機質さ。

 それが、リッカから僕に向けられている声だとは、信じたくなかった。

 僕の問いをあっさりと肯定するも、やはりリッカはこちらに顔を向けることはない。

 

「どうして――? 約束……したじゃないか。一緒に、ハッピーエンドに辿り着くって」

「約束したね。……私も、そのつもりだった。私もギリギリだったけど、もしかしたらいけるかもって。あれは……ん、嬉しかったよ、ユーリ」

「それじゃあ……なんで。今のリッカは、諦めてしまっているみたいな……」

 

 不安が胸の内で膨らんでいき、リッカの前まで駆け、正面で向き合って。

 

「……リッ、カ……?」

 

 その顔を見て、ようやくその異変を認識し、リッカの姿をしっかりと見るに至る。

 リッカの虚ろとした赤い瞳は、()()だけ。

 右半分のほとんどが、ごっそりと抜け落ちた、リッカの顔。そんな状態でも、口元は彼女にしては珍しい薄い笑みを浮かべている。

 それだけではない。片腕の肘から先に、両足。リッカの体は徐々に解れ、小さな小さな箱のような粒子になって、空間に溶けていく。

 

「座ったままでごめん。今は立つことも難しくて」

「待って……リッカ。どうして、そんなことに……? 大丈夫なの、リッカ……!?」

「こんな風にはなっているけど、そんなに危機的状況でもない。こうして座っているだけなら、少なくとも向こう二百年は維持できる」

「ッ、ここはどこ!? 僕も、リッカも、今どういう状況になっているの!?」

「落ち着いて、ユーリ。ここで慌てても、何も変わらない。いや……変わるかな。出ることは叶わないけど、この世界の終わりは早くなるから」

 

 リッカに詰め寄って、その肩に手を置く。

 それだけで、触れた肩がパチリと弾け、ほんの僅かに粒子となって散っていった。

 リッカはそれを気にした様子もなく、苦笑する。

 まるで、子供のいたずらを前にした大人のような態度に、熱くなりかけた頭が少しだけ冷える。

 

「ここはどこ、か。ユーリが考えている通り。ここは、私の世界。倒した魔族を収容する目的で使っていた空間」

「……外には、出られないの?」

「出られない――ううん、出さない」

 

 あらためて、冷静であるよう努めて問うと、リッカは首を横に振って即答する。

 まだ諦めないというような意地は――目の前にいるリッカからは、もう感じられなかった。

 

「私の体は無事。私はこうして、自分の世界に閉じこもっていることしか出来ないほど、魂が摩耗した。自分の内にいても、姿を維持することが出来ないくらい。一方で、ユーリの魂はこうして無事だけど――もう外には、まともに形状を保ったユーリの肉体は存在しない」

「ッ……」

「ユーリの意思は、私の希望だった。それは、紛れもなく本当。けれど、意思だけじゃどうしようもないこともある。人と、魔族の、何よりも大きな違い……肉体の強度。結局どれだけの偉業を成し遂げた勇者でも、その体は魔族が力を振るえば簡単に失われる」

 

 ――つまるところ、リッカはもう体を動かすことさえ出来ないほどに、消耗してしまった。

 僕は体が無事ではなくなった。まだ歩めるという意思は健在でも、肉体がなければどうしようもない。

 どちらも、生命としては致命的なまでに、存在が欠けてしまった……と?

 

「けれど、この世界はまだ健在。さっきも言った通り、あと二百年は維持できる筈。十分すぎるほどに、私たちは、私たちのまま休める」

「あ――――」

 

 土の試練の時のように、僕たちが元通り帰還できる選択肢は存在しない。

 それを理解し、確信してしまったための諦め。

 そんな中で、なおも残った一握りの希望は手放さないとばかりに、リッカに手を引き寄せられる。

 体は抵抗することを忘れて、弱々しいリッカの力に抗うこともしなかった。

 

「大丈夫。ユーリは死なせない。死んでも離さない。ユーリの魂が尽きるまで、この世界はユーリの楽園で在り続ける」

「――――駄目、だよ。だって、それじゃあ……っ、カルラは……」

「カルラの名残はここにある。カルラが冥界の運営に慣れれば……こっちを見つけてくれる。カルラを招くくらいなら……今の私でも、なんとかなる」

 

 リッカにとって何よりも通じる筈の、カルラの名前でさえ、リッカは穏やかに受け入れる。

 結局のところ、それ以外の何も、今のリッカには出来ないから。

 

「……だから、もういい。弱いユーリは、ずっとここにいればいいの。何も変えられなかった弱い私のこの世界に」

 

 力が入らず、倒れかけた体を、リッカに抱き留められ、支えられる。

 触れ合ったこと――目に見えるつながりを得てようやく、リッカから流れ込んでくる感情を自覚する。

 後悔と罪悪感。そして、それを超えて溢れ爆発しそうなほどの、歓喜と安堵。

 その安堵に流されるように、今度こそ意識が薄れていく。

 それが、この空間の管理者たるリッカが今抱いている、何よりの願いであるようだった。

 

「ん……これで、おしまい。これが、私たちに至ることのできる、唯一のハッピーエンド。これで……これで、ずっと一緒」

 

 噛み締めるようなリッカの言葉が、頭に――存在に沁み込んでいく。

 頭を撫でる手の柔らかな感触が眠気を急速に膨らませていく。

 

 役目の終わりを自覚したように、僕という存在の活動は、リッカの胸の中で緩やかになっていった。




――こうしてふたりはいつまでもしあわせにくらしました。





今年最後の更新となります。一年間ありがとうございました。
まだまだ完結の気配が見えませんが、来年も気分次第で更新していきます。
感想・評価・ここ好き等、大変力になっております。
今後とも、些細な感想でも構いませんので、よろしくお願いいたします。

来年の更新ですが、来週日曜日はお休みさせていただきます。
1月12日からの再開を予定しておりますので、ユーリくんとリッカちゃんにはこの状態でゆっくり休んでいただきましょう。
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